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2章

40話 魔人族バティス

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バティスとイザはにらみ合っていた。

イザはエルロンに声を掛ける。
「エルロン。お前はアラクネ達を守ってやってくれ」
「わかった。だが相手は魔人族。決して油断は…」
そう言いかけたエルロンはイザの中で昂ぶる怒りと魔力を感じ、言いかけた言葉を飲み込んだ。

そのやり取りを聞いていたバティスは笑っていた。
「ふははは!この俺と一人でやる気なのか?互いの力量差も判断できないとは…ここまでバカな人間は初めて見たぞ!」

イザは静かに返事をする。
「…御託はいいから来いよ」

バティスはイザの一言で怒りを露わにしてイザに襲い掛かってきた。
「俺を前にしてそれだけの口を叩く度胸だけは認めてやろう!だが…楽に死ねると思うなよっ!!」

槍をイザに向けて繰り出した。
切っ先が見えないほどの速度の突きに驚きエルロンはイザの身を案じた。
「イザさん!!!」

だが次の瞬間。槍はイザは届いておらずすんでの所で止まっていた。
「寸止め…?」

エルロンはこの状況を見て始めはそう思った。
だがバティスの表情を見て、イザが何かをしてバティスの攻撃を止めたのだと気が付いた。

「な…んだと!?」
槍がイザに届く直前で何かに阻まれたようでそれ以上押し込もうとしてもびくともしない。
慌ててバティスは後ろに飛びのいた。

「貴様…一体何をした…?防御系のユニークスキルか…?」
「なんてことはないただの魔法さ」

バティスは叫んだ。
「ふざけるなっ!!この俺の槍を止められる魔法などあるものか!!」

再びバティスは槍を構えてイザに飛び掛かる。
何度も高速で突きを繰り出すが全てイザの目の前で止まりイザには一撃たりとも届くことはなかった。

イザが一体どんな方法で攻撃を防いでいるのか分からずにバティスは戸惑っていた。
(何が起こっている…!?物理攻撃を完全に防ぐ魔法やスキルなど聞いたことがないぞ!!)

「魔人族といってもこんなものか?人間種の魔法一つに太刀打ちも出来ないとは拍子抜けだな」

バティスはそれを聞いて完全にキレた。
「いいだろう…お前を強者と認めてやろう…。だが魔人族と人間種の格の違いを教えてやる…俺を本気にさせたことを後悔するがいい…」
そういうと両手に魔力を集中し始めた。
膨大な魔力の収束で周囲の大気が震えはじめた。

「イザさん!流石にあれはヤバイ!奴があれを放つ前にこちらから攻撃を…!」
エルロンが叫んだがバティスがそれに言葉を返す。

「もう遅い!喰らえ!インフェルノフレア!!」
特大の業火球がイザに向けて放たれた。

「ふははは!これこそが魔人族のなかでも高い魔力を生まれ持つ選ばれた者しか発現できない火属性魔法の境地!!裏切りどものアラクネ共々消し炭となれ!!」

イザは黙ったまま動かない。

「フハハハハ!!先ほどの威勢はどうした?下等な人間!」
バティスは勝利を確信し高笑いをしている。

エルロンはその魔法の規模を見て絶望していた。
「こんなの…無理だろう…」
(流石にイザさんと言えどこんな魔法太刀打ちできるはずが…)

業火球が目前に迫る中でイザは両手を前に出し静かに魔力を高め始めた。
そんなイザの様子がバティスの目に留まった。

「水魔法を出して相殺でも試す気か?そんなことをすれば高温の炎で水は瞬時に蒸発して大爆発するぞ!?無駄な足掻きはよせ。俺の業火は全てを燃やし尽くすまでは決して消えぬ!一度出してしまえば俺でさえも消すことはかなわぬほどだ…終わりだ人間!」

「へぇ?お前は消すことができないのか。んじゃお返しするよ」
イザは火球が目前まで来た瞬間両手の魔力を更に高めて魔法を発現した。

すると火球の速度が落ちイザの目の前で止まった。
「なっ!バカな!!」

更にその直後バティスへ向かって高速で飛びはじめた。
一瞬の出来事にバティスは回避も追撃の魔法を準備する余裕もなかった。

咄嗟に両手を前に出し魔力を集中するが抵抗もむなしく火球は威力を衰えることなくバティスに襲い掛かった。
「こんなことが…!あり得ない!!人間ごときにこの俺が…!!ぐわああああああああ!!」

イザに跳ね返された増大したインフェルノフレアはバティスに直撃し、その体を炎で纏った。
「うわあああああああ!!!」
バティスの叫びが響き、地に伏せるまで火が消えることはなかった。

倒れ込むバティスに近づくイザ。
まだバティスには微かに息があった。
「…き…さま…いったい…何者なのだ…」

「…お前より強かっただけの、ただの人間だよ」

「くそ……だが…俺を…倒したとて…この程度では…あのお方には及ばぬ…ぞ…」
そういうとバティスは息を引き取った。
するとバティスの体は音もなく塵になっていき、そこには魔核だけが残った。

その魔核を強く握りしめイザは黙って歯をかみしめた。
「…」

敵だったとはいえ、生まれてはじめて自分の手で人を殺したという実感と重責感、更に行き場のない悲しみに包まれイザは呆然と立ち尽くしていた。

そんなイザの様子を見てエルロンが肩を叩き声を掛ける。
「気に病むことはない。…ああしなければこちらがやられていた。」
「ああ…」

「イザさんはみんなを救ったんだ。そんなに自分を責めるな…」
「ああ…」
呆然としているイザに対し、エルロンはこれ以上かける言葉が見つけられなかった。
それと同時にもしあの魔法が自分に向けられていたら…と考えると、何もできなかった自分の無力さにエルロンも悔しさをかみしめていた。

重い空気がその場を包んでいた。

その沈黙を破って一人のアラクネが声を発した。
先ほど槍で体を貫かれていたものだ。
リーン特製の回復薬のおかげで既に腹の傷は塞がっていた。

「…我々を…助けていただきありがとう…ございます」
イザはアラクネが無事だったことに安堵感を得られた。そのおかげで我に帰りアラクネに駆け寄った。
「お前…無事だったのか?」

「貴方がくれた回復薬のおかげでどうやら助かったようです…こんな貴重なアイテムを私なんかに使っていただいて感謝…いたします……ごほっ!」
「もういい!まだ完治したわけではないだろう。今は休んでくれ」

アラクネはイザの言葉に笑顔を返すと限界だったようでそのまま眠ってしまった。
だが無事に一命をとりとめることができたようだ。

「普段がアレなだけに、あいつの作ったポーションなんてあまり信用して居なかったが本当に凄い性能なんだな…」
エルロンは致命傷だったアラクネの傷が完治しているのを見て驚いている。

「ああ、リーンに感謝だな。マティアも彼を見ててくれてありがとな」
マティアは親指を上に立てる仕草で返事をした。


他のアラクネ達が自分たちの今後の処遇について確認してきた。
「助けて頂き誠にありがとうございます。あの…それで、私達はこれからどうしたら…」
従属の腕輪は無くなったが、これからどうしたらいいのかわからず戸惑っていた。


話をすると、アラクネ達はイザ達には感謝こそすれど敵対する意思など毛頭無いという。
アラクネ達にはイスカリオテ内部の詳しい情報も聞きたいので、ひとまず村に連れていくことにした。
行くところがなければそのまま村に住むといい、とイザからの提案もあった。

相談も終わりイザが村へ繋がるゲートを開こうとすると、アラクネの一人がイザの前で膝をつき頭を下げながら言った。
「長に代わり私からお礼を言わせていただきます。我らアラクネ族一同、救われた恩義に報いたく存じます。一族一同これから貴方様の元で誠心誠意仕えさせていただく所存です」
アラクネ達は全員イザに頭を下げた。

それを聞いてイザは顔に手を当ててため息をついた。
「はぁ…」

イザのため息に気が付き、何か癇に障ることをしてしまったのかもしれないとアラクネ達はおろおろした。

「かたい!かたいよ君たち!!俺はそういうの求めてないから!」
アラクネ達はイザの言いたいことが分からず戸惑っていた。

「俺は普通に仲間として始まりの村に住まないか?といってるんだ。もう仕えるとか従属とかそういうのはなし!わかったか?」
「わ、わかりました」
アラクネ達はイザの圧に気おされていた。

「よし!んじゃひとまず始まりの村に行くとするか。銀狼やエルド達にも現状報告をしておきたいしな」

こうして一行はアラクネ達を連れて始まりの村に向かうことになった。
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