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幼女女神からの警告

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 声が聞こえる。
 頼りない、小さな女の子の声だ。
 聞き覚えのある、懐かしい声音だが、時折、鼻をすする音と嗚咽まで混じっていた。

「……い…ん――さん!」

 靄がかるように途切れていた声が、唐突にはっきり聞こえた。

「大変です! シンさん! とっても大変ですー!!」

 視界に見えたのは泣き顔の幼女女神こと、主神フォルミアルカ。
 長い金髪を振り乱し、泣きはらした顔で真に迫ってきていた。

「一大事です! えまーじぇんしーです! 危険です! でんじゃーです!」

 涙が真にかからんばかりの勢いで、ぐいぐい来る。
 シンは寝起きのぼんやりとした思考で、フォルミアルカを見て、桃源郷のように花が咲き乱れる周囲に「ああ」と納得した。
 おそらく、ここはフォルミアルカの神域だ。

「お久しぶりです、フォルミアルカ様。で、何が危険なんですか?」

「シンさんが狙われています!」

「誰に?」

「エマです!」

「どこのどちら様ですか?」

「テイランの王妃です!」

「雪で国が潰れていなかったっけ?」

「彼女は神罰の災害に飲まれる前にいち早く逃げ出し、いろいろな場所を渡り歩いてついにティンパインに居つくことに成功してしまったんです!」

 シンの質問に、フォルミアルカは答えていく。
 記憶の中でテイランの王妃の姿を思い出そうとするが、派手目の人がいた――という記憶が朧げにあるだけだ。
 話題としてあったのは、蛇の魔物のオークションでティンパイン国王のグラディウスと競い合ったのが王妃らしい情報くらい。

(まあ、ろくでもないだろうな。テイラン出身の二人から聞いても、王侯貴族の腐り方は半端じゃないらしいし)

 異世界から平気にする目的で人をポンポン召喚して、他国に喧嘩を吹っかけて、利用価値のない人間は僅かな手切れ金を持たせてサヨナラだ。
 スパッと別れられればいいが、下手に内部情報を知ってから離れようとすれば始末する連中。
 いい話はほとんど聞かないので、シンの中でティンパイン王族は腐った人間に分類されている。何から何まで印象が悪すぎる。
 当然、お付き合いは勘弁したい。絶対にシンの楽しいスローライフは木っ端微塵にされるだろう。

 
「彼女は非常に危険で厄介なスキルを持っているんです! いくらシンさんでも危ないのですー!」

 わあわあと騒ぎながら、両手をばたつかせるフォルミアルカ。
 目の前でこれ以上にない大騒ぎして慌てている彼女を見ると、シンは却って冷静になっていった。
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