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強かな淑女たち

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 シンたちが草むしりをしている頃、王宮の一角で一悶着が起こっていた。
 人の出入りを特に制限されていることをいいことに、国王と第三王子が神子用の離宮で騒いでいる。

「シンを王宮に招いて、ウェルカムパーティーをしたいんだぞぅうう!」

「賛成―! さーんーせーいー! 私もシン君を接待したい~! 料理頑張っちゃう!

 二人はシンを大々的にもてなしたいと息巻いているが、それを許さないのがチェスター。
 シンは大仰な対応を嫌うと、経験上分かっているので頑として認めない。
 もし、シンがその場にいたら全力でチェスターを応援していただろう。

「却下! シン君が嫌がるでしょう! ホストがゲストを困らせてどうするんですか!」

「だから、警備の厳しいこっちの離宮でやればいいんだよ! シン君はまだマリアベルやフェルディナンドやトラディスを正式に紹介していないだろう? おチビたちも呼んでで、一気に交流を――」

「せんでいいです。ロイヤルファミリー大集合なんてしたら、それこそ嗅ぎつけられます。他国もそうですが、神殿も虎視眈々と狙っているのですから」

 ぴしゃりと案を却下され、頬を膨らませてブーイングをするグラディウス。
 いい年した中年(職業:国王)がプリプリ拗ねても、見ているほうの苛立ちが募るだけである。
 この二人の馬鹿な提案さえなければ、今日にもシンは登城していたはずだった。
 大騒ぎをしようとする馬鹿が二人もいるせいで待ったがかかっている状態である。
 ロイヤル馬鹿親子は言いくるめられるものかと騒いでいるが、それにガンガン言い返すチェスター。
 この親子は実に諦めが悪い――それでも、詰めが甘い。チェスターの目的は彼らを説得することではない。時間稼ぎだ。
 彼らの頭の上がらない彼女たちがやってくるまで引き留め、気を逸らす役割だ。
 チェスターに食って掛かり、二人でなら押し通せると思っている馬鹿の背後には麗しき鬼がしずしずと優雅な足取りで近づいてきている。
 その手には刺の付いた真っ黒な金棒の代わりに、今年のトレンドの羽で作られた扇子が握られている。その扇子をメイドに渡し、代わりに大ぶりのハリセンを手に取った。
 残りの距離、後十メートル。
 八……五……三……一、ゼロ。

「まあ、グラディウス陛下。お忙しいドーベルマン宰相を煩わせるものではなくてよ?」

「キャンキャンと頭の悪そうな声が聞こえたと思ったら、やはり貴方でしたのね。ティルレイン殿下?」

 グラディウスの最愛の妻にして、最恐の妻こと王妃マリアベル。
 ティルレインの幼馴染にして、飼い主ことホワイトテリア公爵令嬢ヴィクトリア。
 やんごとなき馬鹿に特攻を持った貴婦人が二人、微笑んでいる。
 真っ青になるグラディウスと、すでに目から涙が溢れだしているティルレイン。
 間もなく、離宮から身も世もない悲鳴が二つ響いた。


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