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邂逅逸話 暁のシジル 解①-2
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そんな仲のいい二人を見て、オルメカは流れるようにカバンから携帯を取り出し、シャッターを切りまくる。その表情は御満悦、と言った感じだ。隣に腰掛けるメイジーはそれを白い目で見る。ドン引きしている様にも見えた。
御満悦で撮った写真をチェックしているオルメカを横目にメイジーはアリスの横まで行き、コソッと話しかける。
「…いつもああなの?彼女」
「え?あ、はい。よく僕やお兄さんの写真を撮ってますよ」
メイジーの質問にアリスは小声で答える。
「なん、あれ趣味なん?」
ちらりと横目に見るオルメカは撮った写真をスクロールして眺め、スクロールして眺め、を繰り返している。
「趣味…なんでしょうか…?でもよく写真を撮ってはお兄さんに怒られてました」
「貴方達も災難ね…それは嫌がられていたってことでは無いの?」
メイジーの質問に、少し考えた後、アリスは、
「…いや…でもいつも何枚か撮ったあとにしか怒ってなかったと思います。だから、嫌がってたとかじゃない気がします。…それに僕は写真を撮る時のお姉さんの幸せそうな顔が好きなので…お兄さんもそうなんじゃないかと思います」
そう、ふわっと笑いながら答えた。「笑ってくれるならそれが一番です」とも付け加える。
「…なぁ、あんさんらってどんな関係なん?」
シャアムはアリスの頭を撫でながら聞く。
「…よく、わからないです…。お姉さんは美男子愛好家だって、だから美男子を捜してて、僕にも会いに来たって言ってましたけど…」
そんな会話を三人がコソコソとしていることに気づいたオルメカは「なになにー?」と輪に入っていく。
「シャアム君が仕入れた情報について?」
ベッドに腰掛けたままオルメカは集まって話している三人に声を掛ける。メイジーは改めてベッドに腰掛け直し、話題を戻した。
「…ええ、まぁそんなところよ。…シャアム、続けてちょうだい」
実際にはその話はしていなかったのだが、していた体で話を進める事にした。
「え?あ、ああ。せやんな、その話やんな。…っと、せやなぁ…どっから話そうか」
「何処からでもいいわ。早くなさい」
「んー…せやなぁ、じゃあ街の様子からやな」
オルメカとアリスも言葉の続きを待つ。
「せやなぁ…街ん人がみんなローブ被ってたんは承知の通りやろ?あれ、どうもな、顔が見えんようにしてるっぽいねん。お互いの顔を認識させんようにしとるんやね」
「認識させないため…?」
「せや、これは王族からの通達らしいんやけど、どうもな、いつからかとかみんなはっきりせーへんねん」
「はっきりしない?それって…」
「おかしいねん、みんな同じようなことしか言わへんねん。街のことばっかりで他の世界情勢も何も知らん言わんでな、会話も噛み合わんねん。しかもここ数年の記憶しかない。まるでゲームの村人みたいやで」
ポリポリと頭を掻く。ゲームの村人…つまり与えられた台詞しか話していないということだろうか。
「ゲームの村人…じゃあ、この街の外って行ったみた?私達はあの剥がれた結界から入ったじゃん?でも、私らは早々に宿屋に来ちゃったからその辺確認してないんだけど…」
「街の外?ああ、行ってみたで。せやけどそんなもんなかったわ。なんや景色は続いとぉーけど、途中から行かれんかったで」
そこまで黙って話を聞いていたメイジーがぽつりと呟いた。
「…クローズド・サークル…」
小さく呟かれたその言葉をオルメカが拾う。
「クローズド・サークル?…って何だっけ?」
「…ミステリーなんかでよく使われる何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件のことよ。元よりここは魔法によって閉ざされた空間だったわけだもの。外界と遮断された状態でもおかしくはないわ。問題は、そうした状況下である事を、国民は把握しているのかしら?」
確かに、普通の状況下ではないのだから、何かしらパニックや混乱が起きてもおかしくは無い。何せ、国に閉じ込められている状態だ。だが、街に入った時もそうだったが、そんな混乱は見られなかった。受付でも街の紹介はされたが、悲観しているわけでもなさそうだった。
「どーやろなぁ。知らん…というより、疑問ですらないんちゃう?」
シャアムは興味無さそうに言う。手はアリスの頭の上だ。ぽんぽんと撫でている。
「疑問ですら無い?どういう事?」
オルメカがそうシャアムに聞き返そうとしたが、メイジーが話に割って入ってくる。
「その、同じようなことしか話さない街の人には何度も声を掛けたのかしら?」
「ん?ああ、声掛けたで。多くて七回くらいは声掛けたわ」
「…会話は、ループした?」
窓の傍に立ち、外を見ながらメイジーはそう確認する。その言葉にシャアムはピクっと反応した。
「…ああ、しとったで」
少しニヤッと笑うように答える。その答えを待っていたとでも言うように、メイジーはふっと笑う。
「…そう、やはりね」
何か全て理解したかのようなメイジーの様子だ。きょとんとしているオルメカ達の様子にメイジーが窓の外を指差す。
「…見なさい。何か違和感を感じないかしら?」
言われて、オルメカ達は窓の外を見てみる。
じっくりと観察し、ある事に気づく。
「…あれ?私達がここに来たのって一時間は過ぎてるよね?そんでもってその時からもう夕方だったよね…?」
そうだ。暁に染まる街の中に入ってきたはず。それから一時間以上は経っている。それなのに…沈みゆくはずの太陽の位置が変わっていなかった。
御満悦で撮った写真をチェックしているオルメカを横目にメイジーはアリスの横まで行き、コソッと話しかける。
「…いつもああなの?彼女」
「え?あ、はい。よく僕やお兄さんの写真を撮ってますよ」
メイジーの質問にアリスは小声で答える。
「なん、あれ趣味なん?」
ちらりと横目に見るオルメカは撮った写真をスクロールして眺め、スクロールして眺め、を繰り返している。
「趣味…なんでしょうか…?でもよく写真を撮ってはお兄さんに怒られてました」
「貴方達も災難ね…それは嫌がられていたってことでは無いの?」
メイジーの質問に、少し考えた後、アリスは、
「…いや…でもいつも何枚か撮ったあとにしか怒ってなかったと思います。だから、嫌がってたとかじゃない気がします。…それに僕は写真を撮る時のお姉さんの幸せそうな顔が好きなので…お兄さんもそうなんじゃないかと思います」
そう、ふわっと笑いながら答えた。「笑ってくれるならそれが一番です」とも付け加える。
「…なぁ、あんさんらってどんな関係なん?」
シャアムはアリスの頭を撫でながら聞く。
「…よく、わからないです…。お姉さんは美男子愛好家だって、だから美男子を捜してて、僕にも会いに来たって言ってましたけど…」
そんな会話を三人がコソコソとしていることに気づいたオルメカは「なになにー?」と輪に入っていく。
「シャアム君が仕入れた情報について?」
ベッドに腰掛けたままオルメカは集まって話している三人に声を掛ける。メイジーは改めてベッドに腰掛け直し、話題を戻した。
「…ええ、まぁそんなところよ。…シャアム、続けてちょうだい」
実際にはその話はしていなかったのだが、していた体で話を進める事にした。
「え?あ、ああ。せやんな、その話やんな。…っと、せやなぁ…どっから話そうか」
「何処からでもいいわ。早くなさい」
「んー…せやなぁ、じゃあ街の様子からやな」
オルメカとアリスも言葉の続きを待つ。
「せやなぁ…街ん人がみんなローブ被ってたんは承知の通りやろ?あれ、どうもな、顔が見えんようにしてるっぽいねん。お互いの顔を認識させんようにしとるんやね」
「認識させないため…?」
「せや、これは王族からの通達らしいんやけど、どうもな、いつからかとかみんなはっきりせーへんねん」
「はっきりしない?それって…」
「おかしいねん、みんな同じようなことしか言わへんねん。街のことばっかりで他の世界情勢も何も知らん言わんでな、会話も噛み合わんねん。しかもここ数年の記憶しかない。まるでゲームの村人みたいやで」
ポリポリと頭を掻く。ゲームの村人…つまり与えられた台詞しか話していないということだろうか。
「ゲームの村人…じゃあ、この街の外って行ったみた?私達はあの剥がれた結界から入ったじゃん?でも、私らは早々に宿屋に来ちゃったからその辺確認してないんだけど…」
「街の外?ああ、行ってみたで。せやけどそんなもんなかったわ。なんや景色は続いとぉーけど、途中から行かれんかったで」
そこまで黙って話を聞いていたメイジーがぽつりと呟いた。
「…クローズド・サークル…」
小さく呟かれたその言葉をオルメカが拾う。
「クローズド・サークル?…って何だっけ?」
「…ミステリーなんかでよく使われる何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件のことよ。元よりここは魔法によって閉ざされた空間だったわけだもの。外界と遮断された状態でもおかしくはないわ。問題は、そうした状況下である事を、国民は把握しているのかしら?」
確かに、普通の状況下ではないのだから、何かしらパニックや混乱が起きてもおかしくは無い。何せ、国に閉じ込められている状態だ。だが、街に入った時もそうだったが、そんな混乱は見られなかった。受付でも街の紹介はされたが、悲観しているわけでもなさそうだった。
「どーやろなぁ。知らん…というより、疑問ですらないんちゃう?」
シャアムは興味無さそうに言う。手はアリスの頭の上だ。ぽんぽんと撫でている。
「疑問ですら無い?どういう事?」
オルメカがそうシャアムに聞き返そうとしたが、メイジーが話に割って入ってくる。
「その、同じようなことしか話さない街の人には何度も声を掛けたのかしら?」
「ん?ああ、声掛けたで。多くて七回くらいは声掛けたわ」
「…会話は、ループした?」
窓の傍に立ち、外を見ながらメイジーはそう確認する。その言葉にシャアムはピクっと反応した。
「…ああ、しとったで」
少しニヤッと笑うように答える。その答えを待っていたとでも言うように、メイジーはふっと笑う。
「…そう、やはりね」
何か全て理解したかのようなメイジーの様子だ。きょとんとしているオルメカ達の様子にメイジーが窓の外を指差す。
「…見なさい。何か違和感を感じないかしら?」
言われて、オルメカ達は窓の外を見てみる。
じっくりと観察し、ある事に気づく。
「…あれ?私達がここに来たのって一時間は過ぎてるよね?そんでもってその時からもう夕方だったよね…?」
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