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2章

33話 潜入開始

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先日王城に出向いたイザたちは城内に潜む敵には警戒されているはずなので、潜入に向かうメンバーは自由に出入りできるガル。そしてラナ、ミア、リーンとなった。
3人にはまずガルに同行して王城へ入り一人目の内通者に近づいてもらうことにした。

イザがアルマから得た情報では城の内部で裏と繋がっているのは2人。
そのうち一人の話を皆に伝えた。

「そんな…まさかあの人が…」
イザから話を聞いたガルは驚いていた。
ガルは以前から知っている者なので当然の反応だ。

当初はラナたちがガルに同行したのでは不審がられると懸念していたが、相手が強者を求めているならば、竜人と思わせるその姿を見れば逆にあちらから近づいてくる可能性が高いだろうとイザたちは予想した。

もう一人の内通者の情報はラナにだけ伝え、他の3人には隠した。
顔に出やすそうな3人に伝えるのは、こちらが情報を掴んでいると勘繰られる可能性があったからだ。

こうして潜入組はイザたちと別行動をし計画は進み始めた。

ガルは久々にルナに会いに行くという体で城に向かうことにした。
ガル達は王城の門を叩いた。
城門に近づくと門兵がガルに話しかけてきた。
「これはガル様、最近冒険者業にいそしんでいたようで、あまり顔を出されなかったのでルナ様が寂しがっておられましたよ」
「ああ、最近ベルンで死の森の調査や魔物討伐に参加していたからあまり時間が取れなくてね」
「なるほど、あまり無理をしないようにしてくださいね。ガル様に何かあればルナ様が悲しみます。」
「はは。気を付けるよ」
門兵はガルの後ろの3人に目を向けた。
「して、後ろの方々は…?いつもの冒険者仲間の方とは違うようですが…?」
「3人はここ最近連絡がつかなくてな…。それで代わりにベルンで冒険者の仕事を手伝ってくれている人達なんだ」
「そうでしたか…。最近腕利きの者ばかり狙う怪しいものが居るの噂があります。ガル様もご注意ください。お三方も無事だといいですね…。では身分証を確認させていただきます。まずはフードを取ってお顔を拝見させていただけませんか?」
そう言われ3人はフードを取り顔を明らかにした。
3人を見て門兵は驚いた。
「なっ!エルフと竜人!?」
「エルフや竜人の方が俺の仲間だったら変か…?」
「いえ、変というわけではありませんが…その…とりあえず身分証を拝見させていただけませんか?」

(やはりこういう流れになりますか…)
4人は汗を流した。

「そ、それがその…3人は街に来たばかりでギルドには登録していないんだ」
「そうでしたか。ですがいくらガル様のお連れの方とは言え、身分が分からぬものを城内に入れるわけには…」

その時、門の先から声がした。
「ガル様を疑うとは何事ですか」
門を開き顔を出したのはララだった。
「初代王様の血族であるガル様が城内に信用ならぬものを連れ込もうとしているとお考えですか?」
「いえっ!私はただ門兵の勤めを…」
「その目で見て人の真贋を測るもの城に務める者の役目です。私が責任を持ちますので通してあげてください」
「執事長がそうおっしゃるのであれば…。皆様どうかお通りください」
「はは。すまないね」
「いえ、ガル様、最近ルナ様は元気がないご様子。どうか早く元気な姿を見せてあげてください」


(ふーん。この様子だとお姫様ってガルのただの幼馴染じゃなくて…そういう関係なのね。ふふ)
リーンは何やらニヤニヤしている。
「変な勘繰りはよしなさい」
そんなリーンをラナが叱る。


こうしてララのおかげで4人は城内に入ることに成功した。


ララの案内でルナ王女の部屋の前まで来た。
「ではガル様。我々はここで。お三方はガル様の用が済まれるまで城内を少し案内して別の部屋をご用意いたしますのでこちらへ」
「んじゃガルー!お姫様とのイチャイチャが済んだら戻ってきてね」
「いちゃいちゃってそんな!俺らはただの幼馴染で…!そんな関係じゃありませんよ!!」
ガルは顔を真っ赤にして否定しているがまんざらでもない様子。
当然ながらリーンはラナにげんこつ制裁をされた。


ララは通路に待機しているメイドに、3人を案内しているうちに部屋を1つ用意するように伝えた。
「ではこちらへ」
3人はララに案内されるままついていく。
城の中庭の庭園、兵士の訓練場と少し回っていたところで先ほどのメイドが部屋の用意が整ったと報告しにきた。
「お部屋の用意が整ったようですのでこちらにどうぞ」
「庭園綺麗だったねー流石王城!」
「そうですね。手入れが行き届いているようで木々や花々も綺麗でしたね」
「兵の訓練場もなかなかでしたね。私も兵士と手合わせしてみたかったです」
「ミア。止めておきなさい」

「ではこちらのお部屋へ」
ララの案内で広い応接室のような部屋に案内された。
「茶菓子等をご用意させていただいておりますので暫くおくつろぎください」
そういって軽く会釈をするとララは部屋を出ていった。

「で?どう思いましたか?」
「なんか常に魔力を当てられて気持ち悪いです~」
「城に入る前からずっと誰かに監視されていましたね」
3人はイザたちが感じたのと同じものを感じ取っていた。


「もうしばらく待ってみましょうか、いずれ向こうから何か動きがあるかもしれません」
「そうですね…」
「んじゃこのお菓子でも食べながら待ちましょ♪」
リーンはお菓子を口に運んだ。

3人は用意されているお茶と菓子を口にしながら待機しているといつのまにか眠ってしまっていた。

「ようやく寝たか…しかしまさかガル殿の付き人にまさか竜人やエルフが居るとはな…これは思ってもない収穫ですね」


声の主が懐から首飾りのようなものをラナに着けようとしたとき。
ラナはそれを振り払った。
「なにっ!?」
賊は驚いて飛びのいた。
「お前眠っていたはずでは…!?」


リーンが起き上がりその質問に返事をする。
「毒を警戒して耐性ポーションを作ってきていて正解でしたね」
「ええ、リーンさんの薬のおかげです」
ミアも起き上がり賊を囲んだ。

「くっ!まさか睡眠薬がばれていたなんて…!何時気が付いた!」
「そりゃ城に入る前からあれだけ魔力感知で監視されてたら不審に思わない方がおかしいでしょ」
リーンはやれやれといった感じで両手を広げて呆れていた。


「お前ら一体何者だ!?」
「ただのガルさんの付き人ですよ。貴方こそ何者です」

「私が素直に答えると思うのか?」
賊は両手に短剣を構え戦闘態勢に入った。

「別に素直に応えていただけるとは思っていませんよ」
そういうとラナは風魔法で賊を吹き飛ばした。
賊は壁にたたきつけられ、纏っていたフードがはがれ顔も露わになった。
「がはっ!2重破棄の魔法でこの威力…だとっ!!」
フードから顔が見え、賊の正体が明らかになる。
「やはりあなたでしたね。ララさん」

「何処から私が怪しいと…」
「身分証が無く、城内に入れない私達を追い返すでもなく門兵を言いくるめて案内してくれるなんておかしいでしょう?それで…この首飾りはなんですか?」

ララはミアに後ろ手に抑えられつつ歯をかみしめている。
「…」

「だんまりですか…困りましたね」
「ふん!悠長にしていられるのも今のうちだ!私が大声を出して城の者を呼べば、この状況を見たものからすればどう考えてもお前らの方が賊!」

「そうですねぇ。確かにガルさんの仲間といってもこの状況は看過されないでしょうね」
「わかったようだな…さぁこの手を離せ!」

「ではこういうのはどうでしょう。貴方が何をしようとしていたのかはわかりませんが、私達は貴方に協力します。それで貴方の立場も守られるでしょう」
「…どういうことだ…?」

「貴方が私に着けようとした首飾りをいま確認しました。この首飾りには人を操る呪術が掛けられているようですね。ですが我々3人の魔力量ならこの程度の呪力はなんてことはありません。つまり貴方の作戦が成功していたとしても我々は洗脳できませんよ」

「なっ!そんな馬鹿な!?そのアイテムはレベルが160を超える王国戦士長ですら洗脳することができたのに!」

「疑うのでしたら…」
そういうとラナは自ら首飾りを付けた。

「…ね?我々にはこんなもの初めから効果がありませんよ」

「…何が狙いだ。それだけの実力がありながら私に協力するなんて」
「貴方を救ってあげようと思っただけですよ」

「私を…?」
ラナは先ほど壁に吹き飛ばされた拍子に破れた彼女の背中を指さして言った。
「その背中の紋章。隷属の印ですよね。誰かに貴方も強制的に従わされているのではありませんか?」
「…」
ララは床に視線を落とし複雑そうな表情をした。

「やはり…。我々はこの国で起こっている事件を解決するためにここに伺いました。ガルさんはそのことを知りませんが…(というのは嘘ですが…)」

「隷属の契約をしているということは、重要な話は制約を掛けられているはずです。今は何も話す必要はありません。我々にこの首輪をつけて、当初の予定通りに事を進めてください」

「…無理だ…」
「無理とは?」
「確かにあんたらは強いのかもしれない。だけどあの方には誰も勝てない!死にに行くようなものだぞ!何をしようと変わらないんだ!!」
ララは両手で地面を叩きつけた。

(あの方…というのはイスカリオテの黒幕のことでしょうね。隷属の契約はかなりの力量差がなければ成立しないはず。先ほどの動きから見てララさんも恐らくレベル100程度。その彼女を一方的に隷属するとなると私達と同等か…よりも手練れの可能性もあるでしょうね…一体何者なのでしょう)

「まずは我々を信じて、洗脳したら連れていくはずだったところへ案内してしていただけませんか。貴方の立場を悪くするようなことはしないと約束しましょう」

ララは涙を流して居た。
「…わかった。あんたらを信じよう。だが私は手助けはしないからな。あとは勝手にしてくれ」
「ええ、それで結構です」

ラナは案内されている間にイザに念話で連絡をした。
『イザ様、我々はこれから敵の内部に潜入します』
『うまく釣れたか』
『ええ、内通者の一人…ララは隷属の契約で従えさせられていたようです』
『なるほど。ララも無理やり契約によって強制されていたってところか。もう一人の内通者は接触してきたか?』
『いえ、さすがに表の立場もあるでしょうし、一見の我々の前には姿を現しませんでしたね』
『そりゃそうか。これから潜入するってなると念話は控えた方がいいだろうな』
『そうですね。イザ様もお気を付けください。敵の黒幕は我々3人よりも手練れの可能性があります。他にもどんなものが控えているのかわかりません』
『ラナたちよりも手練れか…分かった気を付けるよ。そっちも気を付けてくれ』
『はい』

こうしてラナ達は呪術が組み込まれた首飾りを付け、ララに操られているふりをしつつ、城の地下に案内された。
地下通路の壁をララが触れると隠し通路が出現した。
どうやら魔法を組み込んで造られた通路のようだ。登録した者の魔力に反応して扉が開く仕組みらしい。

通路をそのまま奥に進んでいくと大きな部屋に出た。
部屋には他の場所から通じていると思われる通路も確認できた。
(通路の伸びている方角から見ると、どうやらあちらの通路は街の方へと続いているようですね。それにしても城の地下にこれ程の施設を…この事件は数年…いえ、数十年をかけて計画されているもののようですね。かなり敵は用意周到な様子。十分に注意する必要がありそうですね)

ララはラナの耳元で小声で話す。
「この部屋の先に捕らえられた者たちが集まっている…私の役目はここまでだ。注意するんだな」
ラナは静かに頷いた。

ラナは扉を開いてラナたちに命令する。
「この先の部屋で整列待機せよ」

命令に従っているふりをしてラナたちは奥の部屋得進んだ。
そこには首飾りを付けられ操られているであろう100を超える数の冒険者や兵士の姿があった。

それを目にして、想像していた以上の人数がとらわれていると知り3人は少し戸惑った。
その中に見覚えのある顔を見つけてリーンが反応した。
「あれは…!」
洗脳されている者たちの列の中にナック、フェル、ミーシャが居た。
飛び出そうとするリーンをラナとミアが制止する。
「いまはまだダメです。その時が来るまでは…」
「…くそっ!」
リーンはもどかしさを苛立ちをあらわにしている。

3人は命令に従っているふりをして列に混ざった。

こうしてラナ達はイスカリオテへの潜入に成功した。
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