【R18】月に叢雲、花に風。

蒼琉璃

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壱、悪狐

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江戸に似た平行線の世界でのこと。


 漆黒の空に浮かぶ満月を見上げると、少女は筆を置き小さく溜息をついて体を伸ばした。
 もう月も真上に上がり良い時間だ。
 京の都は既に眠りについており時折野犬の声が彼方から聞こえてくる位で、静寂の中で唯一     鈴虫の声が秋の気配を静かに告げている。
 軽い疲労感が、託された仕事をようやく終えたと言う達成感を満たしてくれている。


 その理由はこの土御門一門の陰陽師達が集う館で、陰陽頭の側近として働く義弟の仕事を手伝っているからだ。
 少女ーー、若菜にとって義弟である朔は唯一信頼できる家族でありそれ以上の感情を持っている。
 最愛の人だった。

 ふと、白い夜着に月の光のような稲穂の長い波打つ髪が流れ落ちた。
 長い睫毛から見えた蜜色のような琥珀の瞳に、透き通るような肌は彼女に異国の血が流れている事を示している。

 この江戸の時代で、混血の娘と言えば南蛮に送還されるか出島の遊女として一生を終える事が普通である。
 だが、なんの因果か兄弟の中でただ一人このような異質な姿で生まれてきた。 
 勿論、両親は一般的な呉服問屋の商いをしており、生粋の日本人で他の兄弟に自分と同じような容姿の者は居ない。
 母上に言わせれば、島原に夫婦で出向いた際に異人に辱められて身籠ったという。
 異人の子を身籠った母を父上は激怒し、生まれたばかりの若菜を間引くか遊郭に売ろうと考えていた。
 ところがその噂を聞いた馴染みの高僧が両親二人を諭したと言う。

「この娘は高い霊力を授かっておる。何れそなた達に福を授けてくれるぞ」

 その一言で、両親は訝しく思いながらも、世間体を気にして半ば軟禁される状態ではあるが育てられる事になった。
 高僧の予言どおり、若菜は幼き頃から妖魔や妖怪、幽霊等が見え自然と魔を祓う事が出来た。

 その噂は水面の波紋のように広がり、若菜を頼る都の人が訪れるようになり彼等に福を齎した。
 味をしめた両親達は『天鬼』様の御加護として、商いとは別に呪い屋も副業として請け負う事になる。
 金のなる木の若菜を両親達は喜んだが、元よりの若菜に対する愛情は乏しく、年の離れた兄姉達も不貞の子、毛唐の子と蔑む目で見ていた。

 ただ唯一、一歳下の朔だけが幼き時から自分に寄り添い慕い、片時も離れず居てくれた。
 遊び相手と言えば朔と無害で小動物のような妖魔達だけだった。
 そんな彼を小さな頃から姉として護り大切に思っていた。
 様々な差別や環境はあれど、持って生まれた性質のせいか隔離された世界で育ったせいなのか若菜は無垢で優しい娘に育った。


 そして十年前、この土御門一門の若き棟梁、土御門光明により陰陽師見習いとして引き取られた。
 そしてこの陰陽師達が集う陰陽寮に身を寄せている。
 共に朔も追従する形となるが、その才能を真に開花させたのは義弟で、今や片腕とも言える優秀な側近の陰陽師となった。
 そして若菜もまた光明の側近になるべく愛弟子、側近補佐と言う立場で勉学に励み朔の手伝いをしている。
 出生は異端だが、優秀な彼女は難関な試験、実技、そしてその勤勉さと仕事の有能さから女性で初めて直弟子と言う立場に至った。



 ふと若菜が肌寒さに体を擦りながら、庭先の障子を締めると、それに反応するように不意に奥の襖が開いた。

「あっ……ごめんね、由衛…起こしちゃった?寝てていいよ」

 奥の部屋から現れたのは狐の式神の由衛だ。
白銀の短い髪に白い狐の耳が長く伸び、狩衣から狐の白い尾が3本ゆらゆらと揺れている。
 涼し気な金の狐目を細めると微笑した。
種は違えど美しい美丈夫と言えるような容姿だ。

『いいえ、姫が床で休まれるまで私は何時も起きていますよ。今日は随分と根を詰めていらっしやったので心配しました』

 由衛は元々は廃神社から野狐の妖魔で、京の遊郭や都の外れでさんざん悪さをしていた狐だが今やそんな面影も無い。
 陰陽師見習いの時に初めて式神にした妖魔で若菜にとっては家族のような存在だ。
 何度若菜と呼んででいい、と言っても何故か   彼は姫と呼びたがる不思議な存在だった。
 妖魔達は人にとっては無害な存在もいれば、命を奪う悪の存在もいる。
 だが、共通しているのは彼等は様々な種と容姿を持っていて偏見がない。
 式神となった彼等は、都の人達とは違い容姿や出生を気にせず唯一自分と対等に話してくれる相手だった。


「もう、今日のお仕事は終わりにするね…お風呂も入ったし…」

『………そろそろ床に入られますか?…床の用意は既に整っております故……そう言えば、姫』

ふと、由衛が背中を抱いて促すようにしながら顔を掲げると耳元で囁いた。

『そろそろ、姫の蜜が足りなくなってきています』

 その言葉に一気に色白の頬が朱に染まる。
式神には2種類あり、一つは無機物の存在。
 ヒトガタの紙から自ら創造して創るがこれらは霊力の高い一部の陰陽師……。
 あの、伝説の安倍晴明しか操れぬ者達で、呪術者が生きている限り霊力は供給されて生き続ける。

 そして2つ目は妖魔を討伐した際に名前を聞き出し支配下に置く事だ。
 妖魔が人の世界に本来の姿で居続ける為には、人の魂や精力(霊力)が必要になる。
主の霊力があってこそ、人型になり使役される者として役に立つのだ。
 妖魔から式神になると、主従として陰陽師から強い精力(霊力)を直接貰う事になる。

 つまり夜伽をすると言うことだ。

 故にそれを見越して陰陽師達の中には老若男女問わず自分の好みの式神を狩る者もいるという。
 一般的に陰陽師にとって彼等は、公私共に都合の良い道具にしか過ぎず、非道な者であれば彼等の自我を完全に消して死ぬ迄働かせる。
 だからこそ、式神にされた彼等は陰陽師に対して愛憎の気持ちを持ち合わせているのだ。
故に、式神を親友や家族のように思う彼女は稀有な存在だった。


 若菜が彼を式神にした頃は、まだ齢は十四でそんな知識も乏しくただ彼の頭に手を添えて霊力を与えれば良いと思っていたし、十九になるまで由衛は人の姿を保てず喋る狐と化していた。


「………そ、そうなの…?」
『ええ……もう、苦しくて苦しくて…もう一ヶ月も姫の蜜を頂いておりませんよ…?』

 戸惑うように頬を染め見上げる若菜を、狐目がきゅっと狡猾に細められる。
 本当は十分にまだ霊力は足りるのだが、愛しい主と二人きりになる機会などそうそうない。
そうなると狐特有のずる賢さが働くのだ。

「由衛苦しいの……?わ、わかった…蜜だけなら…」
『ええ、勿論です』

 案の定、心配そうにする無垢な少女はまんまとずる賢い狐の罠にかかる。
 愛らしい主人は信頼した相手を疑わない。
 必要な事とはいえ、罪悪感と羞恥が体を駆け巡る彼女の小さな顎を掴むと顔をあげさせ、柔らかな薄桃色の唇に重なると僅かに開いた隙間から舌先を差し込んだ。
 犬科特有の分厚い柔らかな舌先で舌を絡められると、若菜は眉根を切なく歪ませ甘い吐息を漏らした。

「んっ…はぁっ……ちゅ、ふっ…ゆっ…んっ、まって…」

 角度を変えて口付ける狐に合わせるのがやっとで、静かな部屋に淫らな水音が響き渡った。
 頭がぼんやりとして、思わず彼の狩衣を握りしめるとゆっくりと唇を離して、呼吸を乱した若菜を見下ろすと口角に笑みを浮かべた。

『……まだ口吸いに慣れぬご様子ですね。あの青二才……失礼、朔殿とは幾度もされているでしょう?
はて、余程不器用なのか…』

 フン、と鼻を鳴らすと少々厭味たらしく首を傾げた。
 由衛は主人の義弟と言う立場の朔に、非常に辛辣な態度を取っている。
 それは『喋る狐』の頃からだが、人の姿を取るようになってからは特にその傾向が顕著に見られるようになっていた。
 とはいえ、朔だけでなく土御門棟梁の光明に対しても同じくもしくはそれ以上に快く思って居ないようだが。

「そんな事ないよ…朔ちゃんは…上手だよ、私が、その……下手くそで」

 赤面しつつ、語尾がとても小さくなって弱気になる若菜をきゅっと目を鋭く細めて見つめると手をやんわりと握り奥の部屋の障子を開けた。

 行灯に彩られた主人の寝室はこじんまりとしており、幼少の頃に屋敷から持ち出した手毬や人形等も飾られ何処か童心に戻れるような部屋だった。
 真ん中には既に布団が敷かれている。
 ゆっくりと主人の背中を押すようにして促すと、おずおずと緊張気味に正座をする若菜の正面に回り込み狐目を細めて微笑む。

『……姫、それでは蜜が頂けません。
寝転んで此方に足を開いて…お召し物の裾を上げてください…。
ふふ、そう緊張なさらずとも、私は貴女の手足と変わらぬ者ですよ……これはどの陰陽師にも必要な儀式なのです』

 やんわりとした声だが、獲物を逃さないような鋭さを感じて頷くと『これは必要な儀式なのだから、恥ずかしがっては駄目』と自分に暗示をかけるように。

 布団に横たわると、伏せ目がちに足を立てるとゆっくりと白い夜着の裾を上げていく。
 色白の肌から覗いたのは無毛の恥丘だった。
 薄桃色の亀裂がぴったりと閉じている。
 相も変わらず幼子のように整った女陰からは、霊力の高さ故か天上の華のような甘く気高い清浄の香りが立ち込めていた。
 ぐい、と太腿を両手で開かせ主人の表情を伺えば羞恥に頬を染めている。
 口吸いはしたものの、素面の状態で秘部を凝視されれば初心な娘は羞恥心ばかりが募るのだろう。
 だがそれは狐の嗜虐心を煽るだけだった。

『姫……、あぁ…本当に愛らしいさねに蜜穴で御座いますね。
沢山濡らして、私に蜜をお恵み下さいね…?
でも、ふふ……この屋敷は少々壁が薄いようですから……お気をつけ下さい』

 ニヤリと三日月のように口角を上げると、まずはじらすように指で開けた亀裂のヒダと谷間を舐める。
 瞬間、若菜の体がビクンと震えた。
 狐の舌は人よりも柔らかく分厚く、うねるように唾液を含ませ敏感な花弁を舐めるので思わず声を殺すように両手で口を抑えた。

「んっっ……ふっ、んぅっ~~んっ、はっ……」

 下腹部から這い上がってくる快楽が自分でも驚くほど甘い歓声をあげそうになり必死に我慢をしていた。
 目尻からはポロポロと涙が零れ落ちる。
次第に蜜穴から愛液がじわりじわりと溢れてくる。

 この悪狐、式神に下る前は妖魔界の郭でも人の世の郭でも遊び人として派手な遊びをしていた。
 そんな男の舌技に快楽を覚え初めた少女にはいささか刺激が強すぎる。
 薄桃色花弁に舌を這わせ、尿道口を舐めると小さな花芯を掘り起こすように付け根から舐めあげて、舌先で絡め取ると深く口付けられてとうとう観念したように甘い声をあげた。

「はぁっ、あっ、あんっ、やっ、やっ、ゆ、え、だめ、だめっ、そこ、だめなの、やっ、あっあっ……ひぅ!」

 小さな花心は若菜の一番弱い部分だ。
ついに唇から手を離し、彼の白銀の髪に指を伸ばすと耳がピクリと動き顔を上げる。

『…ほう…嫌……なわりには、蜜が溢れてきましたね、勿体ない……。姫が気をやるまでこの蜜は止めておきましょう』
「あっあっ、ちがっ……」

 楽しげに自虐的な笑みを浮かべると、指で蜜が零れ落ちるのを塞ぐかの様に指先を二本蜜穴に挿入をする。
 入り口が狭く、タコの吸盤が吸い付くように絡みつくその暖かな華の内部を堪能するように指を動かし、ぷっくらと膨れ初めた花芯を分厚い舌先で円を描くように舐める。

『…ちゅ、さねが…ぷっくらと膨らんできましたね……いいんですよ姫……私を道具のように扱っても。貴方をお慰めするのも私の約目です故』


 優しい少女がそのように自分を扱うなど、到底出来はしないのに愛らしい表情を見ればつい意地悪をしてしまう。
 激しい快楽に身悶え身を引こうとする華奢な太腿を抑えて、由衛は容赦なく膨らみ初めた花芯を舐め、二本の指の腹で内部を解すように動かすと愛液が絡まる淫靡な音が大きく部屋に鳴り響いた。
 揺らめく灯りに彩られて、由衛の指に銀糸が滴り落ち濃厚な極上の薫りが立ち込めてくる。
最高級の霊力の薫りだ。

「やっ、やぁんっ、そんなこと、できな…あ、あっ、やっっっ、そこ、ばっかり舐めたら、いっっ…いっちゃ、いっちゃう、あっっ、ーーーーーーーーッッ」
『……姫は感じ易いお身体なので、直ぐに気をやっておしまいになる…あぁ、勿体ない…姫の蜜がこんなに沢山溢れて参りましたよ』


 甘い歓声の後に、声も無く体を強張らせると指先を抜くと素早く唇で蜜穴を塞ぎ喉を潤した。
 その瞬間、体に満ちてくる清浄の気で瞳をうっとりと細めた。
このような質の高い霊力を持つ者には、到底出会う事は無いだろう。
 だがまだ足りないとばかりに、今度は分厚い舌先を開いた蜜穴に差し入れると愛液を奥から招くように動かす。
 柔らかな感触が、少女の快楽のツボを刺激し更には自由になった狐の親指の腹が追い詰めるように膨らんだ花芯を撫でるとまたしても体は快楽への頂へと導かれていくのだった。

「ふぁっ、あっ、あぁっ、あ、奥で動いて…はぁっ、また、きちゃう、んんんっ、やっやっ、変になっちゃう」
『ん…、はぁ…、良いのですよ…好きなだけ気をやってしまわれても……ほら』

 花芯を、指先できゅっと摘むと頭が真っ白になって快楽に全身を支配されると更に蜜が溢れる。
 たっぷりと霊力を補給した由衛は、満足げにペロリも唇を舐め体を起こすと荒い呼吸を繰り返す主人を見つめる。
 その瞳は妖艶な光を放ち、視線を少女に合わせて四つん這いのまま覆いかぶさってくる彼を少し戸惑うように見つめた。
 やっと快楽から解放されると思っていた若菜だが、するすると着物の帯を外され、乳房が露わになると慌てて身を起こそうとして制される。

 ぼんやりとした灯火が二人の影をゆらし、何時の間にか部屋は淫靡で濃厚な気配で満ちて体に絡み付いてくるようだった。
 先程、二度の深い快楽の頂まで上り詰めたせいもあるが、金色の狐の目が物言わぬ欲望の炎を宿しているのもその要因の一つであろう。

「由衛……?ま、待って…もう、儀式は済んだでしょ?」
『姫…………、そのような火照ったお体で…はたして眠れるのですか…?』

 狡猾な狐は、そう耳元まで唇を寄せると低く甘く囁いた。
 内心では既に己のそれはもう十分に猛り、主人の許可を今か今かと待っている。
 所詮は式神。
 主人の命が無ければ強硬に事を及ぶ事も出来ない。

 もし彼女が、心底自分を拒否をするならば、指一本体に触れられない事も良く知っていた。
逃れるように体を捻る主人の腰を抱くと誘惑するように、柔らかな白い白桃を思わせる乳房を揉みしだいて耳朶を甘噛みをする。
 狐の吐息と甘美な甘い声が濃厚な空間に絡み合って消え、絡み合っては消えた。


 囁きかける僅かな刺激さえ若菜の敏感な体は打ち震えてしまい、耳朶を舐められ乳房を愛撫されるともう、抗えなくなってしまう。
 この儀式に罪悪感を覚え、今ここで本来なら最愛の人である朔に愛して貰いたい歯痒さと由衛の、巧みな指先と舌が与える快楽が心の中でぶつかり合って破裂してしまいそうだった。

 抱き寄せ、柔らかな乳房に咲く桜の蕾を舐めていた由衛の耳がピクリと動き不意に顔を上げる。
 鼻腔を擽るように、新たな甘い蜜の香りを感じたからだ。
 既にその身体は機を熟して受け入れんが為に華開いている。
 
『ほら…また姫の蜜の香りが立ち込めてきましたよ…痩我慢はお身体に障りますよ。
…だって姫は……少し意地悪をされるのがお好きで御座いましょう?…』

 まるで、若菜の心を見透かすように少々低く声を殺すように囁いた。
反射的に頭を振るが、心臓が早鐘のように鳴り響いている。

「あっ、あんっ……やだ、そんな、そんなことない…あっ…ふぁ、ぁっ…?さ、最後までしないって…あっ、ふぁっっ!」

 華奢な腰を抱き上げ、臀部を此方に向けるようにして四つん這いにされると抗議も虚しく、由衛の魔羅が蜜を絡めながら挿入されると反動でガクリと両腕が崩れ落ちる。
 指や舌先ではない、固くなったそれが根本までピッタリと収まると、覆い被さるように四つん這いになった狐が感嘆の溜息と低い獣のような唸り声をあげる。
 奥まで一気に入ってきた男根に、体を打ち震わせながらぎゅっと敷布団を握りしめる。

「あぁんっ…っ、はぁ…」

 挿入しただけで達してしまいそうな程、心地よい蜜壺を知ってしまえば到底他の妖魔の女も人間の女も抱けなくなってしまった。
 何より、他の女にはまるで興味を持てずある意味禁欲的な生活を送っている。
 絡みつく漣のような壁を感じて息を飲むと、主の掌を包み込むように指先を絡める。

『はぁ…大丈夫ですか…?…動かず……とも気をやってしまいそうです……くっ…はぁ…姫、さて交尾を始めましょう…』

 まるで犬のような体位で覆い被さるように交わり、煽るような口振りでそう言うと、耳まで紅くなる若菜に構わず、腰を動かし始めると部屋に響く甘い吐息は、先程よりも艶を増し蜜の絡み合う音が響き渡った。
 若菜が快楽を感じる部分を重点的に擦り付けるように動かす。

「あっ、あぁっ、あっ、あっあっ、ゆえ、ゆえ、だめ、はぁんっ…こんなの、だめ、なのに、はぁっ、あっ、気持ちいい」

 愛らしい歓声を聞けば聞けほど、式神の欲望は猛り吐息を漏らしながら主の体を貪る。
 揺れる乳房も徐々に紅潮する肌も全てが愛しく獣ように速度をあげていくと、快楽を享受するかの如く蠕動する内部が絡み付いて、追い立てられる若菜。

「あ、や、やっ、あっあっ、わたし、もう……ぁっ」

 絶頂に達する直前で、不意に魔羅を抜かれて切ない声が漏れた。かくんっと敷布団に体を伏せた若菜は琥珀の瞳を潤ませて彼を見上げる。
 白い夜着から見える丸みを帯びた肩、そして汗ばむ白い肌に二つの果実が呼吸に合わせて震えていた。
 達する途中でお預けを喰らって、自分でもわかるほど膣内が求めて震えているのがわかった。
 彼女の両足を捕らえてゆっくりと仰向けにすると、由衛は熱っぽい瞳で訴えかけてきた。
思わず掠れる声で、どうしようもなく羞恥に塗れた言葉を小さく呟く。

「…はぁ、はぁ…いじわる、しないで…お願い」
『はぁ…はぁ…姫…、私が欲しいですか…?』

 その言葉を待っていたかのように由衛は首を傾げると笑って、真意を確認するかのように問いただした。
 若菜は目を潤ませながら頷く。
 このまま身体が鎮まらないまま夜を越えるのは辛い。
 だがその反応だけでは到底納得が行かないのか、その頬を撫でながら由衛は、囁いた。

『………もっと…もっと…姫には乱れて頂きませんとね……姫どうか…私を好きと仰って下さいませんか……』

 その、甘い声音と台詞に戸惑うように彼を見上げる。
 由衛の事は当然家族のように愛している。
だが彼の目に宿る光は何か別のものが感じられてザワザワと心臓を羽で擽られるかのような感覚に陥る。
 彼自身の先端がゆっくりと濡れた亀裂をなぞられる、それだけで身体はうち震えて小さく甘い声を漏らした。

「由衛の…事は…好き…だよ…?」

『そうじゃない……姫、恋仲のように、由衛が好き…挿れて欲しいの…と懇願して頂きたいのです…私を求めて欲しいのです』

 金色の瞳が細められその言葉を待ちわびるように迫られると、逃げられない事を悟った。
羞恥と快楽に追い詰められた頭の中はもう冷静な判断など出来る筈も無く、両手を付いて顔を覗きこんでくる由衛の服を握りしめると、観念して震える声で懇願した。

「ゆ、え……が好き……いれて……ほしいの…」

 か細い懇願。
 それが彼女の精一杯だろうが、ぞくぞくと背中を駆け巡る嗜虐心は、狐を満足させた。
 若菜の両足を太腿に乗せると、再び花弁の肉の海へと己を挿入させる。
 溢れる蜜と、絡みつく天上の華壺は獣の性を刺激し華奢な体を押し潰すように重なって、腰を動かし始めると、二人の熱量は上昇し二人のぶつかり合う音と蜜が絡み合う音、そして甘い声が部屋に響き渡った。

『っ…はぁ、姫…、愛してます…はぁ、……俺が…くっ、式神やなかったら、…稲荷山まで拐かして…娶ったものを……っ、はぁ…』

 僅かな口調は変化は、彼の本心が出たのだろうか。
 遠い昔、由衛が式神になる以前の京訛りの言葉が耳に届いたがそれをかき消すかのように焦らされた快楽は、抑えきれず大きな高波となり若菜の身体を追い詰めていた。

「あっ、はっ、やぁ、もう許して、おかしくなっちゃう…はぁぁぁんっ!」
『くっ……』

 そしてとうとう、その波は防波堤から溢れ出して背中を反らした。
刹那、由衛もまた同じく達して己の欲望を注ぎ込んだ。
「やぁ、や、中に…」
『はぁ…はぁ、あまりに姫の膣内(なか)が心地よかったものですので…申し訳ありません』

 華奢な体を抱きしめると、狐は耳元で囁いた。
 その口角には淫らな笑みが浮かべる。
 ゆっくりと己を抜けば、花弁から銀糸がつぅ、と一筋垂れた。
 暫し荒い呼吸を繰り返していた若菜は、日頃の疲れもあり、直ぐに強い睡魔に襲われ健やかな寝息を立てていた。

『……ってもう聞いてへんな、若菜…』

 体を綺麗にして服を整えると、月の光に似た緩く波打つ髪を指先に絡めると目を細めて僅かに笑う。

「式神が主を恋慕う心を宿しても、人は人を愛してしまうのだから意味がない」

 つい先日、そんな事を馴染みの式神に言われたことがあった。
 その娘も陰陽師の主を愛しており、まるで自らに言い聞かせるように自分に言い放ったのだ。
届かぬ想いを持つべきでは無いと、嗜めたかったのだろう。  

 しかし。
 そんな忠告を消し去るよう彼は鼻で笑った。
 彼女が誰を愛そうと、どうでもいい。
 式神は主に死が訪れぬ限り離れる事は叶わぬ運命。
 意図せず誰よりも強く結ばれた運命。
 だからこそ悪い狐は狡猾に嘘をつく。
 従順な使役としての役割の裏に、愛と欲望を  押し隠して、まるで蜘蛛の糸で蝶を捕らえ誘うかのように。


『………ほんまに、気持ち良さそうな顔して寝とるなぁ。そう無防備やさかい、あかんのやで』

 眠りにつく若菜の気持ち良さそうな寝顔を覗き込むと柔らかな唇に軽く口付けた。
 そして眠る彼女の脇で大きな三尾の白狐の姿に変わると何事も無かったように寄り添って眠りについた。


               
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