59 / 131
第59話 過去、あの日あった出来事①(雪視点)
しおりを挟む日々の平凡な日常。
それは当たり前ではなくて、色々な事、相手に対して思いやりを持って生活し、それが少しずつ少しずつ積み重なって日常になっていく。
私はそう思う。
一度平和な日常を手放した私はその平凡な温かい日常をまた取り戻そうと必死だったと、そう思う。
皆、それぞれ、沢山の繋がりを持っていて、私にも彼以外の繋がりもあるかもしれない。
だけど、私の中で、彼の側じゃない日常は、そこは幸せな平和な日常じゃなくて......。
もしも、彼がいないその日常が何不自由ない他人から見たら幸せそうな日常だとしても......。
もし、彼の側での毎日が、すごく、すんごく大変な毎日だったとしても、私は彼の隣で笑える事が何よりも幸せだと、そう思っていたんだ。
そしてやっと彼との平凡でくすぐったいくらい温かくて幸せな日常が手に入った。
そう、思っていた。
私が彼と一緒に、この一秒、一秒を過ごす事はすごく難しい事だったのに......。
介護士である私は帰る時間もシフトによって違っていて、職人である辰君は、現場の進行状況で仕事の終了時間も違う。
現場が遠い時は遅くなる日もあるし、逆に早くて三時や四時に仕事が終わる日もあったりする。
私達は仲が良く、色々な事を、悩みも愚痴も全部話す。
だから大きな喧嘩をする事もなかった。
だけど、私には全部、全て包み隠さず話している様に見えていたとしても、辰君に隠していた大きな秘密があった。
天然で何も考えてない様な、のほほんと生きている様に見える私には、きっとそんな過去があるなんて辰君は夢にも思っていないと思う。
全部、辰君の前にいる私が、ありのままの私だと、辰君はそう思っていたと思う。
私の大きな秘密。
私はこの星の人物、生物ではない。
認めたくなくても、この星の人物だと思いたくても、それは事実で......。
この日、仕事が終わる時間が夜の十時で、自転車で通っていたその当時、なんだか、つけられている様な嫌な違和感を感じていた。
その日仕事が早く終わって家にいた辰君に、数日前から感じていたその違和感の話をしていたからか、辰君が近くの公園まで、迎えに来てくれていた。
「雪」
公園のベンチで座っていた辰君が私の自転車の音に気がついたのか、立ち上がってそう声をかけてくれた。
今日も暑かったもんね?
だけどもうお風呂も入ってきたのかな?
さっぱりした顔してる。
「辰君、迎えに来てくれたの?」
辰君はちょっと恥ずかしそうに下を向いた。
「流石にな、こんな時間だし、真っ暗だしな。あんな話を聞かされたんじゃな」
そう言う辰君はぶっきらぼうに横を向いているけど暗くても頬が赤くなっているのが見える。
心配してくれたんだね。
そうやって歩き出したあの日。
私はまだ、これからどんな事が起きるのか。
この日常が崩されてしまうなんて思っていなかったんだ。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる