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番外編

その狼の愛は止まることを知らない 2

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「ッいってぇ!!」

オウカの悲鳴で目が覚めた。

「んぁ?」
「あ、タカトが起きてしまったじゃないですか」
「お前が思いっきり叩くからだろうが!」

寝起きには少し騒がしいやり取りの先に目を向けると、ロイがオウカの後ろ、ベッドの脇に仁王立ちしていた。その右手には、固く丸められた書類の束が。あれでオウカを叩いたのかな。

「おはようございます、タカト」
「……ふぁあ。おはよう、ロイ。早いね?」

まだ早朝とも言える時間だ。騎士団の活動開始時間も、まだ少し先だろう。

「少し、オウカ副団長に確認したいことがありまして」
「オウカに?」

確かオウカは今日、お休みだったはず。だから昨日の夜は沢山シたわけだし……

「クーロのことです。カーネリアン家の養子となったことで、彼の立場も変わったでしょう? いったん、騎士見習いとしては休職させようかと。カーネリアン家での勉強もある今、騎士団との行き来はクーロの負担になってしまっているのではないかと」
「あー……そのことか」

ロイに思い切り叩かれただろう頭を摩っていたオウカは、尻尾を一振りすると、身体を起こした。オウカは、寝る時はパンツしか身に着けない半裸派である。朝から目にするには少々眩しい筋肉が目の前に。

「……見過ぎだ、バカ」
「あいたっ」

見事な筋肉だなぁと眺めていたら、デコピンをくらってしまった。
軽い衝撃に瞑っていた目を開けると、ボコッという音と頭を抱えて悶えるオウカの姿が。デジャブだな。

「オウカ副団長。私の前でタカトといちゃつかないでくださいますか?」
「いちゃ!? いちゃついてないっての!!」
「いちゃいちゃしていたじゃないですか」
「してねぇ!! それとお前はすぐに俺を叩くのやめろ!!」
「挑発されているのかと思いまして。そんなことより、早く服を着てください。私には貴方の裸を見る趣味はありませんから」

ロイ、その言い方だと俺はオウカの裸を見る趣味があるみたいに聞こえちゃうよ……
口喧嘩でロイに勝てるはずもなかったオウカは、ぶつぶつ文句を言いながらも服を着ていく。うーん、オウカも制服着ると、意外と着痩せするんだな。ダレスティアもロイも筋肉あるし、脱いだら凄いタイプだ。俺も筋トレやってみようかなぁ。

「正直、カーネリアン家は普通の貴族とは違うから、貴族としてのあれこれにはあまり厳しくはない。騎士の家系だからな。礼儀作法よりも剣術魔法を磨けって家訓だ」
「多少の礼儀作法はクーロなら問題はないと思いますが、貴族として知っておくべきことの勉強はあるのでは?」
「それはそうだが、俺はサファリファス家に関係のある家を覚えておけばいいって言われていたぞ。あの子犬なら、簡単なことだと思うが」
「それは貴方がサファリファス殿に仕えることが決まっていたからかと。クーロは嫡男でもなければ、実子でもありません。これから騎士学校に行くことも考えると、カーネリアン家としてもクーロを馬鹿にされないように学ばせようと考えているのではないでしょうか」

ちょっと難しい話でぼんやり聞くしかなかった俺の耳に、なんとも気になるワードが入ってきた。

「騎士学校ってなに?」

名前からして騎士の育成学校だろうけれど、ゲームの「竜の神子」でも聞いたことがない。

「騎士学校は、この国の騎士なら誰もが入学を義務付けられる騎士の学校です。修学期間は希望所属にもよりますが、一年から三年くらいは通うことになります。これは上級貴族でも庶民でも変わりません」
「え、でもクーは今、騎士見習いだよね? それはいいの?」

誰もが通わなければならない学校なら、クーロも通っていなきゃ騎士見習いって言えないんじゃない⁉

「それぞれの騎士団の団長には、引き入れたい有能な奴を騎士見習いに任命できる権限があるんだよ。まだ入学できない年齢だがもう才能がある奴とか、入学時期じゃないときに見つけた有能な奴とか、入学時期まで他の騎士団に粉かけられないようにするために、その騎士団の見習いってことにするんだ」
「竜の牙はこれまで騎士見習いに任命したことはあまりなかったので、騎士達の中ではクーロはちょっとした有名人ですよ。オウカ副団長が魔法の手ほどきをしていることも、一部で騒がれた理由の一つですが」
「へぇ~!」

クーロが知らない間に有名人になっていたらしい。あまり他の騎士団の人と関わることがなかったから分からなかったんだろうけど、全然知らなかった。ダレスティアがあっさり騎士見習いにしたって聞いてたからこれまで何とも思わなかったけど、騎士見習いってなんか凄い制度だったんだなぁ。ヘッドハンティングとか引き抜きみたいなものでしょ?

「騎士見習いは騎士学校を卒業後、任命された騎士団に所属することが決まっています。任命されるときにそれらの説明を受けるのですが、何分当時は緊急事態とクーロがまだ精神的に幼かったこともあり、説明は保留されていました。上へも彼の騎士見習い任命は保護対象の特別処置にしていましたが、そろそろ騎士学校の入学時期も近づいていますので、こちらについてもクーロの意思をはっきりさせておくべきだと思いまして」

クーロは以前、竜騎士になりたいと言っていた。でも、本当に騎士になることを望んでいるのなら、さらに今後のことを考えないといけないんだろう。

「クーロには、魔法の才能もあります。竜騎士だけがその才能を生かす全てではないということも、説明しないといけませんから」

そう語るロイの目は、かつての俺の恩師である進路指導の先生を思い出させた。両親を亡くしている俺の将来を真剣に考えてくれていたあの先生には、最後までブラックな会社に入ってしまったことは言えなかったけれど、その熱意は本当だったんだよな。

「最終的にどういう人生にするのか決めるのはアイツ次第だ。けれど、選択肢は多い方がいいよな」
「そういうことです」

ロイとオウカは、俺よりも立派なクーロの保護者かもしれない。
クーロとずっと一緒にいたいと思ってしまった俺は、ちょっとだけ落ち込んだ。これもまた、息子離れできない親心ってやつ?
「お兄ちゃん、クーロ離れしなさい」って言う貴音が安易に想像できて、俺は毛布をひっかぶった。
クーロ離れ、できないかも。
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