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陽光/月と太陽 編

14.パペティア

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 叫び声のした方にやってきた私たちの前には、魔物に襲われそうな女性と、その様子に恐怖して逃げ惑う民たちの姿があった。

 場所は鐘のある広場に近く、人通りも多い。
 そんな場所に魔物が現れるなんて、やはり操られているとしか思えないだろう。

 魔物はダイアウルフのゴーストとガーゴイルが数体。
 シャロは女性に襲い掛かったゴーストの前に立ち、その攻撃をアイネクレストで防いだ。

「照らして、陽光アイネクレスト!」

 シャロの言葉で発光したアイネクレストの輝きで、瞬く間にゴーストは消滅していく。

 直ぐに私達も加勢し、迫り来る魔物に向けて武器を構えた。

「パペティア」

 唐突に聞こえた謎の声は、少女のようだった。
 直後、武器を構える私達の背後から、数体の木製人形達が魔物に向けて前進していったのだ。

「これって……シルビアが昨日見た人形?」
「間違いない、何でまた!?」

 しかし人形は私達には目もくれず、魔物の近くまで接近すると先程とは比にならないほどの素早さでそれらを攻撃した。

 人形の攻撃には魔力が込められているらしく、殴られたゴーストは消滅していった。

「この人形達、味方なの?」
「わかんないけど、あーしらも負けていらんない!」

 私とシルビアは、残る魔物達を一掃する為に魔法を発動する。

「レイヴンス!」

「ヒスイ疾風斬り!」

 人前でロードカリバーは使えない為、私は自身の闇魔法を剣に乗せて薙ぎ、魔物達はそれに斬り裂かれていった。

 シルビアの発動した魔法は疾双剣ヒスイの依存型魔法で、こちらも横斬りである。

 魔物が斬り裂かれる直前、あれだけ居た人形達は一瞬で消えてしまった。

 少女の声が聞こえた直後に現れ、今の一瞬で消えていった謎の人形達……。

 魔物を攻撃していたという事は、私達と同じように民を守ったという解釈で良いのだろうか?

「やっぱり、昨日あーしが見たやつと同じ呪符だ」

 見ると、シルビアの足元には黒い呪符が落ちており、それが少しずつ燃え始めていた。

 この呪符に、私は見覚えがある。

「これ……魔族の呪符だよ」

 私は燃えかけの呪符を拾い上げ、自身の魔力を流し込んで呪符の消滅を止めた。

「お姉さん、お怪我はありませんか?」

 少し離れた場所で、シャロが襲われていた女性と話している。

「はい、助けて頂いてありがとうございます……!」
「えへへ~、いえいえ! 無事でよかったです!」

 女性の事はシャロに任せ、私とシルビアは残った一枚の呪符を見た。

「魔族の呪符って、どーゆーこと?」

「たぶん、魔族が魔物達を操って、このカンパニュラに送り込んでる。呪符の魔力は魔物を暴走させる可能性があって、使用は禁じられているんだけど……このご時世じゃ、そんなの関係無いかもね」

 魔族に何らかの目的があるのは確かだが、何の狙いがあって魔物を操っているのかが全く分からない。

 あの人形についても気になるけれど、今は同じ魔族として、こっちの件を何とかしないと。

「ベリィちゃん、シルビアちゃん」

 女性との話が終わったのか、シャロが盾を背負ってこちらに駆け寄ってきた。

「それって、今朝シルビアちゃんが話していた呪符?」

「そうなんだけど、ベリィ曰く魔族の呪符らしいよ。一体何を企んでるのか」

 アルブ王国から逃げ出してきた魔族達の一部が、クリフのように反乱を起こす動きは各所であるけれど、今回はわけが違う。

 明確に、何かの企みがあって行動しているのは目に見えて分かるのだ。

「シャロ、そう言えばあの女の人って、どこから魔物が来たとか話してた?」

 私がそう訊ねると、シャロは「そうそう」と言い、女性が話したことを教えてくれた。

「お買い物中に何かが動いたのを見て、それが消えていった路地を覗いたら、あのゴーストがいて襲われそうになったんだって。そしたら、他のガーゴイルとかもわらわら……」

「あーしがゴーストを見たのも狭い路地だった。ゴーストは暗くてじめじめした場所にいるって言うけど……」

 敵の目的を明かすには、もう少し探る必要がありそうだ。

 そう思い、呪符を仕舞おうとしたその瞬間……

「おそらく、魔物達が探しているのはこのわたくしでしょう」

 突然背後から聞こえて来たのは、先ほど人形が現れる直前に聞いたあの少女の声だった。

「だれ!?」

 声は私達三人とも聞いたようで、全員振り返ってみるがそこに人の姿は無い。

「フランボワーズ邸までお越しください。門番には、あなたのお名前をお伝え頂ければ通すように命じてありますよ。ベリィ・アン・バロルさん」

 今度は耳元から、同じ声でそう聞こえた。

「今の声、二人も聞こえた?」

 私の問いに、シャロとシルビアも頷いている。

「フランボワーズ邸って……さっきは通してくれなかったのに?」

「それに、ベリィちゃんの名前を伝えるって……」

「とにかく、行ってみよう」

 声の主が誰なのかは分からないが、これでレオン侯爵に会えるのならば良い機会だ。

 私達はその場を後にし、フランボワーズ邸へと向かった。
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