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初恋は暴走しがちなものなのです!3
しおりを挟むとある街はずれの、やや廃れた街道で立派な幌馬車を囲う野盗がいた。
どれも荒くれ者という風情であり、馬車の周りには戦っただろう数人の騎士と十数人の野盗らしき人々が倒れている。
しかし、幌馬車を守るのはもっとも立派な鎧を付けた老騎士一人となってしまった。
それでも逃げ出さず、だが焦りのある顔で周囲を睨みつけている。
対する野盗たちは、にやにやと厭らしい笑みで馬車の中の貴婦人とメイドたちを値踏みしていた。
「お逃げ下さい、アルテナ様!」
「いいえ、わたくし一人で逃げても追いつかれるだけ……! それならば、残って戦った方がまだ生き残れる!」
「ですが、貴女に何かあっては旦那様やあのお方がどれほど悲しまれることか……」
「このような男たちに汚されるくらいなら切られて死んだほうましよ!」
馬車から出てきたのは、凛とした顔立ちの美人だ。プラチナピンクに菫色の瞳の柔らかそうな春色の美女。予想以上の上玉に、野盗たちは色めき立った。
孫娘ほどの年齢である若い姫君の悲壮な覚悟に、老騎士は目頭が熱くなる。
心なし、視界まで暗くなってきた気が――
ズドオオオン、と音を立てて野盗たちが蹴散らされた。
空から落ちてきたのは大木。
脂下がっていた野盗どもはボーリングピンでいうとストライクされた。
フルスコアフィーバーが出るんじゃないかというくらい、運悪く落ちてきてスピンして転がった大木に吹き飛ばされたり潰されたりした。
一方、大きな幌馬車は馬が驚いて失神した以外には特に被害はなかった。
「……神が降臨成された……」
思わず天を仰ぎ、ありえない僥倖に出会ったように呆ける老騎士。
その奇跡は、恋の暴走する少女が起こした人災一歩手前のラブパワー(物理)によって起こされたものだとは知るはずもない。
野盗たちをストライクした大木は、勢い余って近くの森にまで転がっていた。
「あの木は、持ち帰れるかしら?」
「それは良いですな! 何かに加工すれば持ち歩けるでしょう」
「では。ティトス殿下とお揃いでお守りを作りましょう」
九死に一生を得て、アルテナは笑った。
アルテナ・クレア・バルトロメロイ――バルトロメロイ公国第一王女のちのハルステッド王国で賢妃と称されて、今は王太子であるティトスの最愛の女性となる。
オシドリ夫婦として後世に受け継がれる、国を代表する理想の夫婦と呼ばれることとなる。
その後、回転スピンして少し離れた森にまで吹っ飛んでいた木は回収された。
その際、大木に下敷きになっていた男から、とある貴族の関与が浮上して大捕物になる。
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