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夏の夕暮れ
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あの時………。
「一哉を返さんかい!!」
そう叫んだ郁人の声は地下全体を駆け抜けて大木の葉を僅かだったが揺らした。だが2人は気づかなかった。その足元の、名を知らぬ草花が少しだけ色を成したことにも2人は気づかない…。
「……どないせいちゅうんや……」
「郁人……」
このままの状態で良いはずもなく、しかし、何かのきっかけでもないと郁人がここを離れることはない。一哉が消えたこの場所から離れるなど考えられるはずもなかった。
そして、それは不意に起こった。
郁人のそばの大木のうろにやんわりとした白っぽい光がポツリと灯ったのだ。その光はうろから大木全体を覆うように包み込んでいき————。
そして、今~~
「で、これが証拠写真や」
ようやく左手を解放した郁人が示したのはスマホの中にあった一枚の写真だった………。
「赤ん坊……………………」
「可愛えぇなぁ」
この部屋のまさに今この場所で撮られた2ショット写真には、昔、欧州で一哉が見た”窓ガラスに映った彼自身”が写っており、寝入っている赤ん坊の一哉を郁人がぎこちない手つきで抱えている。
郁人は幼い一哉を妙に気に入っている節があった。彼の言っていた嬉しい笑みとはこれだったのだ。結局ご丁寧に写真まで見せるあたり郁人らしいのだが、一哉としては嬉しくない。
「うろん中に、お前のシャツ着て寝とる赤ん坊がいてて。そのままにしとくんもあかんやろって親父がここまで連れてきてん。親父のやつ赤ん坊の扱いが上手くてビックリや。で、親父はまた地下に潜って片付けとひつぎを見とる。この赤ん坊がお前やて確証なかったし」
一哉は小さなため息をついた。
「……それで?」
「一度、手を伸ばしたから握った。けんど、なんやちっさくて離してもうた」
「それで」
「しばらく何の反応も無かったんに、いきなし成長しだしてん!そらもう、どんどん大きゅうなって、ゆーても一哉やし、可愛いらしのは変わらんのやけど」
「話を進めろ」
「なんや余裕のないやっちゃなぁ。ああ、わかっとる」
ちら、と郁人を睨みつける一哉に、郁人は能天気にも頷いて見せた。
「で、突然、大丈夫や、て喋り出したんは今と同じ歳になってからやった。消えるつもりはないって、そんで」
言葉を切った郁人にどこか諦めながら視線を向ける一哉は、嬉しそうな笑顔を浮かべる郁人を認め、大きなため息をこぼした。その後に続く言葉は一哉もまだ覚えている。
郁人……とそう呼び掛けた。
明白な意図を持って……。
「名前、呼ばれるのええな。ちょいびびったけど、結構グッってきてん」
ふ、っと郁人は一度安堵の息をついた。
「な、キスしてええか?」
「————は?……なんで聞くんだよ」
「ちっこい一哉やったらまだしも、今のお前に膝蹴りされたくないねん」
郁人の右手が一哉の頬に触れる。やや釣り上がり加減の目元が少し赤くなっていて、疲れからなのか、それとも………。
「———なんだ?…泣いてたのか」
一方的に揶揄われることは頂けないと、近づく郁人に悪態をつくが、
「あほか」
郁人は一蹴した。
そのまま…有言実行。
唇が触れ合う。一哉のそれは柔らかくも温かく、熱っぽかった。ペロと郁人の舌先が確認するように舐めると…小さく迎えるように開かれ……。
「は、ははは」
「っあ、な、なんやねん」
…しかし一哉は笑い出していた。
郁人の肩を押すように離し、もはや何も言い繕う必要はないと考える。
キスを許し合うのは好意以外の何物でもない。ならば隠し事は無しだ。それを踏まえて選ばせてやる、と一哉は郁人を見上げた。
「ここはもそっと色っぽいとこやないんか?」
「いや、ごめん。こんな行為はいくらでも覚えるんだなと思ったら、ついおかしくなって」
「はあ?そないな言葉で誤魔化されるかい。熱やて冷めてへんで」
「ばか、そんなの後でいくらでも冷ましてやるよ」
一哉は半身を起こし、離れてしまった郁人の腕を引っ張ると、自分から軽く口を寄せた。
郁人が自分を選ぶのなら、という言葉は声には出さない。
ただふわりと、触れるだけの柔らかなキスに、逆に郁人は赤面していた。そんな様子にも一哉は軽く笑みを浮かべる。
「おじさんはまだ地下にいるのか?」
「……多分」
「呼んできてもらってもいいか?」
「わかった」
すっかりいつもの一哉に戻ってしまったかのような表情で問われ、郁人は少し残念そうに頷き、立ち上がるのだった。
「一哉を返さんかい!!」
そう叫んだ郁人の声は地下全体を駆け抜けて大木の葉を僅かだったが揺らした。だが2人は気づかなかった。その足元の、名を知らぬ草花が少しだけ色を成したことにも2人は気づかない…。
「……どないせいちゅうんや……」
「郁人……」
このままの状態で良いはずもなく、しかし、何かのきっかけでもないと郁人がここを離れることはない。一哉が消えたこの場所から離れるなど考えられるはずもなかった。
そして、それは不意に起こった。
郁人のそばの大木のうろにやんわりとした白っぽい光がポツリと灯ったのだ。その光はうろから大木全体を覆うように包み込んでいき————。
そして、今~~
「で、これが証拠写真や」
ようやく左手を解放した郁人が示したのはスマホの中にあった一枚の写真だった………。
「赤ん坊……………………」
「可愛えぇなぁ」
この部屋のまさに今この場所で撮られた2ショット写真には、昔、欧州で一哉が見た”窓ガラスに映った彼自身”が写っており、寝入っている赤ん坊の一哉を郁人がぎこちない手つきで抱えている。
郁人は幼い一哉を妙に気に入っている節があった。彼の言っていた嬉しい笑みとはこれだったのだ。結局ご丁寧に写真まで見せるあたり郁人らしいのだが、一哉としては嬉しくない。
「うろん中に、お前のシャツ着て寝とる赤ん坊がいてて。そのままにしとくんもあかんやろって親父がここまで連れてきてん。親父のやつ赤ん坊の扱いが上手くてビックリや。で、親父はまた地下に潜って片付けとひつぎを見とる。この赤ん坊がお前やて確証なかったし」
一哉は小さなため息をついた。
「……それで?」
「一度、手を伸ばしたから握った。けんど、なんやちっさくて離してもうた」
「それで」
「しばらく何の反応も無かったんに、いきなし成長しだしてん!そらもう、どんどん大きゅうなって、ゆーても一哉やし、可愛いらしのは変わらんのやけど」
「話を進めろ」
「なんや余裕のないやっちゃなぁ。ああ、わかっとる」
ちら、と郁人を睨みつける一哉に、郁人は能天気にも頷いて見せた。
「で、突然、大丈夫や、て喋り出したんは今と同じ歳になってからやった。消えるつもりはないって、そんで」
言葉を切った郁人にどこか諦めながら視線を向ける一哉は、嬉しそうな笑顔を浮かべる郁人を認め、大きなため息をこぼした。その後に続く言葉は一哉もまだ覚えている。
郁人……とそう呼び掛けた。
明白な意図を持って……。
「名前、呼ばれるのええな。ちょいびびったけど、結構グッってきてん」
ふ、っと郁人は一度安堵の息をついた。
「な、キスしてええか?」
「————は?……なんで聞くんだよ」
「ちっこい一哉やったらまだしも、今のお前に膝蹴りされたくないねん」
郁人の右手が一哉の頬に触れる。やや釣り上がり加減の目元が少し赤くなっていて、疲れからなのか、それとも………。
「———なんだ?…泣いてたのか」
一方的に揶揄われることは頂けないと、近づく郁人に悪態をつくが、
「あほか」
郁人は一蹴した。
そのまま…有言実行。
唇が触れ合う。一哉のそれは柔らかくも温かく、熱っぽかった。ペロと郁人の舌先が確認するように舐めると…小さく迎えるように開かれ……。
「は、ははは」
「っあ、な、なんやねん」
…しかし一哉は笑い出していた。
郁人の肩を押すように離し、もはや何も言い繕う必要はないと考える。
キスを許し合うのは好意以外の何物でもない。ならば隠し事は無しだ。それを踏まえて選ばせてやる、と一哉は郁人を見上げた。
「ここはもそっと色っぽいとこやないんか?」
「いや、ごめん。こんな行為はいくらでも覚えるんだなと思ったら、ついおかしくなって」
「はあ?そないな言葉で誤魔化されるかい。熱やて冷めてへんで」
「ばか、そんなの後でいくらでも冷ましてやるよ」
一哉は半身を起こし、離れてしまった郁人の腕を引っ張ると、自分から軽く口を寄せた。
郁人が自分を選ぶのなら、という言葉は声には出さない。
ただふわりと、触れるだけの柔らかなキスに、逆に郁人は赤面していた。そんな様子にも一哉は軽く笑みを浮かべる。
「おじさんはまだ地下にいるのか?」
「……多分」
「呼んできてもらってもいいか?」
「わかった」
すっかりいつもの一哉に戻ってしまったかのような表情で問われ、郁人は少し残念そうに頷き、立ち上がるのだった。
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