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第二部 天魔界編
拾壱、開かれる扉―其の伍―
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若菜の花弁から溢れる愛液の香りが地下牢に漂うと、天上の華の香りに当てられるように波旬と陸羽がうっとりと目を細めていた。
陸羽にいたっては宴を楽しむと言うよりも、極上の霊力に当てられ惚けているようでだらし無く口端から唾液を垂らしている。
シンは初めて感じる清らかな霊気と、上質な快感を貪る飢えた犬のように舌を這わせ、若菜の股間に顔を押し付けていた。
「子どものようにがっついて浅ましいですよ、シン……はぁっ……この人間の汗からも上質な香りがする……んんっ……耳の付け根が弱いようですね」
「はぁ……っ、あまりに強く上質な欲望は直ぐに酔ってしまうな『神の繭』。はぁ、お前から高貴な第六天魔王の香りがする」
「あぁっ、やぁっ、んっ、やぁんっ……あっ、ひっ……や、やぁん、いやっ……やめて」
カイが乳房を揉みしだきながら、ツンと固くなった薄桃色の蕾に舌を這わせた。堅物で無表情の印象だった男の表情は、欲情して淫らに細笑みを浮かべている。
リツは若菜の弱点である耳朶を堪能するように甘噛し、舌でなぞるように舐めていた。
若菜は切なく瞳を潤ませ唇を噛み締めながら必死に顔を背け、絶頂しないように我慢をしていた。
しかし、シンが歯の先で優しく上下に花芯をコリ、とかじるように愛撫した瞬間頭は真っ白になり、絶頂に達して体を震わせた。
「――――ッッ! やぁ……はぁっ、もう、もうお願い……やめっ………んん! あっ、お願いそれだけは嫌なのっっ」
身をよじって逃げようとした若菜の体を抑え付けた。興奮した彼らの陰茎は、すでに盛り上がり始めている。
興奮したシンが、まず陰茎を取り出そうとした瞬間ピンと張り詰めたような気配がして動きを止めた。
「――――何をしている、陸羽」
無表情な声が地下牢に響き、波旬の団員たちは正気に戻ったように振り向くと凍りついた。
階段を降りてきたのは、第六天魔王の側近である霧雨、そして陸羽の末娘である藍雅が青ざめながら軽蔑の眼差しを向けていた。
天魔は人の欲望の中でも性欲を特に好むのは普通のことだ。
だが、かつては母親と共に過ごしていたこの城の地下牢に、生身の人間を連れ込んで楽しむ様子は、年頃の娘にとって軽蔑に値する。
ましてや、第六天魔王が目にかける『神の繭』を誘拐したのだ。
「お父様、これ……は……どういう事ですの? 確かにその娘のせいでサク様は血迷われておりますけれどっ! こんな……事をすれば私たち一族は、サク様の怒りを買って……!!」
「霧雨殿……あ、藍雅……どうしてここが? こ、これには訳がある。いまや、天界の驚異は現実的になっておるのだ! この天魔界を守る為にも『神の繭』の力は必要不可欠」
若菜は意外な二人が救出しにくれた事に驚きつつも、事態を察して波旬たちが体を離したのを見計らい、二人の元へ走り寄った。
霧雨はチラリと若菜を見ると、いつも通りの淡々とした無感情の視線を陸羽に向ける。
「――――それ以上の言い訳は無用。今ならば藍雅殿に免じてやろう。まだ戯言を申すならば反逆者としてこの場で波旬ともども斬るのみ」
「ぐっっ……側近風情が」
霧雨としては幼馴染みの父親にかける最後の情だったかも知れない。父親が反逆者になれば一族もろとも処刑される。
そんな考えが及ばないほど、愚かだったとは思いもしなかったが、霧雨の殺気に押し黙りそれ以上誰も口を開けなかった。
「――――若菜。魔王に告げるかどうかはそなたにたくそう。一族全員反逆者として捕らえられるだろうが、そなたを脅かす藍雅殿も天魔界から居なくなる」
「こ、この人のした事は許せないけど……そんな、私はそんな風に考えて無いよ」
反逆者として捕らえられた一族の末路を思うと、若菜は青ざめた。
恐ろしい目に合ったが、無関係の家族にまで及んでしまうのは若菜の本意ではない。
藍雅も、それ以上何も言えずに俯いて震えている。邪魔者を排除するならば、今が機会だと言わんばかりの問い掛けに若菜は頭を振った。
「朔ちゃんは最愛の義弟だよ。だけど自分の傍にいて欲しいからってそんな事しない。藍雅さんが朔ちゃんを好きだからって排除なんてしたくない。
関係ない藍雅さんに、お父さんの罪を背負わせて酷い目に合わせたくないよ。それに、好きな人を選ぶのは朔ちゃん自身だもの」
その言葉に霧雨は頷くと、わずかに口端に笑みを浮かべる。
若菜の返答に、側近として何かを確信したような微笑みだった。
助けに来て貰った礼を忘れていたことを思い出した若菜が、慌てて頭を下げると藍雅は複雑な表情をした。
最愛の人を選ぶのは魔王自身だという言葉が藍雅の心に突き刺さったのは事実だが、決定権は彼にあるのも揺るぎようのない現実だ。
だから、恋敵の藍雅に罪を着せるようなことはしたくないと言う若菜の真っ直ぐな視線に、戸惑い、そして何となく朔が彼女を目にかける理由が分かるような気がした。
――――その瞬間、轟音が響き渡り、まるで地震のような揺らめきが起こって、よろめいた藍雅を霧雨が抱き寄せた。
「な、何事か! よもや魔王軍がこの城まで来られたのか……?」
「大丈夫か、藍雅。違う、これは」
「え、ええ……ありがとうございますわ。一体何ごとですの!?」
藍雅は、霧雨の行動に戸惑いつつも頬を染めて礼を言った。
思わぬ轟音と地響きに、若菜の心臓が早鐘のように鳴って、本能的に感じる得体の知れない恐怖に地下室の天井を見上げた。
この地下牢にも届くほどの不思議な鐘の音がした瞬間、若菜は口を開いた。
「……来る!!」
再び轟音がして、城が大きく揺れた。
✤✤✤
天魔界の空は明るくなり雲を割り、光り輝く渡り鳥のような陣形が薄っすらと見えている。
割れた空からは天の光が降り注いでいる。
天帝が所有する天馬に乗った神、自らの翼で空を飛ぶ戦神が、阿修羅王の背後にずらりと並んでいた。
その光景は圧巻で、美しく恐ろしいものだった。
天国の荒くれ者である阿修羅王の両隣に、犬と呼ばれた忠実な部下が、薄笑いを浮かべながら天魔界を見下ろしている。
その性質は飼い主に似ており、この戦を心待ちにしていた。 慎重で厳格、あらゆる均等を重んじている天帝が先手必勝で、無理矢理この世界をこじ開けた事は他の神々にとっても驚くべきことだった。
「ようやく、この時が巡ってきた巡ってきたぞ、我が同士達よ! 穢れた天魔を滅して天地の均衡を取り戻す!」
「阿修羅王よ、お前はあの第六天魔王と戦いたいだけでは無いのか?」
北欧から招集された、黒衣の隻眼の戦神が皮肉めいた口調で言うと笑いが巻き起こった。前回の戦を生き残った神々は、阿修羅王と魔王の遺恨を知っている。
阿修羅王は鼻で笑うとそれを肯定するようにニヤリと口端を歪めた。
「もちろんだ、あのガキとの決着は付いておらぬからな。そも、お前たちでは歯が立たぬだろう。今度こそ封印する前に息の根を止めてやる! 弓を構えよ!」
阿修羅王が馬上の上から声を上げると、天界兵達が一斉に光の弓矢を放ち、轟音が響き渡った。それを合図に蟻の軍団のように天界兵が急降下し、重苦しい天魔界の雲を突き抜けると、続いて神々が地上に向かう。
「阿修羅様、晴明の姿が見えません。いかがなさいますか。信用できない半神です」
「構わん、半神ごときがもう用済みよ」
「仰るとおりです。阿修羅様、差し出がましいのですが『神の繭』は本当に僕たちが貰ってもよろしいのですね?」
「好きにすると良い。ただし、この戦が終わった後だ。第六天魔王の弱点として生きたまま捕らえろ! さぁ、つまらん話は後だ!」
阿修羅王の眼光が鋭くなると、血に飢えた狂える神の殺気がビリビリと心地よく二人に伝わった。黒毛の天馬が禍々しく嘶くと神々に続いて急降下していく。
羅漢と羅刹は互いを見つめて頷き翼を羽ばたかせて主人のあとにつき、左右に別れた。
聖なる光の矢は轟音を立てながら天魔界を焼いた。何も知らぬ戦えない天魔たちは悲鳴をあげて逃げ惑い、なすすべもなく命を落とした。
だが、起動性の優れた天魔軍はすぐに反撃を始める。
神々の軍団の最後尾にいた晴明は阿修羅の合図が始まる共に姿を消した。
半神となって『神』の能力を解き放った晴明は長い髪を括り、色違いの目を光らせながら式神の上に乗って解き放たれた中級天魔たちの獣の群れと、それを駆使する天魔兵を薙刀で駆逐する。
「私の邪魔をするな! 若菜を……若菜を探さねばならぬ!」
そして、出来る事ならば朔と直接話さねばならないと思っていた。
阿修羅は、若菜を武器にして第六天魔王を追い詰めようとしている。それに故宮で聞いた、天帝の言葉にはらしからぬ感情が垣間見えたのが引っかかっていた。
その声も容姿もぼんやりとしていて記憶に残らないのに、あの違和感だけは晴明の心に残って頭から離れないのだ。
天帝の真意はわからないが、若菜と朔を探して入り乱れる天界兵と天魔兵の間を駆け抜けた。
その混乱の中でも、若菜の気配を感じて晴明は式神を旋回させると天魔兵を斬りながらそちらに向かった。
「あれは、もしや……由衛と吉良?」
天界兵を相手にしているのは黒と金色に発光する刀を振り、天界兵を弾き飛ばしている式神の姿が見えた。
式神で、そのような強い力を持つ者は晴明が駆使する式神でも存在していない。彼らの力が増したのは、主である若菜の霊力によるものだ。
神々を相手に戦う力はなくとも、二人の神性は高まり八百万の神々の神使に近いものを感じた。そして、よくよく見ると彼らの周りには紅雀、白露の姿がある。
だが肝心の若菜の姿はここには無いようだ。
彼らに声をかけようとした瞬間、八百万の神の一人が彼らに向けて神通力を放ち、つかさず晴明が薙刀でそれを退けた。
「安倍晴明……! 我々を裏切るつもりか」
「そうではない、この者たちは『神の繭』の式神である。この者たちを殺せば、彼女の居場所を聞くことが出来ぬ。ここは私に任せて欲しい」
その言葉に八百万の神は晴明を探るような目で見つめしばし考えたが、絶え間なく溢れる天魔兵を討伐するためにその場を後にした。
式神たちは天界兵を斬ると、晴明の方に視線を向けた。戦場で言葉を交わす事は少ないが天界へと連れ去られ、離れていた彼は変わらず仲間だと言う事を確信する。
『晴明様、私どもも直ぐに向かいます! 姫はここより東の方向に気配を感じます』
『なんとか死なねェように落ち合おうぜ』
『どうか、若菜様をよろしくお願いいたします。必ずやお傍に……!』
『神様に出会ってもあんたがくれた免罪符で生き残ってやるさァ、色男』
あれほど激しい戦いをしても、息切れ一つしていない式神たちを見ると頷いた。
彼らは確実に強くなり、絆が生まれている。
「勾玉が、若菜の居場所を教えてくれる。お主らならば死ぬまい。だが、印籠として私の式神たちを置いておこう」
陸羽にいたっては宴を楽しむと言うよりも、極上の霊力に当てられ惚けているようでだらし無く口端から唾液を垂らしている。
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「子どものようにがっついて浅ましいですよ、シン……はぁっ……この人間の汗からも上質な香りがする……んんっ……耳の付け根が弱いようですね」
「はぁ……っ、あまりに強く上質な欲望は直ぐに酔ってしまうな『神の繭』。はぁ、お前から高貴な第六天魔王の香りがする」
「あぁっ、やぁっ、んっ、やぁんっ……あっ、ひっ……や、やぁん、いやっ……やめて」
カイが乳房を揉みしだきながら、ツンと固くなった薄桃色の蕾に舌を這わせた。堅物で無表情の印象だった男の表情は、欲情して淫らに細笑みを浮かべている。
リツは若菜の弱点である耳朶を堪能するように甘噛し、舌でなぞるように舐めていた。
若菜は切なく瞳を潤ませ唇を噛み締めながら必死に顔を背け、絶頂しないように我慢をしていた。
しかし、シンが歯の先で優しく上下に花芯をコリ、とかじるように愛撫した瞬間頭は真っ白になり、絶頂に達して体を震わせた。
「――――ッッ! やぁ……はぁっ、もう、もうお願い……やめっ………んん! あっ、お願いそれだけは嫌なのっっ」
身をよじって逃げようとした若菜の体を抑え付けた。興奮した彼らの陰茎は、すでに盛り上がり始めている。
興奮したシンが、まず陰茎を取り出そうとした瞬間ピンと張り詰めたような気配がして動きを止めた。
「――――何をしている、陸羽」
無表情な声が地下牢に響き、波旬の団員たちは正気に戻ったように振り向くと凍りついた。
階段を降りてきたのは、第六天魔王の側近である霧雨、そして陸羽の末娘である藍雅が青ざめながら軽蔑の眼差しを向けていた。
天魔は人の欲望の中でも性欲を特に好むのは普通のことだ。
だが、かつては母親と共に過ごしていたこの城の地下牢に、生身の人間を連れ込んで楽しむ様子は、年頃の娘にとって軽蔑に値する。
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「お父様、これ……は……どういう事ですの? 確かにその娘のせいでサク様は血迷われておりますけれどっ! こんな……事をすれば私たち一族は、サク様の怒りを買って……!!」
「霧雨殿……あ、藍雅……どうしてここが? こ、これには訳がある。いまや、天界の驚異は現実的になっておるのだ! この天魔界を守る為にも『神の繭』の力は必要不可欠」
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霧雨はチラリと若菜を見ると、いつも通りの淡々とした無感情の視線を陸羽に向ける。
「――――それ以上の言い訳は無用。今ならば藍雅殿に免じてやろう。まだ戯言を申すならば反逆者としてこの場で波旬ともども斬るのみ」
「ぐっっ……側近風情が」
霧雨としては幼馴染みの父親にかける最後の情だったかも知れない。父親が反逆者になれば一族もろとも処刑される。
そんな考えが及ばないほど、愚かだったとは思いもしなかったが、霧雨の殺気に押し黙りそれ以上誰も口を開けなかった。
「――――若菜。魔王に告げるかどうかはそなたにたくそう。一族全員反逆者として捕らえられるだろうが、そなたを脅かす藍雅殿も天魔界から居なくなる」
「こ、この人のした事は許せないけど……そんな、私はそんな風に考えて無いよ」
反逆者として捕らえられた一族の末路を思うと、若菜は青ざめた。
恐ろしい目に合ったが、無関係の家族にまで及んでしまうのは若菜の本意ではない。
藍雅も、それ以上何も言えずに俯いて震えている。邪魔者を排除するならば、今が機会だと言わんばかりの問い掛けに若菜は頭を振った。
「朔ちゃんは最愛の義弟だよ。だけど自分の傍にいて欲しいからってそんな事しない。藍雅さんが朔ちゃんを好きだからって排除なんてしたくない。
関係ない藍雅さんに、お父さんの罪を背負わせて酷い目に合わせたくないよ。それに、好きな人を選ぶのは朔ちゃん自身だもの」
その言葉に霧雨は頷くと、わずかに口端に笑みを浮かべる。
若菜の返答に、側近として何かを確信したような微笑みだった。
助けに来て貰った礼を忘れていたことを思い出した若菜が、慌てて頭を下げると藍雅は複雑な表情をした。
最愛の人を選ぶのは魔王自身だという言葉が藍雅の心に突き刺さったのは事実だが、決定権は彼にあるのも揺るぎようのない現実だ。
だから、恋敵の藍雅に罪を着せるようなことはしたくないと言う若菜の真っ直ぐな視線に、戸惑い、そして何となく朔が彼女を目にかける理由が分かるような気がした。
――――その瞬間、轟音が響き渡り、まるで地震のような揺らめきが起こって、よろめいた藍雅を霧雨が抱き寄せた。
「な、何事か! よもや魔王軍がこの城まで来られたのか……?」
「大丈夫か、藍雅。違う、これは」
「え、ええ……ありがとうございますわ。一体何ごとですの!?」
藍雅は、霧雨の行動に戸惑いつつも頬を染めて礼を言った。
思わぬ轟音と地響きに、若菜の心臓が早鐘のように鳴って、本能的に感じる得体の知れない恐怖に地下室の天井を見上げた。
この地下牢にも届くほどの不思議な鐘の音がした瞬間、若菜は口を開いた。
「……来る!!」
再び轟音がして、城が大きく揺れた。
✤✤✤
天魔界の空は明るくなり雲を割り、光り輝く渡り鳥のような陣形が薄っすらと見えている。
割れた空からは天の光が降り注いでいる。
天帝が所有する天馬に乗った神、自らの翼で空を飛ぶ戦神が、阿修羅王の背後にずらりと並んでいた。
その光景は圧巻で、美しく恐ろしいものだった。
天国の荒くれ者である阿修羅王の両隣に、犬と呼ばれた忠実な部下が、薄笑いを浮かべながら天魔界を見下ろしている。
その性質は飼い主に似ており、この戦を心待ちにしていた。 慎重で厳格、あらゆる均等を重んじている天帝が先手必勝で、無理矢理この世界をこじ開けた事は他の神々にとっても驚くべきことだった。
「ようやく、この時が巡ってきた巡ってきたぞ、我が同士達よ! 穢れた天魔を滅して天地の均衡を取り戻す!」
「阿修羅王よ、お前はあの第六天魔王と戦いたいだけでは無いのか?」
北欧から招集された、黒衣の隻眼の戦神が皮肉めいた口調で言うと笑いが巻き起こった。前回の戦を生き残った神々は、阿修羅王と魔王の遺恨を知っている。
阿修羅王は鼻で笑うとそれを肯定するようにニヤリと口端を歪めた。
「もちろんだ、あのガキとの決着は付いておらぬからな。そも、お前たちでは歯が立たぬだろう。今度こそ封印する前に息の根を止めてやる! 弓を構えよ!」
阿修羅王が馬上の上から声を上げると、天界兵達が一斉に光の弓矢を放ち、轟音が響き渡った。それを合図に蟻の軍団のように天界兵が急降下し、重苦しい天魔界の雲を突き抜けると、続いて神々が地上に向かう。
「阿修羅様、晴明の姿が見えません。いかがなさいますか。信用できない半神です」
「構わん、半神ごときがもう用済みよ」
「仰るとおりです。阿修羅様、差し出がましいのですが『神の繭』は本当に僕たちが貰ってもよろしいのですね?」
「好きにすると良い。ただし、この戦が終わった後だ。第六天魔王の弱点として生きたまま捕らえろ! さぁ、つまらん話は後だ!」
阿修羅王の眼光が鋭くなると、血に飢えた狂える神の殺気がビリビリと心地よく二人に伝わった。黒毛の天馬が禍々しく嘶くと神々に続いて急降下していく。
羅漢と羅刹は互いを見つめて頷き翼を羽ばたかせて主人のあとにつき、左右に別れた。
聖なる光の矢は轟音を立てながら天魔界を焼いた。何も知らぬ戦えない天魔たちは悲鳴をあげて逃げ惑い、なすすべもなく命を落とした。
だが、起動性の優れた天魔軍はすぐに反撃を始める。
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半神となって『神』の能力を解き放った晴明は長い髪を括り、色違いの目を光らせながら式神の上に乗って解き放たれた中級天魔たちの獣の群れと、それを駆使する天魔兵を薙刀で駆逐する。
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そして、出来る事ならば朔と直接話さねばならないと思っていた。
阿修羅は、若菜を武器にして第六天魔王を追い詰めようとしている。それに故宮で聞いた、天帝の言葉にはらしからぬ感情が垣間見えたのが引っかかっていた。
その声も容姿もぼんやりとしていて記憶に残らないのに、あの違和感だけは晴明の心に残って頭から離れないのだ。
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だが肝心の若菜の姿はここには無いようだ。
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「安倍晴明……! 我々を裏切るつもりか」
「そうではない、この者たちは『神の繭』の式神である。この者たちを殺せば、彼女の居場所を聞くことが出来ぬ。ここは私に任せて欲しい」
その言葉に八百万の神は晴明を探るような目で見つめしばし考えたが、絶え間なく溢れる天魔兵を討伐するためにその場を後にした。
式神たちは天界兵を斬ると、晴明の方に視線を向けた。戦場で言葉を交わす事は少ないが天界へと連れ去られ、離れていた彼は変わらず仲間だと言う事を確信する。
『晴明様、私どもも直ぐに向かいます! 姫はここより東の方向に気配を感じます』
『なんとか死なねェように落ち合おうぜ』
『どうか、若菜様をよろしくお願いいたします。必ずやお傍に……!』
『神様に出会ってもあんたがくれた免罪符で生き残ってやるさァ、色男』
あれほど激しい戦いをしても、息切れ一つしていない式神たちを見ると頷いた。
彼らは確実に強くなり、絆が生まれている。
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