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邂逅逸話 暁のシジル 解④-2
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オルメカとアリスが城内に侵入した頃、二階にはメイジーとシャアムがいた。
今現在、二人がいるのは二階にある一室。攫われた人々の手掛かりも探している為、陽動を起こしつつ探りを入れるので二人は慌ただしく動いていた。
「なんか手掛かりあったん?」
「いえ…ここもただの書斎のようね」
執務室か単なる書斎か。木の本棚をはみ出し、部屋を埋め尽くす程の蔵書が乱雑に置かれている。
ただ、普通と違う所は手に取って読んで見ようにも本によっては床や下敷きになっている本にくっついているという事だ。
「なんでこんなくっついとんのやろな?」
手元にあった蔵書を持ってみようとするが、やはりくっついている。
「…まるで展示ね」
そうメイジーは呟いた。わざとらしい。
こんな飾りの部屋に意味があるんだろうか。
開いたままの巻物や本。積まれた蔵書や巻物。まるでそこで誰かが調べ物でもしていたかのようで。そのまま時間が止まってしまったみたいだ。
「…展示って、当時を再現していたりするわよね」
まるで独り言のように言うと、乱雑に置かれた部屋の中で唯一、整頓された本棚を見つける。
その部屋の外で兵士達の声がする。片っ端から部屋を調べているようで、扉を開けて閉める音が近づく。
「近づいてきとんな」
シャアムが外を警戒していると、部屋の奥で物音がした。
ガコッ。
驚いて音の方に振り向くと、ある本棚の前でメイジーが立っていた。と、同時に本棚が壁の奥に引っ込み、引き戸の要領で横に開く。
隠し扉だ。
メイジーは何も言わずにその空いた部屋へと入っていく。シャアムも慌てて後を追い掛ける。二人が入っていった後、すぐに本棚の隠し扉は閉じた。
カツン。
カツン…。
暗闇の中に階段がある。踏み外さないようにゆっくりと下っていく。一番下まで降りると、扉が現れた。手探りで、ドアノブを探し、ゆっくりと扉を開いたー…。
「アリス!!」
オルメカが名前を呼ぶと、アリスは小袋から小さな玉を取り出し、追ってくる兵隊の方に放り投げる。
床に着弾すると、ボンッと爆発して砂煙を巻き起こす。視界を遮る程の濃さだ。砂煙に塗れて混乱している兵隊を他所に、二人はシャアムが書いてくれた城内のマップを元に王の間を目指し、駆ける。
ウンディーネ、シルフ、ノームと精霊魔法を駆使してうじゃうじゃと出てくる兵隊や魔法使い達をかわす。
「もー!!鬱陶しいなぁ!!」
オルメカは兵隊を足止めする。
「ノーム!!いくよ!!」
土の精霊であるノームを召喚し、足元を思いっきり踏み込む。魔法陣が展開し、ノームが土の壁や床を変形させ、兵隊をまるごと捕まえた。
「わあ…!!すごいです!檻ですか?」
アリスはそう感嘆の声をあげたが、オルメカは息付く間もなく動く。
「アリス!王の間はこの先だよ!」
そう指差しながらその先へ走っていく。
「はい!」
アリスも後を追い掛ける様に走り出し、オルメカに追いつく。
そして、王の間の前にいた兵隊に向かってアリスが再び砂煙で煙幕を作り、オルメカが溝打ちを食らわせる。
「ぐはっ」
カラン、カランと手にしていた槍を床に落とす。それをオルメカがすかさず拾い上げ、手にした状態で王の間の扉を開け放つ。
「ソロモン…!!」
バンッ!!
思いっきり扉を開け放し、中に踏み込む。
装飾の施された部屋。正面には階段とその上に玉座がある。その後ろの壁には小さな明かり取りの窓があった。
その玉座に座していたのは…。
「ソロモン…」
虚ろな瞳で虚空を見つめるソロモンだ。服も髪型も変わってしまってはいるが、彼がソロモン本人である事は、肌に感じる魔力でわかった。
だが、そこにいたのはオルメカが知っているソロモンではないようだった。何せ、オルメカがすぐそこにいるというのに何の反応がない。
…シャアム君の言ってた通り…反応が…傀儡の魔法のせい…かな…。
そうとしか思えない。オルメカが知る限りでは、ソロモンは薄情なやつではないし、契約をしている相手をないがしろにするようなことはない。
そんな事を考えていると、玉座の後ろから女が姿を表した。
カツ…。
口元を隠す様な布、ヘッドドレスの様に頭を飾る宝石が散りばめられた髪飾りに胸元の開いた踊り子のようなドレス。その上にローブを纏っている女だ。
「…傲慢の女…生きていたのですね…。まぁ、わかっていましたが…図々しい生き物ですよね」
女が口を開くと、そのようなことを言った。
それと同時に、女は手にしていた杖を一振りする。それを合図にオルメカ達の足下から岩のトゲが飛び出す。咄嗟に、オルメカは前にジャンプして後ろに避ける。アリスも間一髪で避けた。
「…あんたは、誰?ソロモンをどうしようって言うのさ?」
オルメカは女を睨む。
それは相手の女も同じだった。
「どう…?それはこちらの台詞です。我らが王を奪ったのはそちらでしょう」
「…はぁ!?」
オルメカは思わずすっとんきょうな声を上げた。一体何を言っているんだ。誘拐したのはそっちじゃないか。
そう思って、ふと違和感に気付く。
ここは王の間だ。玉座もある。廊下にはうじゃうじゃと兵がいた。それなのにこの部屋には誰もいない。いるのは、ソロモンと女とオルメカとアリスだけだ。おかしいだろう。何故、この部屋にはいないのか。
そう考えていることがバレたのか、聞く前に先手を打ってきた。
「…ここは王の間ですから、王の直属の側近である私がいるときに兵は入ってきません。必要がないですから」
「必要がない…?」
その言葉にオルメカは首を傾げた。
その様子を見た女はニヤリと笑う。杖を床に突き立て、呪文を唱えた。
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