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都市伝説 幻想図書館 終-1

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   闇夜を照らした火柱が消え、そこに存在していたはずの図書館もあのアンデッドドラゴンですら跡形もなくなった。
   夜風が草原を駆け抜けて行く。
   月夜が照らす世界はほんのり青白い。

   太陽の船を降りた三人は何も無くなったただの草原に立ち尽くしていた。

「…さて」

   そう沈黙を破るように口を開いたのはソロモンだ。

「オル。色々聞きたいんだが、いいか?」

「え?いいけど、何?」

「この…異界の神についてだ」

   視線の先に異界の神ラーが杖をついて立っている。かなりの高身長のようで、ソロモンもなかなか背が高いのだがそれを超えているようだ。自身の話題だと言うのに、反応がない。とはいえ、鳥の被り物をしているのでその下の表情はわからない。

「異界の神なんてどうやって契約したんだ?」

「え、あー、それは長くなるというか…。ソロモンと会う前の遺跡探険時にちょっとね」

   手をひらひらとさせながら苦笑いで返す。そのオルメカの服の裾を少年が握る。

「…どうして全部燃やしてしまったんですか?ボクはこれから…どうすればいいんですか?」

   ずっと抱えたままだったハート型の立体パズルを更にぎゅっと抱き締める。唯一残った物だ。

   問われたオルメカは異界の神ラーをちらりと見る。その視線にラーは反応し鳥の被り物を被ったまま顔をこちらに向ける。

「…どうしてって…まぁ、さすがに神話級の召喚だからさ。召喚時の命令っていうかお願いは召喚一回につきひとつだけしか出来ないんだよね。だから最優先する内容しかお願い出来ないの」

   少年の頭をポンポンと撫でる。

「しかも召喚に応じてくれるかはランダムだし、お願いの内容は叶えてくれるけどその手段は指定できないわけで…。だから、今回も私達三人を護ってくれたけど手段は…」

「…なるほどな…。つまり、敵とみなした魔法を排除したということか」

「んーまぁ、そーなっちゃうね…。ごめんね。あの時はラー様の召喚が最善手だって思ったんだけど…」

「そんな…でもあそこはただ会いたい人に会いに行けた場所。それだけだっただけですよ。それなのに…」

   少年は悲しそうな表情だ。

「あ、えーっと、ラー様!?一応ですが理由を教えて頂けませんでしょうか?」

   少年の悲しい表情に耐えきれなくなったオルメカは助けを求めるようにラーに問う。
問われたラーは話すことは無く持っていた杖で空中に文字を書く。が、どうやら絵のようでもある。

「…なんだ?何を書いているんだ?」

「鳥さんみたいなのがいますね」

   書き終えたそれをオルメカが翻訳する。

「これはね、ラー様の世界の言語で象形文字って言うんだよ。えーっとなになに?“ふたつの魔法 ひとつは冥府の魔法 ひとつは残夢の魔法 魔女の魔法 ”」

   そこまで読み上げる。
…魔女の魔法?魔女があの幻想図書館を作ったってこと!?

「…魔女は神の天敵という事か」

   そうソロモンが呟いた。その時、

バフッバフッバフッ…
   布を間に挟んで拍手するような音が聞こえた。

   突然聞こえてきたその音の方を向く。
   草原の横に生い茂っていた林の方から人影のような影が揺れる。そのままこちらに向かって歩いてくる。
   徐々に林を抜け、草原に差し掛かりその人影が月明かりに照らされる。

「クヒヒヒヒ…。流石だねェ…姫。まさか図書館ごと破壊してくれるとは、期待以上だよォクヒヒ」

   その姿を見た時、ソロモンは酒場のおばちゃんが言っていた言葉を思い出した。

“その人ってのがまた奇妙な人でねぇ。額と右眼にこう…手術の痕みたいな縫い目があってねぇ。たれ耳うさぎみたいな形のフードに手元も見えない長い袖の服だったよ。”

   ああそうだ。大衆酒場に現れた男だ。オルメカを誘うように嘘と真実を混ぜて噂に飛ばした男。…彼女の昔の知り合い。
   思わず身構えた。
   それはオルメカ自身も同じだったようで少年を背に隠し身構えていた。

「…その姫って呼び方、いい加減に辞めてくれない?…バロウズ」

   バロウズ…そう呼ばれた男はニヤリと笑う。





「クヒヒヒヒ…おやおや、名前を覚えていてくれたのかい。嬉しいねェ」

「嘘ばっか。あんたがここに居るって言うことは、仕組んだのはやっぱりあんただったわけだ」

「クヒヒヒヒ…。仕組んだなんて人聞きが悪い。教えてあげたじゃないかァ、キミの大好きな美男子の事を」

「はっ!?冗談。あんたは利用しただけでしょ。…私の魔法を」

   その言葉に愉快そうに笑うバロウズ。

「…ったく。してやられたってわけか。…あんた、どこまで知ってたわけ?説明しなさいよ」

   威圧的なその態度にソロモンも少年も驚いた。今回の一連の流れの中でも見せたことがない姿だ。
   だが、バロウズと呼ばれた男はそんな姿を見知っているのか、ニヤニヤしているだけだった。

「クヒヒヒヒ…。いいねェその目。キヒヒ…その目と破壊してくれたお礼に教えてあげるよォ」

   歯を見せてニヤリと笑う。

「さァて。何処から話そうかねェ?」

「あんたの目的と幻想図書館について掴んでた情報全部に決まってるじゃん」

「クヒヒヒヒ…。なるほどなるほど。我輩には魔法が使えないからねェ。あの図書館を壊すのに人手がいったわけだが…誰もあの結界魔法すら壊せなくてねェ。だから姫の魔法が必要だなーとねェ」

   バロウズは異界の神ラーを見る。神の持つ杖の照準が自身に合わせられているのを確認した。

「…魔法を壊すにはそれだけのものを上回る魔法が必要だ。オルが異界の神を召喚できることを知っていたお前は、それを利用することにした」

「ご名答ゥ~!」

   バフッバフッっと手を叩く。

「聡明なキミなら察しがついているんだろうねェ。幻想図書館ってのは魔女が作り出した空間移動型魔力収集装置さね」

「…くうかんいどうがた…まりょくしゅうしゅうそうち…?」

「…移動型魔力収集装置って…。幻想図書館が…それが正体…なの?そう言えばソロモンがそんな感じのこと言ってたような…」

「ああ。確かにそういう魔法だと言うのはわかっていた。だが…」

   ソロモンがスっとオルメカの前に立ち、バロウズの前に立ちはだかるように立つ。

「お前が幻想図書館を壊したがった理由がわからないな」

   睨むようにバロウズを見る。バロウズはケロッとした顔で踵を返した。

「おいー…!どこに行く?まだ話はー…」

「クヒヒヒヒ。怖い神様がこっちを見ているんでねェ」

   異界の神ラーの杖がバロウズを照準している。それと頭上に一隻残っていた火砲付きの帆船がリンクするようにバロウズを捉えている。
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