【R18】桃源郷で聖獣と霊獣に溺愛されています

蒼琉璃

文字の大きさ
上 下
13 / 70
【白虎編】

お前から目が離せない①

しおりを挟む
 鳴麗はあれから、龍月と水狼に酔っ払って気分が悪くなってしまったと嘘を付くと神殿を後にした。
 あの時はだいぶ酔いが回っていたので、ところどころ記憶は抜け落ちているものの、白虎帝と口付けを交わし『月の印』の反応が出てしまった事は覚えている。
 夕食を終えた鳴麗は自室に戻るとベッドに寝転んだ。

「ど、どうしよう~~、白虎帝さまと口付けしちゃうなんて……はぁ。うーーーーー!」

 鳴麗は真っ赤になり、思い出しただけでも心臓発作を起こしそうなくらいドキドキして、布団を頭まで被った。
 愛人にしてやろうとか、将来を誓うかとかとんでもない事を言われたような気がするが、今まで生きてきた中で、こんなにドキドキしたことは生まれて初めてだ。
 とはいえ、白虎帝は西の國を治める聖獣で自分の上司でも無くそうそう会う機会もないのだから、と心を落ち着かせた。
 聖獣おとなの悪い冗談かも知れないと思うと、なぜか妙に寂しく感じてしまって鳴麗は自分の気持ちに戸惑いを隠せなかった。

✤✤✤

 ―――――麗……
 ―――――鳴麗。

「鳴麗、起きなさい。また遅刻する」
「ふぁっ……んへぇ? んんぅ……ちこくぅ!」
「熱はない……二日酔いも大丈夫そうだな」
 
 過保護の龍月は額を重ね、体調に変化がないと知ると安堵あんどしたように微笑む。
 そんな彼を押しのけるようにして慌てて服を着替え始める。
 昨日は遅くまで武陵桃源の誓いで起こった白虎帝様との破廉恥はれんちな出来事を考え込んでいるうちに、就寝するのがいつもより遅くなってしまった。
 義兄に呆れたように起こされ、鳴麗は自宅を飛び出すと朝食も取らずに、用意をしてバタバタと出発する。
 珍しく義兄が自分よりゆっくりとしているのは、玄武様の命令で貧民街の調査に出ると言う話を昨晩していたのを思い出したが今はそれどころではない。
 さすがに、何度も遅れそうになってしまっては女官の雷だけでは済まないだろう。
 まだ時刻を告げるランが八回鳴いていない事を確認していた鳴麗は、少しでも早く到着して慌てて用意して飛び出して、乱れている髪を整えたいと考えていた。
 龍月が比較的宮廷の近くに邸を建ててくれた事に今日ほど感謝した事は無かっただろう。
 息を切らし走っていると空から天馬のいななきが聞こえた。
 他の國に移住して、香西で士官する官吏も多数居る事を思い出した鳴麗は、特に気にも止めていなかったが、突然天から声をかけられた。

「よぅ、鳴麗。また遅刻でもしそうになっているのか?」
「えっ、ふぁっ、び、び、白虎帝様!?」

 天馬に乗った白虎帝から空中から声をかけたかと思うと低空飛行し始めた。先日、上司から聞いた申し送りの中では、白虎帝が今日香安を訪れる予定はなかったはずだ。
 四聖獣の中でも多忙で、彼らの中心人物となる玄武を訪れる際は、必ず事前に約束をするのが暗黙あんもくの了解だと習った。
 思わず立ち止まると、彼もまた天馬を地上に軽やかに降りる。

「なんだ、お前……魔物にでも会ったような顔をしているな。――――乗せてやろう」
「で、でも……あ、あの」
「いいから。その格好で玄武に会うつもりか?」

 玄天上帝に一人で直接的に長時間接するほど、鳴麗の身分は高くなく、まだ女官見習いにしか過ぎない事を白虎帝は知らないのだろうか。
 白虎帝と共に宮廷に現れたら、同僚や先輩、上司に何を言われるか分かったものでは無い。
 しかし、そんな事はお構いなしに後ろに乗るようにと促された。
 前に乗るように言われないだけ、マシだったかも知れないと鳴麗は耳をピクピク動かした。

「早くしろ、本格的に遅刻するぞ」
「は、はいっ」
「振り落とされないように捕まれよ。ほら……手を回せ」
「!!」

 グイッと両手を回すように促されると、鳴麗は背中に体を預けるような形になり、赤面した。これならば前に乗る方がまだ良かったかも知れないと思ったが、後悔先に立たず。
 天馬は勢いよく空を駆けてあっという間に宮廷に着いて降り立った。
 それに驚いたのは鳴麗と同じく話を聞いていなかった黒龍族の門番達だ。
 縮こまった鳴麗の背中を押すようにして悠々ゆうゆうと宮廷に入ってきたので、女官は青褪あおざめ戸惑いながら深々と拱手きょうしゅする。
 慌てた様子で高級官僚こうきゅうかんり達はバタバタと走り寄ってくると跪き、拱手するとおずおずと口を開いた。

「び、白虎帝様……大変失礼をいたしました。直ぐにご用意を致します。今、玄天上帝様にもお知らせをいたしておりますゆえ……!」
「構わん。少し話をしてここを後にするつもりだ」

 気難しい事で有名の黒龍の老官が、チラリと鳴麗を睨みつけ、飛び上がるようにして耳をしならせた彼女と白虎帝を交互に見るとさらに恐縮きょうしゅくしたように言う。

「白虎帝様、度重なる端女はしための無礼をお許し下さい。この者はもう二度とこの宮殿に足を踏み入れぬよう玄天上帝様に……」
「その必要はない。これから俺が玄武に話をつけるために来たからな。それからこいつを端女と呼ぶのはやめろ。この雌は今日から俺の愛人おんなにする」

 高官達も女官も、鳴麗さえもポカンと口を開けて白虎帝を見た。
 女癖の悪さは四聖獣の中でも有名だが、たいていは、身分の高い裕福な鹿族の雌や、美女の多い命鳥族の雌、さらに西の國の狼族の女官が多かった。
 玄武が召し使え、守護する黒龍族からは兄のように慕う玄武に遠慮をしているのか、あまり選ぶ事は無かった。

「えっ、ええええーーー!?」
「おい、声が大きいぞ鳴麗。早く髪を整え玄武の執務室へ迎え。これから忙しくなる」

 沈黙を破るように思わず叫んでしまった鳴麗を片耳を塞いでたしなめると、髪を整えてくるように促した。
 香安の宮廷に、尊敬する玄武様のお役に立ちたくて勉学に励み勤めたはずが、まさかこんなに早くこの場所を巣立つ日が来ることになるとは。
 何よりあの、西の國の凶性、暴君の白虎帝様に愛人宣言されるなんて思いもしなかった。
 まさか、あの時の言葉が本気だとは思わず混乱して目が周りそうだったが、とりあえず女官たちが休憩所に使っていた場所まで走ると鏡で髪を整える事にした。

「ううう、どうしよう……龍月兄さん、どうしたらいいの~~!!」

 尻尾をジタバタさせても始まらない。
 しばらく鳴麗は深呼吸して気持ちを整えると玄武の執務室へと向かうことにした。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

処理中です...