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連載
シンの行き先
しおりを挟むシンはヴィクトリアと最初から面識があったので、多少驚きはしたが成り行きに任せた。
あの面倒な馬鹿犬王子を引き取ってくれるなら、ありがたい。
「定期健診に連れていくそうですよ」
シンがそういうと、ルクスは気を取り直すように咳払いをした。
一応ティルレインは療養中である。政治に使えなさ過ぎて、田舎にぶん投げられている気もするが。
「そうですか。私と殿下の護衛は城へ向かいますが、シン君はどうしますか?」
「チェスター様のところ……ドーベルマン伯爵邸に向かおうかと思います」
「そうですか。ではミリア様へ先触れを出しておきましょう」
エルビアは王都だけあって広い。
門からの距離的に貴族街は遠い場所にある。外壁近くは平民や庶民向けの店が立ち並んで、中心部の王城に近くに貴族街が割り振られている。
日中は人も多いのでグラスゴーでかっ飛ばせない。Theド田舎な村とは違い、シンがたどり着くにはそれなりに時間がかかるのだ。
「そのあとお城へ向かいます。チェスター様にご挨拶したいですし、レニにも久々に会いたいですし」
正直、シンの心は庶民のままなので、立派な城には気後れしてしまう。
だがブラッドウルフの騒動の時、タニキ村へすぐさま援軍を送ってくれたし、その後の復旧に尽力してくれている。
これらはティンパインの上層部がいろいろと手をまわしてくれたことだ。そのお礼をしたほうがいいだろう。
「とりあえず、ブラッドウルフの騒動以降に途切れがちになっていた化粧水と美容液を渡しに行こうと思います。マジックバッグの中にちょっと在庫が――」
「すぐ行ってください。いますぐ」
普段にこやかなルクスが表情をそぎ落とし、早口でまくし立てた。
「え、でも検問……」
「以前、シン君の化粧水や美容液が盗難に遭って切れかけた時のミリア様やマリアベル様の狂乱ぶりは……それはもう凄まじいと噂に聞きました。ティンパインの平和のためにもお願いします」
ルクスでも噂でしか知らないが、それでも恐ろしい。他方へ被害をもたらしたアンチエイジングの鬼たち働きっぷりは知っている。
万が一にでも、それがまた起こったらたまらない。
「それでは、某とビャクヤが同行するでござるよ」
「グラスゴーとピコちゃんもおるし、バッチリ護衛するで」
カミーユとビャクヤが護衛を申し出た。ここは治安のよい王都だし、そうめったなことは起きないだろう。
若い見習い護衛は、年齢を鑑みれば優秀だ。それに二頭の魔馬の戦力があればもうオーバーキルである。襲撃者が消し炭なる予感しかしない。
(……それに、王都に入った時点で王家の影がシン君を陰ながら護衛しているはず)
それもあってルクスは旅の道中より、心が軽かった。
正直、第三王子で瑕疵ありのティルレインより、神々の寵愛めでたいティンパイン公式神子のシンのほうが立場は重要だ。
本来なら真っ先に登城させるべきだろうけれど、理由が理由ならチェスターやグラディウスも納得する。あの二人は、奥方にとことん弱い。
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