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24 それぞれの思惑①
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ブリッランテ神殿に匿われてから、まるで今までの事が、夢だったように穏やかな日々を過ごしているわ。これもアリア様や神殿の方々が、護って下さるお陰ね。
とはいえ、自室で閉じ籠もっていても仕方ないので、少しでも聖女らしくなれるように、数少ない文献を読んだり、アリオーソ様の事を勉強しているのだけれど……だんだん体が鈍ってきちゃった。
今度この神殿の厨房で、働かせて貰おうかな? ずっと酒宿場で働いていたし、役に立てると思う。
「お待ち下さい。聖女様、そのような事は私が致します」
「えっ、あっ」
服装からして……この人間は、上位の魔法使いさんみたいね。
ブリッランテ神殿の奥には、採掘されて運ばれてきた魔石を加工する場所と、魔力を持った薬草を、栽培する場所が隣り合わせで存在しているの。
どちらも、魔法使いにとっては必要不可欠な物で、お布施の他にこれも販売して、収入源にしているみたい。魔石を加工してアクセサリーにするのは、私には難し過ぎるから無理。だから、巫女さん達に紛れて、薬草を収穫するお手伝いをしていたのだけれど。
「しゅ、収穫のお手伝いをしていたのですが、駄目ですか」
眼鏡を抑えながら、上位魔法使いさんは渋い顔をした。ここの護衛を任されているのかしら。
「聖女様のお優しいお心遣いに感謝致します。ですが、これは新人巫女のお仕事の一つでもありますので。それに手を切ってしまわれると大変ですよ」
確かにここで栽培されている、魔力を持った薬草と呼ばれる品種は、茎に棘が沢山ついているから、油断すると手を切ってしまったりするわ。そんな事を考えていたら、背後で『痛っ』という声が聞こえた。
「大丈夫ですか?」
振り向くと、私より年下の巫女さんが収穫中に鋭い刺で手を怪我してしまったみたい。私は彼女の手を取って、傷口を見た。掌を切ってしまったようだわ。傷は浅いけれどスッパリと切れて痛々しく、血が滲んでいる。
「これは痛そうだわ……」
私が聖女なら、治癒力の一つも備わっていないとおかしいわよね。試しに彼女の手を包みこんで祈ると、私の両手からキラキラと光る粒子が放出された。そしてあっという間に傷口が塞がれて、驚く。
「呪文も詠唱せずに、治療が出来るだなんて……! 凄い、さすがは聖女様ですね」
「治癒魔法は、上級者になって初めて扱えるような高等魔法なのですよ。我々ブリッランテ神殿を御守りする、訓練された上級魔法使いであっても、高度な魔法技術です」
「そ、そうなんですか……。私、魔法の事は全然何も分からなくて」
傷を癒やした事で、収穫をしていた巫女さん達が、私を取り囲むようにして褒め讃える。私がこの神殿に来て、もう数日経ったけれど、徐々に彼らにも私が『聖女』だって認識されるようになってきた。
アリア様が、私をいつでも誰かが護れるように、神殿の巫女達や、魔法使いの護衛さん達にお話をしているようだった。ただ、闇雲に不安を煽らないように不吉な預言は、まだ彼等に伏せているみたいだけれど。
それにしても軽い気持ちで試しただけなのに、成功しちゃった。こんなに囲まれてなんだか恥ずかしくなってきちゃうわ。
「お! さっすが、俺の聖女ちゃん♪ 早速ミラクル起こしちゃってる感じぃ? 君たちぃ、ドルチェちゃんをこれまで以上に崇め祀りたまえよ」
「レジェロ様、お帰りなさい」
巫女さん達に囲まれていると、おどけた様子で、両手を広げたレジェロ様が現れた。彼の姿を見ると、全員恭しく頭を下げる。
「ただいまぁ、ドルチェちゃん♡ ついでに好きだって言ってた、ホーリックの木苺のパイタルトも買ってきたよーん♪」
「えっ、本当に? 嬉しいっ、ありがとう」
そう言えば、不自然にバスケットを持っているなぁと思っていたけれど、私の大好きなお店の木苺パイタルトを買ってきてくれたのね。頼んでた訳じゃないのに……、レジェロ様ってば、外に出られない私を気遣ってくれたんだ。素直に嬉しい。
目を輝かせてバスケットの中を見ようとすると、レジェロ様はそれを意地悪に遠ざけ、顔を突き出してきた。
「な、なに?」
「ご褒美♪ キスしてくんね?」
「あ、あの……皆が見てるんですけど」
「あららーー、ドルチェちゃん。激ウマ木苺パイタルト、食べたくねぇの?」
私は赤面しながら周囲の様子を伺う。微笑ましく見守っている人もいれば、目を逸らす人もいて、とんでもなく恥ずかしいわ。
でもレジェロ様は、キスしないと拗そうだし、私はもうどうにでもなれの気持ちで、軽く唇にキスした。満足そうにニヤニヤするレジェロ様は、本当に子供みたい。
そのまま後頭部を支えられ、深く口付けられそうになり、私は慌ててレジェロ様の胸板を押す。
ここに居るのが恥ずかしくなって、私は彼女達にお手伝いさせて貰った礼をすると、レジェロ様の腕をぐいぐい引っ張り、そこから離れた。
「なになになに~~? ドルチェちゃんったらお昼間から積極的だねぇ♡」
「もう! 子供じゃないんだからやめて。恥ずかしいじゃない。それで、帝都はどんな様子だったの?」
わざとおどけてみせるレジェロ様を見上げながら、街の様子を聞いてみた。私は危険だから、外出は禁じられているけれど、レジェロ様は多少は許される……というか、勝手に外出してしまうので、アリア様が渋々許可しているみたい。
「ん~~? そりゃもう、オラトリオ中がお祭り騒ぎになってんね。なんたって大英雄の邪神を倒した黒衣の竜騎士様と、星の女神と謳われたキラキラ女帝の結婚式よ? あいつら、神竜が死んだ事なんてもう忘れてんじゃねぇの。人間やエルフ、獣人までどんちゃん騒ぎだかんね♪」
「そう……」
もし、私が『聖女』じゃなかったら、友達や家族とお二人の結婚パレードを見たり、露店巡りを楽しんでいたかしら。ううん、きっと酒宿場にお客様が一杯で、それどころじゃなかったかもしれないわ。そう思うとなんだか寂しい気持ちになった。
アリア様も含めブリッランテ神殿の人々は世俗から切り離されたみたいに、いつもの日常を送ってる。もしかして、他の神様に使える人々も、そうなのかもしれないけれど、まるで外の事が分からない。
時折、演奏や人々の歓声が聞こえ、花火が打ち上げられるような音が響くから、ぼんやりとその光景を想像するのだけれど。
「ランスロット君、俺を呼んでくれないなんて薄情だよなぁ。まぁ、俺はつまんねぇ結婚式より、聖女ちゃんと、結婚パレード限定激ウマ木苺パイタルトが食える方が良いけどね♡」
「レジェロ様は、私の騎士になっちゃったから……でも、ありがとう。優しいのね」
「違う違う。俺って、ドルチェちゃんだけに特別優しいのよね。あ、でもね。今日はちゃんアリの分まで買ってから♪ モテる男は違うっしょ?」
ちゃんアリ……あ、アリア様の事かな……?
いつもふざけた感じのレジェロ様だけど、最近は前より優しくなった気がする。初めに出逢った時は、もっと怖い感じだったもの。
「それじゃあ、三人でお茶にしましょう」
「だねぇ☆ それにぃ、あのランスロットくんが正式に皇配になった以上、俺等もきっちり、世間様に認識させねぇとな。さっき見せた『奇跡』は使えるかんね。アリアちゃんと話し合いしなきゃな♪」
「え……?」
レジェロ様は遠くを見ると、口端に笑みを浮かべていた。レジェロ様には、何か考えがあるのかしら?
✤✤✤
今日ばかりは、ブリッランテ神殿を訪れる信徒達もほとんど居ない。帝都中の人々が種族の垣根を越えて、ランスロット様とメヌエット様の結婚をお祝いしているのだから。
アリア様は魔法陣が描かれた祈りの場に座り込むと、台座に鎮座されている女神様に向けて、祈りを捧げていらっしゃるみたい。
私達は邪魔しないように、神殿の柱に隠れて、終わられるまでアリア様を待つ事にした。女神ブリッランテの像は、フードを被ったローブの美女で、裸体に大きな紫色の魔法石がついた杖を持っている。神秘的で綺麗だわ。
「アリオーソ様の神殿も、女神様の像があるのかしら? ロマネスク様の神殿は、黄金のシンボルが描かれた壁画だったから、偶像は不思議な感じ」
「あれ、行った事ねぇの? アリオーソの神殿は神竜とバリデカ女神像が飾られてるよん。帝都の中で一番立派じゃねぇかな♪ つーか、ドルチェちゃんってさぁ。前から思ってたけどなんとなくアリオーソの女神像に似てるね♡ 言われた事なーい?」
「え……そ、そうなの?」
私は、商売の神様であるロマネスク神殿しか行った事がないから、アリオーソの女神像がどんな姿をしているのか知らない。
アリオーソ様のお姿は、難しい本の挿絵くらいでしか、見た事がないもの。でも、女神様に似てるだなんてそんなの、恐れ多いわ。絶対レジェロ様の勘違いよ。
「聖女様、レジェロ様。お待たせ致しました」
祈りを終えたアリア様は、エルフの巫女に支えられながらこちらまで来ると、どこか疲れた様子で私達に頭を下げる。
彼女の妹であるメヌエット様は、ソルフェージュ帝国と、この大陸に影を落とす不穏の種だと、アリア様は考えているみたい。
「アリア様、顔色が悪いです。大丈夫ですか?」
「聖女様、ご心配をお掛けして申し訳ありません。魔力の限りソルフェージュ帝国の平和を祈っておりました。正式にランスロット様が皇配となられ、その先のソルフェージュ帝国の未来を視ようと試みたのですが、メヌエットの未来と一緒に影と靄に包まれてしまって……。ブリッランテ様のお力を借りても、やはり無理でした」
アリア様はそういうと、フラフラと前に倒れ込みそうになり、私は慌てて彼女を受け止める。マリア様の背中に腕を回すと、彼女ははっとしたように光を失った瞳でじっと私を見つめた。彼女の体を、光の粒子がぼんやりと包みこむと、キラキラと光って、砂のようにサラサラと消えていった。
「……今のお力は聖女様ですか? なんという事でしょう。影に触れた穢れが消え、魔力が回復しました。こんな事は初めての事です。これが聖女様の奇跡、聖女様の御力」
ブリッランテ様は、私の両手を握ると感極まったようにそう言った。
とはいえ、自室で閉じ籠もっていても仕方ないので、少しでも聖女らしくなれるように、数少ない文献を読んだり、アリオーソ様の事を勉強しているのだけれど……だんだん体が鈍ってきちゃった。
今度この神殿の厨房で、働かせて貰おうかな? ずっと酒宿場で働いていたし、役に立てると思う。
「お待ち下さい。聖女様、そのような事は私が致します」
「えっ、あっ」
服装からして……この人間は、上位の魔法使いさんみたいね。
ブリッランテ神殿の奥には、採掘されて運ばれてきた魔石を加工する場所と、魔力を持った薬草を、栽培する場所が隣り合わせで存在しているの。
どちらも、魔法使いにとっては必要不可欠な物で、お布施の他にこれも販売して、収入源にしているみたい。魔石を加工してアクセサリーにするのは、私には難し過ぎるから無理。だから、巫女さん達に紛れて、薬草を収穫するお手伝いをしていたのだけれど。
「しゅ、収穫のお手伝いをしていたのですが、駄目ですか」
眼鏡を抑えながら、上位魔法使いさんは渋い顔をした。ここの護衛を任されているのかしら。
「聖女様のお優しいお心遣いに感謝致します。ですが、これは新人巫女のお仕事の一つでもありますので。それに手を切ってしまわれると大変ですよ」
確かにここで栽培されている、魔力を持った薬草と呼ばれる品種は、茎に棘が沢山ついているから、油断すると手を切ってしまったりするわ。そんな事を考えていたら、背後で『痛っ』という声が聞こえた。
「大丈夫ですか?」
振り向くと、私より年下の巫女さんが収穫中に鋭い刺で手を怪我してしまったみたい。私は彼女の手を取って、傷口を見た。掌を切ってしまったようだわ。傷は浅いけれどスッパリと切れて痛々しく、血が滲んでいる。
「これは痛そうだわ……」
私が聖女なら、治癒力の一つも備わっていないとおかしいわよね。試しに彼女の手を包みこんで祈ると、私の両手からキラキラと光る粒子が放出された。そしてあっという間に傷口が塞がれて、驚く。
「呪文も詠唱せずに、治療が出来るだなんて……! 凄い、さすがは聖女様ですね」
「治癒魔法は、上級者になって初めて扱えるような高等魔法なのですよ。我々ブリッランテ神殿を御守りする、訓練された上級魔法使いであっても、高度な魔法技術です」
「そ、そうなんですか……。私、魔法の事は全然何も分からなくて」
傷を癒やした事で、収穫をしていた巫女さん達が、私を取り囲むようにして褒め讃える。私がこの神殿に来て、もう数日経ったけれど、徐々に彼らにも私が『聖女』だって認識されるようになってきた。
アリア様が、私をいつでも誰かが護れるように、神殿の巫女達や、魔法使いの護衛さん達にお話をしているようだった。ただ、闇雲に不安を煽らないように不吉な預言は、まだ彼等に伏せているみたいだけれど。
それにしても軽い気持ちで試しただけなのに、成功しちゃった。こんなに囲まれてなんだか恥ずかしくなってきちゃうわ。
「お! さっすが、俺の聖女ちゃん♪ 早速ミラクル起こしちゃってる感じぃ? 君たちぃ、ドルチェちゃんをこれまで以上に崇め祀りたまえよ」
「レジェロ様、お帰りなさい」
巫女さん達に囲まれていると、おどけた様子で、両手を広げたレジェロ様が現れた。彼の姿を見ると、全員恭しく頭を下げる。
「ただいまぁ、ドルチェちゃん♡ ついでに好きだって言ってた、ホーリックの木苺のパイタルトも買ってきたよーん♪」
「えっ、本当に? 嬉しいっ、ありがとう」
そう言えば、不自然にバスケットを持っているなぁと思っていたけれど、私の大好きなお店の木苺パイタルトを買ってきてくれたのね。頼んでた訳じゃないのに……、レジェロ様ってば、外に出られない私を気遣ってくれたんだ。素直に嬉しい。
目を輝かせてバスケットの中を見ようとすると、レジェロ様はそれを意地悪に遠ざけ、顔を突き出してきた。
「な、なに?」
「ご褒美♪ キスしてくんね?」
「あ、あの……皆が見てるんですけど」
「あららーー、ドルチェちゃん。激ウマ木苺パイタルト、食べたくねぇの?」
私は赤面しながら周囲の様子を伺う。微笑ましく見守っている人もいれば、目を逸らす人もいて、とんでもなく恥ずかしいわ。
でもレジェロ様は、キスしないと拗そうだし、私はもうどうにでもなれの気持ちで、軽く唇にキスした。満足そうにニヤニヤするレジェロ様は、本当に子供みたい。
そのまま後頭部を支えられ、深く口付けられそうになり、私は慌ててレジェロ様の胸板を押す。
ここに居るのが恥ずかしくなって、私は彼女達にお手伝いさせて貰った礼をすると、レジェロ様の腕をぐいぐい引っ張り、そこから離れた。
「なになになに~~? ドルチェちゃんったらお昼間から積極的だねぇ♡」
「もう! 子供じゃないんだからやめて。恥ずかしいじゃない。それで、帝都はどんな様子だったの?」
わざとおどけてみせるレジェロ様を見上げながら、街の様子を聞いてみた。私は危険だから、外出は禁じられているけれど、レジェロ様は多少は許される……というか、勝手に外出してしまうので、アリア様が渋々許可しているみたい。
「ん~~? そりゃもう、オラトリオ中がお祭り騒ぎになってんね。なんたって大英雄の邪神を倒した黒衣の竜騎士様と、星の女神と謳われたキラキラ女帝の結婚式よ? あいつら、神竜が死んだ事なんてもう忘れてんじゃねぇの。人間やエルフ、獣人までどんちゃん騒ぎだかんね♪」
「そう……」
もし、私が『聖女』じゃなかったら、友達や家族とお二人の結婚パレードを見たり、露店巡りを楽しんでいたかしら。ううん、きっと酒宿場にお客様が一杯で、それどころじゃなかったかもしれないわ。そう思うとなんだか寂しい気持ちになった。
アリア様も含めブリッランテ神殿の人々は世俗から切り離されたみたいに、いつもの日常を送ってる。もしかして、他の神様に使える人々も、そうなのかもしれないけれど、まるで外の事が分からない。
時折、演奏や人々の歓声が聞こえ、花火が打ち上げられるような音が響くから、ぼんやりとその光景を想像するのだけれど。
「ランスロット君、俺を呼んでくれないなんて薄情だよなぁ。まぁ、俺はつまんねぇ結婚式より、聖女ちゃんと、結婚パレード限定激ウマ木苺パイタルトが食える方が良いけどね♡」
「レジェロ様は、私の騎士になっちゃったから……でも、ありがとう。優しいのね」
「違う違う。俺って、ドルチェちゃんだけに特別優しいのよね。あ、でもね。今日はちゃんアリの分まで買ってから♪ モテる男は違うっしょ?」
ちゃんアリ……あ、アリア様の事かな……?
いつもふざけた感じのレジェロ様だけど、最近は前より優しくなった気がする。初めに出逢った時は、もっと怖い感じだったもの。
「それじゃあ、三人でお茶にしましょう」
「だねぇ☆ それにぃ、あのランスロットくんが正式に皇配になった以上、俺等もきっちり、世間様に認識させねぇとな。さっき見せた『奇跡』は使えるかんね。アリアちゃんと話し合いしなきゃな♪」
「え……?」
レジェロ様は遠くを見ると、口端に笑みを浮かべていた。レジェロ様には、何か考えがあるのかしら?
✤✤✤
今日ばかりは、ブリッランテ神殿を訪れる信徒達もほとんど居ない。帝都中の人々が種族の垣根を越えて、ランスロット様とメヌエット様の結婚をお祝いしているのだから。
アリア様は魔法陣が描かれた祈りの場に座り込むと、台座に鎮座されている女神様に向けて、祈りを捧げていらっしゃるみたい。
私達は邪魔しないように、神殿の柱に隠れて、終わられるまでアリア様を待つ事にした。女神ブリッランテの像は、フードを被ったローブの美女で、裸体に大きな紫色の魔法石がついた杖を持っている。神秘的で綺麗だわ。
「アリオーソ様の神殿も、女神様の像があるのかしら? ロマネスク様の神殿は、黄金のシンボルが描かれた壁画だったから、偶像は不思議な感じ」
「あれ、行った事ねぇの? アリオーソの神殿は神竜とバリデカ女神像が飾られてるよん。帝都の中で一番立派じゃねぇかな♪ つーか、ドルチェちゃんってさぁ。前から思ってたけどなんとなくアリオーソの女神像に似てるね♡ 言われた事なーい?」
「え……そ、そうなの?」
私は、商売の神様であるロマネスク神殿しか行った事がないから、アリオーソの女神像がどんな姿をしているのか知らない。
アリオーソ様のお姿は、難しい本の挿絵くらいでしか、見た事がないもの。でも、女神様に似てるだなんてそんなの、恐れ多いわ。絶対レジェロ様の勘違いよ。
「聖女様、レジェロ様。お待たせ致しました」
祈りを終えたアリア様は、エルフの巫女に支えられながらこちらまで来ると、どこか疲れた様子で私達に頭を下げる。
彼女の妹であるメヌエット様は、ソルフェージュ帝国と、この大陸に影を落とす不穏の種だと、アリア様は考えているみたい。
「アリア様、顔色が悪いです。大丈夫ですか?」
「聖女様、ご心配をお掛けして申し訳ありません。魔力の限りソルフェージュ帝国の平和を祈っておりました。正式にランスロット様が皇配となられ、その先のソルフェージュ帝国の未来を視ようと試みたのですが、メヌエットの未来と一緒に影と靄に包まれてしまって……。ブリッランテ様のお力を借りても、やはり無理でした」
アリア様はそういうと、フラフラと前に倒れ込みそうになり、私は慌てて彼女を受け止める。マリア様の背中に腕を回すと、彼女ははっとしたように光を失った瞳でじっと私を見つめた。彼女の体を、光の粒子がぼんやりと包みこむと、キラキラと光って、砂のようにサラサラと消えていった。
「……今のお力は聖女様ですか? なんという事でしょう。影に触れた穢れが消え、魔力が回復しました。こんな事は初めての事です。これが聖女様の奇跡、聖女様の御力」
ブリッランテ様は、私の両手を握ると感極まったようにそう言った。
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