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第二章
第二話 オカ研合宿①
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「海野くん! 雨宮くん! 聞いて喜べ。この連休を使ってオカルト研究部は、合宿する事を許可されたのだ」
「流石は斎藤くん。この辰子島高等学校でオカルト研究部にとって、いかに現地取材が必要なのか顧問に説いてくれたんだな」
部室の扉をガラッと開けるや否や、元部長の斎藤先輩は、鼻息を荒くして飛び込んで来た。居眠りをしていた今井先輩は、まるで軍隊並の驚くべき瞬発力で起き上がり、敬礼する。
雨宮さんと僕は、今年出版されたノストラダムスの予言を元に、オカルト研究部として予知能力や、予言などを研究し、纏めようという話になっていた。オカルト研究部では、心霊だけでなく超能力や、不思議などの幅広い超常現象を研究している。
僕と雨宮さんは、斎藤先輩をポカンとした表情で見上げた。
「こんな時期に、合宿ですか? と言うか先輩お二人共、受験は大丈夫なんですか? 他の部活じゃあ、とっくに先輩方は引退していますよ」
辰子島高等学校の文化部は、十一月の文化祭が終われば、通常三年生は引退するのだが、この人達はまだ入り浸っている。
いやまぁ、別に遊びに来ちゃあいけない理由はないぜ。だけどようやく部長になれたっていうのに、目の上のタンコブだ。
「構わん! 俺は家業の豆腐屋を継ぐつもりだし、今井くんは、金さえあれば入れる私立大学に行くしな」
そーですか……。
この二人は卒業まで、いや卒業してもOBとして口出ししてきそうだぞ。
雨宮さんがオカルト研究部に来てくれてからなのかもしれないが、明らかに僕が新入社員の時より、先輩達がいきいきしているから分かりやすい。
「それで、斎藤先輩。合宿はどこでやるんだい。まさか学校で寝泊まりとかじゃないだろうね。結構夜は冷えるじゃないか」
「よくぞ聞いてくれた、雨宮くん! 本土に住む従兄妹から、俺に連絡が入ったんだ。どうやら、とんでもない心霊体験をしてしまったとな。今でも彼女は、金縛りにあったり、霊現象に悩まされているという。そこで俺に助けを求めてきたのだ。最強の守護霊を持つ……この俺に! 従兄妹を助けに行かねばならん」
斎藤先輩がぐっと拳を上げて、目を輝かせると天井に向けて突き上げる。ここからはお約束なのだが、太鼓持ちの今井先輩が『流石斎藤くん、頼れるな』と渾身の拍手をした。
僕と雨宮さんは呆れたような目で見たが、その件には間違いなく、雨宮さんの力が必要な気がするけどな。
「つまり、他県に泊まりで心霊研究って事で合ってますか、斎藤先輩」
「ふーん。旅行が出来るんならいいか。でも、あんまり田舎だったら嫌だねぇ。それじゃあ辰子島と変わらないし」
雨宮さんは、完全に旅行気分みたいで、行く気満々のようである。まぁ、辰子島って若者にとっちゃあ遊ぶ所なんてほとんどない。
喫茶店か家で友達と話すかボードゲームするか。テレビを見たり本読んだり、レコードを聴くしかないもんな。お祖母ちゃんっ子だった彼女の口調は、年寄り臭いものだが、中身は女の子だ。
クールに見えても、アイドル雑誌なんかを読んでたりするもんな。
「ふむ。まぁ田舎だけど、ここよりはましだと思うよ。俺の従兄妹の家は金持ちだし、貸別荘も経営や管理をしているんだ。どうやら冬場は空きがあるので、泊まらせてくれるらしいし」
今井先生はその言葉を聞くと、パチンと自分の膝を叩いて喜ぶ。
「夏になると、避暑地として賑わっているだろうが、冬場なら他の客もいなくて安心だな。つまり夜は……菓子などを購入して遊び放題だぞ!」
贅沢な貸別荘に泊まれると聞くと、僕も断然やる気が出てきたぞ。さらに親の監視がないなんて最高じゃあないか。僕は完全に、オカルト研究部の本来の目的を忘れて、遊びの計画がいくつも頭の中を過った。
「貸別荘! そりゃあいい。親に煩く言われずに、夜更かし出来るのはいいじやないですか。遊び道具なんかも揃えとかなきゃなぁ。もちろん雨宮さんも行くよね?」
「うん。海野先輩の夜更かし計画も気になるけど。憑かれてるっていう、斎藤先輩の従兄妹の様子も気になるからね」
雨宮さんはクールにそう言う。
彼女の霊感の強さは本物で、お祓いも出来るので高校生にして霊媒師という、最高に頼りになる後輩である。
今や、オカルト研究部のマドンナだ。来年の新入部員が楽しみだな。
❖❖❖
学校のお墨付きがあるという事ほど、心強いものはないだろう。合宿で他県に泊まる、と言っても、両親に怪しまれたり反対されないんだから。
とはいえ……、そこは未成年なので完全なる自由ではなく、顧問の先生がついて来る。
「うふふ。貴方達の研究熱心さには驚かされるわぁ。特に斎藤くん、今井くん。引退したのに、後輩の指導に熱心ねぇ。先生、感心しちゃうわ」
辰子島からフェリーで本土に渡ると、電車に乗り継ぎ、最寄り駅前で顧問の若林先生がレンタカーを借りてくれた。
若林先生は、黒縁眼鏡に少し乱れた髪を括って、どことなくオカルトマニアというか、変わった印象のある教師だ。若くて美人だし、授業も分かりやすいけど若林先生はなんというか、浮世離れしている。
頭は良いが、人より少しずれているような感じだろうか。だけど決して生徒を頭ごなしに否定しない。
助手席に座っていた斎藤先輩は、褒められた事に気を良くしている。この人は、本当に単純なんだよ。
「はい! もちろんです。小生にとって、オカルト研究部は青春そのものです。オカルト研究部が、辰子島高等学校の未来をになっていく事こそ、小生の誉れ!」
などと突然時代劇口調で言いながら、調子に乗り始める。僕は、後部座席の真ん中に座るような形で、左に拍手をする今井先輩、右に雨宮さんが乗っていて、結構狭い。
「斎藤くんのお陰で、雨宮さんも入部してくれたしね。本当にありがとう、雨宮さん」
「いえ、先生。私が入部を決めたのは海野先輩のお陰です。約束通りクリームソーダを奢って貰ったんで」
「あらまぁ、そうなの。雨宮くんと? 青春ね~~。先生も奢って貰おうかしら」
「えっ」
ふわふわとした若林先生と、雨宮さんの微妙に噛み合わない会話に、僕はなんとも気恥ずかしい気持ちになってしまった。雨宮さんは相変わらず近寄りがたい感じで、外を眺めている。
「とりあえず、大勢でお仕掛けても先方はご迷惑でしょうから、斎藤先輩と僕、雨宮さんで従兄妹の恵子さんに逢いましょう。先生と今井先輩は、荷物の方をよろしくお願いします」
「了解。直ぐに終わりそうなら夜は自由時間になるしね」
雨宮さんはそう言うと、指でリズムをとりながら外の景色にまた視線を戻す。僕がトランプや人生ゲームも持ってきたと言った時も、興味を示していたな。もしかして雨宮さんは、自由時間を楽しみにしているのか?
「僕はやっばり、お化けよりも自由時間が一番楽しみだなぁ」
呑気な僕の本音に、車内に笑いが巻き起こった。
「流石は斎藤くん。この辰子島高等学校でオカルト研究部にとって、いかに現地取材が必要なのか顧問に説いてくれたんだな」
部室の扉をガラッと開けるや否や、元部長の斎藤先輩は、鼻息を荒くして飛び込んで来た。居眠りをしていた今井先輩は、まるで軍隊並の驚くべき瞬発力で起き上がり、敬礼する。
雨宮さんと僕は、今年出版されたノストラダムスの予言を元に、オカルト研究部として予知能力や、予言などを研究し、纏めようという話になっていた。オカルト研究部では、心霊だけでなく超能力や、不思議などの幅広い超常現象を研究している。
僕と雨宮さんは、斎藤先輩をポカンとした表情で見上げた。
「こんな時期に、合宿ですか? と言うか先輩お二人共、受験は大丈夫なんですか? 他の部活じゃあ、とっくに先輩方は引退していますよ」
辰子島高等学校の文化部は、十一月の文化祭が終われば、通常三年生は引退するのだが、この人達はまだ入り浸っている。
いやまぁ、別に遊びに来ちゃあいけない理由はないぜ。だけどようやく部長になれたっていうのに、目の上のタンコブだ。
「構わん! 俺は家業の豆腐屋を継ぐつもりだし、今井くんは、金さえあれば入れる私立大学に行くしな」
そーですか……。
この二人は卒業まで、いや卒業してもOBとして口出ししてきそうだぞ。
雨宮さんがオカルト研究部に来てくれてからなのかもしれないが、明らかに僕が新入社員の時より、先輩達がいきいきしているから分かりやすい。
「それで、斎藤先輩。合宿はどこでやるんだい。まさか学校で寝泊まりとかじゃないだろうね。結構夜は冷えるじゃないか」
「よくぞ聞いてくれた、雨宮くん! 本土に住む従兄妹から、俺に連絡が入ったんだ。どうやら、とんでもない心霊体験をしてしまったとな。今でも彼女は、金縛りにあったり、霊現象に悩まされているという。そこで俺に助けを求めてきたのだ。最強の守護霊を持つ……この俺に! 従兄妹を助けに行かねばならん」
斎藤先輩がぐっと拳を上げて、目を輝かせると天井に向けて突き上げる。ここからはお約束なのだが、太鼓持ちの今井先輩が『流石斎藤くん、頼れるな』と渾身の拍手をした。
僕と雨宮さんは呆れたような目で見たが、その件には間違いなく、雨宮さんの力が必要な気がするけどな。
「つまり、他県に泊まりで心霊研究って事で合ってますか、斎藤先輩」
「ふーん。旅行が出来るんならいいか。でも、あんまり田舎だったら嫌だねぇ。それじゃあ辰子島と変わらないし」
雨宮さんは、完全に旅行気分みたいで、行く気満々のようである。まぁ、辰子島って若者にとっちゃあ遊ぶ所なんてほとんどない。
喫茶店か家で友達と話すかボードゲームするか。テレビを見たり本読んだり、レコードを聴くしかないもんな。お祖母ちゃんっ子だった彼女の口調は、年寄り臭いものだが、中身は女の子だ。
クールに見えても、アイドル雑誌なんかを読んでたりするもんな。
「ふむ。まぁ田舎だけど、ここよりはましだと思うよ。俺の従兄妹の家は金持ちだし、貸別荘も経営や管理をしているんだ。どうやら冬場は空きがあるので、泊まらせてくれるらしいし」
今井先生はその言葉を聞くと、パチンと自分の膝を叩いて喜ぶ。
「夏になると、避暑地として賑わっているだろうが、冬場なら他の客もいなくて安心だな。つまり夜は……菓子などを購入して遊び放題だぞ!」
贅沢な貸別荘に泊まれると聞くと、僕も断然やる気が出てきたぞ。さらに親の監視がないなんて最高じゃあないか。僕は完全に、オカルト研究部の本来の目的を忘れて、遊びの計画がいくつも頭の中を過った。
「貸別荘! そりゃあいい。親に煩く言われずに、夜更かし出来るのはいいじやないですか。遊び道具なんかも揃えとかなきゃなぁ。もちろん雨宮さんも行くよね?」
「うん。海野先輩の夜更かし計画も気になるけど。憑かれてるっていう、斎藤先輩の従兄妹の様子も気になるからね」
雨宮さんはクールにそう言う。
彼女の霊感の強さは本物で、お祓いも出来るので高校生にして霊媒師という、最高に頼りになる後輩である。
今や、オカルト研究部のマドンナだ。来年の新入部員が楽しみだな。
❖❖❖
学校のお墨付きがあるという事ほど、心強いものはないだろう。合宿で他県に泊まる、と言っても、両親に怪しまれたり反対されないんだから。
とはいえ……、そこは未成年なので完全なる自由ではなく、顧問の先生がついて来る。
「うふふ。貴方達の研究熱心さには驚かされるわぁ。特に斎藤くん、今井くん。引退したのに、後輩の指導に熱心ねぇ。先生、感心しちゃうわ」
辰子島からフェリーで本土に渡ると、電車に乗り継ぎ、最寄り駅前で顧問の若林先生がレンタカーを借りてくれた。
若林先生は、黒縁眼鏡に少し乱れた髪を括って、どことなくオカルトマニアというか、変わった印象のある教師だ。若くて美人だし、授業も分かりやすいけど若林先生はなんというか、浮世離れしている。
頭は良いが、人より少しずれているような感じだろうか。だけど決して生徒を頭ごなしに否定しない。
助手席に座っていた斎藤先輩は、褒められた事に気を良くしている。この人は、本当に単純なんだよ。
「はい! もちろんです。小生にとって、オカルト研究部は青春そのものです。オカルト研究部が、辰子島高等学校の未来をになっていく事こそ、小生の誉れ!」
などと突然時代劇口調で言いながら、調子に乗り始める。僕は、後部座席の真ん中に座るような形で、左に拍手をする今井先輩、右に雨宮さんが乗っていて、結構狭い。
「斎藤くんのお陰で、雨宮さんも入部してくれたしね。本当にありがとう、雨宮さん」
「いえ、先生。私が入部を決めたのは海野先輩のお陰です。約束通りクリームソーダを奢って貰ったんで」
「あらまぁ、そうなの。雨宮くんと? 青春ね~~。先生も奢って貰おうかしら」
「えっ」
ふわふわとした若林先生と、雨宮さんの微妙に噛み合わない会話に、僕はなんとも気恥ずかしい気持ちになってしまった。雨宮さんは相変わらず近寄りがたい感じで、外を眺めている。
「とりあえず、大勢でお仕掛けても先方はご迷惑でしょうから、斎藤先輩と僕、雨宮さんで従兄妹の恵子さんに逢いましょう。先生と今井先輩は、荷物の方をよろしくお願いします」
「了解。直ぐに終わりそうなら夜は自由時間になるしね」
雨宮さんはそう言うと、指でリズムをとりながら外の景色にまた視線を戻す。僕がトランプや人生ゲームも持ってきたと言った時も、興味を示していたな。もしかして雨宮さんは、自由時間を楽しみにしているのか?
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