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後日譚―カフェ―④―
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あれから一週間たったけどおかしなことは起きてない。だけど、本能的にすごく嫌な予感がしてそれとなく沙織に話してみた。
沙織は、あの店で霊のようなものは見たことはないけど、誰もいないのに人の気配を感じる事があると答えた。
でも、なんていうか……、沙織はわたしの話を半信半疑で聞いていて、真剣に信じていない。自分が体験したことも、気のせいだと思ってるみたいだった。
「安い物件だから、なにかしらあると思ってたけどね。でもお客さんもやっとついてきてくれたんだし、がんばろ。愛がそんなに怖がるなら神社で御札でももらう?」
「うん……そうだね」
本音を言うと、お店を移転したい。
だけどそんなお金なんてないし、沙織のいうとおりお客さんの回転も早いので、ここは商売するには最高の場所なんだと思う。
だから、彼女の言うとおり気休めでもいいからお寺や神社にいくのが一番いい。
沙織がご機嫌でコーヒーカップを洗っていたので、わたしはケーキの補充をしていた。ふと、何か思い出したように沙織が小さく声を上げる。
「あ、そうだ。卵切れてたんだ。私ちょっと買いにいってくるね」
「うん、わかった。よろしくね」
今日はお客さんもそんなに多くない。客足が途切れて、店内にいるのは大学生くらいのカップルが一組だけだ。わたしひとりでもホールは大丈夫そうなので、沙織にスーパーまで買いに行ってもらうことにする。
ちらりとお客さんの方を見ると、男性の方が少し落ち着かない様子で、周りを見渡して女の子に話しかけていた。
もしかして初デートかな?
ミディアムボブの彼女は、モデルみたいな体型で可愛い女の子だったから、緊張しているのかも。
わたしは微笑ましく思い、ウオーターピッチャーを持つとカップルの席へと向かった。
「お水、いかがですか?」
「あっ、えと……もうすぐ出るので大丈夫です」
女の子の方が申し訳なさそうに断ると、わたしは笑顔で答えて、戻ろうとした。すると、控えめな感じで男の子の方がわたしに声をかけてきた。
「あの……すみません」
「はい?」
「…………こんなこと言うと、変だと思われるかもしれませんが、ここでお店をするのは辞めた方がいいと思います。その、僕……実家が神社で、普段こんなことはあまり言わないんですが」
ついさっきまで、あんな話を沙織としていたことを聞かれたんだろうか。もし、あんな現象が無かったら、何言ってるのこの子、霊感商法? 気持ち悪いと思ったのかもしれないけど、申し訳なさそうに、こちらの反応を気にしつつ話す彼が嘘をついているように思えない。
わたしが不審に思ってることを察したようで、女の子の方がさりげなくフォローする。
「………健くんは、霊感が強くて私も助けて貰った事があるんです」
「え? そう、なんですか……。あの……わたし、どうしたら良いでしょうか。おかしな事が立て続けに起こってるんです。でも、開店したばかりだしすぐにお店をたためなくて。いったい何が見えるんですか」
健、と呼ばれた男の子と女の子はお互いの顔を見合わせた。この店に初めてやってきた見ず知らずのお客さんに話した瞬間に、せき止められていた不安が心の中から溢れてきた。
「健くん……どうにかできないの?」
「あの……実は僕、実家に戻るんです。今日が東京最後の日で……。とても厄介なもので、今すぐに原因を取り除けない。もし、この強い因縁がある土地で商売を続けたいなら、なるべく早く新しい祠を建ててお祀りし、貴方の一族が絶えるまで代々きちんとお世話しなくちゃいけないです。とりあえず……御守りを差し上げます。引き寄せられたり、この土地に囚われている霊ならこれで……なんとか。それも長くは持たないかもしれない。前の祠が無くなって、とても怒ってるので」
リュックから取り出したのは、御札と『雨宮神社』と記された御守りだった。祠のことなんてわたしは何も話してないのに、どうしてわかったの?
本当にこの人は霊感があるのかもしれない。
わたしは、御札と御守りをありがたく頂戴した。
「ほ、祠………。ありがとうございます、少し従業員と相談してみます。でも、以前はなんの祠があったんですか?」
「普通は地蔵か、道祖神か、稲荷ですが、どれも違うような気がします。ともかく気をつけて下さい。たくさん人が出入りするから、その分霊の意識もあちこち行ってるんですが……それも、もう効果が無くなってきています」
そういうと、二人は会計をすませた。
なんとなく早くこの場所から、逃げ出したいというような感じだ。雨宮さんは申し訳なさそうにして、何かあったら連絡くださいと、ラインを交換してくれた。
二人が店を出たあと、どっと疲れがやってきてカウンター席に座る。すると、沙織から電話が掛かってきた。
「どうしたの? 卵売り切れてた?」
「愛、し、翔太くんが……事故で……」
沙織は、あの店で霊のようなものは見たことはないけど、誰もいないのに人の気配を感じる事があると答えた。
でも、なんていうか……、沙織はわたしの話を半信半疑で聞いていて、真剣に信じていない。自分が体験したことも、気のせいだと思ってるみたいだった。
「安い物件だから、なにかしらあると思ってたけどね。でもお客さんもやっとついてきてくれたんだし、がんばろ。愛がそんなに怖がるなら神社で御札でももらう?」
「うん……そうだね」
本音を言うと、お店を移転したい。
だけどそんなお金なんてないし、沙織のいうとおりお客さんの回転も早いので、ここは商売するには最高の場所なんだと思う。
だから、彼女の言うとおり気休めでもいいからお寺や神社にいくのが一番いい。
沙織がご機嫌でコーヒーカップを洗っていたので、わたしはケーキの補充をしていた。ふと、何か思い出したように沙織が小さく声を上げる。
「あ、そうだ。卵切れてたんだ。私ちょっと買いにいってくるね」
「うん、わかった。よろしくね」
今日はお客さんもそんなに多くない。客足が途切れて、店内にいるのは大学生くらいのカップルが一組だけだ。わたしひとりでもホールは大丈夫そうなので、沙織にスーパーまで買いに行ってもらうことにする。
ちらりとお客さんの方を見ると、男性の方が少し落ち着かない様子で、周りを見渡して女の子に話しかけていた。
もしかして初デートかな?
ミディアムボブの彼女は、モデルみたいな体型で可愛い女の子だったから、緊張しているのかも。
わたしは微笑ましく思い、ウオーターピッチャーを持つとカップルの席へと向かった。
「お水、いかがですか?」
「あっ、えと……もうすぐ出るので大丈夫です」
女の子の方が申し訳なさそうに断ると、わたしは笑顔で答えて、戻ろうとした。すると、控えめな感じで男の子の方がわたしに声をかけてきた。
「あの……すみません」
「はい?」
「…………こんなこと言うと、変だと思われるかもしれませんが、ここでお店をするのは辞めた方がいいと思います。その、僕……実家が神社で、普段こんなことはあまり言わないんですが」
ついさっきまで、あんな話を沙織としていたことを聞かれたんだろうか。もし、あんな現象が無かったら、何言ってるのこの子、霊感商法? 気持ち悪いと思ったのかもしれないけど、申し訳なさそうに、こちらの反応を気にしつつ話す彼が嘘をついているように思えない。
わたしが不審に思ってることを察したようで、女の子の方がさりげなくフォローする。
「………健くんは、霊感が強くて私も助けて貰った事があるんです」
「え? そう、なんですか……。あの……わたし、どうしたら良いでしょうか。おかしな事が立て続けに起こってるんです。でも、開店したばかりだしすぐにお店をたためなくて。いったい何が見えるんですか」
健、と呼ばれた男の子と女の子はお互いの顔を見合わせた。この店に初めてやってきた見ず知らずのお客さんに話した瞬間に、せき止められていた不安が心の中から溢れてきた。
「健くん……どうにかできないの?」
「あの……実は僕、実家に戻るんです。今日が東京最後の日で……。とても厄介なもので、今すぐに原因を取り除けない。もし、この強い因縁がある土地で商売を続けたいなら、なるべく早く新しい祠を建ててお祀りし、貴方の一族が絶えるまで代々きちんとお世話しなくちゃいけないです。とりあえず……御守りを差し上げます。引き寄せられたり、この土地に囚われている霊ならこれで……なんとか。それも長くは持たないかもしれない。前の祠が無くなって、とても怒ってるので」
リュックから取り出したのは、御札と『雨宮神社』と記された御守りだった。祠のことなんてわたしは何も話してないのに、どうしてわかったの?
本当にこの人は霊感があるのかもしれない。
わたしは、御札と御守りをありがたく頂戴した。
「ほ、祠………。ありがとうございます、少し従業員と相談してみます。でも、以前はなんの祠があったんですか?」
「普通は地蔵か、道祖神か、稲荷ですが、どれも違うような気がします。ともかく気をつけて下さい。たくさん人が出入りするから、その分霊の意識もあちこち行ってるんですが……それも、もう効果が無くなってきています」
そういうと、二人は会計をすませた。
なんとなく早くこの場所から、逃げ出したいというような感じだ。雨宮さんは申し訳なさそうにして、何かあったら連絡くださいと、ラインを交換してくれた。
二人が店を出たあと、どっと疲れがやってきてカウンター席に座る。すると、沙織から電話が掛かってきた。
「どうしたの? 卵売り切れてた?」
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