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第99話 幻聴? 夢? それとも現実?(ホロ視点)
しおりを挟むバチンッ。
という音と共に我に返った気がした。
えっ?
空間が一瞬歪んだ様な錯覚、と言ったら良いだろうか?
俺は眩しくて思わずギュッと目を閉じた。
数秒後にゆっくりと目を開けると、一瞬視界がボヤけて、はっきり見える様になったと思ったら、心配そうに俺を覗き込むデンの顔が見えた。
「ワオーン、わんぁ? アンワン? (どーしたの? ホロちゃん? 何処か、痛いの?)」
俺が顔を歪ませて見えたから苦痛だと心配したのだろう。
気を使ってくれているのか小さめの声で吠えてくれている。
首を傾げながらハアッハアッと聞こえる息遣いもいつもと同じデンの声だった。
ゆ、雪?
雪は?
先程の事は何だったんだ?
足元にあるハンカチはいつもと同じ温もりで先程の熱はすっかり消えてしまった。
もちろん、雪の声も、息遣いも、鼓動も、何一つ聞こえてこない。
俺......。
また白昼夢を見ていたのか?
......。
先程までの出来事が夢だとはどうしても思いたくない。
雪の少し慌てた声も、雪がすぐそこにいる様な、あの気配も、しっかりと脳内に残っている。
だけど......。
今回は俺の周りで起きている(まあ俺が他人の人の夢の中に入る事などの不思議な出来事)その事との関連性も何もない様にも思う。
それとも、パワーが貯まれば出来る事が増えると確か、プディが言っていたな......。
ミーちゃんの事の時に出会った猫、オヤブンさんの心の声も確か聞こえたんだよな......。
それでミーちゃんの心をほぐす事が出来たんだ。
いや、分からない。
今回の事は、俺にしか起こっていない出来事で、俺自身が作り出した事なのかもしれない。
俺はこの事を夢だと思いたくなかった。
だけど、雪の事を想いすぎて、幻覚や幻聴が聞こえたのかもしれない。
先日、あんなに近くで実際の雪に触れる事が出来て、フワフワして、柔らかくて、良い香りがして......。
優しく心地良い声をすぐ間近で聞いて、感じて......。
ドキドキして、自分が猫なのがもどかしくて。
やっぱり、好きで......。
大好きで。
人間として、同じ立場で逢いたい。
そう思う想いがつのり過ぎてしまったのかもしれない......。
デンが俺の横に寝そべり自分の顔を俺の背にスリスリとなすりつけてきた。
デンっ、このケージの中はお前も入っているとかなり狭くなるんだぞ?
おい、目ヤニをなすりつけてないか?
そ、そこになすりつけたら、また綺麗にするのに時間がかかるだろう?
それにだ、そんな風に身体を丸めてまでも俺の側でくつろごうなんて......きゅ、窮屈いだろう?
俺はそんな風に考えながらも、この何も考えていない様な、だけど優しいデンの存在に救われていた。
今回の出来事はなんだったのかよく分からない。
だけど、今回の事のおかげで思い出した事もある。
断片的だが記憶が少し戻ったんだ。
良い記憶ではないが......。
あの時、俺の背に刺さったナイフ。
ドクドクと流れていく自分の血液、痛みと体中が熱を持ち遠くなる意識。
そして、泣きじゃくる雪の真っ赤になった顔。
俺は......。
俺がそんな風に考えていたからか、デンがすり寄る様にさらに俺に身体を密着させてくる。
やはり元気無い様に見えてデンは俺を慰め様としてくれているんだよな?
俺は少し気恥ずかしくなり、身体をふるった後、スペースが少ないその場で軽く足踏みをした。
ケージの外に俺が出たがっていると思ったのか、デンはゆっくり立ち上がると尻尾を振りながら歩き出しケージから出た。
先程の質問に俺が答えてないからか、心配そうにこちらを振り返りながら歩いている。
「ニャーゴ。ニャンニャ(何でもない。大丈夫だよ)」
そうデンに言い、俺もケージから出て大きく身体を伸ばした。
俺はテレビの前に置いてあるデジタル時計を見て曜日を確認した。
明日は日曜日。
雪が来る予定の日。
今日あった事が本当なら雪ともしかして、ちゃんと話が出来るかもしれない、いや......やっぱり、夢? だったのか?
俺は夢と思いたくなかったが、なんだかまた、記憶にモヤがかかり、夢じゃないと言い切れる自信がなくなってきていた。
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