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「婚姻届けなら、二か月くらい前にお爺様が出してたわよ。サフ、貴方まさか知らないの?」


 貴方以外に、私の面倒なんて見れる人なんていないわ、とエリーが困惑したように言う。
 ジ、ジジイ! おま、ジジイ! あのジジイ!
 あれか、まさかあの刻んで誤魔化す野菜嫌い克服メニューを根に持っていやがったのか!?
 俺の人生の見せ場を! つーか、一世一代の告白台無しじゃねーか!
 うなだれる俺の手から、イエローダイヤの指輪をとるエリー。それを細い指にはめると、悪戯っぽく笑った。
 ……本当は、ドレスもイエローダイヤにしたかったけど予算が足りなかった。俺の目に合わせると、すごく高いんだよ。
 いつか、本当のイエローダイヤを渡したい。

「似合ってる?」

「凄く似合ってる。当たり前、君のために用意したんだから――じゃないと、渡せないよ」

 まあ、エリーが喜んでくれればなんでもいいんだけど。
 あー……やべー。凄い幸せ。
 俺の婚約者が可愛い。メッチャ自慢したい。でも誰にも見せたくないし、独り占めしたい。





 そして晴れて両思いになった翌日、おせっかいジジイにピーマンの肉詰めをたっぷり用意した。刻んでやらねー。もうそのまま食べろ。ヤダヤダいうな。ロバートさんやっちゃってください。

 だが、厄介なことが一つ。

 あの電波ヒロインはやらかした。第一王子と第二王子、そしてその側近らを誑し込んでいた。マジかよ、あいつどう見てもヤベーのに……と思ったら、思春期の青少年はただでやらせてくれる若い女のカラダに陥落したそうだ。控えめに言って糞だ。
 顔はそこそこ可愛かったけど、地雷がすげー女だったじゃん。嘘だろ、兄上がた。
 隠す気がなかったのか公然の秘密だった。秘密の爛れた関係に気づいた彼らの婚約者たちは、そりゃあ容赦なく旦那予定だった馬鹿たちを吊し上げた。
 すると、泣き喚いた電波ちゃんが特大の爆弾を投げた。
 あの電波ちゃんの腹には、誰の胤か分からないのがいるらしい。
 王の影に筒抜けの失態により、兄上たちは廃嫡とまでいかないものの、王位継承権を取り上げられ、蟄居を命じられた。
 側近たちは軒並み廃嫡、もしくは勘当、辺境に飛ばされる、修道院入りなど様々だった。
 そして、それに伴い王妃たちは失墜。影で協力していた側妃たちも巻き込まれまくり、そりゃ大騒ぎになった。
 王子たちの同腹の弟妹達もその余波を受け、急遽他国へ嫁ぐか臣籍降嫁するか、修道院入りか選ぶという運びになった。


 その結果、俺が父上――国王陛下に呼び出された。


「仕方あるまい、もう私の嫡子はお前しかおらん」

「私は見ての通りです。この国では異端ですよ。反発が酷くなるでしょう」

「だから子を作れ。お前がキルシュタイン令嬢一筋なのはよーっく聞いておるわ。
 私が元気なうちに、できるだけ多くこさえろ。結婚した直後で第二夫人は不味かろう。私とてキルシュタイン翁を敵に回したくはない。陞爵の話がでてるんだ。伯爵でも、実質侯爵……いや、公爵に匹敵する。
 どうしてもできないなら時期を待って愛妾でもいいから、スペアを多めに作れ」

「お断りです……妃同士、女同士の陰惨な争いは陛下もご存知でしょう」

「むぅ……」

「私の母は国母の器ではありません。恥です恥。あれが国の顔になるなんて」

「だから、そちの子を私の養子として引き取ることを考えておる」

「……エリアーデに相談をさせてください。キルシュタイン翁の説得はそちらで」

「頼むぞ」

 父上がガチで頼み込んできた。大臣や宰相も説得済み。エリアーデは俺の頼みでしか多分頷かないって。
 あの大人しかったエリアーデをあそこまで奔放に育てたのは俺だ。責任はとる。あとエリーは可愛い。健やかに育てた可愛い婚約者を他の奴にやりたくない。そいつを去勢したくなる。竿も玉も根こそぎ潰したくなる。
 まさか、一番昼行燈やっていた俺だけが残るとか……俺の遊び人ムーブの努力は一体……?
 つーか、父上も影もこんなんなる前に止めろよ。


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