コインランドリー

蒼琉璃

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後日譚―カフェ―⑤―

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 ――――事故で、死んじゃった。
 その言葉にわたしはその場で崩れ落ちてしまった。
 翔太くんは、バイクで信号待ちをしていて後ろから来た車に追突されたのだという。ほぼ即死で、わたしたちが病院に行ったときにはもうすでに霊安室にいるようで入れなかった。
 泣き崩れるおじさんとおばさんに声を掛けることもできず、わたしたちはマンションに帰ってきた。
 本当にこれは現実なんだろうか、ぜんぜん実感が沸かない。明日になれば、翔太くんが何事もなくお店に出勤してくるような気がしてる。

「お葬式が決まったら、またおばさんたちからが連絡あるよね。それまで……お店は……」

 沙織がたまらず泣き出すと、わたしも初めて涙が溢れてきた。お葬式という言葉で、わたしは現実に引き戻されてしまったんだ。
 そして、あの男の声を思い出して震えた。
 みんな死ぬ、あいつの言葉は本当で、雨宮さんの言うとおりにしないと、翔太くんだけじゃなく、沙織もわたしも同じように殺されてしまうんじゃない?
 そんなのいや、絶対死にたくない!

「やっぱりあの店おかしいよ沙織。今日、霊感の強いお客さんがお店にきたの。あそこで店をやるのは辞めたほうがいいって。別の場所に移転するか、祠を………」
「やめてよ! あの店のせいで翔太くんが死んだといいたいわけ? 愛、自分が何を言ってるのかわかってるの。絶対お葬式でそんなこと言わないでよね!」

 沙織は顔を真っ赤にしながら泣き、わたしに怒った。たしかに、友だちが亡くなった日に常識を疑われるような発言だと思う。
 翔太くが亡くなったのはお店とは関係ないし、霊が原因でもなく、不注意で追突してきた乗用車が悪い。
 だけど、わたしの体験したことは幻覚でもなんでもないと確信してる。

「沙織、わたしのことを信じなくてもいいから。この御守りでも御札でもいい、持ってて」
「どうかしてるわ……あんた」

 わたしは、沙織が心配になって雨宮さんから貰った御守りの予備を彼女に押しつけた。わたしがあんまり必死に言うものだから、しぶしぶそれを受け取ると立ち上がる。
 頭を冷やしたいから、彼氏の家に行くと沙織は言った。わたしの話をもうこれ以上聞きたくないんだろう。

「もう、今夜は帰らないから」
「わかったよ」

 本当はひとりで家にいるのが怖くてしかたなかったけど、気まずくて沙織を引き止めることはできない。それでも御守りを持っていってくれるだけで、安心する。
 わたしがこの場所を探してきたんだ。幼なじみの翔太くんだけじゃなく、従姉妹の彼女まで失ったらもう立ち直れない。
 わたしは店じまいをすると二三日休みますという貼り紙を張った。
 もう、精神的にも肉体的にも限界だ。
 最近、寝付きが悪くて眠りが浅い。沙織の言うとおり、本当にどうかしてるのかも。でも、この嫌な予感はわたしの勘違いなんかじゃない。

✤✤✤

 沙織の気配のない家は神経が研ぎ澄まされるような気がする。時計の音や、外の車のクラクション、人の話し声なんかが気になってまた寝つけなかった。何度か寝返りを打って別のことを考えようとしたけど、翔太くんの顔が浮かんで涙が出る。
 深夜2時を回ったところで、ようやくウトウトし始め、眠りに落ちていきそうになって、おかしな声が聞こえた。
 男か女かわからないけど、闇の中で掠れた声が聞こえる。
 なんなの? 酔っぱらい?

「…………っ!」

 わたしは飛び起きようとしたが、体が硬直して動かなかった。かろうじて目だけは動かせ、足を向けていたベランダの方を見る。
 暗くて外は見えないはずだけど、大きな丸い物体が、ずるずるとベランダを乗り越えてやってくるのを感じた。
 見えないのに、イメージとしてそれがはっきり頭に中に流れ込んでくる不思議な感覚だ。
 なにかの集合体。
 すごく古い時代の人の首がたくさんある。
 それが、まるで液体みたいに動いて窓の隙間から、部屋に侵入してくるとわたしは心の中で絶叫した。

 ――――いや!!
 ――――金縛り、解けて! 来ないで!

 侵入してきたそれは、ずるずると音を立てながら人の形になっていく。はっきり見えないけど、着物を着た男の人のようだった。
 その背後にうごめくような手足と苦悶くもんと怒りの表情を浮かべた顔がある。わたしは、半狂乱になって体を動かすとようやく起き上がることができ、痺れた体でベッドから抜け出した。
 転がり落ちるようにして机に置いてあった御守りと御札を取ると、うずくまって目を閉じて悲鳴を上げた。

「い、いやぁぁ!」

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