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2章

51話 イスカリオテ戦 最終局面

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封印から復活したケルベロスは城を壊し暴れていた。
イザはアルマを抱きかかえて瓦礫を避けながら城の外へと向かっていた。

外に出て改めてその姿を見上げると全身を分厚い真っ黒な毛に覆われ、体中から膨大な魔力を放っている。
だが暴れ方を見る限り知性はあまりないようだ。

観察しているとケルベロスはそれぞれの口に魔力を集め始めた。
次の瞬間3つのブレスを放ち城を一気に半壊させてしまった。
「なっ!あんなの喰らったらひとたまりもない!」
一体アルマさんはどうやってこんな化物を封印してたんだ…。

城をひとしきり破壊したケルベロスは周囲を見渡し始めた。
そして王都の中央街の方へ体を向けた。

「まずいっ!こんな奴に街中で暴れられたら被害は想像もつかない!」
イザはゲートの魔法を使って移動しようとした。しかし転送門が出ない。
「なぜだ!」
イザが焦ってゲートの魔法を何度も試しているとアルマが意識を取りもどした。
「……ケルベロスの範囲内では……魔法は無効です…」
「アルマさん!?」
「あの門のあたりまで行くと……魔法が使えるはずです……」
アルマが指さした門の方へイザは駆けだした。

だが門まであと少しのところでケルベロスがイザに気が付き一気にイザの正面に飛んできた。
「はぁ!?あそこからここまでひとっ飛びとか……まじかよ……こりゃちょっとまずいかも……な」
イザはアルマを抱いたままでは杖も持てない。

しかし急にケルベロスが苦しみ出した。
「ガ、グ、グワアアアアアア!」
「一体何が起こってるんだ……」
イザは呆然と状況を見守った。
よく見ると苦しみ暴れるケルベロスの後ろに誰か立っている。
ランディスだ。
全身に欠陥が浮き上がり最早別人といった様相のランディスが何かひものような物を掲げている。

「ふはははは!流石伝説のスレイプニールを御したといわれる宝具!こいつならケルベロスを拘束できる!!」
「何だかわからないけど、ランディスに助けられちゃったな……今のうちにアルマさんを安全な所へ……」
「待って……ください」
「アルマさん?」
「ランディスは何か良からぬことを考えています………このままでは……私のことはいいので、どうか!」
「……わかった」
そういうとイザはその場から少し離れた庭園の木陰にアルマを寝かせてケルベロスの元へ向かった。
アルマはそんなイザの背中を眺めながらつぶやいた。
「先ほどあなたに触れて確信しました。イザ様……やはりあなたはこの世を変える力……賢者の力を持つお方……」

イザがケルベロスの元へ戻ってくるとランディスの姿がなかった。
辺りを見回していると、上の方から声がした。

「どこを見ている?」
声のする方を見ると、ランディスはケルベロスの上に立っていた。
「これから私はケルベロスの力を我がものとする!そこでおとなしく見ているがいい!!」
ランディスはそう言うとケルベロスに何かを突き刺した。
ケルベロスはもがき苦しんでいる。

「何をした!?」
イザは叫んだ

「ただ傷をつけただけさ。この傷にこいつを埋め込むために……」
ランディスは懐から何かを取り出した。イザにはそれが掌におさまるくらいの玉のように見えた。

「これはミストルテインと呼ばれる宿り木の種。こいつをこうする!!」
ランディスがケルベロスの傷に宿り木の種を埋め込んだ。

「この種は発芽する前に魔力を込める必要がある。その後、芽が出たら周囲の魔力を吸い取って主人に変換してくれる!!つまりこれでケルベロスの力は私のものだ!!ははは!」
みるみるうちに宿り木は成長しランディスをも取り込みケルベロスの首元で大きくなっていく。
ケルベロスはもがき苦しんでいる。

イザは何とかしようとケロべロスから少し離れ、魔法が使える距離まで来た。
「これでもくらえええええ!」
右手に魔力を集め、一気に放出して巨大な雷をランディスに向かって落とした。

宿り木は一瞬止まったかのように見えたが再び成長を始めた。
どうやら魔法による攻撃も吸収してしまうらしい。
「何をしようともう無駄だ!!感じるぞ!強大な魔力を!!」

そのとき遠くで叫ぶアルマの声が聞こえた。
「イザ様!あの石をお使いください!」

あの石……?

そうだ。
以前アルマから預かっていた破邪石の存在を思い出した。
イザは破邪石を取り出しランディスに向かってかざした。
すると破邪石は周囲の魔力の流れを完全に断ち、宿り木の成長を止めた。

「貴様一体何をした!!」
宿り木はランディスの下半身を覆いそこで成長を止めていた。
しかし宿り木だけでなくケルベロスも急に動かなくなった。

ランディスがニヤリと笑う。
「ははは!何をしたか分からないが、無駄だったようだな!」

ランディスがそういった直後ケルベロスはイザに手を振りかざしてきた。咄嗟に杖で受け止めたが10m程弾き飛ばされた。

「何故急にケルベロスが自分を襲って来たんだ?とお前はそう思っているだろう?ふふふ……。それは私がこいつを操っているからだ!ふはははは!予定は狂ったがこの力を自由に操れるのならば十分!見せしめに街を吹き飛ばしてやろう」
そう言うとケルベロスの口に先ほどの魔力ブレスが準備され始めた。

あんなものを街に向けて放てば甚大な被害が出てしまう。
そう思い咄嗟にケルベロスの顔に向かって魔力を込めて杖を投げつけた。
イザから見て一番近くにあったケルベロスの左の顔の首元に杖が突き刺さった。
魔力を吸ったカドゥケウスはケルベロスに刺さった場所で魔法を起爆しケルベロスはたまらず口を閉じた。
しかしあと2つの顔の攻撃はとまらない。
街に向けて特大のブレスが飛んでいった。

そのブレスは中央街の建物を幾つも薙ぎ払いそのあとには瓦礫の山だけが残った。
「ははは!素晴らしい威力!これが伝説の魔獣の力……!!」

あれは……ギルドがある方角…!!エルロン達は無事なのか!?

無関係の者たちも巻き込むなんて……
許さない…
イザが怒りに満ちている。
「ランディス……お前を絶対に許さない……」
「許さないだと?お前に一体何ができる?ケルベロスは周囲の魔素を吸い尽くす!多少魔法が使えるようだが近づいて魔法が使えないなら意味がないぞ?」

「しるかよ……」
イザは両手のグローブを外した。
その瞬間、ランディスは恐怖を覚えた。
「な、なんなのだこの魔力量は………ありえない!ケルベロスと同化した俺よりも強いなんて……」

イザは両手に魔力を集約させる。
そして闇の魔法をベースにして土の魔法と空の魔法を合成しはじめた。
「な、なぜ魔法を発現できる!ありえない!!」

「魔素を吸われるって言ったな。確かに吸われてる感覚はある」

「そんな…ケルベロスが吸う魔力以上の魔力を放出し続けているだと……バカな!」

「信じられないなら受けて見ろよ」
そう言うと両手を重ね合成すると右手に集めた。

「喰らえ……」
イザが手の魔力をすべて放出すると巨大なドームのような物がケルベロスとランディスを包んだ。

「なんだこの魔法は…見たことも聞いたこともないぞ!!」

「俺のオリジナルだからな。その中では俺の魔力を注ぐことで重力を操れる」
こんな風にな……。イザが天にかざしていた右手の手首を下げた。

「がはっ!」
ランディスはケルベロスごと重力に押しつぶされ地面に横たわる。

「な……んだ……この魔法。規格外すぎる…これがあのお方が言っていた存在…なのか…」
しばらく重力に押しつぶされているうちにケルベロスもランディスも気絶してしまった。

「ふぅ。終わったかな。しかしこいつらどうしたもんか…というかこれって分離できるのか…?」
そのときガルが駆け寄ってきた。

「イザさん!ランディスは……?」
「おうガルか、あそこ。ケルベロスと合体しちまってるけど今は気絶してる」

「彼の処分は私に任せていただけませんか……」

「……ああ、まかせるよ」
敵とは言え兄弟だからな……ガルに任せよう。

こうして決着がつき避難誘導していた全員が集まってきた。
エルロンと銀牙が冒険者達を連れてギルドに着いてからケルベロスの出現を確認したのでギルド全体で街に散って早めに避難を呼びかけていたので被害は最小限で済んでいたらしい。

それを聞いてイザは一安心した。
アルマも魔力を使い果たしているがなんとか一命はとりとめていた。


そしてケルベロスとランディスをどうにか切り離せないか試みようとしていたその時。

アルマが叫んだ。
「皆さん!!ケルベロスから離れてください!!」

慌てて皆が離れるとケルベロスがみるみる小さくなっていく。
数m程度の大きさになると宿り木から離れ放られてしまった。

宿り木はたっぷりケルベロスの力を吸い取り、中にいるランディスに供給していた。
「みんな魔法以外であの宿り木を攻撃するんだ!」
イザの声に反応してすぐさまミアとガルとラナが武器を取ってランディスを包み込む宿り木を攻撃した。しかし普通の武器では歯が立たない。

「……私がここまで追いつめられるとはな……」
ランディスの声が聞こえた。

「素晴らしい高揚感だ……」
ランディスの魔力が跳ね上がっていくのを全員感じた。
「イザと言ったか?いまなら貴様にも勝てる気がするぞ」

そして宿り木が枯れ果て中からランディスが姿を現した。
その容姿はもはや魔人ですらなく。
悪魔の様相を示していた。
背中には大きな黒い翼、両手には鋭く長い爪、赤い目。元獣人族とはとても思えない。
「ランディス兄さん……」
その様子をみてガルは何とも言えない表情をしている。

ランディスが試すように片手に魔力を集め空に向けて解き放った。巨大な紫色の波動砲が空を貫いた。それはケルベロスのブレスに酷似していた。
「素晴らしい…これならすべてを焼き払える!!俺が最強だ!!」

イザはランディスを無言で観察している。
「……」

ランディスはイザの方を見ると手招きをしていった。
「全員でかかってこい」

そんなランディスを暫くじっと見ていたイザは笑って言った。
「ふふ。俺が手を出すまでもないな。ガルいけるか?」
「はい。任せてください。皆さん手を出さないでください」

ランディスは高笑いした。
「ははははは!ガルに今さらこの俺を倒せるはずがない!!」

直後冷静になり静かにガルに向けて言い放った。
「進化する前でさえ俺に敵わなかったお前に何ができる。調子に乗るんじゃないぞ?」

「やってみればわかるさ…」
イザは勝負がもう見えているといった余裕の口ぶり。

ランディスは完全にキレた。
「その態度すぐに改めさせてやろう!!兄弟を二人ともこの手にかけることになるとはな……!」
そう言ってガルにとびかかった。

ガルは剣で何とかランディスの爪での攻撃を受け止めた。
「ほう?この姿の俺の攻撃を受け止めるか……ゲイルよりはやるらしいな」

「俺は日々研鑽を積んできました。あの日ゲイルを止められなかったのは力がなかったから……そのせいで二人の兄を失いました。もう二度とそんな思いをしないために……今日まで頑張ってきたんです。仲間たちに支えてもらってここまで来た俺はあなたには負けません」

そう言い切ってランディスをはじき返す。
「二人の兄……か。くだらん……たかが獣人種が研鑽を積んで何になる。せいぜい100年の命。しかもどれだけ研鑽を積んだところで強大な種族には足元にも及ばない……どれだけ強くなろうとも人は裏切り騙し合う。それがなぜわからない?」

ガルは真っすぐな瞳でランディスを見ていた。
「……」

「その目をやめろ!!もういい……死ね!」
天に向けた攻撃をガルに向け発動しようとした。が、その瞬間、ランディスの右腕から血が噴き出した。

「なっ……何が……起きた?」
口からも血が溢れてきている。

「あなたは自分の限界を超えて無理な力をその身に集めすぎている。それでは体がもたなくて当然です……兄さん。もう投降して罪を清算してください」

「ふざけるな……こんな……こんなことが……」
ランディスは体中から血を吹き出しながら膝から崩れ両手を地についた。
「ガル…許してくれ……俺は奴らに騙されてたんだ……頼む……」

ガルは真剣な目でランディスを見ながら言った。
「俺の兄さんは誠実で強くて立派な方でした。……もうその口を閉じてくれませんか。あなたは体だが崩れ始めている……もう長くないでしょう。最後くらい人として……」

ガルの忠告も虚しく。話も聞かずに走り始めた。
「ちっ!こうなったら!!」
逃げながら木陰で座り込むアルマの姿を見つけランディスは人質にとった。

「せめてこいつだけでも道連れにしてやる!!」
「しまった!!アルマさんを離せランディス!!」

「うるさい!近寄るな!!逃げ切れるまで付き合ってもらうぞ!アルマ!お前ら1歩でも動いたらこいつの命は無いと思え!!」
アルマは気力を振り絞り口を開いた。
「私のことは構いません……皆さんランディスを早く……」

「ダメ!みんなやめて!!」
ガラテアが皆を制止する。

「ふふふ。残念だったな。ガル?俺にとどめを刺していたらこんなことにはならなかったんだ。お前の甘さが招いたことだ」

「……」
ガルは歯を噛みしめている。

「では逃げさせてもらう。ほらこい!」
アルマを抑えながらランディスはその場を立ち去ろうとする。


その時、上空から何者かが飛んできてランディスの首を跳ね飛ばした。
ランディスは首だけで宙を舞いながらもその者を確認した。
そして地面に頭がころがったのち叫んだ。悪魔になったランディスは首をはねてもまだ生きていた。
「貴様……!何故!!裏切ったのか!!」


そこにはランスの姿があった。
「裏切るとは?……私はあなたに忠誠を誓ったつもりは在りませんよ。ランスという名もあなたがそう呼ぶので、名乗らせていただいていただけです。契約も完了しておりませんよ」
「なん……だ…と?」

「私はあなたの成すことがどういう結果になるのかを観察するために近づいただけです。私が興味あるのは誰にもなしえないことを成そうとする者と、誰よりも強くなる可能性を秘めた強者のみ。私の期待に応えてくれそうなお方を見つけましたのであなたは用済みです」
そう言いながらランスはイザを見た。

「どうりであのとき、お前は敵意も悪意も感じないと思っていた。品定めだったってことか」
「無礼な真似をして申し訳ありませんでした。貴方になら私の本当の姿をお見せいたします」
そういうとランスは姿を変え、ランディスと同じような姿の悪魔に変身した。

ランスはイザの前に膝まづいた。
「私はそこの混ざりものとは違い純粋な悪魔族のものです。貴方の力を見込んで契約したく願います。願わくば私目に名前を頂けませんか」

全員急なことで驚いていた。

「いいけど……お前はそれでいいのか?」
「強きお方に使えるのが私にとっての至高の喜びでございます」

「はぁ……悪い奴じゃなさそうだしまぁいいか。うーん。悪魔だけど丁寧だし執事っぽいから……セバス。お前の名前はセバスだ」
「セバス……いい名を頂きありがとうございます。これから全身全霊を持ってお仕えさせていただきます」

「そういう重いのはいいからっ」
イザの冷たい反応にセバスは少しショックを受けていた。


ガルはランディスの首に近寄っていた。

「笑いたければ笑え……俺の人生は間違いだらけだった。こうなる運命だったのかもしれないな……」

「兄さん。俺はあの事件があるまで誰よりも尊敬していました。俺の中ではランディス兄さんは誰よりも強く優しく誠実で立派でした。兄さんはあの日死にました。貴方はベルモッド……そうでしょう」

「兄は死んだ……か……ふふ、そうだな。俺はベルモッド。ランディスは10年前に死んだよ……。…そろそろ魔力もつきそうだ………ガル……立派に……なったな……」
そう言って最後に一瞬だけ微笑むとランディス塵となって消滅してしまった。

「……」
ガルは空を見上げて涙を流していた。

涙をぬぐいガルは口を開く
「さぁ、皆さん!今度こそ終わりです!避難している方達にも報告に行きましょう。イスカリオテとの決戦は我々の勝利です!」
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