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ストーカーと宗教②

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 推しは意外と甘党です。
 なのでデニッシュ生地と山の木苺をふんだんに使ったベリーパイを作った。
 推しは学園に入学するため、独学で勉強している。
 田舎では思い通りに人脈を得られない。そして帝都にいっても螺髪妃たちに狙われる。
 ん? なんで螺髪かって? 私は推しに害ある人間はそれ相応の罰が必要だと思うのです!
 軽率に命ナイナイをしてしまうと、とても権力者である人物が死んでいけば推しの生活に余計な影響が出るかもしれない。
 なので、髪は女の命と云いますし、派手に飾り立てることを生きがいにしているよーなので全力でその楽しみを阻害することで手打ちとしました。
 アヤネコは優しいのです。毒殺とか暗殺なんてまどろっこしいことしない!
 欲望に溺れまくって権力闘争はほどほどに、悟りを開いてくださいとささやかに祈りを込めて観音様や菩薩様をリスペクトする螺髪にしたのです!
 髪の毛は一切ちょんぎってないので、彼女たちが欲望もそこそこに心を入れ替えれば元の髪型に戻るはずです。
 今のところ、誰一人戻ってない。
 えー……反省の色なさすぎ?
 まあ、お妃様たちは基本外見がとてもいい。自慢の美貌を抜群に阻害する最強悟りヘアー。噂によれば、螺髪になったお妃様たちは、一切御渡りがなくなりヒステリーが激しいとのこと。必死にこの呪いを解こうとしているんだって。今までドレスや宝石に湯水のように使っていたものを全て解呪にあてたものの全く解けず破産寸前の人もいるらしい。
 お陰で推しへの暗殺者が激減しました! わーい!
 その分、聖職者や呪いに詳しい呪術者にガンガンお金が使われているんだって。
 で、幅を利かせているらしい。

「――というわけで、我が主神マキナゼウスの素晴らしさを是非フェルゼン伯にもお伝えしたくお伺いしました」

 最近はぶりの良いアインズのおっさんに、聖書を持ったこてこて聖職者系の真ん丸なオッサンがやってきた。
 聖職者の癖に成金みたいなギラギラした貴金属身に着けてるんじゃねーよ。
 お布施目当て丸わかりだが、仮にも貴族のフェルゼン辺境伯。雑に突っ返すわけにもいかないらしく微妙な顔している。

「申し訳ございませんが、私はヌッコ様をお祀りさせていただいていますので」

「は? ヌッコ? あの潰れ白パンみたいな猫もどきのことですか?」

「――は?」

 その時、アインズのおっさんの顔がマジ切れカットインが入った。
 しかもその「は?」がめっちゃ怖い。いつもより4オクターブは低い。超低音。

「ヌッコ様は我が領地から災いを取り除いてくださる、それは素晴らしい神の御使い様です」

 違う。私がしばいているのは推しの為でオメーの為じゃねー。

「あの方が我らに祝福をくださってから魔物は減り、賊は消え、我が領土の食糧不足も塩不足も解消しました」

 祝福はした覚えはないが、推しをストーキングした記憶はある。

「我らが困窮していた時は見向きもせず、裕福になったら布施をせびりに来るとは……これが聖職者の、教会のやり方か……」

 そーいえば聞いたことある。
 宝くじで高額当選すると、どっからか嗅ぎ付けた宗教系の勧誘とか寄付金のお願いとかめっちゃ来るんだって。
 異世界でも同じなんだぁ。世知辛い。
 情けないおっさんだと思ってたけどおっさんはおっさんなりにちゃんと大人や貴族としてやっているようだ。
 アインズのおっさんの剣幕に負けて、メタボ聖職者は居心地悪そうに逃げていった。
 あわよくば教会を立ててもらって、寄付金を定期的に巻き上げようと思っていたらしい。とんだ馬糞野郎である。
 その馬糞野郎は庭でお茶会をしているロヴェルとアリエッタを見て止まった。
 そして、二人の整った容姿ににんまりと色欲蛙のような笑みを浮かべた。そして、芝生をサクッと一歩踏んで、道からそれて二人に近寄ろうとした。小姓のような少年が、その笑みに気づいて止めようとする。

「お、おやめくださいドート様! あの方たちは王族とお聞きします!」

「ふん、宮殿を追われた卑しい妾腹の子供なのだろう? 他の妃に嫌われ、貴族たちからも見放されてこんな田舎に追い出されたような皇子たちならワシにどうとでもできる」

 本当に排せつ物野郎である。聖職者じゃなくて性職者じゃねーか。
 小姓少年の様子からして、常習犯か?

「あの双子もなかなかだが、同腹の上の皇子のエリオット……? いや、エルストンだったか? 先ほどすれ違ったがあれも良かったな。ああいった気位の高そうなガキ程、その矜持をへし折った時の顔がイイものだ……」

 グフフ、とまさに三流悪者みたいなガマガエル性職者ドート。
 よし、めっちゃ呪う。
 一物がウミブドウやデラウェアみたいなぶつぶつになる呪いでもかけてやろうか。
 それともそんなにお金が好きなら、触れたものが全部黄金になってしまう呪いのほうがいいか? 餓死するやつ。
 それとも眠るたびに悪夢見るようにしてやろうかな。ゾンビが追っかけてくるとか、虫ケラになって人間に踏みつぶされる夢とか。

「ワシが栄えある教会の一つを構える場所として選んでやり、折角祝福を授けてやろうというのに、あのような邪教を信望するとは。ダルシアの貴族として情けないとは思わないのか……嘆かわしいことだ」

 嘆かわしいのはお前の見てくれと中身と根性だよ。全部腐れ落ちているじゃねーか。

「正義は我が神に、我が身許にあり! 悪しきものは粛清されるべきだろう?」

 うん、そーだね。

 お ま え が な 。

 お前の正義は間違っていると思うよ。
 やっと汚い権力争いから抜け出して、慎ましやかに生活している三人になんの咎があるんだろう。
 でも、そんなに正義を気取りたいなら協力してやろう。
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