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第四章 復讐の力を手に入れて
①
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カメラのフラッシュが、異形と化した遺体を一瞬照らして、鬼頭はため息をついた。鑑識員が指紋の採取と、状況の記録をしている中で相棒の赤坂と共に観察する。
「今回は随分と派手に殺害したな。手足までもぎ取られてる。傷口からみても、殺害時間からしても刃物で切り落とした訳じゃない」
植物の蔓を掻き分けて傷口を見ても、切り落としたというより、なにかの強い力が加わってちぎれたように見える。その力とは植物なのか。もはや、人間の肉体を土壌にして花が咲く姿を見ても、鬼頭は驚かなくなってしまった。腕の肉から禍々しく生える姿を、追求すればするほど、泥濘に足を取られて、迷路に迷い込む。
なぜなら、植物学者も頭を抱え、お手上げ状態。唯一科捜研で、被害者の身元が分かるくらいで、犯人の目星もつかないのだから。ただ気になるのは、桜井の出身校が聖南女子だったことだ。
「被害者は斎藤隆幸。このクラブは、ランボチームが経営しているみたいですね。数人の半グレの連中が、普段からたむろしてたみたいです。今日も数人いましたが、島村以外は現場から立ち去っているので、別班を事情聴取に行かせます」
「ああ。こいつも半グレか。近藤は神威連合の奴だったな。桜井鳴海は、近藤とは接点はなかったが、ランボチー厶と神威連合とは横の繋がりがある」
「ま、半グレ同士の潰し合いなら、警察の手間が省けていいんですが。これだけ、立て続けに異様な変死が続くと、先が思いやられますね、鬼頭さん」
「赤坂、こいつらがいくら悪党でも被害者だ。口を慎め」
「……すみません」
赤坂の言うことは分からなくもない。刑務所を何度も行き来して、暴力団も準暴力団も、善人を食い物にするようなろくでもない奴らだ。だが、法の番人である警察が、だからといって人の死を自業自得だと言ったり、捜査に手を抜いてしまっては、存在する意味がなくなってしまう。
少なくとも、接点の薄い桜井鳴海よりも二人の被害者は繫がりがありそうだ。前回と同じくなにか、犯行予告めいたものがないかと、鬼頭は周囲を見渡した。
トイレの手洗い場の鏡がひび割れ、鮮血が滴っている。天井や出入口に飛び散ったものとは異なるような気がして、鑑識に採取するように指示した。
「今回は、犯人に繋がる証拠が見つかるかもな。ここで斎藤と犯人は争ってるようだ」
科捜研に期待するしかないな、と鑑識と共に現場検証に立ち合う赤坂を残して、鬼頭が殺害現場のトイレから出ようとすると、ふと声を掛けられる。
「あ、鬼頭さん。佐伯先生がこっちに向かってるそうです」
「は? 俺は呼んでないぞ」
「SNSで知ったみたいです。前回と違って今回は目撃者が一杯でしょ。鬼頭さん、いつも殺害現場入る時は、スマホの電源落とすじゃないですか。だから署に電話入ったみたいです。課長もオッケー出してますよ」
殺害現場で周囲に集中するために、鬼頭がスマホの電源を落とすので、迅速に大事な伝達ができないと赤坂がいつも愚痴っていたが、変える気はない。
警察の顧問でもないのに、犯罪心理学者とはいえ、一般人が殺害現場に訪れていいのかと思ったが、上司のゴーサインが出ている。しかし、佐伯がこの場に来れば、より一層犯人像に近づけるだろう。
「今回は随分と派手に殺害したな。手足までもぎ取られてる。傷口からみても、殺害時間からしても刃物で切り落とした訳じゃない」
植物の蔓を掻き分けて傷口を見ても、切り落としたというより、なにかの強い力が加わってちぎれたように見える。その力とは植物なのか。もはや、人間の肉体を土壌にして花が咲く姿を見ても、鬼頭は驚かなくなってしまった。腕の肉から禍々しく生える姿を、追求すればするほど、泥濘に足を取られて、迷路に迷い込む。
なぜなら、植物学者も頭を抱え、お手上げ状態。唯一科捜研で、被害者の身元が分かるくらいで、犯人の目星もつかないのだから。ただ気になるのは、桜井の出身校が聖南女子だったことだ。
「被害者は斎藤隆幸。このクラブは、ランボチームが経営しているみたいですね。数人の半グレの連中が、普段からたむろしてたみたいです。今日も数人いましたが、島村以外は現場から立ち去っているので、別班を事情聴取に行かせます」
「ああ。こいつも半グレか。近藤は神威連合の奴だったな。桜井鳴海は、近藤とは接点はなかったが、ランボチー厶と神威連合とは横の繋がりがある」
「ま、半グレ同士の潰し合いなら、警察の手間が省けていいんですが。これだけ、立て続けに異様な変死が続くと、先が思いやられますね、鬼頭さん」
「赤坂、こいつらがいくら悪党でも被害者だ。口を慎め」
「……すみません」
赤坂の言うことは分からなくもない。刑務所を何度も行き来して、暴力団も準暴力団も、善人を食い物にするようなろくでもない奴らだ。だが、法の番人である警察が、だからといって人の死を自業自得だと言ったり、捜査に手を抜いてしまっては、存在する意味がなくなってしまう。
少なくとも、接点の薄い桜井鳴海よりも二人の被害者は繫がりがありそうだ。前回と同じくなにか、犯行予告めいたものがないかと、鬼頭は周囲を見渡した。
トイレの手洗い場の鏡がひび割れ、鮮血が滴っている。天井や出入口に飛び散ったものとは異なるような気がして、鑑識に採取するように指示した。
「今回は、犯人に繋がる証拠が見つかるかもな。ここで斎藤と犯人は争ってるようだ」
科捜研に期待するしかないな、と鑑識と共に現場検証に立ち合う赤坂を残して、鬼頭が殺害現場のトイレから出ようとすると、ふと声を掛けられる。
「あ、鬼頭さん。佐伯先生がこっちに向かってるそうです」
「は? 俺は呼んでないぞ」
「SNSで知ったみたいです。前回と違って今回は目撃者が一杯でしょ。鬼頭さん、いつも殺害現場入る時は、スマホの電源落とすじゃないですか。だから署に電話入ったみたいです。課長もオッケー出してますよ」
殺害現場で周囲に集中するために、鬼頭がスマホの電源を落とすので、迅速に大事な伝達ができないと赤坂がいつも愚痴っていたが、変える気はない。
警察の顧問でもないのに、犯罪心理学者とはいえ、一般人が殺害現場に訪れていいのかと思ったが、上司のゴーサインが出ている。しかし、佐伯がこの場に来れば、より一層犯人像に近づけるだろう。
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