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第五章 銃弾
⑤
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鬼頭は、葵を横目で見る。
神部グループは政界や警察との繋がりも深い。捜査中に警察の上層部に働きかけたのも鬼頭さ容易に想像がついた。
「凛さんをいじめの標的にしていたのは、やはり、神部姉妹なんだな。凛さんの体には切り傷や痣があって、激しく抵抗し暴行された形跡があった。なのに自殺と上が決めたのは、事件に神部姉妹が関与しているからだろう」
「本当にそうだとしても、証拠なんてありますか? その証拠が本当に役に立つんですか」
葵はそう言うと、鼻で笑うように鬼頭を見た。証拠が揃っていても、警察と神部グループが癒着しているのならば、彼女たちを刑事告訴することはできない。葵は、そう考えているようだった。
「神部優花の薬物絡みの話が、俺の耳に入ってきた。別件で上げることも考えてる。少なくとも神部優花は、半グレの連中と薬物絡みで繋がってるようだ。今、世間で騒がれている、種子殺人事件で、被害者となった三人とは、顔見知りで薬物取引の相手だった。そして、第一被害者の桜井鳴海。凛さんと神部姉妹の同級生だったようだな」
「…………」
葵は、ようやく鬼頭が本題に入り口元に笑みを浮かべる。妹の件で鬼頭を罵倒したこともあるが、鬼頭は極めて優秀な刑事だ。葵も彼の実績を認めている。少なくとも、鬼頭は神部姉妹に平伏すような、汚職刑事とは違う。葵は復讐を初めてからも、心の片隅ではそう信じたいと思っていた。
「桜井鳴海さんと凛さんは、もちろん面識があっただろう。彼女もいじめに加わった犯人の一人なのかもしれない」
「――――回りくどいな、鬼頭さん。種子殺人事件の犯人は、凛の復讐のためにやってるって言いたいんだろ」
まるで、誘導尋問のようだったが、葵は動じる様子もなく、張り詰めた車内で乾いた笑いを浮かべた。鬼頭がこうして一人で葵に会いに来たのは、警官としてではなく、友人として自首を勧めるためだ。
「――――正解だ。だけど、警察はどうやって立証するつもり? あの佐伯って犯罪心理学者のプロファイリングと、さしずめ唾液のDNA鑑定結果かな? でも、犯人はどうやって殺した? 非現実的なやり方で、殺害しただなんてどう裁判で証明する。花に寄生されるなんてこと、どう考えても、超自然現象だろ」
「――――やっぱり、君がやったんだな、葵くん。あんな奴らのために、手を汚す必要はないだろう」
「凛は、あんな奴らに殺されたんだ。まだ俺にはやることがある。それが終わるまでは無理だよ、鬼頭さん」
説教は聞きたくない。
復讐をしても、妹は喜ばないとでもいう気だろうか、と葵はサイドミラーを見る。
鬼頭はハンドルを握る手に力を込めて、自分の中にある善悪の『ゆらぎ』に心を揺さぶられていた。この世の中には、どうやっても法で裁けない『悪人』がいることを、鬼頭はよく知っている。
「鬼頭さん。あいつらは例え逮捕しても、保釈金を積んですぐに出てくる。たとえ牢屋に入れても、自分の罪を反省することもなく、同じことを繰り返すよ。あいつらには、復讐っていう引導を突きつけてやるんだ」
「――――俺が。それなら俺が、あの姉妹に突きつけてやる。もう、人を殺すな。関係ない者まで巻き込むな。頼むから、俺を信じてくれ」
感情を殺すようにして、鬼頭は静かに言った。サイドミラーには大型の白いバンと黒い車が何台もつけてきている。これで、どうやって、鬼頭を信じろと言うのだろう。
「後ろのお仲間は――――」
「知らん。巻くから姿勢を低くしてろ」
どうやら鬼頭も、尾行する車に気付いていたようだった。
神部グループは政界や警察との繋がりも深い。捜査中に警察の上層部に働きかけたのも鬼頭さ容易に想像がついた。
「凛さんをいじめの標的にしていたのは、やはり、神部姉妹なんだな。凛さんの体には切り傷や痣があって、激しく抵抗し暴行された形跡があった。なのに自殺と上が決めたのは、事件に神部姉妹が関与しているからだろう」
「本当にそうだとしても、証拠なんてありますか? その証拠が本当に役に立つんですか」
葵はそう言うと、鼻で笑うように鬼頭を見た。証拠が揃っていても、警察と神部グループが癒着しているのならば、彼女たちを刑事告訴することはできない。葵は、そう考えているようだった。
「神部優花の薬物絡みの話が、俺の耳に入ってきた。別件で上げることも考えてる。少なくとも神部優花は、半グレの連中と薬物絡みで繋がってるようだ。今、世間で騒がれている、種子殺人事件で、被害者となった三人とは、顔見知りで薬物取引の相手だった。そして、第一被害者の桜井鳴海。凛さんと神部姉妹の同級生だったようだな」
「…………」
葵は、ようやく鬼頭が本題に入り口元に笑みを浮かべる。妹の件で鬼頭を罵倒したこともあるが、鬼頭は極めて優秀な刑事だ。葵も彼の実績を認めている。少なくとも、鬼頭は神部姉妹に平伏すような、汚職刑事とは違う。葵は復讐を初めてからも、心の片隅ではそう信じたいと思っていた。
「桜井鳴海さんと凛さんは、もちろん面識があっただろう。彼女もいじめに加わった犯人の一人なのかもしれない」
「――――回りくどいな、鬼頭さん。種子殺人事件の犯人は、凛の復讐のためにやってるって言いたいんだろ」
まるで、誘導尋問のようだったが、葵は動じる様子もなく、張り詰めた車内で乾いた笑いを浮かべた。鬼頭がこうして一人で葵に会いに来たのは、警官としてではなく、友人として自首を勧めるためだ。
「――――正解だ。だけど、警察はどうやって立証するつもり? あの佐伯って犯罪心理学者のプロファイリングと、さしずめ唾液のDNA鑑定結果かな? でも、犯人はどうやって殺した? 非現実的なやり方で、殺害しただなんてどう裁判で証明する。花に寄生されるなんてこと、どう考えても、超自然現象だろ」
「――――やっぱり、君がやったんだな、葵くん。あんな奴らのために、手を汚す必要はないだろう」
「凛は、あんな奴らに殺されたんだ。まだ俺にはやることがある。それが終わるまでは無理だよ、鬼頭さん」
説教は聞きたくない。
復讐をしても、妹は喜ばないとでもいう気だろうか、と葵はサイドミラーを見る。
鬼頭はハンドルを握る手に力を込めて、自分の中にある善悪の『ゆらぎ』に心を揺さぶられていた。この世の中には、どうやっても法で裁けない『悪人』がいることを、鬼頭はよく知っている。
「鬼頭さん。あいつらは例え逮捕しても、保釈金を積んですぐに出てくる。たとえ牢屋に入れても、自分の罪を反省することもなく、同じことを繰り返すよ。あいつらには、復讐っていう引導を突きつけてやるんだ」
「――――俺が。それなら俺が、あの姉妹に突きつけてやる。もう、人を殺すな。関係ない者まで巻き込むな。頼むから、俺を信じてくれ」
感情を殺すようにして、鬼頭は静かに言った。サイドミラーには大型の白いバンと黒い車が何台もつけてきている。これで、どうやって、鬼頭を信じろと言うのだろう。
「後ろのお仲間は――――」
「知らん。巻くから姿勢を低くしてろ」
どうやら鬼頭も、尾行する車に気付いていたようだった。
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