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邂逅逸話 暁のシジル④-2

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   だが、今はそういう場合じゃないし早くアジトを見つけてソロモンを助けに行かねばならない。グッと気持ちを我慢し、思考を別の方に向ける。
   シャアムが言うには、この近くにアジトがあるはずだが、その痕跡は見つけられない。もしかすると、捜し方が悪いのかも知れない。

「ねぇ、私がソロモンの魔力痕を探すってのはどうかな?」

   ふいにそうオルメカが提案したことでシャアムとメイジーの二人とアリスは会話を止め、彼女の方を向く。

「えっとね、てか元々この方法で捜そうと思ってたんだけど、私はソロモンの魔力をある程度は感じ取れるんだよ。だから、ソロモンが近くにいるならわかると思う」

   その話をメイジーとシャアムは不思議そうに聞いている。

「魔力痕なんてわかるものなの?」

「さぁ?わからんで?」

   そんなことがあるのか?と二人は訝しげにオルメカを見る。その視線に気づいたオルメカは簡単に説明する。

「えっとね、私とソロモンって何ていうか同盟みたいなちょっとした契約結んでてさ。それでわかるんだよね」

   ふーん、とあまり興味無さげにメイジーは態度で示す。シャアムもそんなもんか、といったような細かい事を気にしない風で次の言葉を待っているようだ。
   オルメカとしても突っ込まれたことは聞かれたくなかったので、二人の態度はありがたい。そのまま話を続けた。

「まぁ、ね。どう?試してみていいかな?」

   メイジーとシャアムはオルメカの提案をのむことにする。コクリと頷いて見せた。

「じゃあ、魔力痕、辿ってみるね」

   そう言ってオルメカは前に両手を伸ばして重ねる。そして目を瞑り、全神経をソロモンの魔力痕へと集中させる。
   彼女が魔力痕を探している間、シャアムに担がれていたアリスは何かを感じ取ったのか、急に声を上げた。

「あのっ…」

   ふいにアリスが声を上げたのでシャアムはオルメカから視線を外し、アリスを見る。

「どげんしたと?」

   シャアムはアリスが微かに震えているのがわかった。

「なんや?言うてみ?」

   自分が怖いのかと思いなるべく優しい声で聞いてみる。

   だが、どうやらそういう事ではないようだった。
   アリスはある一点を見つめている。

「…どげんしたと?何が見えるんや?」

   シャアムもその視線の先を追う。その先に見えたのはー…


   カッとシャアムの目が見開かれる。

「あかん!!!」

   そう叫んで肩に担いでいたアリスを片腕で抱き上げるようにして姿勢を立て直し、手甲鉤を構え直す。

「追加で来なすったで!!!」

   その声にメイジーとオルメカもハッとしてアリスとシャアムが見ている方向を見る。
一体どこから現れたのか。開かれた道の先から「おおおおおおおお!!」と声をあげながら大勢が押し寄せて来るのがわかった。

「来たわね」

   メイジーもすかさず弓と矢を構える。先手必勝、部隊の先頭が目の前に来る前に攻撃を放ち、足止めをする。
   ギリィ…と弓を力一杯引く。

百花繚乱ひゃっかりょうらん山茶花さざんか!」

   ぱっ、と矢を撃った瞬間、矢の軌道上に複数の魔法陣が山茶花の花を描く様にひと繋ぎに展開し、その魔法陣から無数に魔法の矢が飛び出し、押し寄せる軍勢を蹴散らしていく。

   だが、前方を蹴散らしても続々と現れる。
   はっきり言って、キリがなさそうだ。


「数が多いわ。すぐそこまで来られたら捌ききれないわよ」

   全体で数百人はいそうだ。

「一体、あいつらは何処から出てきとるんや?辺りにアジトなんてあらへんのに…」

   メイジーもシャアムもそこが気になっているようだ。それに相手の人数だ。かなりの人数が多いが、兵隊というよりも民兵という感じだ。軍隊としての熟練度が低いのか、統率にばらつきが見られる。剣も弓矢も鍬も持っている。手にしている武器に統一性が無いのだ。後方に杖を持っている集団が見えたので、魔導師部隊もいるようだ。

「坊、しっかり捕まっときーよ」

   その全体像を見たシャアムはニヤッと不敵に笑い、抱えたアリスの腕を自身の首元に回す。促されるようにアリスもしがみついたが、いまいち何をしようとしているのかわかっていない。
   だが、そんなアリスをよそにシャアムはグッと足に力を溜め、そして、一気に敵前に跳んだ。

「ひゃああああああああ」

   今までに無い程のスピードで進む景色にアリスは悲鳴を上げた。若干、涙目である。まるで空を高速で飛んでいるようでもあった。
   目の前に武器を持った集団が迫り、アリスは泡でも吹きそうな気分だったが、気を失ったりしては迷惑がかかるのは百も承知だ。だからぎゅっとシャアムにしがみつく。

「ええ子や!」

   シャアムは手に付けたままの手甲鉤に魔法を付与する。

「エンチャント!俊足付与や!」

  シャアムの足首の周りに滑車の様なものが。

「エンチャント!攻撃、猛炎付与や!」

   シャアムの手甲鉤の形が変わる。炎が手甲鉤を覆い、獣の爪のようにも見える。

「いっくでえええ!!!」

   シャアムが腕を振るう度に炎が踊るように舞い、武器を持った集団を駆け抜ける様に薙ぎ倒していく。

「うわあああ」

「怯むな!!相手は一人だ!!!」

   倒された仲間を庇うように次から次へと武器を持ってシャアムに襲い掛かって来ていた。
  その猛攻をもシャアムは往なしながら攻撃を繰り出し、交戦する。
  その間、アリスは振り落とされないように必死にしがみついていた。


   一方、シャアムが先陣切っていった後でメイジーが再び矢を射ろうとしていた。その隣でソロモンの魔力痕を精神を集中して捜していたオルメカは押し寄せてきた軍勢にプチンときていた。

「もー!!!!あと!!!ちょっとで!!!!ソロモンの居場所が!!!!わかったのに!!!!」

  あとちょっと、と言うところでソロモンの掴みかけた魔力痕を見失ってしまった。それというのも急に現れたあの軍勢のせいだ。

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