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2章
27話 この世界の常識
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「6日後か、それまでに少し色々確認しておきたいことがあるんだけどいいかな?」
「なんでしょうか?」
「俺にとって目新しい存在である種族や魔法に目が行ってしまっていて、基本的なところをおろそかにしていたんだ。俺はこの世界でみんなと言葉は通じるから文字も同じだろうと思っていたんだ。ここは村といってもまだ経理や政務も必要としない自給自足の共生で成り立っている村だ。だから考えから抜けていた。でも街に出て知ったが俺が居たところとは全く違う文字をつかってる。これも街に出て知ったが、この世界の文化水準や常識的なところも全然わかっていなかった。外に出ても恥ずかしくないようにするためにも、この村をもっとよくするためにもみんな無知な俺に知っている情報や知識を色々教えてほしい」
そういうとイザは頭を下げた。
イザが頭を下げたのを見て皆驚き戸惑っている。
「イザ様!頭をあげてください!」
「そ、そうですよ!そんなことお願いされなくても教えますって!」
ミアとリーンは真っ先にフォローに回った。
「そうだぜ旦那?旦那が頭を下げることはねぇ。俺らは旦那の常識はずれな知識にむしろいつも感心させられてばかりだしな。ガハハ!なぁみんな!」
ドワーフたちは頷いた。
「我々ラミア族も皆イザ様には感謝しています。私に教えられることでしたらなんなりと、お任せください」
ラナの言葉に合わせてラミア一同も頷いた。
「俺らは人の常識ってところはイザさんよりもわからないけど、魔物の常識ならわかるとこもあるのでもっと頼ってください!」
「町やギルドでのことなら俺とガルに頼るといい」
「みんなありがとう」
こうしてまずは現在この世界に暮らす人の生活について、人の街で暮らした経験のあるラナ、リーン、そして今も拠点をベルンの街に置いているエルロンとガルに色々と教えてもらった。
この世界では、下水道はあっても極一部の都市にしか上水道は無く井戸を生活の基本にしているようだ。
電気などのインフラもないらしい。
魔法が発達しているので明かりや水道、調理器具や家電の機能に類似するものの大半が魔法で補えているのだから、インフラや科学が発展して居なくても無理はない。
魔法があるおかげで必要としない部分は発展しなくなり、文明の水準が中世程度で止まっていることにも頷ける。
そして農耕や牧畜についてだが、農業はあちらと同じような形態で、ある程度同じ認識でいいようだ。
むしろこの村の農業効率はイザの植物の成長促進魔法のおかげで異常だと笑われた。
牧畜は卵と乳製品のために飼育することはあっても、食肉用に飼育したりすることはないらしい。魚介類も同様に養殖といった産業は存在しないようだ。漁師という業種はあるらしいが、海の魔物が活発なところでは海産物は取れないので限られているらしい。
これらの飼育を行わない理由は3つの意味で魔物や魔獣の存在が影響しているようだ。
1つは魔物や魔獣がいるので、いくら安全を確保したとしても襲われ、殺されてしまうのでリスクが高いこと。2つ目は動物へ対する研究や医療がまったく発展していないこと。そして3つ目に魔物や魔獣の素材や肉それ自体が消費物として流通していること。
冒険者という職業がにぎわっているのもこれらの事情が関係しているらしい。
冒険者というのは何も自由に冒険するような職業ではなく、魔物や魔獣と言われるものを狩って生計を立てているものが大半で、市場に出回る肉などはほぼ冒険者頼みだそうだ。
医療に関してもかなり極端なようだ。
以前聞いた治療魔法を使える者が務めている治療院がこの世界では病院に当たるそうだが。もちろんそれは怪我の治療のみ。治療魔法では病気までは治せないらしい。病気の中でも状態異常の一種は薬師が担当しているそうだが、発熱などは治癒の魔法やポーションなどで体力を回復して治るのを待つのが一般的らしい。伝染病などは不治の病とされ、隔離するしか対処法がないとしているそうだ。
つまりどんな怪我でも治せるがどんな病気も治せないといった、あちらでは考えられない極端な状態が当たり前らしい。
冒険者に関して更に掘り下げると。
冒険者は実力が伴わなければリスクのわりに稼ぎの少ない厳しい職業だそうだ。
高ランクになると入場を制限されている危険度の高い魔獣の生息地への入場許可を得られたり、位の高い人の護衛任務や、新規発見されたダンジョンの探索任務など、好条件の仕事にもありつけるが、冒険者のほとんどが日銭稼ぎで討伐依頼や採取依頼をこなしているらしい、あちらの世界の日雇い労働者のようだ。
ファンタジー好きな俺としては少し夢を壊されてしまった。しかし実際にこの世界で暮らしている人達からするとこれがリアル、現実なのだ。
通信手段は、電気がないので手紙が主流かと思ったが、念話というスキルを使えば特定の人と離れていても会話することが可能らしい、これは誰にでも使えるスキルだそうで、俺が知らなかっただけなようだ。
念話はある程度魔力操作と魔法の知識があるものなら盗聴も容易なので盗聴を警戒して使っていなかったのだと思っていたようだ。
ただ、念話の存在を知って村に帰ってこなくなるのではないかと心配する声も聞こえた。
農作物の管理もあるし、この森で採れる食材は街の食堂で食べる物よりおいしいので極力帰ってくると伝えると皆安心したようだ。
そして先日見たファランの使用していた魔石についても気になったのでいままで何となくで使っていた魔石についても確認した。
魔石とは魔鉱石を加工して作るもので、純度や製法によって用途も様々。
エルドたちが工房で使用しているような鍛冶に使えるほどの火の魔法を蓄えられる程度の魔石は中純度の魔石で、家庭で水や火を使う程度の物なら低純度でいいらしい。
逆に高純度の魔石になると高い魔力を蓄えることが出来るので魔道具や魔工具、魔法の武具等に使われているそうだ。ファランが先日使っていた武器もその一つらしい。
魔法の武具はその製法が途絶えた代物で古いダンジョンなどに残されているものを見つけ出してくるか、王家などに昔から継がれている物がほとんどだそう。
以前イザの複合魔法を封じられる魔石をエルドたちが作ろうと頑張っていたが、普通に山で採れる純度の魔鉱石だと純度が足りないので厳しい様だ。より高純度の鉱石が手に入ればあるいは…とエルドは言っていた。
そしてヒュージスライムを召喚していたあの魔石。あれは普通の製法の魔石とは異なり、魔物からとれる魔核を触媒に使って作られた魔石だそうだ。
世界では魔物を生み出す道具として、魔核を使った魔石の製造は禁止されているらしい。
だがどの世界にも禁止されている物に興味を持つものや悪用するものは絶えないらしく、強力な魔物の魔核を集め、魔物を召喚できる魔石を作って闇で流しているものがいるそうだ。
こういった魔物を召喚する魔石のことを召喚石と呼ぶらしい。
魔核の存在はコカトリスやタイラントボアなどをさばいている際に見かけたので知っていたが。そんな用途があるのは知らなかった。
魔核にはいまだに不明な部分が多く、体内で魔核が生成されるのかもわかっていないらしい。
魔核には魔力が宿っているので1000年ほど前までは一般家庭では低級魔石のかわりに魔物の魔核を使っていたそうだが、魔核の魔力に当て続けた人が狂暴化するという事件が世界各地で起きたそうだ。そこで魔核を使うことは禁止されたらしい。いまは冒険者が討伐依頼を受けた場合に魔物の討伐証明として持ち帰る以外には使われないらしい。
ギルドに集められた魔核は正教会本部に集められ清めて処分されているらしい。
驚いたことに魔核を持つのは魔獣や魔物だけでなくこの世界に存在している魔力を持つ生物は例外なく魔核をもっているということだ。
人が亡くなった場合にも魔核が残るので世界の輪廻に戻すために亡くなったものは埋葬するのが一般的らしい。長年をかけて大地に帰っていくそうだ。
まだまだ聞きたいことは山ほどあったが、ここまでに聞いた情報の整理と、あちらとの常識の違いを上書きするのに理解が追い付かなそうなので、今回はこれぐらいでとどめておくことにした。
ギルマスの話では、王城へ行く際はベルンの街のギルド前に迎えの馬車が来るそうなので、前日からベルンの街の宿に泊まりになる。さらに当日は晩餐会まで開かれるそうなので暫く帰れそうにないので暫く明けてもいいように村を見回ったりもした。
エルロンとミアは暇さえあれば毎日決闘を続けている。
まだまだ地力の差でミアの方が上手のようだが、先日ファラン戦で使っていたゲートを使った攻撃でいいところまでは行っているようだ。
ガルは銀牙達と狩りに出ている。
リーンは相変わらず一人籠って怪しい研究をしている。時折爆発音も聞こえてくる。
エルドたちはゲートを封じることのできる魔石の開発に躍起になっている。完成したら俺やラナが居なくとも転移可能になるのでかなり楽になるのでありがたい。
イザはというと農業にいそしんでいた。
マティアはそのお手伝い(ほぼ食べる専門)
イザたち4人とガルとリーン、それに銀狼族数名が暫くの間留守にすることになるので、村の周囲の安全対策を少し強固にすることにした。
ラナやミア、ラミアたちが居れば何の問題もなさそうな気もするが…。念には念をである。
まずは土魔法で塀を作って街の周囲をかなり広めに囲った。かなり広く囲ったのは今後住民が増えた場合の考慮してだ。さらにその周囲に感慨で引いてきた水も使って濠もつくることにした。
これで空からの奇襲以外は出入り口にしている数か所を守るだけでいいので警備にあたる人数をかなり減られるようになる。
村にエルロンとガルが頻繁にいることになったので、来客用の居住施設も新たに作ることになった。
これはドワーフたちの手によって2日足らずで立派な建物が完成した。
イザから学んだ建築技術により、材料を1つの規格に統一して作り溜めているらしく、ストックを切らさないようにしているのでいつでも同じくらいの建物なら作れるそうだ。ツーバイフォーは素晴らしい。
そうこうしているうちに王城に向かう日まであと2日となっていた。
ここで意外な訪問者が訪れた。エルフだ。
以前から話に聞いていた西の森に住むというエルフの里の者のようだ。
ここ地で以前から強い魔力を感じていたのでその確認と、前日の冒険者達による大規模な戦闘で森から強い魔物が一掃されたと思い食料調達と確認のために赴いた際にこの村を見つけたらしい。
塀の周りをうろつき不審な動きをしていたということで銀狼たちに取り囲まれていたところを通りかかったミアとエルロンに先導されてきたようだ。
エルフの里からは嫌われていると聞いていたので彼らが来ていることは研究室に籠っているリーンには知らせないで置いた。(逆にリーンが居ると知られてもまずそうだ)
この森に半年ほど前から住んでいること、先日の戦闘のことを、ある程度隠すとこは隠してそれとなく伝えたらすんなり理解してくれたようで、あちらから交易の希望を出してきた。
エルロンは元々里の出身なので顔がしれているようなので交渉に立ち会ってもらった。
よくよく話を聞いてみるとエルフの里は近年作物が不作で動物も減ってきているので食糧難に陥ってきているようだ。そこでこの村で採れる作物をある程度分けて挙げることにしたら喜んで帰っていった。
あちらの森では食料は少ないが薬草や良質な木材が多くとれるようなので、それらと交換でこちらの村からは食料を
出すという話でまとまった。
エルフ族が帰り夕食に集まっているとエルロンが少し不安を投げかけた。
「それにしてもあんな約束をして本当によかったのか?」
「なにがだ?」
「エルフの俺が言うのも何だが。エルフの里の者は排他的なものがほとんど。いくら食糧不足だからといっても、人間が治める村と対等な貿易を考えるとはとても思えんな」
「まぁ本心や奥底でどう思っているかはともかく、食うに困ってる人たちを放っておくわけにはいかないでしょ」
「ふっ、イザさんは本当に甘いな」
「そこがイザさんのいいとこです!私は甘いイザさんが好きです!」
ありがとうリーン。そう言ってくれて嬉しいよ。
「はっ!受け入れられた!…そろそろ結婚…!?」
間髪入れずミアのボディーブローがリーンにクリーンヒットして悶絶している。
「はうっ!?冗談なのに…」
「イザ様にはラナ様こそふさわしいです!」
「こらこらお前たちそんなこと勝手なことをいわないの。なぁラナ?」
ラナは少し顔を赤らめてまんざらでもない様子だった。
「…あ。…そ、そうですよ!お二人とも!」
「そんなことよりも、ガル達今日はまだ帰ってきてないけど何処まで行ったんだ?」
そんなことという言葉にラナが後ろで意外とショックを受けていた。
「今朝は北の砂漠の辺りにサンドワームを探しに行くと言っていたが」
「ふむ、まぁ腹が空いたら夕食を食いに帰ってくるだろう」
「なんでしょうか?」
「俺にとって目新しい存在である種族や魔法に目が行ってしまっていて、基本的なところをおろそかにしていたんだ。俺はこの世界でみんなと言葉は通じるから文字も同じだろうと思っていたんだ。ここは村といってもまだ経理や政務も必要としない自給自足の共生で成り立っている村だ。だから考えから抜けていた。でも街に出て知ったが俺が居たところとは全く違う文字をつかってる。これも街に出て知ったが、この世界の文化水準や常識的なところも全然わかっていなかった。外に出ても恥ずかしくないようにするためにも、この村をもっとよくするためにもみんな無知な俺に知っている情報や知識を色々教えてほしい」
そういうとイザは頭を下げた。
イザが頭を下げたのを見て皆驚き戸惑っている。
「イザ様!頭をあげてください!」
「そ、そうですよ!そんなことお願いされなくても教えますって!」
ミアとリーンは真っ先にフォローに回った。
「そうだぜ旦那?旦那が頭を下げることはねぇ。俺らは旦那の常識はずれな知識にむしろいつも感心させられてばかりだしな。ガハハ!なぁみんな!」
ドワーフたちは頷いた。
「我々ラミア族も皆イザ様には感謝しています。私に教えられることでしたらなんなりと、お任せください」
ラナの言葉に合わせてラミア一同も頷いた。
「俺らは人の常識ってところはイザさんよりもわからないけど、魔物の常識ならわかるとこもあるのでもっと頼ってください!」
「町やギルドでのことなら俺とガルに頼るといい」
「みんなありがとう」
こうしてまずは現在この世界に暮らす人の生活について、人の街で暮らした経験のあるラナ、リーン、そして今も拠点をベルンの街に置いているエルロンとガルに色々と教えてもらった。
この世界では、下水道はあっても極一部の都市にしか上水道は無く井戸を生活の基本にしているようだ。
電気などのインフラもないらしい。
魔法が発達しているので明かりや水道、調理器具や家電の機能に類似するものの大半が魔法で補えているのだから、インフラや科学が発展して居なくても無理はない。
魔法があるおかげで必要としない部分は発展しなくなり、文明の水準が中世程度で止まっていることにも頷ける。
そして農耕や牧畜についてだが、農業はあちらと同じような形態で、ある程度同じ認識でいいようだ。
むしろこの村の農業効率はイザの植物の成長促進魔法のおかげで異常だと笑われた。
牧畜は卵と乳製品のために飼育することはあっても、食肉用に飼育したりすることはないらしい。魚介類も同様に養殖といった産業は存在しないようだ。漁師という業種はあるらしいが、海の魔物が活発なところでは海産物は取れないので限られているらしい。
これらの飼育を行わない理由は3つの意味で魔物や魔獣の存在が影響しているようだ。
1つは魔物や魔獣がいるので、いくら安全を確保したとしても襲われ、殺されてしまうのでリスクが高いこと。2つ目は動物へ対する研究や医療がまったく発展していないこと。そして3つ目に魔物や魔獣の素材や肉それ自体が消費物として流通していること。
冒険者という職業がにぎわっているのもこれらの事情が関係しているらしい。
冒険者というのは何も自由に冒険するような職業ではなく、魔物や魔獣と言われるものを狩って生計を立てているものが大半で、市場に出回る肉などはほぼ冒険者頼みだそうだ。
医療に関してもかなり極端なようだ。
以前聞いた治療魔法を使える者が務めている治療院がこの世界では病院に当たるそうだが。もちろんそれは怪我の治療のみ。治療魔法では病気までは治せないらしい。病気の中でも状態異常の一種は薬師が担当しているそうだが、発熱などは治癒の魔法やポーションなどで体力を回復して治るのを待つのが一般的らしい。伝染病などは不治の病とされ、隔離するしか対処法がないとしているそうだ。
つまりどんな怪我でも治せるがどんな病気も治せないといった、あちらでは考えられない極端な状態が当たり前らしい。
冒険者に関して更に掘り下げると。
冒険者は実力が伴わなければリスクのわりに稼ぎの少ない厳しい職業だそうだ。
高ランクになると入場を制限されている危険度の高い魔獣の生息地への入場許可を得られたり、位の高い人の護衛任務や、新規発見されたダンジョンの探索任務など、好条件の仕事にもありつけるが、冒険者のほとんどが日銭稼ぎで討伐依頼や採取依頼をこなしているらしい、あちらの世界の日雇い労働者のようだ。
ファンタジー好きな俺としては少し夢を壊されてしまった。しかし実際にこの世界で暮らしている人達からするとこれがリアル、現実なのだ。
通信手段は、電気がないので手紙が主流かと思ったが、念話というスキルを使えば特定の人と離れていても会話することが可能らしい、これは誰にでも使えるスキルだそうで、俺が知らなかっただけなようだ。
念話はある程度魔力操作と魔法の知識があるものなら盗聴も容易なので盗聴を警戒して使っていなかったのだと思っていたようだ。
ただ、念話の存在を知って村に帰ってこなくなるのではないかと心配する声も聞こえた。
農作物の管理もあるし、この森で採れる食材は街の食堂で食べる物よりおいしいので極力帰ってくると伝えると皆安心したようだ。
そして先日見たファランの使用していた魔石についても気になったのでいままで何となくで使っていた魔石についても確認した。
魔石とは魔鉱石を加工して作るもので、純度や製法によって用途も様々。
エルドたちが工房で使用しているような鍛冶に使えるほどの火の魔法を蓄えられる程度の魔石は中純度の魔石で、家庭で水や火を使う程度の物なら低純度でいいらしい。
逆に高純度の魔石になると高い魔力を蓄えることが出来るので魔道具や魔工具、魔法の武具等に使われているそうだ。ファランが先日使っていた武器もその一つらしい。
魔法の武具はその製法が途絶えた代物で古いダンジョンなどに残されているものを見つけ出してくるか、王家などに昔から継がれている物がほとんどだそう。
以前イザの複合魔法を封じられる魔石をエルドたちが作ろうと頑張っていたが、普通に山で採れる純度の魔鉱石だと純度が足りないので厳しい様だ。より高純度の鉱石が手に入ればあるいは…とエルドは言っていた。
そしてヒュージスライムを召喚していたあの魔石。あれは普通の製法の魔石とは異なり、魔物からとれる魔核を触媒に使って作られた魔石だそうだ。
世界では魔物を生み出す道具として、魔核を使った魔石の製造は禁止されているらしい。
だがどの世界にも禁止されている物に興味を持つものや悪用するものは絶えないらしく、強力な魔物の魔核を集め、魔物を召喚できる魔石を作って闇で流しているものがいるそうだ。
こういった魔物を召喚する魔石のことを召喚石と呼ぶらしい。
魔核の存在はコカトリスやタイラントボアなどをさばいている際に見かけたので知っていたが。そんな用途があるのは知らなかった。
魔核にはいまだに不明な部分が多く、体内で魔核が生成されるのかもわかっていないらしい。
魔核には魔力が宿っているので1000年ほど前までは一般家庭では低級魔石のかわりに魔物の魔核を使っていたそうだが、魔核の魔力に当て続けた人が狂暴化するという事件が世界各地で起きたそうだ。そこで魔核を使うことは禁止されたらしい。いまは冒険者が討伐依頼を受けた場合に魔物の討伐証明として持ち帰る以外には使われないらしい。
ギルドに集められた魔核は正教会本部に集められ清めて処分されているらしい。
驚いたことに魔核を持つのは魔獣や魔物だけでなくこの世界に存在している魔力を持つ生物は例外なく魔核をもっているということだ。
人が亡くなった場合にも魔核が残るので世界の輪廻に戻すために亡くなったものは埋葬するのが一般的らしい。長年をかけて大地に帰っていくそうだ。
まだまだ聞きたいことは山ほどあったが、ここまでに聞いた情報の整理と、あちらとの常識の違いを上書きするのに理解が追い付かなそうなので、今回はこれぐらいでとどめておくことにした。
ギルマスの話では、王城へ行く際はベルンの街のギルド前に迎えの馬車が来るそうなので、前日からベルンの街の宿に泊まりになる。さらに当日は晩餐会まで開かれるそうなので暫く帰れそうにないので暫く明けてもいいように村を見回ったりもした。
エルロンとミアは暇さえあれば毎日決闘を続けている。
まだまだ地力の差でミアの方が上手のようだが、先日ファラン戦で使っていたゲートを使った攻撃でいいところまでは行っているようだ。
ガルは銀牙達と狩りに出ている。
リーンは相変わらず一人籠って怪しい研究をしている。時折爆発音も聞こえてくる。
エルドたちはゲートを封じることのできる魔石の開発に躍起になっている。完成したら俺やラナが居なくとも転移可能になるのでかなり楽になるのでありがたい。
イザはというと農業にいそしんでいた。
マティアはそのお手伝い(ほぼ食べる専門)
イザたち4人とガルとリーン、それに銀狼族数名が暫くの間留守にすることになるので、村の周囲の安全対策を少し強固にすることにした。
ラナやミア、ラミアたちが居れば何の問題もなさそうな気もするが…。念には念をである。
まずは土魔法で塀を作って街の周囲をかなり広めに囲った。かなり広く囲ったのは今後住民が増えた場合の考慮してだ。さらにその周囲に感慨で引いてきた水も使って濠もつくることにした。
これで空からの奇襲以外は出入り口にしている数か所を守るだけでいいので警備にあたる人数をかなり減られるようになる。
村にエルロンとガルが頻繁にいることになったので、来客用の居住施設も新たに作ることになった。
これはドワーフたちの手によって2日足らずで立派な建物が完成した。
イザから学んだ建築技術により、材料を1つの規格に統一して作り溜めているらしく、ストックを切らさないようにしているのでいつでも同じくらいの建物なら作れるそうだ。ツーバイフォーは素晴らしい。
そうこうしているうちに王城に向かう日まであと2日となっていた。
ここで意外な訪問者が訪れた。エルフだ。
以前から話に聞いていた西の森に住むというエルフの里の者のようだ。
ここ地で以前から強い魔力を感じていたのでその確認と、前日の冒険者達による大規模な戦闘で森から強い魔物が一掃されたと思い食料調達と確認のために赴いた際にこの村を見つけたらしい。
塀の周りをうろつき不審な動きをしていたということで銀狼たちに取り囲まれていたところを通りかかったミアとエルロンに先導されてきたようだ。
エルフの里からは嫌われていると聞いていたので彼らが来ていることは研究室に籠っているリーンには知らせないで置いた。(逆にリーンが居ると知られてもまずそうだ)
この森に半年ほど前から住んでいること、先日の戦闘のことを、ある程度隠すとこは隠してそれとなく伝えたらすんなり理解してくれたようで、あちらから交易の希望を出してきた。
エルロンは元々里の出身なので顔がしれているようなので交渉に立ち会ってもらった。
よくよく話を聞いてみるとエルフの里は近年作物が不作で動物も減ってきているので食糧難に陥ってきているようだ。そこでこの村で採れる作物をある程度分けて挙げることにしたら喜んで帰っていった。
あちらの森では食料は少ないが薬草や良質な木材が多くとれるようなので、それらと交換でこちらの村からは食料を
出すという話でまとまった。
エルフ族が帰り夕食に集まっているとエルロンが少し不安を投げかけた。
「それにしてもあんな約束をして本当によかったのか?」
「なにがだ?」
「エルフの俺が言うのも何だが。エルフの里の者は排他的なものがほとんど。いくら食糧不足だからといっても、人間が治める村と対等な貿易を考えるとはとても思えんな」
「まぁ本心や奥底でどう思っているかはともかく、食うに困ってる人たちを放っておくわけにはいかないでしょ」
「ふっ、イザさんは本当に甘いな」
「そこがイザさんのいいとこです!私は甘いイザさんが好きです!」
ありがとうリーン。そう言ってくれて嬉しいよ。
「はっ!受け入れられた!…そろそろ結婚…!?」
間髪入れずミアのボディーブローがリーンにクリーンヒットして悶絶している。
「はうっ!?冗談なのに…」
「イザ様にはラナ様こそふさわしいです!」
「こらこらお前たちそんなこと勝手なことをいわないの。なぁラナ?」
ラナは少し顔を赤らめてまんざらでもない様子だった。
「…あ。…そ、そうですよ!お二人とも!」
「そんなことよりも、ガル達今日はまだ帰ってきてないけど何処まで行ったんだ?」
そんなことという言葉にラナが後ろで意外とショックを受けていた。
「今朝は北の砂漠の辺りにサンドワームを探しに行くと言っていたが」
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