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第六章 俺とアイツの立場と距離
第45話 何がどうしてコンナ場所? (ショウ視点)
しおりを挟むん……。
頭が痛い。
俺はコメカミを抑えながらゆっくりと目を開いた。
まだ先程の前世の夢や会話が頭の中をぐるぐると回っていて、一体今は何処にいるのか分からなくなりそうだった。
というか、実際、ココは何処だ?
目を開いた時に目の前に飛び込んできたのは見慣れない天井だった。
なんだか高そうな質感の資材を使っているな……、素材的にも前世でも見た事がない感じだ。
ゲームの中に入り込んだ様な、はたまた物語の中に出てくる金持ちの住む屋敷の様な……。
そう言えばあまり入った事が無かったが龍鬼の家はかなりの金持ちだったんだよな……。
俺は長い事、前世の夢を見ていたから、この世界を今は生きているんだと……そう、切り替える事が難しかった。
幼なじみと言ったって龍鬼には家にも招待された事がないなんてなんだか微妙な関係性だったな……。
現在俺は随分と豪華なベッドの上に寝かされていた。
ショウとしては寝かされる事はあり得ない場所、こんな風に現実逃避してしまう程、その部屋はいつもの俺にとって、現実離れしていた。
敷布団も、俺にかけられている上布団もふっくらして柔らかい。
ココは、本当に何処なんだろうか?
俺はまだ夢の中にいるんだろうかと思いながら、前世の夢を見る前は何をしていたか必死に思い出そうと考えを巡らせた。
そうだ……。
その時、思い出したのはリュウの絶望に満ちた様な、ほうけた様な顔だった。
俺は職場で、マッサージ店で、リュウと再会して、リュウの施術を行っていた時、なんだか妖しい雰囲気になったんだ。
なんだかリュウが別人みたいで戸惑って、少し流されそうにもなったが、キスされそうになって、やっぱりイヤだって思って、そんな時、窓ガラスが割れて大きな犬がその窓から飛び込んできたんだ。
俺はその犬に見覚えがあった。
そして、その犬が急に魔物の様な見た目に変化したんだ。
だけど……。
俺にはその犬が変化した魔物がタイアンさんに見えたんだ……。
いや、あれは確かにタイアンさんだった。
気を失う前、ボンヤリだけど、魔物がタイアンさんの姿に戻るのが見えた。
残像の様に、それが見えたと同時に俺は目の前が真っ暗になったから、確かとは言えないが、俺が庇ったのはアレはタイアンさんだった。
俺は、自分のいる場所を確かめようと、その身体が沈み込みそうな程柔らかく、自分のサイズには全然あっていない様な大きなベッドから起き上がり、ゆっくりと足を下ろした。
久しぶりに身体を起こしたからか少し頭がクラクラする。
俺はどれくらい眠っていたのだろうか?
なんだか少しお腹も空いた。
俺自身、元々、アースさんの所で働きだす前は、木の実や果物を食べて生活していた。
働き出してから少しずつお金を手にしたり、アースさんから頂いた野菜なども食べる様にはなってきたけど、俺自身は少しぐらいは食べなくても大丈夫な身体をしていた。
まあどんな人でも食べたり水分を取らなければ死んでしまう。
他の人よりも丈夫だというだけだ。
ベッドの横にはなんだか何に使うか分からない機器の様なモノが置いてあった。
俺はその器具を手に取りながら、一体ココは何処だろうと辺りを見渡したが、部屋には俺しかいない。
部屋の外からバタバタと誰かが走っている様な音がして、小心者の俺はビックリして飛び跳ねてしまった。
タイアンさん、そうだ。
俺もだけど、タイアンさんもあの時、リュウに刺されたんだ。
あの魔物は確かにタイアンさんだったんだから……。
タイアンさんは……タイアンさんは何処だ?
あの傷、大丈夫だったんだろうか?
俺は最悪な状態を想像してしまい、血の気が引き、慌てて部屋から出ようと歩き出した所で足がもつれて転けてしまった。
転けた瞬間、顔をぶつけない様に手をついた。
俺が居る部屋は何処かのお貴族様かハタマタ皇帝かなんかが使っている部屋かと思うぐらい豪華だ。
俺は思い切り転んだにも関わらず、敷かれているカーペット素材がフワフワに柔らかく、思ったより痛くなくて、転んだわりには大きな音はしなかった。
俺は結構長い時間、眠っていたんだろうか?
足の筋力が落ちてしまった訳ではないようだったが、念の為俺は這う様に扉の所まで移動した。
ゆっくりドアを開けると、メイドや執事の様な格好をした人達、はたまた少し高そうな衣服や鎧をまとった様な人達が慌ただしそうに俺の隣の部屋に入って行くのが見えた。
もしかして隣にはタイアンさんが眠っているんだろうか?
タイアンさんはリュウに刺されて大怪我を負ってしまったんだろうか?
そう言えば、俺も斬られた筈なのに痛みがない。
どなたかが治療をして下さったのだろうか?
まあ後で治療して下さった方にお礼を言わなきゃだけど、それよりもタイアンさんだ。
どうしよう?
ココがどういう屋敷かも分からないし、俺は平民だ。
傷の手当てはして下さったとしても、目を覚ましてしまったのなら、すぐにこのお屋敷から追い出されてしまうかもしれない。
タイアンさんがどんな状況かも分からないまま、会えなくなってしまうかもしれない。
俺は再び開けたドアを閉め、そのドアに寄りかかりながら冷静になろうと深呼吸をした。
ドアの外からは、この屋敷の方々の様々な声が聞こえる。
「魔王様は大丈夫なのかしら? 土砂崩れを起こしたと言う話でしょう?」
「庇われたモノや連絡を受けて駆けつけた坊ちゃんの護衛様方が王宮に運んで来たとの話だけど……」
「もう、坊ちゃんと呼んではいけないわ。魔王様と呼ばなければ……何処で誰が聞いているのか分からないんだから……」
ドアの向こうから聞こえてくる噂話に俺は耳を疑った。
今、外にいる人達はなんて言っていた?
魔王様って言ってなかったか?
俺の聞き間違いだろうか?
魔王ってあの、ゲームとかで言われている魔王様か?
イヤ、そう言えばリュウって勇者って奴だよな?
この世界がどういう世界か分からないし、俺自身があまりこの世界の常識を知らないからなんとも言えないけれど……。
何故だか分からないが俺はもしかして魔王城という所に来てしまっているのか?
額からイヤな汗を掻きながら俺はパニック状態に陥っていた。
最弱な俺が何をどうしたらこんな所に行き着いてしまったのか……。
現実逃避したくなり、せっかく目を覚ましたというのに、また気を失ってしまいそうだった。
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