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噂の聖女様

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「つまりこのままだとティル殿下と同類に……?」

「なりません! それはないですから!」

 アンジェリカが大慌てで、声を大にして否定した。
 ただでさえ野手のかからなすぎる神子様が、これ以上にしっかりしてしまったら護衛兼お付きとしては仕事がなくなてしまう。

「シ、シン君! 極端です! たまには大人に甘えてもいいってことだと思いますよ! ただでさえシン君は自立しているので、甘やかせないとミリア様が拗ねていましたから!」

 レニはすかさずフォローする。
 さすが元祖シン付きの聖騎士たち。息が合っている。

「王侯貴族や著名な人物を保護するなら角が立つかもしれませんが、職人――しかも食材づくりなら問題にならないと思いますよ。強力な兵器や魔法でもないですし」

 ルクスも加勢すると、シンは納得したようだ。
 ずっと黙っているカミーユは、口いっぱいにローストビーフサンドを詰め込んでふがふがしていた。
 珍しく物欲を見せたシンに、周囲は張り切っている。

(いいのかなぁ~。でも、僕一人じゃどうしようもなんないことだし)

 これで遠慮して、変な方向にかっ飛ばされたほうが怖い。
 クッキーを一枚手に取り、ごまかすようにかみ砕いた。

「そういえば、ティル殿下の解呪は進んでいるんですか?」

「進んでいるぞ! 多分!」

 えっ編と胸を張るティルレイン。多分でいいのだろうかと思ったが、ルクスも頷いているのでちゃんと順調なのだろう。
 アンジェリカが補足する。

「解呪は聖女様がやってくださっているそうです」

「聖女様だけが使えるような魔法や特殊能力?」

「私は見たことがないので、どんな風にというのは不明なのですが……」

 自然と解呪されている当事者――ティルレインに視線が集中する。
 スコーンにジャムを付けていたティルレインは、一口頬張った後に視線に気づく。
 解呪のことを思い出したのか、顔がみるみる曇っていった。

「……聖女様の解呪方法は豪快でとても痛いんだぞぅ」

「痛いんですか?」

「渾身の平手打ちが飛んでくる。手に漲らせた聖女パワーで呪いを粉砕する感じだな」

 思い出して痛むのか、頬をさするティルレイン。
 まさかの物理で殴って解呪。
 シンの中の聖女像が、楚々とした華奢な姿からプロレスラーに変貌した。

「聖女パワーで痛みの治りも速いけど、ビンタされた瞬間は目が飛び出るんじゃないかってくらいに痛い。耳の奥がきーんとして脳裏に星が散らばるんだぞぅ」

「衝撃で脳震盪一歩手前じゃないですか」

 絶対呪われないように気を付けようと思うシンである。
 もしもシンがティルレインと同じように精神汚染されたら、同じく聖女が担当になる可能性が高い。
 公式神子の立場は王族に準ずると聞くし、今のティンパイン王国と神殿はシンを巡って不穏なところがある。

「今日もこのお茶会の後、仕上げの解呪があるんだぞぅ」

「そうですよ、ティルレイン殿下。前回は途中で泣いて逃げたので、今回こそきっちりやりましょうね」

 項垂れているティルレインの後ろに、シスターのような衣装をまとった女性が立っていた。
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