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しおりを挟むしかしまあ、俺も王子だしその辺にふらふらされちゃならんと婚約者がついた。
キルシュタイン伯爵令嬢エリアーデ。三女らしい。初めて見たときは長い前髪で顔を隠し、しめ縄のような亜麻色のお下げ。白い顔にそばかすの散った素朴な感じの子だった。お下がりなのか、あまりサイズの合っていないぶかぶかの青いドレス。これ4年前くらいに流行った奴じゃん。つーか、次女ちゃんがどっかのお茶会で着ていた気がする。
彼女はこうとも呼ばれていた。キルシュタインの出涸らし令嬢エリアーデ。
この子は間違いなくキルシュタイン夫妻の娘らしいが、この引っ込み思案の性格から、華やかな二人の姉と比べられて肩身が狭いらしい。
ある日、交流という名のプライベートなお茶会の時、庭でごろごろしていると彼女が独り言のように語った。
傍から見ればダメ王子と出涸らし令嬢。割れ鍋に綴じ蓋ってやつなんだろう。
俺はキルシュタイン家に婿入りする。伯爵は俺を王家のつなぎとして飼い殺しして、実権は自分で握るつもりなんだろう。
「エリーは可愛いよ。俺はアンタの優しい暖かい髪色も、静かな声も好きだ」
姦しい女なんざ後宮で嫌って程見ている。陰惨な争いとヒステリックな声も耳にこびりつくほど聞いた。
エリアーデの慎ましい物静かな性格も、柔らかな色合いを持つ髪や瞳も好きだった。よくある色だとエリーは自重するが、俺みたいに異端な奴からすれば羨ましいくらいだ。
そして何よりエリーは頭がいい。俺よりちっちゃいのに、リケジョな婚約者は画期的な魔道具を色々作っている。
俺が褒めるとエリーの分厚い前髪の奥の目が、きょとんとしばたいてるのが判ってくつくつ笑う。
自慢ばかりの甲高く囀る馬鹿女よりよっぽど上等だ。
伯爵は下らないと一蹴しているし、そんな暇があるなら刺繍の一つでもしろという。
これ、絶対売ったら利益出ると思うんだけどな。あのオッサン、目が節穴すぎだろう。
「ルッツ~、お前んとこのかーちゃん、もとは商家だよな? これ見せて売り込んでみろよっていってみ」
作ったものはドライヤーとヘアアイロン。自分の髪をびっちゃびちゃに濡らした後に乾かし、くるんくるんの縦ロールにして実践し見せたらルッツのかーちゃんは飛びついた。
女っつーもんは身綺麗にするのに命がけだろう?
そんなん社交界のデビュタントからマダム、後宮でも腐るほど見てる。
ちなみにエリーはその後、魔道具のミキサーやアイロン、コンロなどを発明した。特許をとらせ、ルッツのとこで利益の7~25%を貰うってことで専属で売りに出した。
それはもう爆発的に売れて、そりゃもうウハウハだった。
あとでキルシュタインのおっさんが喚いていたけどシラネー。
キルシュタインのおっさんは金の卵を蔑ろにしたと、キルシュタイン翁ことエリーのじーさんにどやされて追い出された。蟄居だよ、四十いったとこなのに。おっさん弱かったんだな。へー、婿養子だったんだ。
ご隠居が出張ってきて、今まで日陰者扱いだったエリーの待遇は改善された。
ドレスや靴やアクセサリーはお下がりじゃなくなった。まあ、魔道具好きなエリーは社交に興味はないから、その辺のフォローは俺がやってた。後宮の弱者の処世術を舐めないで欲しい。
俺はいろんな伝手を作りながら、エリーが魔道具作りに没頭できるようにした。
伯爵邸の敷地内に、エリーの為の工房がもうけられた。手がけた商品の流通にはちゃんとルッツのとこの商会を通すことになり、俺とじーさんで金に無頓着なエリーの資産を管理している。
エリーは本当は王子妃なんて息苦しいものではなく、研究者や職人になりたかったんだろう。
大手を振って魔道具作りをできるようになったら、社交をほったらかして熱中した。まあ、そのための婚約者だけど。エリーは熱中すると睡眠も食事もおろそかになる。それをサポートするのが俺。
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