【完結】転生した聖女の私が悪役令嬢で婚約破棄などありえないので復讐して差し上げます！

第四章 復讐の時間ですわ

41話 ばつが悪いですわ

沈黙が続く。私達も何が起こっているのか瞬時に判断して二人して離れる。クイナは今にも泣きそうだった。さっき泣いた時と同じように目の周りが赤くなり始めていた。


「なあ、クイナ――」


レイがクイナに歩み寄った。その一歩目ですぐに会話は遮断された。トリネにまた抱き寄せられたと思えば彼は大剣を構えて私を守ってくれていた。距離が近すぎてドキドキするのもあるが、何より怖いのは私たちを襲ってきた相手だった。


「邪魔すんなよ、いいとこだったのに。お前らの目論見なんてバレバレなんだよ。奇襲ってのはどうやるのか教えてやる」


衛兵たちが裏切った。いや、言うなら元の職業に戻った。こう言った方がきっと正しいんだろうな。この世界に来て初めての裏切りだった。驚きも隠せないが何より可哀想だったのはクイナとレイだろう。


レイはどうしていいのか分からずに立ち止まったが、直ぐにこちら側に走ってきた。それを追うように走ったクイナがレイに制止される。


「あのアジトで待ってろ。場所、忘れてないから」


レイはぶっきらぼうな言い方でクイナに伝えると、クイナは悩みはしたが渋々軽く頷いた。


「次は帰ってきて来てね」 


クイナはレイの大きな手を掴むとただそう言った。彼女とは思えないような可愛い声を出した。でもあのアジトの部屋を思い出せばこっちの方が本物の彼女なんじゃないかとも思う。


彼女の言葉に答えるかのようにレイは皮の手袋に手をはめる。ピチッとキツい音が響く。それを聞いて安心したクイナが盗賊たちを率いてどこかへ去っていってしまった。


「なんでこんなことするんだ」


衛兵にトリネが問いかける。問いかけというより彼は叫んでいる。


「上からの命令だ。それに私たちはここを守れば明日が保証される。家族も安心して暮らせるんだ」


「つまらないな」


「安心することがつまらない、と？」


衛兵は言葉が理解できないと首を傾げる。


「そうじゃない。そこまでしてレイを嫌な目に遭わせたいか？昔みたいに？覚えてんだろ？」


トリネが攻めていく。相手は知らぬ間に増えて私を抜けば二対数百になった。勝てる気は正直しない。この二人は強いと知ってはいるがこの国の兵力なんて知らない。あの王族ならあんまり軍なんて気にしなさそうだとは思うが。


「もうその時の話はよせ。俺が嫌になる」


レイは相手陣地の中心を目掛けて一直線に走っていった。トリネが追いかけようとするも私がいるからかできる限り近くにいる下級兵から倒していく。


あまりにもばつが悪い。私は何も出来ずに眺めることしか出来ない。悔しさを噛み殺して二人の戦いぶりを見つめた。