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明星/カラスの北斗七星 編

或る司祭の独白⑤ カラスの北斗七星

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 あの日、リタは紛れもなくアストラ王国最強の剣士になった。
 彼女は進化し続けて、今では人族最強の剣士とまで言われている。
 魔王不在の今、世界最強と言っても過言では無いのだろう。

 恵まれた剣の才、魔法すらも私より扱いに慣れている。
 プレアデスは、あの一件以降リタに手出しをすることは無くなった。
 それもそうだろう。
 リタがその気になれば、たった一人で王国を破滅させることが出来る。
 触らぬ神に祟りなし……そのあたりは、奴も弁えているということか。
 それに、女神教のした事は単なる犯罪行為であり、その罪を裁こうものなら女神教と王国が関係を持っていた事も表沙汰になってしまう。
 そんな理由で、ワタシによるオーディー殺害の件は不問となった。

 それでも、ワタシはプレアデスを許さない。

 たとえ人であることを捨てても、絶対に許さない。

 あの時、先ずワタシはアストラ王国を転覆させる計画を練り始めた。

 手始めに行ったのは、あのオーディー・ムーンチャイルドという男が残した女神教の信者達を抱き込む事だった。

「まさか、お嬢さんのほうから俺に声掛けてくるとはねぇ」

「そのお嬢さんって呼び方、やめてくれないかな?」

 あの日、聖堂でワタシと戦ったグレイという男に接触し、女神教がもう一つ所有している仮の聖堂へと信者達を集めてもらった。
 グレイはやけにワタシへと協力的で、信者達からの人望も厚い。

「お嬢……ブライトは女神教をどうしたい?」

「女神教じゃないよ。創星教さ」

 ワタシは集まった信者達の前で、新たな宗教団体の設立を宣言した。
 名前を『創星教』とし、信仰対象は星の女神と変えずに、ワタシ自身が代表となる。
 グレイの人望もあってか、ワタシはそこそこ簡単に信者達から受け入れられた。
 最も、壇上でそれっぽい事を話しておけば、馬鹿共は直ぐに信じてくれる。

 そのうち何でもないワタシの話なんかを「ありがたい教えだ」や「深いお話だ」とか、無条件に信じ込んでくれるものだから、本当に人間は馬鹿だな。

「で、創星教はこれからどうなるんだ?」

 グレイの質問に答えていなかった。
 彼にはワタシの全てを話してあるから、今更隠し事は無い。
 だが、グレイ自身は心から星の女神を信仰している。
 ワタシは教団の代表になるに当たり、彼の意思を尊重することを約束した。

「ワタシの目的は、ここで勢力を増してからアストラ王国を転覆させること。そして、この世界のどこかにいる星の女神を見つけ出し、彼女を保護すること」

 ワタシの言葉を聞いたグレイは、そっと頷いた。


 ある時、リタからワタシのことが心配だと言われた。
 狙われていたのはそっちなのに、ワタシの心配が出来るのか。

 リタは優しい……否、リタは強くなってしまった。
 もう自分の身は自分で守れるから、他人に気を遣える余裕があるのだ。
 その時からだろうか?
 あんなにも好きだったリタのことが、少し妬ましく、そうして鬱陶しく感じるようになった。

 ところで、女神教は怪しい錬金術の組織と繋がりを持っていたらしく、グレイの紹介でその組織に接触する事ができた。
 組織の名は『記憶の祭壇』といい、非人道的な実験でも簡単に行う最低な錬金術師達の集まりである。

 ワタシは、彼等にある事を依頼したのだ。
 聖剣の複製……魔が差した、と言って良かったのだろうか?
 隙を見てリタの刻星剣ホロクラウスを盗み出し、記憶の祭壇によって複製実験を行った。
 結果は、予想外の形ではあったものの、成功したと言っても過言ではない。

 新たに誕生したその聖剣は、刻星剣ホロクラウスの闇を分離した姿。
 本来、聖剣は使う者によって善にも悪にも成り、その両方の意思が聖剣本体にも宿っている。
 リタの刻星剣ホロクラウスが光の聖剣ならば、分離したこれは闇の聖剣。

 カラスのような艶のある黒い刀身に、七つの星が刻まれている。
 この聖剣の名は、黒星剣ホロクロウズ。
 この強大な力を持った闇の聖剣は、ワタシには扱えない。
 扱えるのはリタと、もうお一方……


 当然、聖剣を盗んだことはリタにバレてしまった。
 言い訳をするつもりもない。
 ただ彼女には、ひたすら謝り続けた。

 これでいい……
 ワタシがこれから歩む道は、ワタシ自身が決めた道だ。

「ブライト、少しいい?」

 ふと、可愛らしい声でワタシの名を呼ばれた。

「はい、しゅよ。何でしょうか?」

「今度の戦い、シャーロット・ヒルはアタシにやらせて」

 シリウス事件以降、主はあの盾使いに対して異常なほどの執着心を抱いている。

「勿論ですとも、それが主の御意向であれば」

「ありがと、ブライト。大好きだよ」

 ただの司祭であるワタシには勿体無いお言葉だ。
 主には気の毒だが、アイテールがアルブ王国を属国にした混乱に乗じて、主をワタシ達の元で保護することが出来た。
 アイテール帝国も、いずれ我が手中に収めるつもりだ。
 その為ならば、ワタシは人を捨てる覚悟も出来ている。

 どんな手を使ってでも、ワタシがこの世界を正しく導いてみせるのだ。
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