8 / 11
8
しおりを挟むそんで迎えた卒業式。
プロムではどこもかしこもそわそわとした空気が流れている。卒業生も在校生もこの機会に勝負をかけている人は多い。
着飾った若い紳士淑女たちが、こっそり目配せをし合ったり、声をかけてどこかに消えていく。
そして、そんな中でルッツはミアナちゃんにプロポーズしていた。
「一生肉に困らないご飯を約束します! がんばって作ります、サフィシギル殿下が!」
「え……っ、サフィシギル殿下のハンバーグがまだ食べれるの……?」
「ミアナ、俺はサフ殿下付きです。エリアーデ様の偏食が治らない限り、サフ殿下はずっと台所に立ちます!」
「嬉しい! あのターキーがまた食べれるのね!」
ねえ、なんでそんなに食い気溢れるプロポーズなの? 感動は? ねえ、俺にまでなんか余計なモン飛び火していない?
なんで指輪とか家に代々に伝わるアクセサリーじゃなくって、お皿の上にミートボールがクロカンブッシュみたいに聳え立ってるわけ? そしてそれを差し出してるの!? ロマンスじゃなくて肉汁が溢れている。
あんなもんだれが作ったんだよ。俺だよ、俺! なんで作っちゃったんだよ!?
周り見ろよ! 目ぇひん剥いているのがいるぞ! だよな!? 普通あんなもんもってプロポーズしねーよな!?
エリーは拍手しているけど、感動するところじゃないから。
「あー……っと、エリー。ちょっといいか?」
頷いたエリーをエスコートし、薔薇園のガゼボに向かう。どこのバルコニーも埋まっていた。今日はプロポーズに最適だしな。卒業パーティで盛り上がってるし。
あの電波ちゃんも勝負してんじゃない?
咳払いして、エリーに向き直る。
今日のエリーはとても綺麗だ。艶やかな亜麻色の髪を結い上げて生花と簪で彩られている。薄化粧を施された顔は、ちょっと大人びた色のルージュがエリーの愛らしさを引き立てた。俺の目をイメージした輝く黄色のドレス。華奢なエリーに似合うように正統派のプリンセスライン。デコルテラインを広めにとっているが、生地自体がしっかりしているから安っぽくない。むしろ真珠の粉をはたいた肌が輝き、初々しい感じがいい。繊細な金糸の刺繍と、ダイヤを散りばめてある。上品で緻密、そして一点物の黒いレースは隣国の王室御用達。ドレープがしっかりあるため、翻るたびに美しいシルエットが浮かぶ。淡水真珠とイエロートパーズをあしらった髪飾りに、揃いのピアスとネックレス。この日のために誂て、キルシュタイン翁のとこでバイトしまくった。
ライトアップされた庭を抜けてガゼボの中までエスコートし、エリーの前に片膝をついた。
ここまでくれば、パーティの喧騒は届かない。
「エリー、君を愛している。人生を歩むなら、君と共に。月並みだけど、私と結婚してくれませんか」
「え、本気で言ってる?」
え、俺振られた……?
メッチャ砂になりそう。崩れ落ちそう。風になって消えたい。
162
お気に入りに追加
2,669
あなたにおすすめの小説
私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!
杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。
彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。
さあ、私どうしよう?
とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。
小説家になろう、カクヨムにも投稿中。
悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです
朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。
この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。
そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。
せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。
どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。
悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。
ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。
なろうにも同時投稿
悪役令嬢に転生したので、推しキャラの婚約者の立場を思う存分楽しみます
下菊みこと
恋愛
タイトルまんま。
悪役令嬢に転生した女の子が推しキャラに猛烈にアタックするけど聖女候補であるヒロインが出てきて余計なことをしてくれるお話。
悪役令嬢は諦めも早かった。
ちらっとヒロインへのざまぁがありますが、そんなにそこに触れない。
ご都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然婚約者にケモ耳が生えたと知った伯爵令嬢は、思いっきりもふもふを愛でることにいたしました
奏音 美都
恋愛
突然、婚約者であるオフデリック侯爵子息であるフレッドに避けられるようになった、トワーソン伯爵令嬢であるシャルロット。
傷心の中、知ったのはフレッドにもふもふが生えたという事実だった。
この異世界転生の結末は
冬野月子
恋愛
五歳の時に乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したと気付いたアンジェリーヌ。
一体、自分に待ち受けているのはどんな結末なのだろう?
※「小説家になろう」にも投稿しています。
強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します
天宮有
恋愛
私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。
その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。
シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。
その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。
それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。
私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。
醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。
髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は…
悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。
そしてこの髪の奥のお顔は…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドで世界を変えますよ?
**********************
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生侍女シリーズ第二弾です。
短編全4話で、投稿予約済みです。
よろしくお願いします。
コルセットがきつすぎて食べられずにいたら婚約破棄されました
おこめ
恋愛
親が決めた婚約者に婚約を破棄して欲しいと言われたクリス。
理由は『食べなくなった』から。
そんな理由で納得出来るかーーー!とキレつつも婚約破棄自体は嬉しい。
しかしいつものように平民街の食堂で食事をしているとそこに何故か元婚約者が!?
しかも何故かクリスを口説いてくる!?
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる