7 / 29
幼い推しと新天地③
しおりを挟むその時エルストンは、王宮に残したはずの母の肖像画の前で呆然としていた。
断腸の思いで手放し、二度と目にするとは思わなかったものが当たり前のように壁に掛けられていたのだ。
この肖像画は結構な大きさだし、持っていくどころか外すのも難しかった。
見ればその肖像画を柔らかく照らすシャンデリアは覚えのある形だし、絨毯やライティングデスク、ソファや椅子も覚えがある。
エルストンたちには碌な護衛どころか、侍女や侍従すらつけられていなかった。
最初詰められた馬車はおんぼろだったし、御者もガラが悪そうな男だった――意外と運転は丁寧だったし、最初の街についた頃には馬車ごと変わっていた。
ついた当初のフェルゼン邸はお世辞にも綺麗ではなく、母が死んだ後に入れられた屋敷を思い出した。
気が付けば白い壁も眩しい赤い屋根の瀟洒な屋敷に変わっていた。
最初見たときは鬱蒼としていた雑草が目立つ庭も、いつの間にか盲目のアリエッタが歩くにも丁度いいふかふかの芝生に変わっている。
アインズは白目をむきかけ、執事とともに卒倒しかけていたので、彼も思いもよらないことだったのだろう。
前の屋敷といい、今回といい自分の周囲にはまるで妖精でもいるようだった。
こっそりとメイドが教えてくれたが、その妖精は結構身丈が大きいらしい。色は白っぽく、素早いため全容は明らかになってはいない。
アインズは『あれは神の使いの一種だと思います』と神妙な顔をして言っていた。
エルストンは神など信じない。
天使も神使も信じない。
母を奪い喪わせた運命も、弟妹を苦しめる人間も、自分を見捨てた父も、命を狙う腹違いの兄姉たちにもうんざりだった。
いるとしたってなんだ。
あるなら利用してやる――そう自分に言い聞かせて踵を返す。
ロヴェルやアリエッタは素直に素敵だと喜んでいるが、エルストンは訝しんでいた。
その後、数年にわたりエルストンがじっくりゆっくり拗らせた守護天使への思いの始まりである。
ちなみに、件の脳みそアッパラパーの推し全肯定『守護天使』は自分の献身を斜めにとらえられても「推しの孤高の心……うちゅくしい……尊みがクライマックス過ぎてヤバい……いっぱいちゅき」と大して気にしていない。
とても幸せな生き物であった。
通常運転である。
60
お気に入りに追加
668
あなたにおすすめの小説
過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
ざまぁされるための努力とかしたくない
こうやさい
ファンタジー
ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。
けどなんか環境違いすぎるんだけど?
例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。
作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。
婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?
転生?いいえ。天声です!
Ryoha
ファンタジー
天野セイは気がつくと雲の上にいた。
あー、死んだのかな?
そう心の中で呟くと、ケイと名乗る少年のような何かが、セイの呟きを肯定するように死んだことを告げる。
ケイいわく、わたしは異世界に転生する事になり、同行者と一緒に旅をすることになるようだ。セイは「なんでも一つ願いを叶える」という報酬に期待をしながら転生する。
ケイが最後に残した
「向こうに行ったら身体はなくなっちゃうけど心配しないでね」
という言葉に不穏を感じながら……。
カクヨム様にて先行掲載しています。続きが気になる方はそちらもどうぞ。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる