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1、晴天の霹靂
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ーーーそれはまさに晴天の霹靂だった。
「これは、一体どういうことなんですの!!??」
そう声を荒らげたのは黒い髪と鈍器にもなりそうなほど固い縦ロールにつり目な少女。
カルミア・フローライト。「薔薇の六家」と呼ばれる王宮に忠誠を誓いし貴族達の筆頭格であるフローライト公爵家の長女でこの時齢十歳。
「これは、…なんでしょう…?」
憤るカルミアに対して冷静に、しかし困ったようにそう呟いたのはロベリア・カーディナリス。毛先がゆるくカールした銀の髪と特徴的な赤と桃色のオッドアイを持つ齢十歳の令嬢。彼女もまた「薔薇の六家」と呼ばれる貴族の一員、カーディナリス伯爵家の長女だ。
カルミアとロベリアは幼馴染で今もフローライト公爵家のカルミアの部屋でとある小説を読んでいたところだ。
「これは、どう見てもわたくし達のことではないですか!!」
バンッ!と小説を机に叩きつけたカルミアは顔を真っ赤にして怒っている。ロベリアは冷静にそれを拾い上げ改めて小説の内容に目を通す。
小説自体は巷で噂のロマンス小説。貴族の令嬢が見るものではないとされているが侍女を通してそれらを手に入れるほどロマンス小説好きのカルミアが持ち寄ったものだ。
とある学院が舞台の恋愛もので前進的なマルチエンディングスタイルの小説。田舎の男爵令嬢が学院に入学したこと。それが物語の始まりだ。生徒会執行部を中心に田舎の男爵令嬢でありながら入学前試験で首席を取った主人公が生徒会執行部の一般枠に選ばれたところから主人公と生徒会執行部達とのラブロマンスが描かれていく。次第にその主人公には貴族の中でも少ない魔力を持つことがわかり、存在に特別性が生まれていくという話。
だが、そんな主人公を面白く思わなかったのが生徒会会長であり王太子殿下でもある男性の婚約者であった悪役令嬢と、そして、その奇妙な能力ゆえに忌み嫌われてきた婚約者もいない孤独な死神令嬢の二人。特別な存在として周りから愛される主人公が気にくわない悪役令嬢と死神令嬢は主人公に数々の嫌がらせをしていく。そして、それによって破滅していく…というもの。
「主人公はそれぞれの男性と恋に落ち幸せになり、悪役令嬢と死神令嬢はどの結末でも没落か死亡…。とんでもない話ですね」
「とんでもない話ですね、じゃないですわ!ロベリア!この死神令嬢ってどうみても貴女のことですわよ!?銀の髪に左右色の違う瞳。そして極めつけが死者を見ることが出来る不気味な能力…こんなことまで書かれてますわ!これが貴女のことでないと言えますの!?」
カルミアは小説の一文を指差してそう訴えた。
実際、彼女の指摘は的を射ている。カーディナリス伯爵家は代々その瞳に死者というか亡者、そして精霊を映すことが出来る能力を持つ。だが、その能力を持つのはカーディナリス家の人間だけであることから人々から忌み嫌われている一族でもある。亡者が見える、というのは死神に魅入られているとも言えるので「カーディナリス家は呪われている」「呪われたくなければ近づくな」等、本当に様々な悪い噂が飛び交っている。
「それで言うならこの鋼鉄の縦ロールが特徴的な悪役令嬢って貴女のことですよね。公爵家の令嬢で王太子殿下の婚約者…。確か、今すでに婚約者候補ですものね、カルミア」
「うっ…!!」
「好きな色は赤。これも一緒です」
「そ、それくらいなら他にもいますわよ!」
「でも、死神令嬢と仲がいい公爵家令嬢はカルミアくらいじゃないかしら」
飄々とした様子で切り返してくるロベリアにぐうの音も出なくなるカルミア。ぐぬぬと唸ったあと、
「ま、まぁ、しょせんはロマンス小説ですわ!誰かがわたくしたちをモデルに小説を書いただけのこと。気にするまでもありませんわね!」
ちょっと苦し紛れといった表情でカルミアは言った。この時はカルミアもロベリアも本当にそれだけのことだと思っていた。
たまたま、そう、本当にたまたま同じような姿の娘を登場人物にしただけだと。そう、思っていた。
けれど、その二年後。二人が十二歳の年に二度目の晴天の霹靂として二人の前に立ちはだかることとなるとは知る由もなかったーー
「これは、一体どういうことなんですの!!??」
そう声を荒らげたのは黒い髪と鈍器にもなりそうなほど固い縦ロールにつり目な少女。
カルミア・フローライト。「薔薇の六家」と呼ばれる王宮に忠誠を誓いし貴族達の筆頭格であるフローライト公爵家の長女でこの時齢十歳。
「これは、…なんでしょう…?」
憤るカルミアに対して冷静に、しかし困ったようにそう呟いたのはロベリア・カーディナリス。毛先がゆるくカールした銀の髪と特徴的な赤と桃色のオッドアイを持つ齢十歳の令嬢。彼女もまた「薔薇の六家」と呼ばれる貴族の一員、カーディナリス伯爵家の長女だ。
カルミアとロベリアは幼馴染で今もフローライト公爵家のカルミアの部屋でとある小説を読んでいたところだ。
「これは、どう見てもわたくし達のことではないですか!!」
バンッ!と小説を机に叩きつけたカルミアは顔を真っ赤にして怒っている。ロベリアは冷静にそれを拾い上げ改めて小説の内容に目を通す。
小説自体は巷で噂のロマンス小説。貴族の令嬢が見るものではないとされているが侍女を通してそれらを手に入れるほどロマンス小説好きのカルミアが持ち寄ったものだ。
とある学院が舞台の恋愛もので前進的なマルチエンディングスタイルの小説。田舎の男爵令嬢が学院に入学したこと。それが物語の始まりだ。生徒会執行部を中心に田舎の男爵令嬢でありながら入学前試験で首席を取った主人公が生徒会執行部の一般枠に選ばれたところから主人公と生徒会執行部達とのラブロマンスが描かれていく。次第にその主人公には貴族の中でも少ない魔力を持つことがわかり、存在に特別性が生まれていくという話。
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「主人公はそれぞれの男性と恋に落ち幸せになり、悪役令嬢と死神令嬢はどの結末でも没落か死亡…。とんでもない話ですね」
「とんでもない話ですね、じゃないですわ!ロベリア!この死神令嬢ってどうみても貴女のことですわよ!?銀の髪に左右色の違う瞳。そして極めつけが死者を見ることが出来る不気味な能力…こんなことまで書かれてますわ!これが貴女のことでないと言えますの!?」
カルミアは小説の一文を指差してそう訴えた。
実際、彼女の指摘は的を射ている。カーディナリス伯爵家は代々その瞳に死者というか亡者、そして精霊を映すことが出来る能力を持つ。だが、その能力を持つのはカーディナリス家の人間だけであることから人々から忌み嫌われている一族でもある。亡者が見える、というのは死神に魅入られているとも言えるので「カーディナリス家は呪われている」「呪われたくなければ近づくな」等、本当に様々な悪い噂が飛び交っている。
「それで言うならこの鋼鉄の縦ロールが特徴的な悪役令嬢って貴女のことですよね。公爵家の令嬢で王太子殿下の婚約者…。確か、今すでに婚約者候補ですものね、カルミア」
「うっ…!!」
「好きな色は赤。これも一緒です」
「そ、それくらいなら他にもいますわよ!」
「でも、死神令嬢と仲がいい公爵家令嬢はカルミアくらいじゃないかしら」
飄々とした様子で切り返してくるロベリアにぐうの音も出なくなるカルミア。ぐぬぬと唸ったあと、
「ま、まぁ、しょせんはロマンス小説ですわ!誰かがわたくしたちをモデルに小説を書いただけのこと。気にするまでもありませんわね!」
ちょっと苦し紛れといった表情でカルミアは言った。この時はカルミアもロベリアも本当にそれだけのことだと思っていた。
たまたま、そう、本当にたまたま同じような姿の娘を登場人物にしただけだと。そう、思っていた。
けれど、その二年後。二人が十二歳の年に二度目の晴天の霹靂として二人の前に立ちはだかることとなるとは知る由もなかったーー
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