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 そんで迎えた卒業式。
 プロムではどこもかしこもそわそわとした空気が流れている。卒業生も在校生もこの機会に勝負をかけている人は多い。
 着飾った若い紳士淑女たちが、こっそり目配せをし合ったり、声をかけてどこかに消えていく。
 そして、そんな中でルッツはミアナちゃんにプロポーズしていた。

「一生肉に困らないご飯を約束します! がんばって作ります、サフィシギル殿下が!」

「え……っ、サフィシギル殿下のハンバーグがまだ食べれるの……?」

「ミアナ、俺はサフ殿下付きです。エリアーデ様の偏食が治らない限り、サフ殿下はずっと台所に立ちます!」

「嬉しい! あのターキーがまた食べれるのね!」

 ねえ、なんでそんなに食い気溢れるプロポーズなの? 感動は? ねえ、俺にまでなんか余計なモン飛び火していない?
 なんで指輪とか家に代々に伝わるアクセサリーじゃなくって、お皿の上にミートボールがクロカンブッシュみたいに聳え立ってるわけ? そしてそれを差し出してるの!? ロマンスじゃなくて肉汁が溢れている。
 あんなもんだれが作ったんだよ。俺だよ、俺! なんで作っちゃったんだよ!?
 周り見ろよ! 目ぇひん剥いているのがいるぞ! だよな!? 普通あんなもんもってプロポーズしねーよな!?
 エリーは拍手しているけど、感動するところじゃないから。

「あー……っと、エリー。ちょっといいか?」

 頷いたエリーをエスコートし、薔薇園のガゼボに向かう。どこのバルコニーも埋まっていた。今日はプロポーズに最適だしな。卒業パーティで盛り上がってるし。
 あの電波ちゃんも勝負してんじゃない?
 咳払いして、エリーに向き直る。
 今日のエリーはとても綺麗だ。艶やかな亜麻色の髪を結い上げて生花と簪で彩られている。薄化粧を施された顔は、ちょっと大人びた色のルージュがエリーの愛らしさを引き立てた。俺の目をイメージした輝く黄色のドレス。華奢なエリーに似合うように正統派のプリンセスライン。デコルテラインを広めにとっているが、生地自体がしっかりしているから安っぽくない。むしろ真珠の粉をはたいた肌が輝き、初々しい感じがいい。繊細な金糸の刺繍と、ダイヤを散りばめてある。上品で緻密、そして一点物の黒いレースは隣国の王室御用達。ドレープがしっかりあるため、翻るたびに美しいシルエットが浮かぶ。淡水真珠とイエロートパーズをあしらった髪飾りに、揃いのピアスとネックレス。この日のために誂て、キルシュタイン翁のとこでバイトしまくった。
 ライトアップされた庭を抜けてガゼボの中までエスコートし、エリーの前に片膝をついた。
 ここまでくれば、パーティの喧騒は届かない。

「エリー、君を愛している。人生を歩むなら、君と共に。月並みだけど、私と結婚してくれませんか」

「え、本気で言ってる?」

 え、俺振られた……?
 メッチャ砂になりそう。崩れ落ちそう。風になって消えたい。
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