上 下
153 / 157
連載

ドタバタランチタイム

しおりを挟む



 ストレスフルな地獄の時間がやっと終わったと思ったら、原因の人物が幸せそうにランチを満喫している。
シンプルにムカつくだろう。
 
「しかも、今後もこのバカミーユのことを頼まれてもうた……嫌やぁ! 俺はもうコイツの勉強を見たくない!」

「なっ! 某を見捨てるつもりでござるかああ!」

 ビャクヤからの突き放し宣言に、顔色を青くしたカミーユが縋る。急に抱き着いてきたものだから、口どころか顔の下半分に飛びまくったトマトソースがビャクヤの制服に付く。

「ぎゃー! 服にソースがああああ!」

 ビャクヤの悲鳴がこだまする。
 まだ温かい気候だったので、黒い上着は着ておらず、上半身は白いシャツと明るいベージュのベストだった。

「よりによってトマトソース! おんどりゃー! なんてことしてくれやがんじゃー!」

 ビャクヤの悲鳴で、自分のやらかしに気づいたカミーユは慌てて離れるがもう遅い。
 トマトソースによって作られた前衛的な顔拓アートは、ニット素材のベストにしっかり残っている。
 ちなみに、新調したばかりの制服だ。ビャクヤの怒りは察した余るものがある。
 最高潮に切れ散らかしたビャクヤは、狐耳や尻尾の毛を逆立てながら怒鳴り散らす。
 周囲の生徒たちは最初何事かと視線をやるが、ビャクヤのベストについたトマトソースの見て察した。

「ビャクヤ、その辺にしたほうがいいですよ?」

 ずっと静かにチキンピラフを食べていたレニはが、ビャクヤの怒声の途切れに言葉を挟む。

「なんでや、レニちゃん!? 悪いのはビャクヤやろ!」

「怒鳴るより、ビャクヤにそのベストを綺麗になるまで洗わせるのが先じゃないですか?」

 その言葉にビャクヤは気付いた。刻一刻とトマトソースは乾きながらもベストにしみ込んでいるし、どんどん汚れは落ちにくくなっている。
 ついでに言うとビャクヤはまだ昼食を済ませていない。このままだと、午後にすきっ腹を抱えて授業を受けることになる。

「とりあえず、ベストだけでも脱いだほうがいいと思いますよ? シャツまで届くと着替えを取りに行かないといけなくなります」

「そーやった! 半裸で授業は嫌や!」

 レニの助言に従い、ビャクヤはベストを脱ぐ。
 その間、ずっとカミーユは石の床で正座をしている。貝のように口を閉じて、糾弾や突き上げから少しでも避けようと大人しくしている。

「はい、カミーユ。大事に洗いましょうね?」

 レニ・パイセンの笑みが怖い。美少女スマイルが失敗を許さない。
 ベストを渡されたカミーユは半泣きになってこくこくと素早く縦に首を振る。壊れた赤べこのようであった――顔色は真っ青だが。
 あまり賢くないカミーユだが、彼なりに理解していた。あの笑顔のレニはすごく怒っている。口答えしたらもっと怖いと知っていた。

「つ、謹んで拝命いたします」

 言葉のチョイスが完全に上司どころか、主君とかに対する丁重さだ。
 一応その位置になるシンですら、こんなに改まった態度をされたことがない。
 恭しく汚れたベストを受け取ったカミーユは、ダッシュで洗い場へと向かった。

「ビャクヤ、注文してきたら?」

 ただでさえ後れを取っているのだから、急がないとランチタイムがなくなってしまう。昼休みは有限だ。

「そーするわ」

 シンの言葉にうなずき、ビャクヤも足早に注文しに向かう。人気のランチセットは売り切れかもしれないが、定番メニューなら残っているはずだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。