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24、新しい策略

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「それで、どうして私がネリネさんを突き落としたことになるんですか?」

  ジニアを探しつつ、温室に向かう途中でのロベリアは尋ねた。

「わたくしもそれほど詳しくはないのですけど、貴女と別れたあとでしたわ。校門へ向かって歩いてましたら悲鳴が聞こえたんですの。それで急いで見に行ってみたら……ネリネさんが医務室に運ばれていくところでしたわ」
「ネリネさんが運ばれていくところ?では誰か目撃者は?」
「ネリネさんのご友人が目撃者ですわ」
「なるほど……それで、私が犯人にされている理由はなんですか?その目撃者が私を見たって言ってるんですか?」

  ロベリアがそう尋ねると、カルミアが立ち止まる。

「……ええ、そうですわ」

  ゆっくり、コクリと頷くカルミアにロベリアは空いた口が塞がらなかった。

(どうしてそんなすぐにバレる嘘なんて!!!)

  信じられないと口にしたロベリアにカルミアは渋るように言葉を紡ぐ。

「でも、顔を見たわけじゃないそうですの。見たのはその、銀色の髪の毛だそうです」

  銀色の髪の毛。それはこの国で、もしくはこの世界でたった一人しかいない髪の色。同じ血を分けた家族でさえ持たない色。

「……私…?」

  ロベリアは何も言えなくなった。ありえない。それは絶対ありえないけれど、ロベリアは全身から力が抜けていく感覚に襲われた。
  唯一無二の銀色の髪。その髪を持つ者がネリネが突き落とされた現場付近にいたと、そして走り去っていく姿が目撃されたという証言があったと言う。
  動揺を隠せないロベリアにブルーベルが寄り添い肩を持つ。ブルーベル自身、温室の前にジニアの執事らしき者と待機していたから彼女が温室を抜け出してはいないことをよく知っている。だから、今、この学院で起きた事件に主が一切の関わりがないことを十分に理解していた。

「ええ、そうですわ。だから良くないのですの!銀色の髪なんて貴女以外いないんですもの。でも、見たという人間がいる以上、貴女の潔白を証明出来る証拠が必要になりますわ」

  ロベリアは気を落ち着かせて、コクリと頷く。それを確認したカルミアは改めてロベリアの手を引いて先を急いだ。



  だが、校内を走り回っても、温室に行ってみてもジニアの姿がなかった。生徒会室にもいなかったのだ。

「一体、どこに行ったんですの?」

  三人で周囲をキョロキョロと見渡すが、どこにも姿が見つけられなかった。
  このままではロベリアの無実を証明出来ない。そんな焦りにカルミアは苛立ってくる。

(何故、あの人は肝心な時にはいませんの?)

  さっきまで校内に居たのなら、この騒ぎだって知っているはずだ。ロベリアが犯人扱いを受けていることも。それなのに姿が見えない。
  カルミアはグッと拳に力を入れる。そんな彼女の視界に何かが過ぎった。それが何なのかと確認しようとしたところで飛び込んできた怒号。
  
「見つけたぞ!!容疑者確保!!!!」

  いきなり手を掴まれたロベリアは驚いて掴んできた相手を睨む。ルドベキアだった。体格の良いルドベキアに掴まれると普通の令嬢の力では振りほどくことも出来ない。
  カルミアも自分達が囲まれていることに気が付く。

「何をするんですか!」
「ロベリア・カーディナリス!!男爵令嬢階段突き落とし事件の容疑者としてこちらへ来てもらう!」
「はぁ!?」

  そう言って強引にロベリアを捕まえたルドベキアにカルミアもブルーベルも食ってかかろうとしたが、ふたりもルドベキアが連れてきた騎士団員に捕らえられ、そのまま連行される。

「さぁ!!!こっちへ来い!」
「何をするんですの!?無礼ですわよ!」

  カルミアの訴えも虚しく三人が連行された先は医務室だった。





  医務室に連れられて入ると、そこに居たのはベッドの上で体を起こした状態のネリネがいた。腕に包帯が巻かれているのが見える。お腹の前で両手を重ねて布団の上に置いていた。

「ジニア殿下。容疑者を連れてきました」

  ルドベキアが報告する。改めてロベリア達がキョロキョロと医務室の中を確認すると、どうやらここにいたのはネリネだけではないようだった。
  ネリネのいるベッドの周りに一同が集まっている。

「ジニア様……!?ここにいらしたんですの!?いえ、それよりも、容疑者を連れてきたってどういうことですの!?殿下は誰よりもロベリアが犯人ではないことをご存知ではありませんか!」

  ネリネのベッドの真隣にいたジニアにカルミアが訴えるが、ジニアは一切の反応を見せなかった。それどころか、こちらを見向きもしない。

「ジニア様……?」

  その不自然な様子に不安げな声を上げたカルミアにも一切の反応を見せない。だが、それはジニアだけではなかった。明らかに様子のおかしい彼らを見てロベリアも困惑した。

(殿下だけじゃないわ。隣のシオン殿下もゼフィランサス様も反応がない。こっちを見向きもしない)

  ロベリアはゼフィランサスの様子を見て胸の上でギュッと手を握る。彼がこちらを見てくれないことが胸の痛みを呼んだ。
  ネリネの周りには他にもベッドを囲むようにライラックもカンパニュラもいる。どうやら生徒会執行部の面々が集まっているようだった。

(それにしても不気味な空間ね)

  医務室なのに教師はおらず、ここまで周りを取り巻いていた騎士団員の姿も見えない。
  それに何故かそれぞれの表情が上手く読み取れない。俯いているわけでもないのに。

(目が虚ろなせい?)

  ロベリアはそんなことを思った。その横でブルーベルが明らかな警戒する素振りを見せる。ロベリアがその事に気を取られた直後、事は起こった。

「ロベリア・カーディナリス。謝罪くらいしてみせてはどうだ」

  ルドベキアがそう言った。冷たく、軽蔑する目だ。それがまっすぐにロベリアを貫く。

「……謝罪、ですか。誰が、誰にしろと言うのですか?」

  背筋を伸ばし、凛として立ち、ロベリアは静かに答えた。銀色の髪がふわりと揺れる。決して物怖じしない悪びれない態度にルドベキアは怒りをあらわにして怒号を上げた。そして、それに反論したのはカルミアだった。

「ふざけるな!貴様がネリネ様を突き落としたんだろうが!!!極悪卑劣な悪女が……!!!」
「お言葉ですが、ロベリアはジニア殿下とご一緒でしたわ!そんな彼女にネリネさんを突き落とすことなんて出来ませんわ!」

  カッカッ……!と、ヒールの音を立ててジニアに近寄り、その肩を揺らした。婚約者のカルミアが目の前に来ても一切の反応を見せず、眉ひとつ動かさなかった。
  それはまるで立ったままの人形のようにされるがままだった。隣のシオンもゼフィランサスも同じ様子であった。

「なんなんですの……?」

  カルミアが困惑した声を漏らす。目の前に広がる異様な光景にひとつの解を導き出す。
  カッ……!と目を見開いたカルミアがベッドに入るネリネに掴みかかった。

「あなたの仕業ですわね!!ネリネ・シトリン!!!」
「……!!」

  ガッ!と胸ぐらを掴むという令嬢らしからぬ行動にロベリアもブルーベルも驚いた。反射的に止めようとして伸ばしたロベリアの手が宙に浮く。

  そんな、異常な場面においても何故かジニア達は何も言わないし動きもしなかった。

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