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【水狼編】
白虎帝の進言
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静が転倒した際に、軽い怪我を負ってしまったことで大きな問題になってしまった。水狼には、静の大袈裟な演技に見えたが仮にも彼は、青龍帝の側近である。
青龍帝が白虎帝に抗議してしまい、尾ヒレがついて同胞の耳にも入った。
しかも、それに雌雄関係が絡んでるとなると、おのずと狼族の目も厳しくなってしまう。おまけに騒ぎになったことで、龍月にも、この件が耳に入ってしまい、ますます鳴麗と水狼の物理的距離は、離れていくばかりだった。
「はぁ……。まさか、長老から白虎帝様の側を離れて、実家に帰れなんて言われるとは思わなかったな」
こうして何日、屋敷にいるのだろう。水狼はそうぼやくと布団の上に寝転がる。幼なじみとして、番として、彼女を守ったと言っても群れのみんなは険しい顔をしていた。それでも両親だけは、一定の理解は示してくれたが。
幼なじみや友としてならいいが、伴侶として番う相手としては、黒龍族は信用できないというのが、群れの答えだろう。
その昔、白虎帝をそそのかして西の國を傾けようとしたのが、黒龍族の雌だった。話によると彼女は、白虎帝の先代で道を踏み外した白龍帝を盲信し、白虎帝が支配する西の國家の転覆を狙っていたという。
「本当に馬鹿げた話だけど、同じ種族だからって、鳴麗がそんなことするわけない。でも、白虎帝様には迷惑掛けちゃったしな」
それでも、西の宮廷から出て行けという言葉を、白虎帝から聞いていない。高級官吏の長老からはほとぼりが冷めるまで、当分の間は宮廷に来るなと、謹慎処分を受けただけだ。
なにより、鳴麗が今どんな気持ちで過ごしているのか心配でならない。あの日、水狼は混乱の最中取り押さえられて、鳴麗は不安そうにしていた。自分にわざとらしく抱きついてきた美杏を見る金色の大きな傷付いた瞳を思い出すと、水狼の胸が締め付けられる。
どうすればいいのか、答えが出ないまま寝具の上でゴロゴロしていると窓辺に、鸞の幼鳥が舞い降りたのが見えた。
「ん? 手紙か……」
鸞の足に括り付けられていた手紙を外して読んでみる。それは、白虎帝からの手紙だった。要約すると『宮廷に来い。お前と話がしたい』という内容だ。
「さすがに、今回のことは青龍帝様からはお叱りが入ったから、白虎帝様にみっちり説教されそうだなぁ……。それともクビ、かな」
嫌がる鳴麗に無理矢理せまって、番になろうとしたのは静だ。それだけは、きちんと白虎帝に弁解しなくてはしつこい静から、鳴麗を護れないと水狼は思った。
✤✤✤
水狼は正装に着替え、西の宮廷に向かう。
案の定、高級官吏の老狼に見つかり、くどくどと説教された後に、お前には良家の雌との縁談を持ってきてやる、と望んでもいないことを持ち掛けられた。
水狼の家系は、代々群れの長老と密接な関係で、もちろん息子の彼も期待され、気にかけて貰ってはいる。
それには恩は感じるが、政略結婚だけは遠慮したい。まかり間違っても美杏と結婚はしたくないし、どんなに可愛いくて、性格の良い雌でも、水狼は鳴麗を番にすると幼獣の時から決めていた。
「はぁ……。本当、めちゃくちゃ疲れたな。話が長すぎるし、白虎帝様に呼ばれているって言ってるのに」
白虎帝を相当待たせてしまったのではないか。これから、白虎帝からもながながと説教を喰らうのではないかと思うと、水狼は胃が痛くなる。風が通る高山の上にある宮廷の東屋の周囲に、可愛らしい小さな花が群生していた。
気持ちの良い青空の下で、退屈そうに尻尾を揺らしていたのは、白虎帝だ。
妾妃の同胞の翠花が、ツンとした様子で扇を持ち、白虎帝をゆるりと扇いでいる。
「白虎帝様、本当に申し訳ございません!」
「おいおい、水狼。主上を待たせるとは、相変わらずいい度胸してるなぁ」
「途中で長老に見つかりまして……」
水狼は頭を掻きながら頭を垂れた。幼獣の時から今に至るまで、白虎帝には弟のように、可愛がって貰っている。こんなふうに友人のように振る舞って許されるのは、相手が水狼だからだろう。
「それは災難だったな。で、静はいきなり暴力を振るわれたと言っているのだが、それは間違いないのか?」
「俺が、いきなり殴ったのは事実です」
「ほう。お前と静の仲があまり良くなかったのは、周知の事実だったが。積年の恨みが頂点に達したのか?」
「それは違います! 嫌がる鳴麗を番にしようとしてっ……。番を盗られそうになると狼族は、理性を失うんです。だから俺、言葉よりも手が先に出ちゃって……。すみません」
暴力を振るったのは言い訳にならない。
それに相手は、青龍帝の側近という立場にあるのだから、白虎帝に任を解かれても仕方がないことをした。
「俺、白虎帝様を支えるのにふさわしくないなら、役人を辞めて畑仕事でもします。黒龍族の鳴麗と番になるのが許されないなら、同胞たちと縁を切ってでも、鳴麗と一緒になることを選びます」
水狼が、一方的にまくしたてるように言うと、白虎帝は思わず呆れたように笑い出した。
「俺が質問する前に、答えてどうする。お前が一番ウマが合うし、仕事もできる。それに、俺には靡かなかったが、鳴麗はいい雌だ。お前があの雌に本気なら、主上の俺が動くしかなかろう? おい、鳴麗」
水狼が目を丸くしていると、東屋の後ろに隠れていた鳴麗がひょっこりと顔を出すと、ずるずると鼻水を啜り、タッタッタと走って水狼に抱きつく。
「うわぁ! 鳴麗⁉ どうしてここに?」
「わぁぁん。白虎帝様が呼んでくれたの! 私、やっぱり水狼と結婚する! だって番は水狼しか考えられないよ」
水狼の発言に、感動した鳴麗はわんわん泣きながら尻尾を振った。騒がしい二人を見ながら、指で耳を塞いだ白虎帝は言う。
「黒龍族とのことは俺が原因だからな。俺がお前たちの結婚を認めれば、狼族は従うだろう。俺と玄武で青龍帝の落とし前はつける。んで、龍月の方だが、こっちは玄武から説得して貰った」
その言葉を聞いた瞬間、さらに二人はわぁわぁと盛り上がる。不敬にも二人が白虎帝に抱きつくと妾妃は慌てふためき、白虎帝は顔を引き攣らせた。
「おい、離れろお前ら。乳臭い」
青龍帝が白虎帝に抗議してしまい、尾ヒレがついて同胞の耳にも入った。
しかも、それに雌雄関係が絡んでるとなると、おのずと狼族の目も厳しくなってしまう。おまけに騒ぎになったことで、龍月にも、この件が耳に入ってしまい、ますます鳴麗と水狼の物理的距離は、離れていくばかりだった。
「はぁ……。まさか、長老から白虎帝様の側を離れて、実家に帰れなんて言われるとは思わなかったな」
こうして何日、屋敷にいるのだろう。水狼はそうぼやくと布団の上に寝転がる。幼なじみとして、番として、彼女を守ったと言っても群れのみんなは険しい顔をしていた。それでも両親だけは、一定の理解は示してくれたが。
幼なじみや友としてならいいが、伴侶として番う相手としては、黒龍族は信用できないというのが、群れの答えだろう。
その昔、白虎帝をそそのかして西の國を傾けようとしたのが、黒龍族の雌だった。話によると彼女は、白虎帝の先代で道を踏み外した白龍帝を盲信し、白虎帝が支配する西の國家の転覆を狙っていたという。
「本当に馬鹿げた話だけど、同じ種族だからって、鳴麗がそんなことするわけない。でも、白虎帝様には迷惑掛けちゃったしな」
それでも、西の宮廷から出て行けという言葉を、白虎帝から聞いていない。高級官吏の長老からはほとぼりが冷めるまで、当分の間は宮廷に来るなと、謹慎処分を受けただけだ。
なにより、鳴麗が今どんな気持ちで過ごしているのか心配でならない。あの日、水狼は混乱の最中取り押さえられて、鳴麗は不安そうにしていた。自分にわざとらしく抱きついてきた美杏を見る金色の大きな傷付いた瞳を思い出すと、水狼の胸が締め付けられる。
どうすればいいのか、答えが出ないまま寝具の上でゴロゴロしていると窓辺に、鸞の幼鳥が舞い降りたのが見えた。
「ん? 手紙か……」
鸞の足に括り付けられていた手紙を外して読んでみる。それは、白虎帝からの手紙だった。要約すると『宮廷に来い。お前と話がしたい』という内容だ。
「さすがに、今回のことは青龍帝様からはお叱りが入ったから、白虎帝様にみっちり説教されそうだなぁ……。それともクビ、かな」
嫌がる鳴麗に無理矢理せまって、番になろうとしたのは静だ。それだけは、きちんと白虎帝に弁解しなくてはしつこい静から、鳴麗を護れないと水狼は思った。
✤✤✤
水狼は正装に着替え、西の宮廷に向かう。
案の定、高級官吏の老狼に見つかり、くどくどと説教された後に、お前には良家の雌との縁談を持ってきてやる、と望んでもいないことを持ち掛けられた。
水狼の家系は、代々群れの長老と密接な関係で、もちろん息子の彼も期待され、気にかけて貰ってはいる。
それには恩は感じるが、政略結婚だけは遠慮したい。まかり間違っても美杏と結婚はしたくないし、どんなに可愛いくて、性格の良い雌でも、水狼は鳴麗を番にすると幼獣の時から決めていた。
「はぁ……。本当、めちゃくちゃ疲れたな。話が長すぎるし、白虎帝様に呼ばれているって言ってるのに」
白虎帝を相当待たせてしまったのではないか。これから、白虎帝からもながながと説教を喰らうのではないかと思うと、水狼は胃が痛くなる。風が通る高山の上にある宮廷の東屋の周囲に、可愛らしい小さな花が群生していた。
気持ちの良い青空の下で、退屈そうに尻尾を揺らしていたのは、白虎帝だ。
妾妃の同胞の翠花が、ツンとした様子で扇を持ち、白虎帝をゆるりと扇いでいる。
「白虎帝様、本当に申し訳ございません!」
「おいおい、水狼。主上を待たせるとは、相変わらずいい度胸してるなぁ」
「途中で長老に見つかりまして……」
水狼は頭を掻きながら頭を垂れた。幼獣の時から今に至るまで、白虎帝には弟のように、可愛がって貰っている。こんなふうに友人のように振る舞って許されるのは、相手が水狼だからだろう。
「それは災難だったな。で、静はいきなり暴力を振るわれたと言っているのだが、それは間違いないのか?」
「俺が、いきなり殴ったのは事実です」
「ほう。お前と静の仲があまり良くなかったのは、周知の事実だったが。積年の恨みが頂点に達したのか?」
「それは違います! 嫌がる鳴麗を番にしようとしてっ……。番を盗られそうになると狼族は、理性を失うんです。だから俺、言葉よりも手が先に出ちゃって……。すみません」
暴力を振るったのは言い訳にならない。
それに相手は、青龍帝の側近という立場にあるのだから、白虎帝に任を解かれても仕方がないことをした。
「俺、白虎帝様を支えるのにふさわしくないなら、役人を辞めて畑仕事でもします。黒龍族の鳴麗と番になるのが許されないなら、同胞たちと縁を切ってでも、鳴麗と一緒になることを選びます」
水狼が、一方的にまくしたてるように言うと、白虎帝は思わず呆れたように笑い出した。
「俺が質問する前に、答えてどうする。お前が一番ウマが合うし、仕事もできる。それに、俺には靡かなかったが、鳴麗はいい雌だ。お前があの雌に本気なら、主上の俺が動くしかなかろう? おい、鳴麗」
水狼が目を丸くしていると、東屋の後ろに隠れていた鳴麗がひょっこりと顔を出すと、ずるずると鼻水を啜り、タッタッタと走って水狼に抱きつく。
「うわぁ! 鳴麗⁉ どうしてここに?」
「わぁぁん。白虎帝様が呼んでくれたの! 私、やっぱり水狼と結婚する! だって番は水狼しか考えられないよ」
水狼の発言に、感動した鳴麗はわんわん泣きながら尻尾を振った。騒がしい二人を見ながら、指で耳を塞いだ白虎帝は言う。
「黒龍族とのことは俺が原因だからな。俺がお前たちの結婚を認めれば、狼族は従うだろう。俺と玄武で青龍帝の落とし前はつける。んで、龍月の方だが、こっちは玄武から説得して貰った」
その言葉を聞いた瞬間、さらに二人はわぁわぁと盛り上がる。不敬にも二人が白虎帝に抱きつくと妾妃は慌てふためき、白虎帝は顔を引き攣らせた。
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