花の檻

蒼琉璃

文字の大きさ
上 下
31 / 61
第四章 復讐の力を手に入れて

しおりを挟む
 カメラのフラッシュが、異形と化した遺体を一瞬照らして、鬼頭はため息をついた。鑑識員が指紋の採取と、状況の記録をしている中で相棒の赤坂と共に観察する。

「今回は随分と派手に殺害したな。手足までもぎ取られてる。傷口からみても、殺害時間からしても刃物で切り落とした訳じゃない」

 植物の蔓を掻き分けて傷口を見ても、切り落としたというより、なにかの強い力が加わってちぎれたように見える。その力とは植物なのか。もはや、人間の肉体を土壌にして花が咲く姿を見ても、鬼頭は驚かなくなってしまった。腕の肉から禍々しく生える姿を、追求すればするほど、泥濘ぬかるみに足を取られて、迷路に迷い込む。
 なぜなら、植物学者も頭を抱え、お手上げ状態。唯一科捜研で、被害者の身元が分かるくらいで、犯人ホシの目星もつかないのだから。ただ気になるのは、桜井の出身校が聖南女子だったことだ。

被害者ガイシャは斎藤隆幸。このクラブは、ランボチームが経営しているみたいですね。数人の半グレの連中が、普段からたむろしてたみたいです。今日も数人いましたが、島村以外は現場から立ち去っているので、別班を事情聴取に行かせます」
「ああ。こいつも半グレか。近藤は神威連合かむいれんごうの奴だったな。桜井鳴海は、近藤とは接点はなかったが、ランボチー厶と神威連合とは横の繋がりがある」
「ま、半グレ同士の潰し合いなら、警察の手間が省けていいんですが。これだけ、立て続けに異様な変死が続くと、先が思いやられますね、鬼頭さん」
「赤坂、こいつらがいくら悪党でも被害者だ。口を慎め」
「……すみません」

 赤坂の言うことは分からなくもない。刑務所を何度も行き来して、暴力団も準暴力団も、善人を食い物にするようなろくでもない奴らだ。だが、法の番人である警察が、だからといって人の死を自業自得だと言ったり、捜査に手を抜いてしまっては、存在する意味がなくなってしまう。
 少なくとも、接点の薄い桜井鳴海よりも二人の被害者は繫がりがありそうだ。前回と同じくなにか、犯行予告めいたものがないかと、鬼頭は周囲を見渡した。
 トイレの手洗い場の鏡がひび割れ、鮮血が滴っている。天井や出入口に飛び散ったものとは異なるような気がして、鑑識に採取するように指示した。

「今回は、犯人ホシに繋がる証拠が見つかるかもな。ここで斎藤と犯人は争ってるようだ」

 科捜研に期待するしかないな、と鑑識と共に現場検証に立ち合う赤坂を残して、鬼頭が殺害現場のトイレから出ようとすると、ふと声を掛けられる。

「あ、鬼頭さん。佐伯先生がこっちに向かってるそうです」
「は? 俺は呼んでないぞ」
「SNSで知ったみたいです。前回と違って今回は目撃者が一杯でしょ。鬼頭さん、いつも殺害現場入る時は、スマホの電源落とすじゃないですか。だから署に電話入ったみたいです。課長もオッケー出してますよ」
 
 殺害現場で周囲に集中するために、鬼頭がスマホの電源を落とすので、迅速に大事な伝達ができないと赤坂がいつも愚痴っていたが、変える気はない。
 警察の顧問でもないのに、犯罪心理学者とはいえ、一般人が殺害現場に訪れていいのかと思ったが、上司のゴーサインが出ている。しかし、佐伯がこの場に来れば、より一層犯人像に近づけるだろう。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

シカガネ神社

家紋武範
ホラー
F大生の過去に起こったホラースポットでの行方不明事件。 それのたった一人の生き残りがその惨劇を百物語の百話目に語りだす。 その一夜の出来事。 恐怖の一夜の話を……。 ※表紙の画像は 菁 犬兎さまに頂戴しました!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

はる、うららかに

木曜日午前
ホラー
どうかお願いします。もう私にはわからないのです。 誰か助けてください。 悲痛な叫びと共に並べられたのは、筆者である高宮雪乃の手記と、いくつかの資料。 彼女の生まれ故郷である二鹿村と、彼女の同窓たちについて。 『同級生が投稿した画像』 『赤の他人のつぶやき』 『雑誌のインタビュー』 様々に残された資料の数々は全て、筆者の曖昧な中学生時代の記憶へと繋がっていく。 眩しい春の光に包まれた世界に立つ、思い出せない『誰か』。 すべてが絡み合い、高宮を故郷へと導いていく。 春が訪れ散りゆく桜の下、辿り着いた先は――。 「またね」 春は麗らかに訪れ、この恐怖は大きく花咲く。

岬ノ村の因習

めにははを
ホラー
某県某所。 山々に囲われた陸の孤島『岬ノ村』では、五年に一度の豊穣の儀が行われようとしていた。 村人達は全国各地から生贄を集めて『みさかえ様』に捧げる。 それは終わらない惨劇の始まりとなった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...