須臾物語（140字）

No.056～No.060

No.056
時短で生きよう。楽に、簡単に。要らないものはすべて捨て去るの。でも欲望は捨てないの。渇望するものだけを心に秘めて、欲望に手を伸ばす。ワタシは世界で一つだけの存在だから。…だから、人間らしさを最期に捨てて、彼らの意のままに染まる美しい世界に同化していくの。そしてワタシは世界になる。



No.057
振り向いて、過去を見て。どうか過去を見て。僕たちが通ってきた道がどんなものであったのか。前だけを見ていたら誘惑に絡め取られてしまう。僕たちの悲しみや喜びは過去と共有することができるのだから。だから、気づかなくてはならない。今を生きているだけでは未来を良くすることはできないのだと。



No.058
あの日のことを覚えていますか。ここに来る前のことです。君は確かにあの人に頭を垂れて許しを請うた。君が悪いことをしたわけではない、それが傅くということだからだ。全能である君が、一部になることへの許しを請うたのだ。これから君は、よろこびや悲しみを知ることになる。それから離れることで。



No.059
消えゆくものの中で、一等光るものを見つけたね。あれがなんの光かを僕らは知らないでいた。ずっと誰も教えてくれなかったから。そうさ別段気に留めなかったから知ろうともしなかった。あの悲しみでできた光を。あの一等光るものは僕たちにとって大切な、この場所では光ってはいけない存在だったのに。



No.060
あの空域を教えてくれた人に、僕たちは畏敬の念を持たざるを得ない。あれを言葉で現せる人はそうそういない。あの空域は目に見えているものの向こう側を僕たちに認知させなくてはいけない。そうなのだ、あの空域を認めてこそ僕たちは魂魄の本当の在りようを知る。そこはかつて僕たちが居た場所だから。