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幼い推しと新天地③

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 その時エルストンは、王宮に残したはずの母の肖像画の前で呆然としていた。
 断腸の思いで手放し、二度と目にするとは思わなかったものが当たり前のように壁に掛けられていたのだ。
 この肖像画は結構な大きさだし、持っていくどころか外すのも難しかった。
 見ればその肖像画を柔らかく照らすシャンデリアは覚えのある形だし、絨毯やライティングデスク、ソファや椅子も覚えがある。
 エルストンたちには碌な護衛どころか、侍女や侍従すらつけられていなかった。
 最初詰められた馬車はおんぼろだったし、御者もガラが悪そうな男だった――意外と運転は丁寧だったし、最初の街についた頃には馬車ごと変わっていた。
 ついた当初のフェルゼン邸はお世辞にも綺麗ではなく、母が死んだ後に入れられた屋敷を思い出した。
 気が付けば白い壁も眩しい赤い屋根の瀟洒な屋敷に変わっていた。
 最初見たときは鬱蒼としていた雑草が目立つ庭も、いつの間にか盲目のアリエッタが歩くにも丁度いいふかふかの芝生に変わっている。
 アインズは白目をむきかけ、執事とともに卒倒しかけていたので、彼も思いもよらないことだったのだろう。
 前の屋敷といい、今回といい自分の周囲にはまるで妖精でもいるようだった。
 こっそりとメイドが教えてくれたが、その妖精は結構身丈が大きいらしい。色は白っぽく、素早いため全容は明らかになってはいない。
 アインズは『あれは神の使いの一種だと思います』と神妙な顔をして言っていた。
 
 エルストンは神など信じない。
 天使も神使も信じない。

 母を奪い喪わせた運命も、弟妹を苦しめる人間も、自分を見捨てた父も、命を狙う腹違いの兄姉たちにもうんざりだった。

 いるとしたってなんだ。

 あるなら利用してやる――そう自分に言い聞かせて踵を返す。

 ロヴェルやアリエッタは素直に素敵だと喜んでいるが、エルストンは訝しんでいた。

 その後、数年にわたりエルストンがじっくりゆっくり拗らせた守護天使への思いの始まりである。





 ちなみに、件の脳みそアッパラパーの推し全肯定『守護天使』は自分の献身を斜めにとらえられても「推しの孤高の心……うちゅくしい……尊みがクライマックス過ぎてヤバい……いっぱいちゅき」と大して気にしていない。
 とても幸せな生き物であった。
 通常運転である。
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