31 / 75
邂逅逸話 暁のシジル④-2
しおりを挟むだが、今はそういう場合じゃないし早くアジトを見つけてソロモンを助けに行かねばならない。グッと気持ちを我慢し、思考を別の方に向ける。
シャアムが言うには、この近くにアジトがあるはずだが、その痕跡は見つけられない。もしかすると、捜し方が悪いのかも知れない。
「ねぇ、私がソロモンの魔力痕を探すってのはどうかな?」
ふいにそうオルメカが提案したことでシャアムとメイジーの二人とアリスは会話を止め、彼女の方を向く。
「えっとね、てか元々この方法で捜そうと思ってたんだけど、私はソロモンの魔力をある程度は感じ取れるんだよ。だから、ソロモンが近くにいるならわかると思う」
その話をメイジーとシャアムは不思議そうに聞いている。
「魔力痕なんてわかるものなの?」
「さぁ?わからんで?」
そんなことがあるのか?と二人は訝しげにオルメカを見る。その視線に気づいたオルメカは簡単に説明する。
「えっとね、私とソロモンって何ていうか同盟みたいなちょっとした契約結んでてさ。それでわかるんだよね」
ふーん、とあまり興味無さげにメイジーは態度で示す。シャアムもそんなもんか、といったような細かい事を気にしない風で次の言葉を待っているようだ。
オルメカとしても突っ込まれたことは聞かれたくなかったので、二人の態度はありがたい。そのまま話を続けた。
「まぁ、ね。どう?試してみていいかな?」
メイジーとシャアムはオルメカの提案をのむことにする。コクリと頷いて見せた。
「じゃあ、魔力痕、辿ってみるね」
そう言ってオルメカは前に両手を伸ばして重ねる。そして目を瞑り、全神経をソロモンの魔力痕へと集中させる。
彼女が魔力痕を探している間、シャアムに担がれていたアリスは何かを感じ取ったのか、急に声を上げた。
「あのっ…」
ふいにアリスが声を上げたのでシャアムはオルメカから視線を外し、アリスを見る。
「どげんしたと?」
シャアムはアリスが微かに震えているのがわかった。
「なんや?言うてみ?」
自分が怖いのかと思いなるべく優しい声で聞いてみる。
だが、どうやらそういう事ではないようだった。
アリスはある一点を見つめている。
「…どげんしたと?何が見えるんや?」
シャアムもその視線の先を追う。その先に見えたのはー…
カッとシャアムの目が見開かれる。
「あかん!!!」
そう叫んで肩に担いでいたアリスを片腕で抱き上げるようにして姿勢を立て直し、手甲鉤を構え直す。
「追加で来なすったで!!!」
その声にメイジーとオルメカもハッとしてアリスとシャアムが見ている方向を見る。
一体どこから現れたのか。開かれた道の先から「おおおおおおおお!!」と声をあげながら大勢が押し寄せて来るのがわかった。
「来たわね」
メイジーもすかさず弓と矢を構える。先手必勝、部隊の先頭が目の前に来る前に攻撃を放ち、足止めをする。
ギリィ…と弓を力一杯引く。
「百花繚乱・山茶花!」
ぱっ、と矢を撃った瞬間、矢の軌道上に複数の魔法陣が山茶花の花を描く様にひと繋ぎに展開し、その魔法陣から無数に魔法の矢が飛び出し、押し寄せる軍勢を蹴散らしていく。
だが、前方を蹴散らしても続々と現れる。
はっきり言って、キリがなさそうだ。
「数が多いわ。すぐそこまで来られたら捌ききれないわよ」
全体で数百人はいそうだ。
「一体、あいつらは何処から出てきとるんや?辺りにアジトなんてあらへんのに…」
メイジーもシャアムもそこが気になっているようだ。それに相手の人数だ。かなりの人数が多いが、兵隊というよりも民兵という感じだ。軍隊としての熟練度が低いのか、統率にばらつきが見られる。剣も弓矢も鍬も持っている。手にしている武器に統一性が無いのだ。後方に杖を持っている集団が見えたので、魔導師部隊もいるようだ。
「坊、しっかり捕まっときーよ」
その全体像を見たシャアムはニヤッと不敵に笑い、抱えたアリスの腕を自身の首元に回す。促されるようにアリスもしがみついたが、いまいち何をしようとしているのかわかっていない。
だが、そんなアリスをよそにシャアムはグッと足に力を溜め、そして、一気に敵前に跳んだ。
「ひゃああああああああ」
今までに無い程のスピードで進む景色にアリスは悲鳴を上げた。若干、涙目である。まるで空を高速で飛んでいるようでもあった。
目の前に武器を持った集団が迫り、アリスは泡でも吹きそうな気分だったが、気を失ったりしては迷惑がかかるのは百も承知だ。だからぎゅっとシャアムにしがみつく。
「ええ子や!」
シャアムは手に付けたままの手甲鉤に魔法を付与する。
「エンチャント!俊足付与や!」
シャアムの足首の周りに滑車の様なものが。
「エンチャント!攻撃、猛炎付与や!」
シャアムの手甲鉤の形が変わる。炎が手甲鉤を覆い、獣の爪のようにも見える。
「いっくでえええ!!!」
シャアムが腕を振るう度に炎が踊るように舞い、武器を持った集団を駆け抜ける様に薙ぎ倒していく。
「うわあああ」
「怯むな!!相手は一人だ!!!」
倒された仲間を庇うように次から次へと武器を持ってシャアムに襲い掛かって来ていた。
その猛攻をもシャアムは往なしながら攻撃を繰り出し、交戦する。
その間、アリスは振り落とされないように必死にしがみついていた。
一方、シャアムが先陣切っていった後でメイジーが再び矢を射ろうとしていた。その隣でソロモンの魔力痕を精神を集中して捜していたオルメカは押し寄せてきた軍勢にプチンときていた。
「もー!!!!あと!!!ちょっとで!!!!ソロモンの居場所が!!!!わかったのに!!!!」
あとちょっと、と言うところでソロモンの掴みかけた魔力痕を見失ってしまった。それというのも急に現れたあの軍勢のせいだ。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます
ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。
何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。
何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。
それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。
そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。
見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。
「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」
にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。
「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。
「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる