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第五話 近況報告と不穏な影③
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バイト初日は、あのヤンキーたち以外は大きなトラブルも無く順調に仕事を終えることができた。
慣れない仕事で戸惑う部分もあったけど前職で鍛えたスキルは無駄じゃなかったかな。
あれから、家に帰ってあの二人のことを母さんに聞いてみたんだけど、あの悪霊を一回で完全に祓うことは難しくて、何度か神社に通ってもらうことにしたらしい。
それなら、僕も立ち会って手伝えそうだ。
とりあえず、応急措置として雨宮神社の御札を渡したみたいで、ホッとした。
『あんた……、そんな念入りに髪の毛を弄ったって普段と変わりゃしないよ。はよ、しなさい。梨子ちゃんとあの坊やの出迎えに間に合わなくなるよ』
「ばぁちゃん、邪魔だよ。あのさ、これは気持ちの問題なの」
鏡の中を覗き込むばぁちゃんに尻を叩かれて僕は、フェリーまで梨子たちを迎えに行くことにする。
フツメンが何しても変わらないだろ、と身内に思われているのが切ない。
この島も寒くなってきて、コートを手放せないが、晴れ女の梨子と会うときはいつも晴天だ。
観光シーズンや、行事のある時以外は本土から人が訪れるのはそれほど多くなく(といってもパワースポット巡りの人はいる)フェリーを通勤手段に使っているのは、決まった人ばかりだ。
自転車で坂を折り、船着場までくると、ちょうどフェリーから梨子と明くんが降りてくる所でぎりぎりセーフだった。
「健くん! おひさしぶり。変わりないね……お迎えありがとう」
「よぉ、雨宮。ひさしぶりだな、会いたかったぞー! お前のばぁちゃん今日もイケてんな」
『全く口の上手い子だねぇ』
梨子は相変わらず都内のお洒落な女子大生という感じで本当に可愛い。ロングスカートにニットのセーター、そしてブーツ。
僕の鼻の下が無意識に伸びてそうで怖い。
明くんは、本職がお坊さんとは思えないほどの……ヒップホップ感が溢れていた。二人はスーツケースを引きながらこちらに向かってくる。
「こっちに越してきて、そんなにたってないけどね。二人とも元気そうで良かった。僕は夕方から仕事なんだけど、それまでなら空いてるんだ」
「それじゃ、喫茶店でお茶しようか。明はどうするの? このまま葉月ちゃんのところに行く?」
「いや、一応約束の時間まで、一時間あるから俺も暇つぶしをするよ」
葉月ちゃん、と言うのがこの島で合う予定の知人女性だろうか。梨子が親しげな様子で会話に出しているところを見ると知り合いなのかな。
辰子島には、喫茶店が二箇所ほどあって、海を見ながら珈琲が飲める観光客向けのお洒落なカフェと、いわゆる昔ながらの常連が行くような喫茶店があった。
僕ら的には、新しくできたソラカフェのほうがリラックスできる。
「それじゃ、とりあえず『ソラカフェ』にでも行く?」
「そうだね、なんなら葉月ちゃんも呼べばいいのに」
「いやさ……雨宮『わくわくマート』で働いてるんだろ? 安藤さん的に複雑なんじゃないかなーってな」
安藤葉月。
その名前に何となく聞き覚えがある。たしか同じ高校で……、一個下の後輩に同じ名前の子がいた。もし、僕の記憶に間違いが無ければ『萬屋マーケット』のお店の子だ。
「その子って、辰子北高の安藤さん? 萬屋マーケットの?」
「そうだよ。やっぱり、離島だとほとんど顔見知りみたいな感じなんだな。大型コンビニチェーン店ができて、売上落ちたらしいからさ」
なるほど。
都会でライバル店に務める同業者同士なら競争相手とはいえ、個人的に付き合えても離島の自営業だと厳しそうだ。
と言うか、そんなこと言われたら萬屋マーケットに行けなくなるんだけど……。
✤✤✤
浜を見降ろせる場所にある『ソラカフェ』は観光シーズンでは無いので、行列になるほど人は多くなく、ゆったりと過ごせた。
梨子は卒論の大変さを愚痴っていたが、雨宮神社と辰子島の謎に迫る!と意気込んでいる。明くんは、どうやら今は高校の友人たちと音源を作っているらしい。
お寺は継ぐ意志はあるものの、ラッパーになる夢は捨てていないんだとか。
「それで、葉月ちゃんとどこで知り合ったの?」
「ったく、梨子は本当に根掘り葉掘りきくなぁ。安藤さんは島から出て、関東の短大に進学したんだよ。それで、俺が僧侶の修行が嫌になって都会の方で一人暮らしした時に、働いてた居酒屋のバイトで知り合った」
「へぇ。僕も神主継ぎたくなくて就職したから、なんだか気持ちはわかるなぁ」
寺も神社も維持が大変だし、後継者も居なくなって、今じゃどんどん地方の神社仏閣の数も少なくなっている。
話を戻すと、どうやら二人はバイト先の先輩後輩の関係だったようだ。二人はバイト先で仲が良くなり、それからバイト仲間数人で遊びに行くようになったんだとか。
雰囲気からして、明くんはなんとなく彼女に好意を持っていたような感じた。
安藤さんはそれからお母さんを病気で亡くし、関東では就職せず卒業とともに島へと帰って、お父さんの仕事を手伝うことにしたらしい。
「帰ってから彼氏ができたみたいなんだけど、そいつ島のやつじゃなくて、まともな職についてなかったらしいんだよ。安藤さんの親父さんに頼みこんで店で働かせて貰えば良かったのにな……あげくに、行方不明になっちまって、その後に妊娠が発覚したから大変だよ」
直接、話をしたことは無いんだけど安藤さんは結構苦労しているんだな。しかし、島民じゃない人が行方不明か……。
こんな話、聞いていいのか分からないけどなんだか妙に引っかかる。
「島の生活と、彼女が嫌になって本土に帰ったのかな、それなら最低な人だね」
「いや、それがな。勤務中に行方不明になったんだよ。財布もスマホも全部店に置いて居なくなった。どうやら身内がどこにいるのか分からなくて、緊急連絡先も繋がらないんだってよ」
――――え?
勤務中に行方不明になった?
身内がいない、緊急連絡先がでたらめ。
「………安藤さんの彼氏、もしかして神崎さんって言う人じゃないか?」
慣れない仕事で戸惑う部分もあったけど前職で鍛えたスキルは無駄じゃなかったかな。
あれから、家に帰ってあの二人のことを母さんに聞いてみたんだけど、あの悪霊を一回で完全に祓うことは難しくて、何度か神社に通ってもらうことにしたらしい。
それなら、僕も立ち会って手伝えそうだ。
とりあえず、応急措置として雨宮神社の御札を渡したみたいで、ホッとした。
『あんた……、そんな念入りに髪の毛を弄ったって普段と変わりゃしないよ。はよ、しなさい。梨子ちゃんとあの坊やの出迎えに間に合わなくなるよ』
「ばぁちゃん、邪魔だよ。あのさ、これは気持ちの問題なの」
鏡の中を覗き込むばぁちゃんに尻を叩かれて僕は、フェリーまで梨子たちを迎えに行くことにする。
フツメンが何しても変わらないだろ、と身内に思われているのが切ない。
この島も寒くなってきて、コートを手放せないが、晴れ女の梨子と会うときはいつも晴天だ。
観光シーズンや、行事のある時以外は本土から人が訪れるのはそれほど多くなく(といってもパワースポット巡りの人はいる)フェリーを通勤手段に使っているのは、決まった人ばかりだ。
自転車で坂を折り、船着場までくると、ちょうどフェリーから梨子と明くんが降りてくる所でぎりぎりセーフだった。
「健くん! おひさしぶり。変わりないね……お迎えありがとう」
「よぉ、雨宮。ひさしぶりだな、会いたかったぞー! お前のばぁちゃん今日もイケてんな」
『全く口の上手い子だねぇ』
梨子は相変わらず都内のお洒落な女子大生という感じで本当に可愛い。ロングスカートにニットのセーター、そしてブーツ。
僕の鼻の下が無意識に伸びてそうで怖い。
明くんは、本職がお坊さんとは思えないほどの……ヒップホップ感が溢れていた。二人はスーツケースを引きながらこちらに向かってくる。
「こっちに越してきて、そんなにたってないけどね。二人とも元気そうで良かった。僕は夕方から仕事なんだけど、それまでなら空いてるんだ」
「それじゃ、喫茶店でお茶しようか。明はどうするの? このまま葉月ちゃんのところに行く?」
「いや、一応約束の時間まで、一時間あるから俺も暇つぶしをするよ」
葉月ちゃん、と言うのがこの島で合う予定の知人女性だろうか。梨子が親しげな様子で会話に出しているところを見ると知り合いなのかな。
辰子島には、喫茶店が二箇所ほどあって、海を見ながら珈琲が飲める観光客向けのお洒落なカフェと、いわゆる昔ながらの常連が行くような喫茶店があった。
僕ら的には、新しくできたソラカフェのほうがリラックスできる。
「それじゃ、とりあえず『ソラカフェ』にでも行く?」
「そうだね、なんなら葉月ちゃんも呼べばいいのに」
「いやさ……雨宮『わくわくマート』で働いてるんだろ? 安藤さん的に複雑なんじゃないかなーってな」
安藤葉月。
その名前に何となく聞き覚えがある。たしか同じ高校で……、一個下の後輩に同じ名前の子がいた。もし、僕の記憶に間違いが無ければ『萬屋マーケット』のお店の子だ。
「その子って、辰子北高の安藤さん? 萬屋マーケットの?」
「そうだよ。やっぱり、離島だとほとんど顔見知りみたいな感じなんだな。大型コンビニチェーン店ができて、売上落ちたらしいからさ」
なるほど。
都会でライバル店に務める同業者同士なら競争相手とはいえ、個人的に付き合えても離島の自営業だと厳しそうだ。
と言うか、そんなこと言われたら萬屋マーケットに行けなくなるんだけど……。
✤✤✤
浜を見降ろせる場所にある『ソラカフェ』は観光シーズンでは無いので、行列になるほど人は多くなく、ゆったりと過ごせた。
梨子は卒論の大変さを愚痴っていたが、雨宮神社と辰子島の謎に迫る!と意気込んでいる。明くんは、どうやら今は高校の友人たちと音源を作っているらしい。
お寺は継ぐ意志はあるものの、ラッパーになる夢は捨てていないんだとか。
「それで、葉月ちゃんとどこで知り合ったの?」
「ったく、梨子は本当に根掘り葉掘りきくなぁ。安藤さんは島から出て、関東の短大に進学したんだよ。それで、俺が僧侶の修行が嫌になって都会の方で一人暮らしした時に、働いてた居酒屋のバイトで知り合った」
「へぇ。僕も神主継ぎたくなくて就職したから、なんだか気持ちはわかるなぁ」
寺も神社も維持が大変だし、後継者も居なくなって、今じゃどんどん地方の神社仏閣の数も少なくなっている。
話を戻すと、どうやら二人はバイト先の先輩後輩の関係だったようだ。二人はバイト先で仲が良くなり、それからバイト仲間数人で遊びに行くようになったんだとか。
雰囲気からして、明くんはなんとなく彼女に好意を持っていたような感じた。
安藤さんはそれからお母さんを病気で亡くし、関東では就職せず卒業とともに島へと帰って、お父さんの仕事を手伝うことにしたらしい。
「帰ってから彼氏ができたみたいなんだけど、そいつ島のやつじゃなくて、まともな職についてなかったらしいんだよ。安藤さんの親父さんに頼みこんで店で働かせて貰えば良かったのにな……あげくに、行方不明になっちまって、その後に妊娠が発覚したから大変だよ」
直接、話をしたことは無いんだけど安藤さんは結構苦労しているんだな。しかし、島民じゃない人が行方不明か……。
こんな話、聞いていいのか分からないけどなんだか妙に引っかかる。
「島の生活と、彼女が嫌になって本土に帰ったのかな、それなら最低な人だね」
「いや、それがな。勤務中に行方不明になったんだよ。財布もスマホも全部店に置いて居なくなった。どうやら身内がどこにいるのか分からなくて、緊急連絡先も繋がらないんだってよ」
――――え?
勤務中に行方不明になった?
身内がいない、緊急連絡先がでたらめ。
「………安藤さんの彼氏、もしかして神崎さんって言う人じゃないか?」
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