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第八章 大事なモノ 自分の気持ち 

第63話 果てしない道のりだとしても......。 (ショウ視点)

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 アランも転生者だと分かり、俺はアランに口止めをしながら、アランの前でショウの姿に戻った。
 本来の名前もマーサではなくショウだと告げた。

 そして、俺が普段変化していた姿が前世での今の俺の年齢の時の将之と見た目、同じ姿をしていたと初めてアランの口から聞いた。

 俺は自分じゃない姿に変化しているつもりではいた。
 地味な男と思い変化しているつもりだった。

 だけど俺が考える具体的な地味な姿というのが、前世での将之の姿だったのだろう。

 だけど、俺は変化したとしても鏡には俺には俺の姿として映る。
 だから俺自身が将之の姿に変化させている事に自覚が無かった。



 アランが俺を見ながらクスリと笑った。

「そうか……今世では将之様はこんな可愛らしい見た目だったんだね」

 そんな風に言うアランに俺は不満気に眉を寄せた。
「子供扱いしないでくれよ。確かに今はこんなだけど、ちゃんとした食事を取るようになれば俺だってもう少しはましになる筈だ」

 と言いながらも、確かにアランと今の姿の俺では隣に並ぶと大人と子供だ。


「確かにな、その姿だとウチの坊主達と見た目、対して変わんないな」
「アラン、それはいくらなんでも言い過ぎだよ」
 アランが俺を揶揄い、俺がムキになって反論する。

 そうして二人顔を合わせた後、一気に吹き出した。



 俺はずっと周りに秘密を抱えていた。

 1人で生活していた時は黒髪の事を、この国に来てからは姿を偽り、好きな人に別人だと嘘までついて……。

 偽りないありのままの姿でただの友達同士の様に笑い合うなんて、すごく久しぶりな事だった。


 それはアランも同じだった様だ。

 転生者であるアランは俺と同じで、平和な世界で生活した事がある。

 だからこの世界で前世の記憶が蘇った時、どうにかしたいと思ったんだそうだ。


 前世の記憶があって、転生者である自分には何かできるんじゃないかと思ったらしい。

 俺も、この世界の実情を知った時、堪らなかった。
 どうにか出来ないだろうかと、少しでも何か出来る事はないかと思った。
 



 前世でのあの世界にも平和ではなく争いにまみれている地もあった。

 だけど前世の俺自身は平和な世界を生きていた。



 けれど、俺は、争いの行き違いがきっかけで……それがきっかけで早くに命を落とす事になった。

 どんなに平和な世界でも争い事はある。
 望んでいなくても、それぞれの気持ちの行き違いで争い事が起こってしまう。


 そして、この世界では悲しい負のループが続いている。

 上の世界の人は上に出現している魔物達の本心は争いを望んでいない事を知らない。

 自分達の魔力の影響力でこの国の人達を変化させてしまっている事も知らない。


 俺はこの負の連鎖を終わらせたい。

 なんとかしてこの世界の人が……上の人も下の人も、心地よい世の中になって欲しい。

 せめて悲しむ人が少しでも少ない世の中になって欲しい。
 
 俺はアランに上の人の魔力についてと、俺の魔力について、そして、魔物に変化してしまう下の人達の性質についての考えを伝えた。

 夢で見たこの世界を作った神様達の事も話した。


「魔国の人達は上に行くと魔物になってしまう。それを防ぐ為に俺達が出来る事って……」
「確か、前王様の邪気からの呪いはショウが触れたら解けたんだよね?」
「そうみたいだ。それに俺はその邪気の影響を受けないみたいだった」

 少し考えこむ様に口を閉ざしていたアランが俺に向けて掌を差し出してきた。

 ん? 今更俺は握手を求められているのか?

「俺の手を握ってみて?」

 首を捻った俺を見てアランがクスッと小さく笑った後、そう言った。

 意味が分からかったが俺は言われた通りにアランの手を握った。

 手を握り合った瞬間、少し反応する様に俺とアランの手の甲が光った。

「やっぱり……うん。やっぱりそうだ。ショウに触れられると俺の中の魔力が少し変化したみたいだ。俺も転生者だから他の魔国の人にも同じ変化があるかは分からないけどショウが触れると俺を含む魔国の人々の魔力の性質を変える事が出来るみたいだ」

「へ? どういう意味?」

「ショウはね、俺達、魔国の人達の魔力の性質自体を変化する能力があるんだよ。前王様の呪いを解いたというのはそういう事だ」

「よく、意味が分からない」
「だからね、ショウが触れる事で邪気の魔力に反応がある魔力を違う魔力に変化させたんだよ。ショウはそれが出来るんだ」
「なるほど、じゃー、俺が触れたら魔国の人達は上に上がってしまっても魔物に変化しないって事?」
「いや、そう簡単に身体の中を作り変える事は難しいかもな……それにこの世界の人全てと触れ合うなんてショウの身体がいくつ有っても足りないだろう?」
「確かに……」

 そうだよな……。
 俺は1人しかいないし……。


 魔力を作り変える……。

 そ、そうだ。
「お茶とか食品とか食器とか魔道具とか、皆が触れるモノに身体の中に取り込むモノに俺の魔力を込めてそして、魔国の国の人達や上の人達の身体を内面から少しずつ変えていくっていうのはどうだろう?」

「なるほど! 確かにショウが皆を変質者の様に触りまくるよりは効率的かも!」
「だろ? ってその言い方はないんじゃないか?」

「まあ、それは良いとして、それなら俺の能力も役に立つかもな」

 そう言いながらアランが壺の様なモノを出してきた。

「何? コレ」
「錬金術って聞いた事ない? あとね料理も俺、得意なんだ」
「あ……俺も薬草の事なら少し分かる」
「よし、俺とショウが協力したらどうにかなるかもしれない」

 そう言ってアランが得意げに笑った。

 そんな風に笑っているアランを見たら、俺もそんな気がしてきた。


 この世界を救うなんて……。この負の連鎖を止めるなんて、どうにもならない事も……なんとかなりそうな、そんな気がしたんだ。

 それがどんなに果てしない道のりだとしても……。



 
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