上 下
16 / 75

都市伝説 幻想図書館 解②-2

しおりを挟む
   凄まじい大音量で咆哮をあげる。その声は館内をビリビリと振動させる。巨大な翼をバサバサと羽ばたかせる。そして闇の中からまた一歩、また一歩と這い出して来ている。
その光景を見た少年は「ひっ」っと小さく悲鳴をあげ、オルメカの服をぎゅっと強く握った。その事に気づいたオルメカはぎゅっと少年の肩を引き寄せる。少なくともこの少年には戦う力はないのだろう。それならば、守れるのも戦えるのも二人しかいない。

「アンデッドドラゴン…つまらない事を考える者が使いそうな召喚獣だ」

   スッと膝立ちしていたソロモンが立ち上がる。

「召喚獣?アンデッドドラゴンが?」

   そうオルメカが聞き返した時、アンデッドドラゴンが再び激しい咆哮をあげたかと思うと、それを合図に風が吹き荒れ、闇の中に吸い込まれていく。まるで星が死に抜く様のブラックホールのようだ。床にあった本だけでなく本棚の本や絵画、壁から生えていた結晶などもバラバラと崩れながら吸い込まれていく。その強力な威力にシルフの結界も徐々に吸い込まれていく。段々と闇の中に引きずり込まれていく。このままではアンデッドドラゴンの行動範囲に入ってしまう。
   さらにその勢いにシルフの魔法が切れかける。

「げっ!!」

   咄嗟に魔法の重ねがけをしようとしたが、ぐらりと歪んだ足元に違和感を覚え体のバランスを崩す。その為に、魔法の重ねがけは出来なかった。

   パッ!とシルフの結界魔法が切れる。ブラックホールのようにあらゆる物を吸い込む奈落の底に三人は落ちていく。

「あわわわわっ」

「うっそーーーー!?!」

「俺達ごと回収する算段か」

   慌てる少年を抱き抱えるオルメカの横でソロモンは冷静に対応する。人差し指を立てて下に弧を描く。すると三人の体がふわりと浮く。シルフの風魔法だ。吸い込まれる風に抵抗するように。
   三人が落ちてこないとわかるとアンデッドドラゴンは咆哮をあげ、紫の火球を吐き出した。
   それを見たソロモンは紫の火球を水の魔法で打ち消す。
   だが、アンデッドドラゴンは一度に何発もの紫の火球を吐き出す。正直言ってキリがない。
   ソロモンはシルフの魔法で三人の体を浮かせたまま、アンデッドドラゴンが放つ火球を水魔法で打ち消し続ける。このままソロモン一人に戦わせるわけにいかない。三人が抵抗する間にも図書館は闇に吸い込まれていき、いずれこの魔法的空間に閉じ込められる。そうなる前に、ここから抜け出さなければならないのだ。
   それならばー…。

   オルメカは腰に付けていたブックボックスから魔導書を取り出す。それは、先ほど少年と契約を結ぼうとした際に取り出したものと同じ物。
   それを頭上に掲げる。本を開くとパラパラとページが捲れていく。

「いっくよー!!」

   オルメカのその声に魔導書の表紙の魔法陣が光りだし、それと同じ魔法陣が魔導書の捲られていくページの上に大きく展開する。

「おいでませ!!光り輝き天を照らす異界の神!!!!」

   そう唱えると魔法陣が強く光りだし辺りを一瞬、光が染める。そして、次の瞬間にはその場にオルメカが召喚した神が存在していた。
   それはソロモンも少年も見たことが無い存在だ。

   ブラックホールのようにあらゆる物を吸い込もうとするこの闇の穴の空間の中でさえも悠然と存在しているのだ。

「…異界の神…だと…?」

   ソロモンは夢でも見ているようだと思う。頭上にオレンジ色の球体に対して縦に一周するように巻き付く蛇がついた鳥の被り物をしている。腕や上半身は褐色の肌の人間といった風だが足首より下は鳥の足そのものだ。装飾も賑やかな色合いでジャラジャラと身に付けている。手には先端が翼を広げた鳥のようになった杖を持っている。

   その身体の周辺は闇を照らすように光っているのが見てとれた。

   それは一瞬の出来事だったが、ソロモンと少年にとっては長い時間に感じたかもしれない。それくらいその存在を飲み込むのに時間がかかった。
   そんな二人を現実に引き戻したのはオルメカの声。

「やったーー!よくぞ来てくれました、ラー様!!!」



   嬉しそうなその声に二人はオルメカの方を振り返る。そんな彼らの下でアンデッドドラゴンが咆哮をあげ紫の火炎を口から放とうと力を溜め始めた。
…悪いけど、それはさせないよ…!

「ラー様!お願いします!私達三人を魔法から護ってください!!!」

   そう異界の神に向けて叫ぶ。その時にオルメカは少年の手を繋ぎ、ソロモンの上着の袖を掴んだ。これは異界の神に対するメッセージ。「私達三人」とは召喚者の自分を含めたこの二人の事だと。

   それを確認したのか、「ラー様」と呼ばれた異界の神は光り輝く巨大な帆船を呼び出し、そこに三人を乗せてそのまま闇の穴から抜けるように浮上させる。
   それを追うようにアンデッドドラゴンが溜めた火炎を吐き出す。が、それは光の帆船に届く前に消失した。

「…これは…なんだ?」

   船の手すりから身を乗り出しその光景を見ていたソロモンが呟く。少年も同じようにそれを見ている。
   どんどんと闇の穴から浮上する。船体の左右に5本ずつ付属しているオールが前へ後ろへと漕ぎ、まるで羽ばたく羽根のように船体を上へ上へと浮かせていく。

「これはラー様の船。通称、太陽の船って言うんだけどね。シルフの風魔法なんかと一緒であらゆる魔法を無効化する力があるんだってさ。まぁ、最強の盾って感じになるのかな」

   驚き、圧倒されていた二人にオルメカが説明する。そんな彼らを乗せた太陽の船の帆、その上に異界の神ラーは立っていた。

   距離が離れていく事に怒ったアンデッドドラゴンがさらに身を乗り出し、とうとうその全身が闇の中から穴から這い出てきたのだ。骨の翼をバサバサと羽ばたかせ、爪を立てて穴の入り口に引っ掛ける。

   三人を乗せた帆船が闇の中から脱出し、再び図書館内に戻る。とはいえ、既にそこは最初に見た館内ではなかった。壁紙も剥がれているところがある。本もそのほとんどが闇の穴、奈落の底に消えていった後だった。

   変わり果てたその図書館内を目の当たりにした少年は、ひゅっと小さな息を吸い、その場にしゃがみ込んだ。どうしてこんなことになってしまったのか。絶望したとしてもおかしくはない状況だ。それだけ、少年の知る世界は狭すぎた。
   さすがにこの惨状を目の当たりにすれば、オルメカも罪悪感を覚えるというものだ。自称、美男子愛好家として噂の美男子に逢いに来ただけだった。本当にそれだけだった。だから、わざわざ都市伝説について調べ、旅をした。美男子に逢いに行き、魔導書で契約をしてオルメカコレクションを増やしくていく旅。それだけのはずだったのに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

処理中です...