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思う当たる節

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 そんな話題があってから数日後。シンとビャクヤが呼び出された先はドーベルマン伯爵邸。つまりは宰相閣下のご自宅である。
 宰相本人は今日も登城して、おサボり遊ばす愉快な陛下をシバき倒しながら仕事をさせることに忙しい。
 やればできる王様なのに、隙あらばおふざけに全力投球する悪癖があるので、お目付け役のチェスターは大変である。
 夫から話を託された宰相夫人のミリアは、ちょっと困り顔だ。
 
「うーん、問題は場所よね。好景気だから仕事はたくさんあるけど……。思った以上に亡命希望者が多くてね。どんどん合流していってかなりの数なの。小さい集落一つ分くらい余裕でありそうなのよね」

「エルビアで受け入れは難しいんですか?」

 シンの質問に、ミリアは首を横に振る。

「もちろん、用意はあったのよ。でも、実際に住居へ来たら獣人にはちょっとうるさすぎて、辛いようなの。今まで静かな生活をしていたから、都会の喧騒が馴染まないみたいで」

 獣人たちは人間より五感が鋭い者が多い。
 田舎暮らしでは遭遇しないようなたくさんの音や気配に、なかなか適応できていないようだ。
 自然と都会の音は種類が違うのも、ストレスなのだろう。

「そんな我儘言うとる場合ちゃうやろ……。衣食住の場所があるだけありがたく思わんかい」

 同じ獣人としてビャクヤは頭を抱えている。同族の我儘に居た堪れないと顔に書いてある。
 ビャクヤも聴覚と嗅覚が鋭い。最初は四苦八苦したが、気合いと根性で慣れたのだ。

「でも、急にどこかの領主に獣人を受け入れて欲しいなんて頼むのは難しいのよ。バラバラになりたくないって希望を通すと、かなりまとまった数を一度に受け入れることになるわ。
 人間不信の獣人も多いから、こちらの事情を汲んでくれるし、変な勘繰りもせず見返りも要求してこないとなると、ハードルが上がるのよね」

 ミリアが唸る。亡命してきた獣人たちは、ちゃんとした生活を希望している。働く意欲もある。きちんと就労を促し、自活できるように生活基盤を与えたいのだ。
 下手な人に獣人たちを渡せばいいように利用しようとするかもしれないし、そこまで獣人たちを庇護する理由も調べる可能性もあった。

「田舎で土地が余っている、こっちの事情を知っていて欲張らない貴族はいないかしら?」

 ミリアはため息をつく。

「亡命してきた獣人を受け入れてくれそうな、そんな都合の良い領主なんて……」

「せやな。異国出身の上に別種族やで? 世話好きでおおらかで……」

 シンとビャクヤの声が尻すぼみになっていく。二人の頭に、同じ人物が浮かんでいることは明らかだった。
 いつも朗らかで穏やかで善良が服を着て歩いているような人物。タニキ村の領主パウエルだ。
 ティルレインという前例があるし、シンが神子だと知っても態度を変えてない――よく分かっていないというのもあるが、利用しようとしない人だ。
 きっと、あの人なら困っている獣人たちの話をすれば受け入れてくれる。
 ブラッドウルフたちの襲撃の爪痕が残る村を少しでも早く戻そうと、今日も奮闘しているだろう。
 顔を見合わせる二人にミリアは首を傾げた。
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