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3章

59話 街の組織化

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エルフ達の住居建設も完了し、エルフ達にも仕事を与えることにした。
しかし今のところ農業や狩猟等必要な手は足りていた。

皆でテーブルを囲んで夕食を取りつつ、イザが仕事の割り振りで悩んでいるとリーンが元気に手をあげて一つ提案する。
「はい!私に案があります」
「はい、リーン。どうぞ」

「もともとエルフは狩猟と採取をして暮らしていたんで、私の様に薬の知識に特化したものも多いと思います。なので研究職を設けてもいいかと思います」
なるほど。アーヴェインとか一番の知者って紹介されてたくらいだし、ただ読み書きを教える教師とかをさせてももったいないよな。

「私からもよろしいでしょうか」
アルウェンも手を挙げた。
「先ほど彼女が言ったように50年ほど前まではエルフ族の半数以上は狩猟と採取をしていたものばかりでした。アーヴェインのように学に長けた者も確かにおりますが、両手の指で足りる程度。ですが近年食料不足だったことから獣を飼育して補う産業を始めております。まだまだ手さぐりに進めていたのでそれほど大きな成果は得られておりませんが……。この街ならば食料も豊富のようなので獣の飼育に充てる人数をある程度割けると思います。ですので飼育者として従事するものをお認め頂けないでしょうか。それに伴い、飼料を作る畑もお願いしたく思います。エルフ族でも採取に特化していたものはハルピュイアの達方と協力して畑の管理に就かせていただけるのであれば消費分だけでなく、貿易用の食料もかなり確保できるかと思います。ですので農場を今の3倍……いや4倍程度にしていただけないでしょうか」

農場を大きくするのは考えていた。それにしても畜産業か。この世界では魔物の脅威があるから無いって話だったな。食糧難がきっかけだったにしても、それまでに存在しなかった仕事を始めるってかなりの勇気と知恵と知識が無いと無理だよな、さすがエルフってところか。

「よし、わかった。エルフ族の畜産業の開始を認めよう。まず家畜用の牧舎、納屋、サイロや堆肥場、それと飼育するための囲い等の整備も必要だな。必要な道具類はエルドやリーンに伝えて作ってもらってくれ。施設の建設は俺からオーク達に伝えておくよ」

「ちくさん……さいろ?飼育して増やす業種を畜産業というのですね。知っておられたとは流石イザ殿です。要望を受け入れていただきありがとうございます。では後程私は畜産にあたる者たちに詳しい話を聞こうかと思います。イザ殿は詳しいようですので畜産に関する知識を教授していただけるとありがたいです」

「私からも一つ案があります」
「はい。ラナさんどうぞ!」

「この街もこれ程の人数になったので職を振り分けるだけなく、行政や統治に関する職も設けた方がいいかと思います。全ての意見をイザ様に皆が通していく今の体制ですと、イザ様が不在の場合、街の事業がすべて止まってしまいますし。今後もイザ様は街を出歩くことが多くなるとも思いますので、イザ様が不在の場合でも滞りなく街の産業が循環できる体制をここで作って置くべきかもしれません」
うーん。俺がいないときのまとめ役を決めておいた方がいいってことか。今まではラナやエルドにその役を頼んでたけど、さすがに人もかなり増えたし二人ともこれからは自分の仕事で忙しいから兼任は厳しいか。

イザは暫く考えて答えを出した。
「これはまだ暫定だが――」


今までは街のTOPはイザだったので全ての意見はイザに集められていたが、これからはイザは長の立場でなく相談役のポジションになることにし、街の実質的な管理は管理者の役職を作り3人任命することにした。

一人は今までもイザの代役を務めることが多かったラナ。
そしてエルフ族を長く収めてきたアルウェン。
最後に転移魔法も使えてイザの秘書を兼ねているセバス。

エルフ族の中にはやはり多種族と共に住むことにまだ若干抵抗がある物も居るようなので一人の長を決めると問題も起きかねないと思い3人に権威を分担した。後程意見を聞くとアルウェンもラナもそれが正解だろうといっていた。

ラナには下にミアとマティアを補佐として付け、その下にはラミア、アトラク、ハルピュイア。
アルウェンの補佐にはエラルドとアーヴェインを付け、その下には全エルフ族。
セバスの補佐にはケルベロスと銀牙を付け、下には銀狼とオーク。
この3人もイザに付いて外部に出る可能性もあるのでその場合は空いた穴を補佐の者に分担して管轄してもらう。

そしてエルド達ドワーフは建設、鍛冶、農具狩猟具武具管理や魔道具の管理といった、街の全員と関わることが多い仕事に従事しているので街の相談役として上に挙げるほどでもない話が住民から出た場合に聞いてもらうポジションにした。
リーンも薬師として全員と関わりやすい仕事なのでエルド達と同様だ。
エルド達やリーンで処理できない大きな相談が上がった場合は各自の判断で先ほど挙げた3人またはイザに話をもっていくという体制だ。
ガラテアには住民同士のトラブルが無いか町全体を見回る警備の役を担ってもらうことになった。
今のところ問題も起きてはいないが、これだけの人数になると小競り合いや喧嘩もあるだろう。

これでイザが居なくとも機能する街の組織体制がひとまず整った。

「とりあえず暫定だが反対意見がなければこの体制で行こうと思う。異論があるものはいるか?」
皆頷いていた。
「なさそうなのでこれで決定ってことで。管理者に任命した者には苦労を掛けるかもしれないけどよろしく頼む。俺もこういったことは経験がないから色々至らないとこがあれば教えてほしい」

「このアルウェン与えられた役目、死力を尽くして全うして見せます」
「これからもイザ様のお力になれるならば」
「私もお二方と右に同じでございます」
うーん。3人が一番有能で真面目そうだから選んだけど、こういう反応を見ると真面目過ぎて困る……。
人が増えていくと上に立つって大変だなぁ……。

街として大きくなっていくとこうした機構も作っていく必要があると知り、イザは人を束ねることの大変さをようやく実感していた。
ガルは俺よりもっと大変な立場に今は就いてるんだよなぁ~。あいつも頑張ってるんだから俺も頑張らないとな。
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