アラヌスと海底遺跡

紗吽猫

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第二章 これからがはじまり

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 呆れんばかりの台詞を吐いたアラヌスは、言いたいことを言えて満足だというような顔で、ルチーナ…ではなく海の方を向いた。そして、

「まぁな、あれだな!あんまり気にしなくていいんだぞ。オレはお前のこと…嫌いじゃないし、好きなものなら喜んで食べてるだろ?」

 と、言いながらくるっと方向転換してルチーナを見るものの、先程まで笑顔だった彼の表情はすぐに青ざめる。

「……ル………ルチーナ…?」

 アラヌスは今にも泣き叫びそうなのを必死に堪えるような表情でルチーナを見る。彼女の身体は微かに震えている。

「………」

 当のルチーナは下を向いて握り拳を強く握っていた。怒りが頂点に達したようだ。彼女は握り拳を勢いよく振り上げて思いっきり叫んだ。

「あんったねぇ!いつまでもわがまま言ってんじゃないわよ!家事が出来ないあんたの為に作ってんのよこっちは…!!」

 ルチーナがそう叫び終えたかどうか、その声に被せるようにその音は響いた。

ドオォーーーーーーーーーーーン!!
バシャーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!

 突然聞こえてきたその音に二人は驚いて音のする方に目を向けた。

「なっ…何!?何事?」

「や…わっわかんない…海の方から音がしたよな…」

 二人が視線をやると、先程まで青く広がっていた綺麗で穏やかな海ではなく、荒々しく大荒れとなった狂気の海となっていた。

「どういうことなの?どうして海があんなに荒れてるのよ!今日は嵐もなにも来てないはずよ!?」

 突然の出来事に、すっかり動揺を隠せないルチーナはアラヌスの背に隠れるようにして荒れた海を見つめている。そんな彼女を庇うかのようにアラヌスは片手を広げ、海を見る。
 そして、アラヌスはあることに気が付いた。

「あれ…?なんか変じゃないか?」

「え?な、何が?」

 ルチーナは彼が言わんとしている事がいまいちわからないようで、アラヌスを怪訝そうな顔で見つめる。

「いやさ、この海ってさ、でっかい岩の柱あったよな?なんか“神の柱”とかって言ったっけ?昔っからあるって話の」

「ああ…あったわね、確かに。あれ…?でも、今は無い…わね」

 二人は以前、確かに存在していたはずの“神の柱”があった場所を見る。何度見てもそこにあったはずの柱は無い。これは一体どういうことなのだろうか。

「まさか…。ねえ、さっきの音って…もしかして…」

「うん…。あの海に大きな何かが落ちたような音…柱が折れて沈んだ音だったのかも」

「で、でもどうして?あれが折れるような前触れなんて無かったじゃない。嵐だって起きてない。空だって晴れてるのに、こんな…海だけが荒れるなんて…」

 風が強く吹いているわけではない。大嵐が来ているわけでもない。空は晴れている。誰かの魔法とでも言うのだろうか?ただひとつ、わかるのは、これが自然災害で起こりえることではないだろうという事だけだった。
 アラヌスは頭を掻きながら荒れた海を見る。

「……なぁ、原因究明といかないか?」

「…はぁ。……そう言うと思ったわよ」

「よし!そうこなくっちゃな!」

 アラヌスは嬉しそうに両手を前に出し、手を重ねる。ルチーナも片手を出し、前に出した腕を掴むようにもう片方の手を乗せる。

「じゃあ、準備はいいか?」

「ええ。良いわよ!」

「んじゃあ、行くぞ!」


ーー我、迷える光、前に導くは希望と願い。我らの願いに応え、辿り着かんとする意志に扉を開け!
ーー


 二人が詠唱し終えると、二人の目の前に光輝く扉が現れた。
 その扉はゆっくりと開き、二人を飲み込み、その扉を閉め、姿を消した。
 二人がいた海岸には誰も居なくなり、狂気の海と化したその海だけをそこに残した。
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