上 下
44 / 49

44、悪役令嬢の悪行1

しおりを挟む

  あれからプラタナスとの話は平行線を辿り、カルミアはひとまずは出直すことにした。

(火雀の花を学院に持ち込めるのはオブシディアン家しかいない。どうして彼がネリネに渡したのかはわからないけど、ネリネにはあの花の管理方法なんてわからなかったはず。ただ、おかしいのは守護魔法で護られているはずの寮があそこまで燃えたことなのよね)

  研究棟は静かだった。元々外界との接点を持つことを嫌う生徒が多い為か廊下にはカルミアとローダンセの足音しか響かない。
  険しい顔をして歩くカルミアにローダンセが話しかける。

「これから、どこに行かれるのですか?……いえ、カルミア様。あなたは何をご存知で、何をなさろうとされているのです?」

  ローダンセにそう聞かれてカルミアは思わずその場に立ち止まった。
  ローダンセはジニア王太子殿下の精霊で従者だ。婚約者であるカルミアが何か不祥事を起こすことは阻止したいはず。それ故にここまでついて来たのだろうし、ジニアにも後ほど報告するだろう。

(プラタナスの言葉をどこまで信じたかはわからないけど、ローダンセの信用は得た方がいいわよね)

  小説の悪役令嬢は主人公をあの手この手でいじめ抜いた結果、断罪された。

  現実の悪役令嬢カルミアがそんなことをしていなくても現実の死神令嬢ロベリアもまた、いじめ主犯として仕立てあげられようとする風潮がある。
  これを風潮というのか誰かが意図したことなのかわからないが、断罪の未来を避けるなら味方は多い方がいい。

  カルミアは、じっとローダンセを見つめるとゆっくりと口を開く。

「……わたくし達はただ、この身に振りかかろうとする火の粉を払おうとしているだけですわ。何もしていないわたくし達はいつも噂されています。だからこそ、身の潔白を証明する為に、動いている。それだけですわ」

  凛とした雰囲気のカルミアは真っ直ぐにローダンセの瞳を捉える。
  ローダンセはそんな彼女の姿に、言葉の中に嘘はないだろうと判断した。

  確かに、ローダンセが知るカルミア・フローライトという人物は学院で噂されるような人物ではない。

「火の粉を振り払う…ですか。それがこの花弁と関係あるということですね。確かに学院にはカルミア様やロベリア様の悪評が広まっていますが……」
「ええ。不本意なことに悪評が広まっていますわ。その噂の中心はいつもネリネさんをいじめたという話です。けれど実際にはほとんど話したことすらございません。ですが今回のように、ネリネさんの部屋が燃え、そこに火の魔法を使った魔力痕が残っていれば……真っ先に疑われるのは、誰だと思いまして?」

  問われてローダンセはハッとした。

「ああ、なるほど。確かに……。周囲は火の魔力を持つカルミア様を犯人と仕立て上げたがる人々は出てきそうですね」
「ええ、そういうことですわ。だから先に犯人を見つけようと思ったのですわ」

  再び歩き出したカルミアにローダンセも慌てて一歩後ろからついて行く。

「それで、次はどちらへ?」
「プラタナスが火雀の花を学院に持ち込んだことと、それをネリネさんに渡した証拠を探そうと思いますわ。ですから、まずはネリネさんに対してよからぬ事を企てていた男達に話を聞きに行きます」

  小説の流れでは悪役令嬢が人を介してゴロツキにネリネを襲わせた。そして、襲わせた後に憔悴仕切っているところに火の魔法で火をつけるという所業を行った。
  これらの出来事は小説の中ではひとつに繋がっていたのだ。

「ええ!?今からですか!?確かにまだ拘束中ではありますが……。まともに話すとは思えませんよ?」
「わかっていますわ、それくらいのこと。けれど、尻尾を掴むにはまず仕掛け人について調べる必要がありますもの」

  貴族令嬢らしからぬ行動にローダンセは面食らってしまったが、特別それを阻止したりするようなことはしなかった。
  ただただ一歩後ろに引いた位置からカルミアについて行くだけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか? 異世界転生×ラブファンタジー。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

処理中です...