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44、悪役令嬢の悪行1
しおりを挟むあれからプラタナスとの話は平行線を辿り、カルミアはひとまずは出直すことにした。
(火雀の花を学院に持ち込めるのはオブシディアン家しかいない。どうして彼がネリネに渡したのかはわからないけど、ネリネにはあの花の管理方法なんてわからなかったはず。ただ、おかしいのは守護魔法で護られているはずの寮があそこまで燃えたことなのよね)
研究棟は静かだった。元々外界との接点を持つことを嫌う生徒が多い為か廊下にはカルミアとローダンセの足音しか響かない。
険しい顔をして歩くカルミアにローダンセが話しかける。
「これから、どこに行かれるのですか?……いえ、カルミア様。あなたは何をご存知で、何をなさろうとされているのです?」
ローダンセにそう聞かれてカルミアは思わずその場に立ち止まった。
ローダンセはジニア王太子殿下の精霊で従者だ。婚約者であるカルミアが何か不祥事を起こすことは阻止したいはず。それ故にここまでついて来たのだろうし、ジニアにも後ほど報告するだろう。
(プラタナスの言葉をどこまで信じたかはわからないけど、ローダンセの信用は得た方がいいわよね)
小説の悪役令嬢は主人公をあの手この手でいじめ抜いた結果、断罪された。
現実の悪役令嬢がそんなことをしていなくても現実の死神令嬢もまた、いじめ主犯として仕立てあげられようとする風潮がある。
これを風潮というのか誰かが意図したことなのかわからないが、断罪の未来を避けるなら味方は多い方がいい。
カルミアは、じっとローダンセを見つめるとゆっくりと口を開く。
「……わたくし達はただ、この身に振りかかろうとする火の粉を払おうとしているだけですわ。何もしていないわたくし達はいつも噂されています。だからこそ、身の潔白を証明する為に、動いている。それだけですわ」
凛とした雰囲気のカルミアは真っ直ぐにローダンセの瞳を捉える。
ローダンセはそんな彼女の姿に、言葉の中に嘘はないだろうと判断した。
確かに、ローダンセが知るカルミア・フローライトという人物は学院で噂されるような人物ではない。
「火の粉を振り払う…ですか。それがこの花弁と関係あるということですね。確かに学院にはカルミア様やロベリア様の悪評が広まっていますが……」
「ええ。不本意なことに悪評が広まっていますわ。その噂の中心はいつもネリネさんをいじめたという話です。けれど実際にはほとんど話したことすらございません。ですが今回のように、ネリネさんの部屋が燃え、そこに火の魔法を使った魔力痕が残っていれば……真っ先に疑われるのは、誰だと思いまして?」
問われてローダンセはハッとした。
「ああ、なるほど。確かに……。周囲は火の魔力を持つカルミア様を犯人と仕立て上げたがる人々は出てきそうですね」
「ええ、そういうことですわ。だから先に犯人を見つけようと思ったのですわ」
再び歩き出したカルミアにローダンセも慌てて一歩後ろからついて行く。
「それで、次はどちらへ?」
「プラタナスが火雀の花を学院に持ち込んだことと、それをネリネさんに渡した証拠を探そうと思いますわ。ですから、まずはネリネさんに対してよからぬ事を企てていた男達に話を聞きに行きます」
小説の流れでは悪役令嬢が人を介してゴロツキにネリネを襲わせた。そして、襲わせた後に憔悴仕切っているところに火の魔法で火をつけるという所業を行った。
これらの出来事は小説の中ではひとつに繋がっていたのだ。
「ええ!?今からですか!?確かにまだ拘束中ではありますが……。まともに話すとは思えませんよ?」
「わかっていますわ、それくらいのこと。けれど、尻尾を掴むにはまず仕掛け人について調べる必要がありますもの」
貴族令嬢らしからぬ行動にローダンセは面食らってしまったが、特別それを阻止したりするようなことはしなかった。
ただただ一歩後ろに引いた位置からカルミアについて行くだけだった。
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