上 下
50 / 75

邂逅逸話 暁のシジル 解⑤-4

しおりを挟む
オオオオオオオオ…。

ゴゴゴゴゴゴゴ…。

   重低音を響かせながらゴーレムがその巨体を奮わせる。

「…!?動き出した!なんで!?ナアマはもう…」

   バッ!とオルメカは身構える。

「アリスは下がっていろ」

   ソロモンがアリスを背に回し、再び鍵を一本取り出す。
   するとシジルが彼の目の前に現れ、迷うことなくその鍵を差す。
    王の間で見せた召喚方法とは異なっているようだ。
    もしかすると、これが本来の召喚方法なのかも知れない。そう隣に居たオルメカは思った。

「…お前の力を貸してくれ!我が七十二柱が一人、三十六の軍団を率いる伯爵…」

   鍵を回すと、カチリと音が鳴る。その瞬間、シジルが強く光だし、シジルの前に扉が現れた。

「…悪魔アンドロマリウス!!」

   名を呼ぶとその扉が開きから悪魔が姿を現す。
   その姿は片手に蛇を巻きつけた男のようだった。

〈…久しいな。ソロモン〉

「ああ。そうだな。早速だが、頼めるか?」

〈ふっ。判りきったことを〉

   突然、悪魔を召喚したので、アラヌス達は驚いていた。

「嘘だろ?!悪魔召喚できんの!?何者なんだよ!ソロモンさんって」

「ほう…よもや人間が悪魔と契約をしているとはな…」

「……ふん」

   それを見ていたシャアムが手に着けたままだった暗器の刃を、ペロリと一舐めする。

「さっすが王様やなぁ。おっそろしいわ」

   ニヤリと笑い、楽しそうに言った。

「…戦力としては申し分ないわね」

   メイジーも弓を構える。

「スッゴいデース!!devil喚んでマース!」

   マトアカは初めて見るのか、悪魔アンドロマリウスを見てテンションが爆上がりしているようだ。

   そんなやり取りの横で、ゴーレムが次の動きを見せた。

グアアアアアアアアア!!

   ゴーレムは咆哮を上げる。
   暁に染まったこの空間で巨大なゴーレムとの戦闘が始まろうとしている。

ボコッ。

   ゴーレムの顔、その額に膨らみが出来る。その膨らみは徐々に形を成していく。
   そして、それが形を作ったとき、その場に居た全員が驚愕した。

「…ナ、アマ…」

   絞り出すようにソロモンが口にした。その瞳はゴーレムの額を捉え、揺れている。
   ゴーレムの額の膨らみが成した形は人型だ。泥で出来た身体だ。
   上半身だけが額から突き出ている。顔面の半分が崩壊し、漆黒の髪は逆立ったように広がっている。
   その姿はもう、口元を隠す様な布も、ヘッドドレスの様に頭を飾る宝石が散りばめられた髪飾りも、胸元の開いた踊り子のようなドレスも身に付けてはいなかった。それでも、ソロモンにはその人型がナアマだとわかったらしい。
   ゆらりと人型が動き、空を仰ぐように両手を広げ、

「まだ終わっていないわよおおおおおお」

   と、その人型が叫び声を上げる。それに呼応するようにゴーレムも咆哮を上げた。

グアアアアアアアアア!!

   ゴーレムが咆哮を上げると、周辺にビリビリとした振動が伝わる。
   アリスは思わず耳を塞いだ。

「あ、あれがナアマ…!?」

…嘘でしょ!?あれはもう人間なんかじゃ…。
   いや、正確には、会った時は既に人間ではなかった。泥の身体だったのだ。
   だが、城に埋もれたと思っていた彼女はまだ生きていた。そして、ゴーレムと同化して現れた。
   一体、何がどうなっているのか。

「なーラグさんよぉ。これって魔法なん?」

   シャアムがゴーレムを警戒しながらラグノアーサーに聞いた。

「…あれは、一種の古代魔法ぞ。それも、喪われた大魔法」

「あれが古代魔法だって言うのか?!」

   思わず声を上げたアラヌス。

「ふん。いちいち騒ぐな、脳内お花畑め。…だが、あのような小娘にそんな器量があるようには見えんがな」

   それに対して鬱陶しそうにルーエイが続けた。

   会話の途中でゴーレムが攻撃を繰り出す。両の拳を合わせて、まっ逆さまに地面に振り下ろす。

ドゴオオオン!!

   激しい音と共に地面が地震のように揺れ、叩きつけた拳の下から、一直線に地割れが起きる。

「うわっ」

「…ちっ」

   咄嗟にその場に居た全員が飛び退いて地割れを避ける。

「い、一撃で地割れが…!?」

「これは厄介ね…」

   飛び退いた先でオルメカとメイジーが各々に言葉を洩らす。

「これはもう、やるしかないっちゅーわけやな!」

   チャキ、と武器を構えると、シャアムは一直線にゴーレムに向かっていった。
   ソロモンも召喚していた悪魔アンドロマリウスに指示を出す。

「行くぞ!アンドロマリウス!!」

〈仰せのままに!〉

   ダッ!と走り出す。
   それを見ていたアラヌスも二人の後に続く。

「ゴーレムを叩けばいいんだよな!」

   その右手に光を集めると手のひらに魔法陣が浮かび上がった。魔法陣を中心にして集まった光は縦に伸び、光の剣となる。それを握り、ゴーレムに突っ込んでいく。

「はあああああああっ」

ザシュッ!

ズバッ!

   アラヌス、シャアム、ソロモンとアンドロマリウスが攻撃を繰り出す。
   だが、斬っても殴っても凍らせても、すぐに復活してしまう。

「あかん!!こいつもや!」

「再生能力…アンドロマリウスが攻撃したところでさえ復活するか…」

〈うむ…〉

「なんだよこいつ…!全然効いてないじゃん!」

   土の身体は固いわけではない。だから攻撃は入る。しかし…

「あの再生能力をどうにかしなければ、私達に勝機はないわね」

   弓を思いっきり引き、矢を放つ。

「百花繚乱・枝下柳!」

   ゴーレムの頭上に魔法陣が展開し、魔法の矢が降り注いだ。

「Meにまっかせるデース!!」

   マトアカは双銃をゴーレムに撃ち込む。

「転写!コピーレイン!」

   マトアカが撃った弾は魔法陣に変わり、その魔法陣は転々とする。その移動する魔法陣を光の雨が転写するように移動する。

グアアアアアアアアアッ

   集中攻撃を食らったゴーレムは咆哮をあげた。苦しんでいるようにも聞こえた。だが、攻撃で崩れた身体はすぐに再生してしまう。

「ふふ…無駄よ無駄よ無駄よ無駄無駄無駄あああああッ!!」

    ナアマが叫ぶ。その声は、徐々に壊れたように複数の声が混ざったようなものになる。

「返しなさいいいいいいいッ!!ソロモンをかえせえええええええッ!!」

   その叫びに呼応するようにゴーレムの体が光り出す。
   誰もがそれに警戒した瞬間、

カッ!!!

   と、いくつもの光線がゴーレムの身体から放たれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?

初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。 俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。 神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。 希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。 そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。 俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。 予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・ だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・ いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。 神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。 それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。 この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。 なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。 きっと、楽しくなるだろう。 ※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。 ※残酷なシーンが普通に出てきます。 ※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。 ※ステータス画面とLvも出てきません。 ※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生獣医師、テイマースキルが覚醒したので戦わずしてモンスターを仲間にして世界平和を目指します

burazu
ファンタジー
子供の頃より動物が好きで動物に好かれる性質を持つ獣医師西田浩司は過労がたたり命を落とし異世界で新たにボールト王国クッキ領主の嫡男ニック・テリナンとして性を受ける。 ボールト王国は近隣諸国との緊張状態、そしてモンスターの脅威にさらされるがニックはテイマースキルが覚醒しモンスターの凶暴性を打ち消し難を逃れる。 モンスターの凶暴性を打ち消せるスキルを活かしつつ近隣諸国との緊張を緩和する為にニックはモンスターと人間両方の仲間と共に奮闘する。

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

処理中です...