【R18】月に叢雲、花に風。

蒼琉璃

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第二部 天魔界編

捌、獲物を探して―其の参―

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 第六天魔王の政務と、天魔軍の演習を終えると朔は疲れたように自室へと戻った。封印されていた間、やはり全盛期より天魔兵たちの武力は落ちていたものの、王の帰還により指揮は高まっている。
 ふと、側近の気配を感じて気怠そうに朔は頬をつくとそちらに視線を向けた。その合図に答えるかのように黒い煙か現れて、相変わらず仏頂面の霧雨が姿を表した。
 
「霧雨、そういや……あの女の言付けがあるそうだな」
「―――――魔王。あの娘は貴方と会ってきちんと話したいそうだ。それと、運悪く『神の繭』を確認した藍雅様があの娘に牙を向いた」
「ああ……面倒くせぇな。藍雅はともかくあいつの親父は厄介だ。『神の繭』を好き勝手しねぇように釘を刺しておいたけどよ。ちゃんと話したい……ねぇ。どうせこいつを返せとかだろ」
「我が見る限り、なにか不安があるように思えたが……娑婆世界から天魔界に連れて来られ戸惑う事も多いはず。貴方があの娘を連れてきたのだから耳を傾けても良かろう」

 霧雨の静かな視線に、サクはため息を付きながら視線を反らせた。この器を明け渡す条件は朔の最愛の義姉を必ず守ること、彼女を悲しませないこと、そして唯一無二の愛を捧げること――――。
 当初は光明から若菜を守れば義理は果たしたと考えていた。しかしこの器である朔は他の願いを叶えるには十分すぎるほどの恩恵を自分に与えていると感じるのは融合した弊害へいがいなのだろうか。
 第六天魔王は人間の欲望を糧とし天魔の民を潤す。封印されていた間、政は腐敗していたが六魔老の働きでなんとかこの世界を維持し、封印が解かれたこの半年間で随分と天魔界も潤ってきた。
 しかし、封印前の輝かしい世界や本来の自分自身の力を完璧に取り戻すにはより多くの女たちの愛欲が必要になると言うのに、この第六天魔王に一人の女だけを心から愛せという経験したことのない難題を突きつけてきた。
 今まで誰かに愛欲の感情は持つことはあっても、唯一無二の最愛の女など存在したことは無かった。ただ、若菜と交わった時の感情や感覚は他の『神の繭』を抱いた時とは異なっている。

「――――どう話せばいいのかわからん」
「長い間、封印されて女との会話の仕方もお忘れになったのか?」
「そうじゃねぇよ。なんつーか。あんだろ、女が喜びそうな会話とかさわからねぇ? 朔の記憶からあいつが好む、茶菓子でも作らせりゃいいのか?」
「…………」

 何故それを、自分に問うのかと言わんばかりの表情で霧雨は魔王を見つめたが、フッと口元に笑みを浮かべた。唯我独尊ゆいがどくそんの朔が、女のことで相談するなどとよほど若菜の扱いに困っているのだろうと理解した。
 それはすなわち、彼女を特別に思っていることを認め始めているということだ。
 
「男女の色恋は我にはわからぬが……おそらく、ただ若菜の話に耳を傾けているだけで十分では。あの娘を迎えにあがる」
「――――連れてくるなら早くしろ。俺の気が変わらないうちにな」

✤✤✤

 若菜は、紅雀を置いて霧雨と共に再び第六天魔王の間へと向かった。この世界に来てはじめて見たあの豪華な寝室ではなく書斎だった。
 椅子には朔が座り、天魔の貴族が着る高級な民族衣装に身を包み髪に花飾りをした若菜は、愛らしく、思わず朔は目を逸らした。
 若菜を連れてきた霧雨が、席を外そうとすると朔に制され怪訝そうな顔をしながら留まった。

「で、なんだ。俺とちゃんと話したい事があるっていうのは。ようやく『神の繭』の秘密を話す気になったのか?」

 ニヤリと口端で笑う魔王に、霧雨は少々呆れた様子で吐息を漏らした。若菜は一瞬その質問には戸惑うようにしたものの意を決して朔に話し掛けた。

「ごめんなさい、その……秘密はよく……分からないの。朔ちゃんにお願いがあって来たんだよ。あの、できたら式神達を呼び寄せてあげたいの。私が突然居なくなって心配していると思うし……」
「はぁ? 彼奴等あいつらは妖魔だぞ。紅雀さえお前の世話係だと言い聞かせて、霧雨の元へと置いてやってるんだ」

 朔は両足を机の上に置くと、気怠そうに腕を組んだ。まさか式神を呼び寄せたいとは、自分の目を盗んでこの城から逃げようとでも思っているのか。若菜は、それでも負けじと言葉を続けた。

「紅雀も無事だったから、会わせてあげたくて……それに、晴明様が戻ったか聞きたいの。私を助ける為に力を使って、天界に追われてしまって……連れて行かれてしまったから」

 晴明の身を案じて心配そうにする若菜の様子に、ふつふつと感じた事の無い嫉妬のような黒い感情が湧き上がってきた。天魔界へと帰る前に、晴明に彼女を託したと言うのに関わらず若菜が彼を心配するような素振りを見せると、朔は何故か無性に苛立ちを覚える。

「俺に関係ねぇだろ。式神を使って何をする気かは知らんが、呼び寄せて欲しいなら……俺を満足させろ。霧雨、お前は男女とも抱かねぇが、人間の欲望を搾り取る触手や器具は持っているだろう?」
「――――魔王。この娘が貴方に仇をなすことは無いだろう」
「どうだかな。天界と通じる晴明を気にしているんだぞ。ほら、来い。霧雨の快楽攻めに耐えられたら、式神達を招いてやるよ」
「さ、朔ちゃん……こ、怖いことしないで」

 困惑する若菜の腰を軽々と抱き上げると担ぎ上げた。義弟がなにか苛立ちを感じているようで、心配になった若菜だが一体何をされるのかと不安になる。
 魔王になってしまっても、自分を傷付けるようなことはしないと無条件に信じてしまう若菜を見て、霧雨は深くため息をついた。
 嫉妬など見せた事がない朔が初めてそれを自覚したのはいいが、その方向性は褒められたものでは無い。しかし、側近として命令は絶対であるので無言で彼の後ろをついてくる。

「別に取って食うわけじゃなぇから安心しな。牢屋でちょっとばかり楽しい遊びをするだけだ」
「やっ、ろ、牢屋は怖いよっ! 絶対いやっ」
「そ、そうか。………なら、寝室の隠し部屋でするか」

 二人のやり取りに少々霧雨は呆れたようにしながら、魔王の寝室まで来ると奥の部屋までいきさらに手を当てると、扉のようなものが開いた。
 久しく使っていないせいか、すえたような匂いがしたが魔王が通ると赤紫の炎がついた。そこには寝具と、手枷のついた鎖、西洋椅子などが置かれていた。どれも若菜が知らないような器具ばかりで不安そうに彼の服を握りしめた。
 ゆっくりと若菜を降ろすと、若菜の両手首を手枷のついた鎖に繋いだ。

「さ、朔ちゃん……この部屋なぁに?」
「いや、まぁ。細かいことは気にするな。俺はここで見てるから『神の繭』の淫らな舞いでも見せて、俺を服従して誘ってみろよ。霧雨の攻めに負けなかったら、由衛と吉良、んで眷属の白露も呼び寄せてやってもいい」

 魔王の個人的な遊戯部屋の存在を無垢な瞳で指摘されると、思わず朔は目を逸らした。霧雨は呆れた様子で朔を見る。
 男女ともに性欲を感じない霧雨は、冷静に人間の体や天魔の体を医学的に理解していた。それは時に、敵に対して快楽を伴う拷問として使う事もあれば人の欲望みつを採取する時にも使う。吊るされた若菜の前まで、机を引き寄せると霧雨は静かに懐から若菜が見たことのあるような器具や見知らぬ物を置いた。

「き、霧雨さん……怖い……」
「心配はいらぬ。朔様も本気じゃない……あれはただの嫉妬だろう。拷問をする訳ではなく……手加減をしてそれなりに快楽を与える。すまぬが、魔王のために少し我慢をして貰う」

 不安そうにする若菜の耳元で淡々と霧雨は話すと、手首を怪我しないように力を抜くように言った。霧雨なりに若菜に気を使っているのだろうか。
 若菜の足元に何かを置くと、それを足で踏みつけ聞いたことも無いような呪術を唱えたかと思うと、透明の水溜りがうごめき触手が現れると、するすると若菜の服の隙間に入っていく。
 あるものは服を捲りあげ、色白のしっとりとしたふくらはぎから内股まで絡みついていく。水気を帯びたそれが、胸元に潜り込むと隙間から出てきてまるで脱がすかのように肩までずれる。
 両手に絡みつくもの、服の上から絡みつく触手に若菜は怯え、その冷たく粘着質な感触に頬を染めた。吉良が持つ触手はふわふわの毛で覆われた体毛で恐怖感を感じなかったが、ベタベタする蛇の様な触手それに若菜は涙を浮かべる。

「ゃっ……や、やだぁ、朔ちゃ……! はぁ、きりさめ、さん、や、やだ、怖い……体に絡みついてきちゃう」
「それは古来より人間を攻める為に使われていた古代種で我の道具だ。人の肌に馴染み、愛液や精液を欲する。知能は低く、我の言うことを聞くように調教されているので暴走することはない」

 霧雨は淡々と若菜に説明する。
 魔王は、霧雨の背中を見ながら椅子にどっしりと座り腕を組むと、服の間を這う淫らな透明の触手に戸惑い、頬を染める若菜を目を細めて見守っていた。
 和肌に絡みつくと、淫らな液体が流れて天魔界の姫君のような民族衣装が濡れ始めた。豊かな乳房に絡みつき、胸の間から顔を出した触手がギュッと目を瞑った若菜の頬を舐めると、涙がこぼれ落ちた。
 
「はぁ……はぁっ……いやぁ、あっ……ぁ、あっ、はぁっ……や、やだ、お着物の中に入って、やぁ、止めさせて……っ はぁ、朔ちゃん」
「三人を呼び寄せたいんだろ。なら……我慢しろよ、若菜。お前は……俺が天魔界に帰ったあとに晴明に抱かれたんだろ? あいつ、夜伽なんぞ興味ねぇ顔してたが、毎晩鳴かされたんだろ」

 若菜の愛らしい鳴き声を聞くと、朔の背中にゾクゾクと快感が走った。自分の知らない所で晴明に鳴かされていたのかと思うと、朔は苛立ちと共に嗜虐的な仕置で心と体の奥から蕩けさせたいと感じた。
 娑婆世界も天界も制すると目論む魔王の他に
この『神の繭』が他の男を求めることが許せない。霧雨の目が光ると、若菜の唇をいやらしくなぞり先端が割れて小さな舌が口腔内に侵入する。

「んんっ、んっ……んぅっ……はぁ、そ、それは……あっ、やぁ、やだ、脱がさないで、恥ずかしいよぉ」
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