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囚われの歌姫①

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 死の宮殿エーリューズニルの床は氷で出来ており、ロキが歩みを進める度にカツン、カツンと冷たい音が鳴り響いた。
 天井は頭上の遥か上にあり、広い廊下には死者たちの気配もしない。
 抵抗するようにエマは足をばたつかせていたが、細身のわりにはびくともしない悪神に諦めを感じ、体力を温存させる為にも無駄な抵抗はやめた。

「んふふ、大人しくなりましたね。まだ暴れるようなら床に落とそうかと思っていました」
「……っ! 貴方は本当に卑怯だわ。私の家族への気持ちを利用したのね」
「ふーむ、貴女は兄上の恩恵も無い死の世界ヘルヘイムに来ても、恐れと言うものを知らないようですねぇ。私にもまだそんな減らず口を叩けるのですから。正直に言うと……とっても可愛らしいですよ」
「ふざけないで!」

 冗談めいたロキの言葉に、エマは感情を押し殺すようにしていった。だが、陰気な黒衣のトリックスターは彼女の怒りも飄々ひょうひょうとした態度でかわして、部屋へと向かう。
 騙された怒りのあまり、ロキが神だと言うことも忘れてエマは強い口調で非難したが、道化師はそれさえも、罠にはまった獲物の反応を楽しむかのように、嬉しそうに笑った。
 暫く歩くと、まるで独房のような鉄の扉が見え、ロキが目の前まで立つと自動的に扉が開いた。

「さぁ、麗しの歌姫。今日からここが貴女の住居です。特別待遇してもらったのは義姉上には内緒ですよ? まぁ、二度と貴女は彼女と逢えないでしょうが」

 塔のように高い天井には天窓がついていて、世界樹ユグドラシルの根が張り巡らされ、その隙間から天界アスガルドの僅かな光が見えた。
 まるでそれは月のようだが、死の世界ヘルヘイムを照らすにはあまりにも心許なく弱々しい。
 ヴィズルが用意してくれた部屋よりも、この部屋は遥かに質素なものだった。テーブルもカーテンもベッドもソファーも、まるで死装束のように白く、美しい模様の装飾が施されている。
 ロキがエマを抱いたまま部屋に入ると、その存在を察知するかなように髑髏どくろの燭台に炎が灯された。

「私はてっきり、貴方は面白い事にしか興味が無いんだと思っていたわ。どうしてフリッグ様の手先いぬになったのかしら。あの方は本妻だもの、私を罰したいなら堂々とすればいいのに」
「これは手厳しいですねえ、エマ嬢。ですが私は義姉上の手先いぬになったつもりは毛頭もうとうございませんよ」

 エマの挑発にも陰気な笑みを浮かべて答えると、エマをベッドに押し付けた。突然のロキの行動に驚いて、エマは目を見開く。
 裏切られた事に怒り、彼を挑発するような事を言ってしまったが、この部屋は密室で二人きりだ。身の危険を感じて、エマは今更ながらに青ざめた。

「………な、何をする気なのっ」
「あの時の続きをしようかと。途中であの双子の渡り烏の執事に邪魔をされてしまいましたからね……。エマ嬢、実を言うと私は貴女の事を結構気に入っていまして」

 フードから見え隠れする青白い肌、陰鬱いんうつな翡翠の瞳。少しほつれた黒髪がエマの頬をかすめる。
 陰気だが美しい顔立ちのロキの顔を頬を染めながら睨みつけた。まだ外が明るいうちに、庭園の中で、この悪神に指先で愛撫された事を思い出して気恥ずかしくなった。

「わ、私の事を気に入ってると言うならここから出して」
「そうは行きません。貴女をたばかる為に義姉上は私と寝たんですよ。ふふっ、その努力を水の泡にしては可哀想でしょう? それにこの死の世界ヘルヘイムの全ての権限はヘルにあるので、私にはお手上げなんです」

 むせ返るようなムスクの香りがして、首筋にロキの赤い舌が蛇のように這った。ぞっとして抵抗しようとしたが、両手は彼の大きな指先で拘束されてしまって動かすことができない。
 エマのきめ細やかな肌を辿るように、薄い唇が這うと目をそらして唇を噛み締めた。ねっとりと肌の性感帯を刺激するように舌先でなぞられ、拒絶しているにも関わらずくぐもった甘い吐息が鼻から漏れそうになる。
 時折、音を立てるように肌に吸いつかれ、エマの抜けるような甘い吐息を漏らした。

「んっ……ふっ、……っ、や、はぁっ……!」
「信じられないでしょうが、義姉上にこんな非道な仕打ちをされた貴女を、私は不憫ふびんだと思っているのですよ。だから、義姉上にも少しばかりこらしめる為の悪戯をしないとね」
「それは、一体……どういう意味なの?」

 一体何の事だろうと、不審に思ったエマがロキを見ると、ここぞとばかりにその唇を強引に奪われた。
 爬虫類のように薄く冷たい感触がして、突然の口づけに驚いたエマの唇の隙間から舌先を忍ばせた。
 ロキの肩を反射的に押し返そうとする手首を掴んで、呼吸さえも奪うように舌を絡ませられると、じんわりとした快楽が押し寄せる。エマの舌先をなぞるように淫らに動かし、互いの隙間に銀糸を垂らしながら離れた。

「んんっ、んっ、はぁっ……や、やめっ……ロキ様、女を手篭めにして、情けないと思わないの? 貴方は仮にも、最高神の義弟でしょう」
「ふーむ、私の良心に訴えかけようと言うのですか。エマ嬢、貴女はやはり気高く無垢……私の善性を信じているんだから。
 でもあいにく私は、善悪などには興味がなく楽しい事だけをしていたい」

 エマの柔らかな胸元に口付け、レースのドレスの下に指を這わせるとガーター越しに内股を撫でるロキの指先は、慎重に肌の上を滑って、エマの感じる場所を探るように動く。

「はぁっ、んっ、私は楽しくなんてないわっ……! っ、ぁっ、はぁっ……ふっ……」
「強情だなぁ、エマ嬢。私は確かに嫌われ者ですが、ベッドの中では女性に高評価ですよ。彼女たちは、私との関係を知られたくないようですけどね」

 華奢なエマの肩からドレスを降ろされ、弾け飛ぶように揺れた柔らかな白桃の乳房を青白い手が捕らえた。寒気がするほど嫌なのに、慣れた手付きで、乳房を揉みほぐす指先にエマは目を伏せ小さく上擦った声をあげる。
 薄紅色の乳輪の周りを口付け、舌先を這わされるとエマの腰が浮いた。

「はぁっ、んっ、こんな、んんっ、はぁ、いやらしい事をしても、貴方になんて屈しないわ……ひぁっ、あっ……はぁっ」
「んっ……気丈なお言葉ですけれど、瞳に涙が浮かんでますよ。それにしても、兄上には勿体無いくらい貴女は魅力的な人間だ」

 ロキは涙が溢れた目尻に口付けると、指先で羽毛のよう胸の蕾を優しく円を描くように撫でた。ロキの黒いローブを握りしめ、エマは喉から掠れた甘い声を上げる。
 エマは性行為よりも、このトリックスターの指先で感じてしまう事が何よりも屈辱的だった。乳房を揉みこまれ舌で充血した胸の突起を舌で弄ばれ、指先で摘まれるとエマはシーツを握りしめながら喘いだ。

「んっ、んっ、ふぅっ……あっ、ああっ、ぁっ……っ、あっ、はっ……んんっ、ひっ、あっ、ああっ……」
「エマ、貴女のいやらしい甘い声さえ、小鳥の歌声のように美しく、品がある……はぁ、ん、胸の蕾も、はぁ、まるで……世界樹ユグドラシルの蜜のように甘い」

 胸の蕾を舌で扱くように舐めると、エマの腹がビクビクと動いた。熱くなり始めたロキの指先が、歌姫のレースのショーツに到達すると、意地悪く指の腹を花芯クリトリスに押し付けて布越しに優しく掻くように動かす。

「ゃ、やぁんっ、もう、お願い……辞めて、はぁっ、あっ、ああっ! あ、ああっ……」
「ああ、やっと声が快感に震えてきましたね。凛々しい表情も美しいですが、快楽を我慢する表情もまた、美しい」

 レースの下着を指先で器用に脱がせると、抵抗し、腰を引いて逃げようとするエマの両足を捕らえて開いた。
 白のレースのガーターベルトに、繊細な刺繍ししゅうのガーター、そして慎ましく閉じた恥毛の無い薄桃色の亀裂があらわになる。まじましまと見つめるロキの視線を感じたく無くて、エマは唇を噛み締めると顔を背けた。

「エマ、初めての相手は兄上ですか? 先日指で貴女の膣内なかに触れましたが、まだ十分に熟れていなかったので」
「そ、そんな事聞かないで……! ロキ様には関係ない事だわ」

 あからさまに動揺し赤面した様子を見れは、答えは一目瞭然いちもくりょうぜんだった。反発するエマにほくそ笑むとロキは姿勢を低くして言う。

「先日は途中で邪魔が入りましたからね。んふふ、エマ、そんなに怯えた顔をしないでください。貴女の華を愛でる続きをするだけですから……貴女のここは、美の女神フレイヤと同じく、可愛らしい華ですね。慎ましく、美しいのに、どうしようもなく悩ましく淫らだ」

 ロキに抵抗した所で、力で彼に立ち向かうことは出来ないと察したエマはとにかく、この行為が一刻も早く終わることを願いながら、おそるおそる彼を見つめた。
 辱められた所で自分の心までは穢されない、そんなふうに心を強く持とうとしても、全てを許した事があるのは隻眼の戦神だけで、どうしても彼を恐れる感情が、体を支配する。

 歌姫の女陰ヴァギナにかしづくように、ロキはエマの薄桃色の花弁はなびらの重なりに太い舌先でゆっくりとなぞった。
 腰まで痺れるような快感、足首を拘束され、わざとエマに聞こえるように唾液を含ませた舌先で音を立てるように舐めた。

「はぁっ、あ、ああっ、あんっ、はぁっ、ああっ、だ、めっ……ひっ、あっ、んんっ、ふぁっ、はぁっ、あっ、ああっ」
「はぁっ……っ、華の奥から愛液がだらしなく溢れてきましたよ。花弁の隅々まで……はぁ、塗り付けないとね?」

 女神からは高評価、と自画自賛じがじさんしていたロキだったが、華の蜜をすくって可憐な唇の舐め、口に含むその丁寧な愛撫は嘘ではなかった。
 舌の腹全体で花弁を押し付け、揺さぶりつんつんと、花芯クリトリスを掘り起こすように根元から刺激すると、淫らな愛液がとろりと溢れてくる。

「あんっ、はぁ、あっ! ああっ、はぁっ、んんっ、はぁっ、んんっ、いやぁ……っ、そこは舐めないで、っっはぁっ、あっあっあっ、あなたになんて、んっっ、屈しな、はぁぁっ」
「はぁっ、そんな色っぽい声では説得力もあったものではないですね? エマ嬢もやはりここは弱いようです。はぁ……んっ、我慢せずに達していいんですよ、ん、ほら」

 ロキは陰鬱いんうつで色気のある視線を向けると、人指し指を挿入し花芯クリトリスの裏側を押すように刺激した。
 そして舌先を素早く動かし、花芯を勃起するまで責められる。
 エマの心には反して、呼吸が乱れ頭が真っ白になっていくと甘く美しい声が冷えた部屋に響き渡る。
 歌うように弾む艶声の合間に、ちゅく、ちゅくと愛液と指が絡まる音、そしてロキが花弁と花芯に吸い付く淫らな音がする。

「あっ、あっ、いや、っ、あっ、はぁっ、だめだめ、あっ、ああっ、んんっ、あっ、いやぁ、そ、そこは、あ、やめ、やめて、あっ、もう、――――っっ!」

 ベッドの上でシーツを握りしめた瞬間エマは絶頂に達して、ロキの白い顔めがけて愛液が飛び散らせた。快感に震えながら目を潤ませ頬を染めたエマの痴態を見つめ、ロキは自分の口元に飛び散った愛液を赤い舌で舐めとった。

「はぁ、ずいぶん可愛い声を出してイキましたね。ほらここももっと私に可愛がって欲しそうに濡れて待ちわびていますよ。
 もっともっと愛撫して、私の肉棒ペニスを欲しがるようにしてあげますね……んふふ、死の世界ヘルヘイムの夜は長いですから」

 エマは呼吸を整えながら頭を振ったが、ロキは丁重に歌姫の花弁を指先で開くと翡翠の瞳を淫靡に細めた。
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